第3講 ハウダニットとは?

 さて、前講の『フーダニットとは?』で触れたようにミステリーには三つの型があります。その内のひとつとしてフーダニットを紹介しました。本講では「ハウダニット」につれて触れたいと思います。


 早い話が「トリック」について検討するのがこのハウダニットだと思ってください。ここで言う「トリック」とは例えば「女性だと思っていた主人公が実は男性だった」というような「叙述トリック」は含みません。純粋に「『どうやって』被害者を殺害したのか?」にのみ焦点を当てたのが「ハウダニット」になります。


 具体例を挙げると「外部からの侵入が不可能な完全密室状態で『どうやって』人を殺したのか?」という密室トリックや、「殺人が起きた時刻に犯人は別の地点にいたのに『どうやって』人を殺したのか?」といったアリバイトリックなんかがあります。


 飯田的には、ですが、このハウダニットは「如何に不可解な状況を作るか?」に尽きると思います。先述の例で言うと「人が入れない空間なのにどうやって中にいる人を殺したのか?」という不可解状況や、「同じ時刻に離れた二つの地点に存在することは不可能なのにどうやってそれを可能にしたのか?」という不可解状況をまず作り、それに対して「理由付け」をしていけばある程度のレベルの「ハウダニットもの」ミステリーは書けると思います。


 フーダニットが汎用性が高い分あれこれ弄らなければならない反面、ハウダニットはほとんど「型」が決まっているのでその「型」に自分の作風やストーリーを落とし込めるかどうかに尽きます。比較的簡単な方だとは思います。


 もちろんこれも飯田的には、の話ですが、このハウダニットを作る方法には二種類あって、その内のひとつが先述の「不可解状況を作ってからの理由付け」で、もうひとつは「原因を作ってからその原因が活きる状況を作る」というものです。出口と入り口を入れ替えただけでやっていることは変わらないと思うかもしれませんが、後者の方は「アイディアが降ってこない限り一生前に進まない」作り方なので、量産したり「今すぐミステリーを書きたい!」と思っている方には向いていない方法です。


 でも「原因を作ってからその原因が活きる状況を作る」をやってみたい! という方は、例えば何かしらの物理現象や化学反応を調べてみて、それを「人を殺す方法に使うとしたらどうすればいいだろう?」と考えてみると上手くいくと思います。


 飯田作で言うと『彼を憐れむ唄』(まだ連載中なので肝心なトリックについては触れていませんが)が「原因を作ってからその原因が活きる状況を作る」に該当します。飯田は割と「量産したい」タイプの作家なので基本的には「不可解状況を作ってからその理由付け」をすることが九割九分なのですが稀に科学雑誌などを読んでいて「あれ? これ人殺しに使えるじゃん」なんて物騒なことを思いついた時は「原因を作ってからその原因が活きる状況を作る」という書き方をします。『彼を憐れむ唄』はある化学物質の特性から思いついたトリックです。やはり何らかの知識が必要な型になるのかな。


 もちろんこのハウダニットも日常の謎に落とし込むことはできますし、応用の仕方によってはファンタジーにも活かせます。


 例えばファンタジーに活かすとすれば、「氷魔法を喰らったのに熱いのは何故か?」とか。これに対する理由づけに「矛盾温感」などという現象を持ってくればこれは立派なハウダニットになると思います。「敵が氷で熱を感じさせた方法は何だ?」というような謎です。


 他にも「部屋中凍らせて敵の動きを止めたのに復活している。何故?」というものがあります。答えとして考えられるのは「(お前が)部屋中凍らせたのならこちらは建物ごと温めた」という感じかな。ポケスペであったような感じですね。


 ちょっと無理があったかな(飯田はファンタジー畑ではないので)。しかしこのハウダニットの根っこは「どうやった?」なので、使える場所は狭いかもしれませんがハマればきちっとハマります。特にバトルもので上手いこと使えば胸熱展開に持っていけるので、是非やってみてほしいです。


 話をミステリーに戻すと、このハウダニットは東野圭吾の『ガリレオシリーズ』で脚光を浴びた分野でもあり、その少し前だと有栖川有栖の密室トリックネタである程度やり尽くされているネタでもあり、鮎川哲也の得意としていたアリバイトリックが重なる分野でもあるので、挑もうと思ったら「前例がないか」を調べる必要があります。何だか論文の作成みたいですね。


 しかしそういう意味ではこのハウダニットは「現代ミステリーの王道」でもあります。これを上手く作れるように、しかも量産できるようになったら「ミステリー書きとしては一人前」と言えるのではないでしょうか。


*総括


・ハウダニット

「どうやってやったか?」

現象や行為の原因、仕組み、トリックについて考えさせる型。主なパターンとして密室トリックやアリバイトリックがある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る