三十七話 セントラル大陸暦一五六五年 夏 五/九
「それでは反省会を始めます」
「攻撃側も守備側も一緒に考えましょう」
フィールド中央の外側に五百人が地面に座った。
「先ずは数字データから、攻撃側は戦闘に参加できなかった生徒は五年生が五名、四年生が七名、三年生が十五名の二十七名です。守備側は全員参加できたようです」
「すごい」
上級生から賞賛の声が聞こえる。
「サンダー領の五人で、一瞬でフル充填しました」
「本番では攻撃側の面倒も可能だろうか?」
男子生徒が質問した。
「もちろんです。不安のある方は後で申し出てください」
私は回答した。
「上級生の方はどのように魔石を充填したのかを教えてください」
ジュリアが私の聞きたいことを質問してくれた。
「五年一組から適当に魔石を四つか五つ持って充填していくわ、余った分を元に戻して残った中から二組以降十組まで終われば、四年、三年と同じ要領よ」
アンナが答えた。
「それでは不経済です。後に残るのは先に行った方の適性のない魔石ですよね。下の学年の生徒が適性のある魔石を探す時間が勿体ないです。もっと早く効率よくやれば私たちを圧倒したはずですよ」
ジュリアが解説する。
「今日、守備側の半数の百名が終わるまで五分かかりました。多分みなさんも同じ時間がかかっていたのですね。もし敵よりも一分でも早く終わらせ、敵のエンドラインに待ち構えていれば相当数討ち取れたはずです」
「今までもこのやり方で負けたことはないぜ」
五年の男子生徒が疑問を呈する。
「今年はそうとは限りません。私たちは今日残りのほぼ百人分の魔石四百個ほどを一瞬で充填して二分ほどで残り全員が戦闘に参加しました。このやり方を少なくともサンダー領は行います。必ずやります」
「じゃ、君たちが全員の分を充填するのか?」
「そうですね、二千個となると置かれている広さがありますので、私たちを含めて一年一組の生徒十五名で二千個行います。本当は五百名で一斉に魔力を魔石に注げばよいのですが、魔石の周りに全員が並べませんから」
ジュリアの言うこの方式だと魔力が不安な生徒が申し出る必要もない。
「それでよいのか」
「クララ問題ある?」
「全くありません。先輩方、私たちを信じてください」
「と言うことです」
ジュリア素晴らしい。
「明日の模擬戦はその方式でやってみて駄目ならまた考えましょう」
私は支持した。
「それでお願いします」
アナベル王女様も同意した。
「次に攻撃側の戦法についてです」
アンナが話題を変える。
「本番では、攻撃側三百名はフィールドへ入ったら、ある程度の人員で固まって敵側のエンドラインへ向かって行き、壁ができあがる前に入ってくる敵をどんどん討ち果たせばよいかと」
ジュリアが控えめに献策する。
「明日の模擬戦やサンダー領戦では一緒のタイミングでフィールドの戦場に入るが、その場合はどうする」
「サンダー領とでは中央でぶつかるはずです。お互い攻撃側の三百人対百人です。戦略は明日以降の模擬戦を通じて皆さんで練ってください」
そこまで私たちは面倒みきれない。
「模擬戦でも本番でも、守備側は全員で自陣から約三十メートルの位置に壁を作ります。出来上がるまでは魔力壁で守ります。弓隊がいれば壁を作る部隊が盾を前面に出します」
「口をはさむようだが、今日の弧を描いて頭上から襲った矢はどうやって弾いたのだ」
「風魔法です。水平の矢は威力があって難しいですが、弧を描いた矢は威力がないので風で弾けましたよ」
「そうか、魔力壁から瞬時に風に変えて対応するとは、すごいとしか言いようがない」
「ありがとうございます」
本当は同時に行っているのだが、そんなことまで言う必要がない。
「ただ、今日の土壁には課題がありました」
「あれ以上の物はないよ。こっちは全員が一点集中で破ろうとしたが不可能だったのだから」
