裏話(期間限定) 六話
【付録:裏話は年内中には削除します】
ハリソン・ザイアー(侯爵家長男)の回想
研究棟の一階喫茶コーナーで休憩していると、友人から声をかけられた。
「ハリソン、明日の日曜の午前中時間があるか?」
「なんだい」
「アルバイトしてもらえないかなあ。王宮の訓練場で学院生が対抗戦の模擬戦をするから審判を頼まれてさ、二十名ほどなんだけど、いいかな。結構はずむぜ」
「昼までに終わるのかい」
「十時から模擬戦開始だから、かかっても午前中いっぱいだ」
「分かった、昼前に終わるならいいよ」
「よかった、アナベル王女様も参加するらしいぜ」
「じゃ止めようかなあ」
「そう言うなよ。審判だけで、別に会って話すこともないからさ」
仕方がない、アナベル王女様と噂になるのは懲り懲りだが、審判だけなら接する機会もないだろう、とあきらめて参加することにした。
模擬戦が開始された。
『ナナ』と呼ばれる少女がいる。
その名前に懐かしさが湧いた。少女を見るとピンクのビブス、女王役のようだ。姿勢と所作に気品が滲み出ている。多分王家領の由緒正しき出だと思われる。自分が子供のころお世話になったサンダー侯爵家の幼き子も『ナナ』という愛称だった。大きくなって彼女くらいの年になっているのだろう。
思わず模擬戦場で活躍するその少女を目で追っている自分に気が付いた。
はるか昔のサンダー領の思い出がよみがえる。夏パール浜へ遊びに行っていたときだった。
「それは食べてはいけません」
シラス干しに入っていたタツノオトシゴを見てそう言われた。
私が渡すと大事そうにして、「宝箱に入れる」と喜んでいた。やけに私に懐いていた。ハリーとノアでは年が近すぎてうまくあやせなかったのだろう。お世話になっている立場、少しでも役に立てればと幼き子の言われるがまま、面倒を見てあげた。食事の食べ残しを食べてあげたら、侯爵の奥様に優しい笑顔を向けられた。そう言えばハリーとノアの食べ残しを食べた記憶がなかった。
あの時の
「裏話完」
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