高速脱出!謎と欺瞞の逃走劇!

「先輩、質問があるんですが」

「お、なんだ。特別サービスだ、3つまでなら無料で答えてあげようじゃないか」

 こちらを向き直ることもなく、運転席からそんな返事が飛ぶ。

「金取るんすか」

「君に質問させるとキリがないからな。で、なんだい質問って? さっきのはノーカンにしておいてあげるから早く言いたまえ」

 理不尽なことを言われた気もするが、まあ仕方がない。3つをなんとか有効活用していこう。

「先輩の行動はいつでも疑問が多すぎるんですよ。まあ今はそれはもういいです。とりあえず、どこに向かっているか教えてもらえませんか?」

 俺が後部荷台にで武器を見ている間に、ハイエースは高速道路に乗り、ドンドンとどこか遠くへと向かっているようであった。

 平日昼間の車もまばらなハイウェイの窓に、知らない景色が流れていく。

「どこって……、ほら、夏休みといえばバカンスだろう? いいところだよ、いいところ」

「絶対なんにも考えてないなこの人……」

 あるいは答えたくないようなどこかだ。この人は昔からそういうところがある。

 もちろん、俺の聞きたいことはまだ無限にあるのでさらなる質問を繰り出そうとした、その矢先だった。

「さて、どうやら楽しいお喋りタイムはここまでのようだぞ。秋本くん、武器は決まったかい?」

 先輩がちらりとサイドミラーに目をやったのを見て、俺も思わず窓から乗り出して後ろを確認する。

 陽炎の向こうにいたのは、高速道路でも確実に違反とわかるような猛スピードで迫りくる一台の黒い高級車。

 先輩の様子からみても、無関係な単なる暴走車、というわけではなさそうだ。

「まったく、思った以上に早く嗅ぎつけてきたな」

「な、なんですかアレ……」

 一方で、先輩もアクセルを強く分でスピードを上げた。

「お、2つ目の質問だな。いいよ、答えてしんぜよう。アイツらは『夏の吹雪団』、簡単に言えば、君を狙った悪の秘密組織だ」

「俺を!? なんで!?!?」

 いきなり言われてもそれしか言葉はない。

 俺が狙われるなんてまったく身に覚えもないし、そもそもそんな秘密結社が俺を狙う理由がまったくわからない。どこにでもいるような社畜だぞ、俺は。

「その質問はこっちから振ったものだからな、回数の消費は免除しておいてやろう。簡単に言えば、君はあの会社でとんでもないことに関わってしまったからね。君を、正確には君の持っている情報を欲しがる組織があるということさ」

 先輩にそう言われて、俺は自分のこれまでの業務を思い出す。

 いや、えっ、そんなに言われるほどすごい仕事してたか、俺。

 毎日毎日数字を見て、その変化をチェックして報告するのか主な仕事だったはずだが。正直に言えば、数字の意味もいまいちよくわかってなかったくらいだ。

「秋本くん! どっか持て!!」

 そのことを訴えようとした矢先、先輩から物凄い声で警告が飛んできた。

 そして次の瞬間には急旋回と強い衝撃。どうやらワゴン車は急ハンドルで中央分離帯に突っ込んだらしい。

「いてて、秋本くん、生きてるかい」

「一応は……」

 遠心力で飛ばされてきた武器に埋もれてはいるものの、ひとまず強い痛みなどはなく、身体はなんとか大丈夫そうだ。

 しかし今の問題はそこじゃない。

「さて、こうなった以上、ここでの対決は免れないな。もう少し万全で挑みたかったんだが……」

 先輩はそう言いながら、後部座席に来て武器を選んでいる。

 小さな体に不釣り合いな長くて薄いライフル銃をチョイスすると、端に転がった弾薬も迷いなく手に取って慣れた手付きで銃へとはめ込む。

「いや、もういいですよ先輩」

 そう言って、俺は、先輩の手からそのライフル銃を取り上げた。

 鉄の重さが手に伝わる。

「おい、馬鹿なことは考えるなよ」

「心配ないですよ。だってこれ、先輩の仕組んだことでしょう? あ、これ、3つ目の質問ですね」

 俺がそれを指摘すると、先輩の顔からすべての表情が消えた。

「……君は、なにを言っているんだ?」

 無の顔のまま、冬川先輩がそう尋ねてくる。

「単純な話ですよ。この一連の騒動は、先輩の自作自演だと言っているんです」

 あらためて、ハッキリと、それを口に出してしまう。

 車内に沈黙が充満する。

 長い長い沈黙。

 それがなによりの答えだった。

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