五年生が褒めてくださった。
「あれは後で継ぎ足したからよかったものの、最初のままでは抜かれていました。それに作成直後はすき間だらけでした」
私は正直に言ったつもりだ。
「明日は最初から各自の担当する位置と高さ、長さ、幅を決めて、最終構築内容もみんなで共有化したいと思います」
ジュリアが私も気付いたことを述べた。
「サンダー領戦の場合も同様な土壁か」
「そう思った方がよいですね」
ジュリアが五人を代弁している。
「破壊は無理だね」
私たちは頷いた。
「階段を作るしかないか」
「後は掘るか?」
「掘る方が難しいな」
「階段しかないな」
「今日のやり方ではまた負けだ。階段を作っていかに相手に倒されないようにして、壁を乗り越える方法を考えるしかない」
「兵力を東と西に分散したからまずいのではないか、今日は東側が壊滅的な打撃を受けたからね」
「そうだよ、一カ所から上れば中央に圧力をかけて、一人も欠けずに中央階段から下りられたはずじゃないのか」
「明日の戦法を教えていいのか」
「駄目ならまた考えればいいさ、模擬戦の反省会だぜ、負けた原因とその対策を立てるのが重要。負けた原因の一つが今言った兵力の分散だね、それも東側は若干力の弱い三年生が全員いたからね。その対策が一カ所集中さ」
この方は論理的に物事を考えている。きちんと現状把握と原因と対策に分けてプランを練り、言葉に迷いがない。顔とヘルメットからのぞく赤茶色の髪、多分希少な銅の魔法が使える。
「最後の女王へは、弓は使えないな」
「いや、今日みたいに魔法で簡単にやられないように、明日は魔力壁を弓隊の周りに囲えばいい。攻撃する矢は魔力壁を貫通するから問題ないよ」
「水平だと盾があり、弧状で頭上からだとまた風魔法で飛ばされるぜ」
「となると槍隊か。後ろに魔力壁が得意な奴らを伴って全員で押し出せば、下級生の盾も蹴散らせる」
また赤茶色髪の男性が対策を示した。
「武力での衝突なら俺たちに分があるな」
上級生の男子生徒たちが捕らぬ狸の皮算用をしている。
赤茶色髪の男性の対策も甘い、まあいいわ。明日、己の未熟さを知ることになる。槍隊と魔力壁を作成し槍隊を守る部隊は別の生徒。私たち守備側の魔力壁を、槍隊と魔力壁作成隊との間に被せれば途中で分断でき、槍隊の前に魔力壁はなくなる。それに気付かない槍隊は私たちの魔法の餌食になる。槍隊自身が魔力壁を伴いながら武器を操作する技能は彼らにはない。魔道具の付いた槍なら有り得るが、今回は禁止されている。先ほど見たが、対抗戦で使う槍と剣は、刃はなく木でできた模造品だった。弓矢の矢も先が布で覆われていた。
昼食時間間際になり、午後は守備隊、攻撃隊で別個に反省と作戦を練り直すことにした。
食事前にシャワーを浴びて着替えさせてもらう。
昼食は昨日言ったように屋上キャンプ。匂いに誘われて、兵士たちが覗きに来たが、女学生しか見当たらないせいか、すごすごと帰って行った。
午後、守備隊の反省会と作戦の変更会議。
「勝ててよかったですね」
クララが笑顔を見せている。
「反省点だらけですが。そう言えば、明日の模擬戦、魔石の充填、よろしくね」
ジュリアが受ける。
「すみません、僕は基本四魔法の全てが使えないのですが、風が欠けます」
「そうなの、分かったわ。一組の生徒で基本四魔法が欠ける生徒は他にいますか?」
三人の生徒の手が上がる。
「僕たちは土が欠けます」「僕は土と火が欠けます」
「魔力に自信のある方いらっしゃいますか」
二年生から六人の手が上がる。
「ではその方にも明日の魔石充填をお願いします」
「分かった」
「次に土魔法のできる方、最後に残ってください。明日以降の土壁の構築方法の位置など具体的に担当を決めます」
「はーい」
「では壁の上からの守備側の防御方法、攻撃側は階段を作るようですが、対策の案があれば言ってください」
