三十六話 セントラル大陸暦一五六五年 夏 四/九
打合せの翌日から、二十六日の対抗戦初戦を迎える日まで私たち五名は王宮の訓練場に足を運ぶことになった。休日は早朝から、授業のある日は放課後から。
二十日足らずで魔法を強化するのは難しい。ナナ式美流法も教えられない。唯一、姿勢の矯正と呼吸法を一、二年生に学んでもらうつもりだ。少しでも魔力向上に役立ててもらえればいい。後々のためにもなる。
練習初日、土曜日の早朝。
私は女王役をやり切ろうと覚悟を決めた。昨日の今日、クラス代表の五十人から各クラスメイトへどれほど情報が行き渡っているかは不明。やるからには全力を尽くす。
リーダー役の
一段高い位置から五百人を見渡す。
「おはようございます。今年の対抗戦の女王役のナナリーナ・サンダーです。今年は去年までのように楽には勝てません。相手は昨年以上に強敵です」
去年の決勝を戦った二年生以上は今の言葉が身に染みるだろう。一年生は良くも悪くも多分私の噂を聞いているはず。ひそひそ話をする輩は私の一睨みで黙らせる。
「私がいる以上、むざむざやられるわけにはいきません。一緒に戦い優勝を目指して頑張りましょう」
「「「おー」」」
五百人の気勢が上がる。
今日の流れは朝アンナに聞いて頭に入れている。
「先ずは今日一日、攻守に分かれて作戦会議をします。明日はその作戦を基に、試しに模擬戦を行います。そこで良かった点、悪かった点を洗い出してブラッシュアップし続けて本番に臨みます」
昨日の後半グタグタになった私の微かな記憶によると、攻守に分かれて作戦会議をし、模擬戦をし、反省をし、再度作戦を練り直すというサイクルをジュリアが提案し賛同されたはず。
「よろしいですね。では攻撃は北側、守備は南側に集合」
私の号令に、みんなが答えた。
「「「はい」」」
訓練場の南側に守備を受け持つ一年生、二年生二百余名が集まった。アンナによると正確には一年生が私たちを含めて百十名、二年生が九十九名の計二百九名のはずだが、不参加の方がいて二百二名が今日来ているという。既に入学式時点から何人かが欠けている。
「みなさん改めまして、ナナリーナ・サンダーです。ナナと呼んでください」
「女王様」
男子の声、いったい誰だ、そんなことを言う輩は。同じクラスの男子だ。女王ではなく、女王役をやるだけなのに、しょうがない、後でしっかり絞っておこう。
「先ずは魔法の強化です」
明らかに目の色が変わる生徒たち。
「と言っても一朝一夕で魔法の力は強くなりません」
肩を落とす生徒がいる。落胆が早い。あきらめるな。
「学院生活はまだ始まったばかりですよ。二年生の方で後三年もあるのです。これだけあれば十分です」
頷く生徒たち。素直だ。
「その間にやることはたくさんあります。私が提示するのはその中で最も基本的なことです。皆さんも噂で聞いているように一年一組の生徒が起こした奇跡が自分のものとなります」
魔法の噂が流れるのはあっという間、ほとんどの学院生に一昨日の試験の結果が耳に届いているはず。
そのせいもあろう、表情に真剣味が帯びだした。熱意が露骨になり前のめりの生徒もいる。
「先ずは姿勢です。それができたら呼吸法です」
私は全員を見渡す。
「クララ、一組の生徒全員で一年生の姿勢を矯正して」
「分かったわ」
「二年生は、サンダー領の私たちが直に矯正します。ではみなさん適宜に間隔を開けてください」
みんなが、ばらける。
「気をつけ」気合を入れる。
「直れ」リラックスさせる。
「自然にまっすぐ立ってください。その姿勢を維持してください」
守備側全員の姿勢を正す。
「女王様、これでよろしいでしょうか」
まただ、妙な掛け声をかけないで。
「下腹に力をためて、お尻をこう落として」
二年生の女子の腰に手をあててちょっとだけ下へ力を籠める。途端にふらつきがなくなる。
「分かった?」
目と口が開いている。
「今までと違います。自分でも安定した感じがします」
私は頷いて次の生徒へ向かう。姿勢に問題のない生徒へは魔法を撃つ態勢をとらせる。
「腰が決まっていないです」
私は男子生徒の後ろに廻って両手を尾てい骨に沿って上下方向にさするようにあてる。
