裏話(期間限定) 九話
【付録:裏話は年内中には削除します】
王宮の寄宿舎の休憩室に休養日となったエレノアとエリオットたち三年生がたむろしていた。
「雨がやまないわね」
「明日は晴れてくれるといいのだが」
「決勝は勝てるかなあ」
「ハリー様とノアのいるサンダー領だからね。難しい戦いになるね」
「エリオット君でも読めない?」
「無理だね。ただ、ナナさんがいなければ確実に敗けていたことは確かだね」
「昨日の西家との戦いも彼女がいなかったらと思うとぞっとするわ」
「君の回復魔法の力も去年と隔世の感があるしね」
「ありがとう、これも彼女のおかげよ」
「それと一年と二年の力がこれほど伸びるとは思わなかったよ」
「彼女には常人とは違う何かがあるのかしら」
「ナナさんがいうとみんながその気になるみたいだ」
「そうね、私も彼女の言ったことを信じて、やり続けた結果がでたみたいだから」
「不思議な人だ」
「今の王家領の生徒全員が彼女のことを信じている。そう、まるで真の女王様と思っているかのように」
「そうだね、アナベル王女様以上かもしれない。我が国の王妃と考えると、……その器では小さい気がする」
「王妃でも役不足なら、それ以外に何があるの」
「しいて言うなら『女帝』かな」
「確かに、あまりにも堂々としているものね」
「お二人さん何話しているの」
「ナナさんのこと」
「気になる。私にも教えて」「俺にも聞かせてくれよ」「俺も」「私も」何人もの生徒が話の輪に加わった。
「ナナさんは本当に身体の均整がとれていますよね」
「体幹が服を着て歩いている感じ」
「それに所作が上品でしなやか」
「立ち姿は高雅な佇まいだと思うわ」
「言動は堂々たる気品を感じるね」
「やっぱり女帝かな」
いつの世も噂の広がるのは速い。
※※※※※※※※※※
一方王宮の離宮にクロエが来ていた。
「おばあ様、王家領には勝てませんでした」
「仕方ありません」
「完膚なきまでの敗戦です。ここまでやられるとは思っていませんでした」
意外とさっぱりしている。
「みなさんのレベルがとても高かったです。さすが王家を守る人々は違うと改めて感じ入る次第です。田舎とは比較できませんね」
「あらそんなに違ったの」
「ええ、王家領の方の先制攻撃でやられ、最後の手段『炎の化身』ですら破られるとは思ってもいませんでした」
「でもあの『炎の化身』は見事よ。私も拝めたのは何十年ぶり。貴女のおじいさんのおじいさんがなさったのを見たのが最後よ。それを復活しただけでも、あなたは偉いわ」
「いいえ、それを防御したのは王家領の一年生と二年生です。確かにクララをはじめ一年一組の生徒は優秀ですが、あそこまで簡単に個別に削られていくとは思ってもいませんでした」
「焦ったあなたは敵に背中を見せてしまった」
「すみません。敵の力量を考えればもっともいけないことでしたが、我慢できず、壁は無理だと思ったので、せめて無防備の攻撃陣だけでも叩こうとしたのですが……」
「後ろからバッサリは、しょうがないわね」
「はい、もし実戦なら、討死です。衝撃もなく計ったようにビブスだけを変色されました。加減されたみたいです。そこまでできる相手なら敗けて当然でした。王家領に勝ってナナさんたちと戦いたかった。それが恩返しになると思っていたのに」
「ごめんなさいね」
「おばあ様に謝れる謂れはないですよ……」
王太后様は困ったような顔をしている。
「サンダー領のナナさんをはじめとした五人組なの、あなたを倒したのは」
ポカンとするクロエの顔は白い。王太后様の若かりし頃と生き写しと最近言われている。
「どういうことでしょうか?」
「アナベルに頼まれたのよ」
王太后様から事情を聞いたクロエは大きく頷いた。
「多分、王家領があそこまで強くなれたのはナナさんのおかげだと思うわ。それ以外に理由が思い浮かばない。去年から見て変わったのは一年一組だけのはず。それだけであなたの『炎の化身』を破れないわ」
「納得です」
「同じ孫ですから、アナベルだけでなくあなたの頼み事もきくわよ。何かないの、できるだけ叶えるわ」
少し考えるクロエ。
「いいえ、今はありません」
白い頬に幾分朱みが差した。何かを察したような王太后様が訊く。
「好きな人でもいるの?」
「……、いいえ、いいえ」
焦ったかのようなクロエが初々しい。
その後は当たり障りのない会話が続いた。
王太后様が、クロエが席を外した際にクロエ付き侍女を呼んだ。
「伝説のナナリーナ領……、見送りに侯爵様の名代……、それ以降……」
「分かったわ」
王太后様が満足気な笑みを浮かべた。
雨の中クロエが西家のタウンハウスへ戻った。
「裏話完」
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