誰からも手が上がらない。ここは積極的に言ってほしい。昨日はあれだけ話していたのに……。いやちょっと待てよ、王家領の方々は去年の経験からの説明ばかりだったような……戦略的な意見を言ったのは私たちだけ。自から問題を見つけだし、解決策を考える癖がついていないのかもしれない。王都育ちのおぼっちゃまで、段取りが全て整ったうえでないと何もできないのだろうか。そんなことはないはず。
「あなたはどう思いますか?」と私は二年生の最前列に座る男子に意見を求めた。
「昨日の作戦では攻撃側に階段を作られたら土魔法の破壊で対応すると決めたのではないですか」
いい指摘、ちゃんと問題提起になっている。促せばちゃんとできる。彼の指摘はもっともだ。私も手をこまねいてそれを許したのは何故なのか気になっていた。
「土魔法は遠隔で出来ないので階段に手を触れる必要があります。その際に攻撃されてできなかったのです」
「先ほどの槍隊との魔力壁の関係をそのまま利用すれば、いいのでは?」
「いやそれもいいが、今日のことだ。壁の上から階段を破壊する魔法どころかどんな魔法でも放つ位置と言うか場所がなかった。中央の一カ所だけ高いところがあったけれど、それ以外は全て敵から丸見えで、隠れるところがなく、そこを出ただけで標的になった」
「今日土壁の上にあった中央の高い箇所を壁の上に何カ所も作って、迎撃の足場にするってことですね」
「城壁とほぼ一緒だな」
「去年は、守備は単に土壁を作ってあとは待つだけで、破壊してきたのはサンダー領だけだったな。あの時はその場で乱戦になって制限時間に救われたからね。壁の上で戦うことを想定していなかったよ」
「土魔法組はこの反省会の後に残るからそこで壁の設計を見直そう」
「壁の上で隠れる場所があれば、土魔法で相手が壁に階段をかけて来ても破壊できるし、壁を上ってこようとしているやつらに火、水、風でも攻撃できる。魔法を撃てる丸い穴の
「それでも壁の上に到達した場合は、上組は階段を死守するしかない。階段中央に集まり防御魔法を展開しながら迎撃を試みる。下からは魔法攻撃で援護してくれ。最悪、壁の内側の階段を下から破壊してもらって構わない」
「壁を越えられた時の対応はどうする」
みんなが自分で考えて意見を言ってくれるようになった。
「槍隊の対応はあります。実際やってみますね」
私は仲間四人を呼んで実演してみせる。
「クララ風車を三つ貸してくださらない」
クララから手渡された風車をニーヴ、アニー、マイアに配る。
「アニーが真ん中、ニーヴが左、マイアが右、アニーの後ろにジュリアが立って。クララ私の横に来て」
五人が私の言った位置に立つ。
「前の三人は風車を右手に持って。アニーが槍隊で、ジュリアが魔力壁作成隊とします。ジュリア、魔力壁でアニーだけを囲んで」
「分かった」
ジュリアが魔力壁を作った。
「ここで風魔法を送ります。そうすると、魔力壁の中のアニーの風車は動かず、左右の二人の風車は回転しますよね。やってみますね。クララ風魔法を送って」
クララが詠唱と呪文で風魔法を放った。
「この通り魔力壁の中のアニーの風車は動かず他は動いています」
みんな頷いている。
「クララ風魔法を止めて」
左右の風車が止まる。
「ここで私の魔力壁をアニーとジュリアの間に割り込ませます」
魔力壁を構築して二人の間まで張り出す。
「クララ風魔法を三人向けて発動して」
「分かった」
クララが再度風魔法を放った。三つの風車が回り出す。
「おお」
みんなが驚いている。
「魔力壁は魔力壁で分断できるのです。アニーの前に展開されている魔力壁を私の作った魔力壁で二人の間に被せれば可能です。槍隊もこの状態にすれば魔法で撃退できます」
「近衛はそれで女王を守れる。近衛以外がどうやって攻撃部隊を撃退すればいい?」
「上級生の槍に槍では負けるだけだ」
