ロリ先輩が夏休みをくれると言ってから俺の人生が滅茶苦茶になってしまった
シャル青井
弊社爆発!今日から俺は夏休み!?
俺の夏休みは海の日直前、まだ7月なのに午前中から35度を超えようかという、夏オブ夏な昼休みから始まった。
「よお秋本、久しぶり! 元気にやってたか?」
外回りからの帰り道、適当な昼飯を買ってコンビニを出た俺を待っていたのは、派手派手なブルーハワイのアロハシャツにやたら大きなレンズのサングラスをかけた、小学生くらいの少女であった。
「……えっと、人違いじゃないですか?」
俺の名前は秋本春彦なので実際には人違いでもなんでもないのだが、俺はかつての経験から、この人物と関わってもろくなことにならないのを知っていた。
ましてや昼休みとはいえこっちは勤務時間の真っ最中なんだぞ。
「なんだよツレナイなぁ。昔はあんなにつるんでたのにさー。ほら、アタシだよ、ア・タ・シ」
いいながら少女がキザったらしくサングラスを上げる。
もちろん、素顔を見るまでもなく俺は目の前の人物を知っている。
これほど特徴過多な人物、忘れるほうが難しい。
「……もちろんわかってますよ。忘れられるわけないじゃないですか、冬川先輩のことを……」
俺の呆れた顔を見て、冬川先輩は数年前と変わらない、太陽のような勝ち誇った笑みを見せた。
この少女は冬川三冬。
今から七年ほど前の大学時代、俺の所属していた村雲ゼミの唯一の先輩として共にバカバカしい日々を過ごした女性だ。
そう、こんなナリと中身なのだが、この冬川三冬という人物はれっきとした成人女性である。ちなみに俺が初めて会ったときからその外見はほとんど成長していない。
とはいえ、大学時代の先輩はもっとこう、外見はまだ真面目そうな印象だった。
黒いロングヘアーに大人ぶったシックな衣装――まるでピアノの演奏会を聞きに来た少女のような格好でいつもキャンパスをうろついていたものである。まあ、それを見ても新入生以外誰も気にもとめていなかったが。
それが数年ぶりにいきなり現れたと思ったら、ましてやグラサンアロハシャツというなんかよくわからないメスガキスタイルになっていたら、誰だって戸惑ってしまうはずである。
こちらはこの熱気の中ようやく外回りからの帰りなのだ。いくらでも弁明の機会は与えられるはずだ。
「というか、俺は今から会社に戻るんですよ。積もる話はまた今度でいいですかね?」
久しぶりに話をしたいという気持ちはあるが、なにしろ貴重な貴重な昼休み。そんなことをしている暇はまったくない。
「まったく、すっかり社畜になってしまっておねーさんは悲しいよ」
俺の前に立ち塞がったまま、先輩は大げさにその肩をすくめてみせた。
流石に苛立ってきたので無視して避けていこうとしたら、先輩もスッと横移動してきて俺の進路を妨害する。
右、左、そしてまた右。
正直これではコンビニ前で不良女子小学生と遊んでいるヤバイ人にしか見えないし、店から出る人々の視線も明らかに冷たくて痛い。
「いい加減、どいてくれませんか、会社に戻らないと……」
「いや、ところがその必要はないんだよなー。今から君はもう夏休みだ。ちょっとスマホ借りるぞ」
「あっ」
意味深な言葉と意味深な笑みに気を取られると、あっという間にスマホをひったくられる。油断していないつもりでも、今まで先輩の早業を止められた試しがない。
冬川先輩はそこは学生時代とほとんど変わらないままの、厭味ったらしい笑顔を浮かべその画面を向けてきた。
「え、これって、うちの会社ですよね......?」
画面の中に映し出されていたのは、ここから五分ほど先の工業団地内にある、今まさに俺が戻ろうとしていた会社のビルだ。
次の瞬間、日常ではありえないような巨大な爆発音が遠くで鳴り響いた。
画面の中ではない、現実世界、しかも自分の会社の方向だ。
「な、なんだ、これ……」
その轟音とほぼ同時に、画面の中の俺の勤務先のビルが爆発する。
爆発はフロア内部で起こったものらしく、内側からの爆風でオフィスの窓ガラスが粉々に弾け飛ぶ。
「な、見ての通りだよ。君の会社は、今まさに爆発四散したってわけだ」
画面を見て、冬川先輩の顔を見て、もう一度画面を見る。
「……なんで先輩が、俺の会社を知ってるんですか……? あとなんで爆発することまで……」
「そりゃまあ君のことをずっと見張っていたら、そういう情報だって事前に察知できるようになるさ。それでこうやって君を助けるために馳せ参じたわけだ。感謝したまえよ!」
似合わないぎこちないウインクを飛ばしながら先輩は勝ち誇ったようにフフンと鼻を鳴らすが、聞いている俺の方は何ひとつ先輩の言葉が理解できないままだった。
意味のわからない発言は一度の会話にせめて一回までにしてくれ。
かつて毎日のようにそんなことを願っていたのを久しぶりに思い出す。
「まあ、詳しい話は後だ。爆発が起こったってことは、そろそろあそこに君がいないこともバレる頃合いだからな。その前にさっさとここから逃げるぞ」
「逃げるって、いったいどこへ……」
「いいから来いって! ほらっ!」
見た目は完全な小学生の少女に手を引かれ、俺はコンビニの隅に駐車してあった白いハイエースに引きずり込まれる。大事なことなのでもう一回いうが、引きずり込まれたのは俺のほうである。
「とりあえずその中から、使えそうなものを見繕っておいてくれよ」
いいながら先輩はシートの間をすり抜けて運転席へ。
残された俺が後部の荷室に目をやると、そこにはサバゲーでも見ないような重火器が無造作に積まれていた。
「え、なんすかこれ……」
「あ、不用意に触るなよ。慎重にだぞ、慎重に。まだ銃弾は入っていないが、万が一ってこともあるからな。ああ、銃弾は右側に積んであるから合うやつを探してくれ。それじゃあ、さっさと発進するぞ!」
「あ、ちょっと待って……! せめて車から社用のスマホを……」
だが当然俺の言葉など聞くことなく、ハイエースはタイヤを空転させる勢いで飛び出していく。
先輩の運転はいつもこうだったので、俺は武器を見る余裕もなく、シートにしがみつくことになった。
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