「階段を下りられたら近衛以外は負けるしかないのか」
「今日はある程度戦えたよな」
「乱戦だったから、上級生同士の同士討ちもあったようだぜ」
「難しいなあ」
「魔法精度の問題もあるわよ」
「そうだよなあ、サンダー領の四人は何人どころか何十人も一人で倒していた。それも一発必中だった」
「上級生は多分半数が槍を持ち半数が魔力壁を作ってくる」
みんなが少し消極的になって来た。
「みなさん、模擬戦ですよ。何のためにやるのですか?」
私は目力を込めて全員を見渡す。
「力を磨くためです。負けていいのです。負けて自分の欠点が分かって反省してこそ強くなれます」
そこで私は言葉を切った。みんなの顔から負けじ魂が見てとれた。
「上級生が階段を下りてきたら、そこで戦いましょう。今の己の百パーセントを出して上級生に相手をしてもらえるのです。上級生も本気です。鍛えてもらいましょうよ」
「そうだ」「そうだ、そうだ」
やる気が漲って来た。一、二年生の現状は魔力も武力も弱い、それを少しでも向上させるのが実戦経験、これが役に立つはず。
「やりましょう」
「おう」
一、二年生に活気が戻って来た。
ポツリとアニーの呟き声が聞こえる。
「全く人をのせるのがうまいんだから」
土魔法での壁の再設計もみんなが残って、意見をだしてくれた。
「上で防衛する立場の意見もあった方がいいだろう。もちろん下から支援する立場からもね」
そして土壁の構築内容と担当位置も決まった。
「一日の最後に姿勢と深呼吸のチェックをします。私たち一年一組の生徒に見てもらって合格するまで帰しません。これから毎日続けますよ」
一、二年生はえーっ、と言いながら嬉しそうに姿勢のチェックと深呼吸を見てもらっている。現状弱い魔力を少しでも上向くように手段を講じる。
帰る途中ジュリアに言われた。
「最終的に壁を上れた攻撃側がはるかに防御側より強かったら、壁の下にいる私たちが土魔法で階段を破壊するしかないわね」
「そうね、でもそうなると壁の上の味方も見殺しになるわ。全員が討ち死によ」
「二年生の半数五十人と一年生の四十人が全滅、下も何人かがやられるから、守備側は多くて約百人が生存。サンダー領の生存者が百人以上なら危うい気がする」
「王家領の攻撃側が何人残るかによるわ」
「上級生に頑張ってもらうしかないわね」
模擬戦二日目。
授業を終えて、王宮の訓練場に五百人が集まった。
必要な魔石、二千個がカラの状態で今日の模擬戦に用意されている。昨日の今日で集められるのは、さすがは王家領。サンダー領ではこうはいかない。
中央に全員が集まっている。そばには二千個の魔石。本番の自陣のエンドラインそばとは異なり実際に私たちで可能かを見るためだった。
開始の号砲が鳴る。昨日の打ち合わせ通り、私たち五人と一組十人に魔力に自信のある六人、計二十一人が二千個の魔石の前に並ぶ。
緊張気味の何人かが目に付く。
「横の人と手をつないで、まず深呼吸」
全員が手をつないで深呼吸をする。
「これで、手を離しても大丈夫よ。口角を上げて笑顔でいこう」
「最初は火よ。息を吸って、ゆっくりと息を吐きながら火の魔力を込めて」
一斉に魔力を注ぐ。魔石の四分の一が赤く染まる。次に水、風、土と四色二千個、五百人分を四呼吸で全て染め上げた。
「すごい」「できると昨日聞いたけれど、実際に見るまで信じられなかったわ」「あとの模擬戦ではもう魔石充填は必要ないわね」
「先ず攻撃側の人が四つ魔石を取って、一人の審判に横に三列で並んで一斉に検査してもらってください。攻撃側が終わってから守備側です」
「分かった」と言いながら、魔石を取って三列で審判の前に並ぶ。
「異常なし、全員合格」
審判の判定を聞いてから、攻撃側が北側エンドライン、防御側が南側エンドラインへと急ぐ。
模擬戦が始まる。
土壁を昨日決めた城壁スタイルで作る。隙間はできていない。両端まで到達している。攻撃側が東側から壁を上り、守備側との激しい攻防の後、遂に乗り越えてきた。槍隊が後ろに魔力壁作成部隊を伴って女王の私を目がけて槍を繰り出す。
「もらった」
「覚悟しな」
しかし彼らが見たのは私の余裕の笑みだけ。私と近衛により魔力壁を分断される。槍隊が魔法の餌食となり全滅する。
「どういうことなの」
王女様は私からカラクリを聞かされ、うなだれた。
「対策を検討してください」
翌日からも授業のある日は放課後、休日は早朝から王家領の生徒たちと一緒に私たちは特訓した。
余分に用意してもらったビブスで、どれくらいの魔法で黒くなるかを一人一人が確認した。
何回も模擬戦を行った。
槍を持った上級生に果敢に挑む下級生の守備要員たち。魔法を受けてもビブスが黒になるまで突進してくる上級生。
色んなパターンを試した。そして本番用の作戦を決めた。
攻撃隊は魔石を先に取りクラス単位でフィールドへ入り、敵陣のエンドラインへ向かう。入場してくる敵を数にモノを言わせて撃破する作戦だ。そこで決着が付かなかった場合の作戦は上級生に任せた。基本は後方から魔力壁を伴った槍隊で押し出す作戦を取る。魔力壁も数の力で強さが増せば、相手の魔力の強さによっては分断されないことが分かった。
守備要員は三十メートル地点に担当を決めて土壁を作成する。念の為に魔力壁で出来上がるまでは防御する。形も決めた。高さは六メートル、長さは土壁を作る個人の能力によって異なる。幅は三メートル、敵と対する外側は内側に比べて五メートル間隔で二メートルまたは一メートル分高くし城壁スタイルとする。敵の迎撃用の隠れるスペースだ。魔法を撃つための穴、
敵が来て壁を越えそうになれば近衛を含めた半数は下り、階段を壊す。判断は私が下す。上に残る迎撃隊は敵が壁を上ってきたら死兵となる。女王を含めた百余名が生き残るため仕方がないことだ。
壁の上下の割り振りは、一年一組の魔力が高い生徒十名が上で魔力壁要員、残りの一年生は全員下、二年生は武具の使用が達者な十名が下になり残り九十名が上、上の迎撃隊は水魔法要員、魔力壁要員を五十名ずつとし、階段が作成されれば破壊の土魔法ができる二年生が対応することになった。
模擬戦と反省会と作戦の修正が終わったら一日の締めには必ず姿勢と深呼吸を行わせた。きちんとできていない生徒は指導する。上級生にも請われれば指導した。エレノアを含めた三年生が特に熱心にきいて来た。よほど初日の魔石の魔力操作の印象が強かったらしい。特にエレノアの執念には驚いた。
「これでよろしい?」
「腰のふらつきがあります」
「姿勢が悪くって」
「壁に後頭部・肩甲骨・お尻・ふくらはぎ・かかとの五点をつけてください。そのまま半歩前へ。これが正しい姿勢です、覚えてください」
「ありがとう、具体的で分かりやすいわ」
始終私に訊きに来る。
「呼吸が浅いですね、もっと深く」
エレノアからの個人レッスンの頻度の多さにたまりかねた私は、朝の体操をお勧めした。
「毎朝、身体の筋を伸ばしてから深呼吸をして、体操すれば身につきますわ」
ナナ式美流法は御留流なのでそのエッセンスだけを教えた。
「頑張るわ」
エレノアはやる気を漲らせていた。
「ナナさん、遂に明日ですね」
王家領の人たちからも認めてもらえたようで、ナナと呼ぶ人が多い。一、二年生の魔法の冴えが最初のころと見違えるほどになった。武器の扱いも上級生と渡り合えるほど上達した。
「目標を持って努力すれば叶うものですね」
額に汗を浮かべ生き生きとした表情をする誰もが輝いて見える。
昨日から私たちは王宮内にある寄宿舎に部屋を用意してもらった。最終日までここで寝泊まりする。
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