「ここを立てるイメージを持ってください」
「おお、腰が据わった気がする」
私を見る目に驚きが混ざっている。
全員の姿勢を見て、直し終えてから呼吸法を教えた。
「正しい姿勢のイメージをもてば、魔法を放つ体勢が変わり、さらに呼吸法をマスターすれば魔力の流れがよくなり、この二つだけでも相当魔法の威力がまします」
みんなが生き生きとしだし目に力が宿った。
「午後は作戦会議です。午後一時から四時間、いいですね」
一旦解散後、私たちは食堂へ向かう。王宮の食堂、どんな美味しものが食べられるのだろうと期待に胸を膨らませた。
「これは……」
大行列にあ然とした。たどり着くにはどれくらい待たなければならないの。
「いったいいつになればお食事にありつけるのでしょうか、腹ぺこヴィーナスになります」
アニーの言う通り勝手が分からない五人は途方に暮れた。
「ナナリーナ様」
控えめな声がする方を見ると、若い女性、多分学院の生徒、どこかでお会いしたような方から名前を呼ばれた。
「もしよろしければ私たちと昼食を一緒になさいませんか。皆さんの分もご用意してありますのよ」
私たちは顔を見合わせる。一人ジュリアが納得したかのように頷く。
「確か以前、ベケット先生と一緒にお会いしました、調理部の部長さんですよね」
「そうです。覚えていてくださったのですね。あの後改めてお礼に伺ったのですが、皆さんはいらっしゃらなかったようです。でもベケット先生から聞きましたのよ、使っていただいたポーションは皆さんが作られたものだと。本当にお世話になりました。ありがとうございます」
「とんでもございません。全てベケット先生のおかげです」
「いいえ、皆さんの作られるポーションはレベルが違うと先生も仰っていましたわ」
「ありがとうございます」
「昨日私もいたのですよ。それで今日は部員と腕によりをかけて拵えましてよ。どうぞご一緒に」
五人とも異存はない。
空が青く広がる屋上で私たち五人と王家領の調理部十五人で美味しいお弁当をいただいた。
「明日はここでお昼のキャンプをしませんか?」
火傷をして、治療に来ていた五年生の生徒が提案する。
「屋上キャンプですか、いいですわね」
部長が応じる。
「準備は野営をいつもしている近衛の方から借りてきます」
私たちはお昼の心配をしなくて済むようで、とても助かった。それに調理部の十五人が私たちのシンパになって擁護してくれるのがとてもありがたい。
午後からの作戦会議。
「目標に向かってやるべきことを一つ一つ上げましょう」
私の提案に王家領の方が答える。現状と課題は一度模擬戦を行わないと分からない。
「魔石の充填、守備側だけなら二百名分一人四つだから八百個、火、水、風、土が二百個ずつ用意されます。ただ当日は五百人だから二千個です」
「自信ない人は手を上げてください」
ジュリアの言葉に何人かが顔を見合わせながら、手を上げ始めた。一人が上げると続く人が何人もいる。
「半分は自分たちでできるようですね。残り半分を私たちが充填しましょう」
マイアが自信をもって対応した。
午前中私が姿勢を正した二年生、確か二年一組の代表で昨日の会議にも出席していた方が話し始めた。
「魔石を四つ充填し各自が持って審判員に判定してもらい合格したら、自陣の最終ラインの七十メートルのどこからでも入場できます」
他の二年生が続く。
「審判員は生徒二十五人に一人です。今回守備側には八人です。本番では王家領には二十人ほどかと思います」
「フィールドに入ったら先ず防御用に壁を作りましょう」
「壁があると有利です」
それは敵の目標である女王を守る手段として私も考えていた。攻撃側も崩してくるだろうが、先に壁を作ってしまえば、守備側も上からビブス目がけて攻撃できる。相手人数をそれだけ削れる。
「フィールドが百メートル
「魔法が相手にヒットすれば魔石の塗ったビブスが変色し頭部、前部、後部いずれかが半分変色すれば、ビブス全体が黒くなり、かつ重くなって退場扱いとなります」
高機能なビブスのようだ。
「滅多にないけど武器でビブスに当てられても変色して黒くなれば退場だけどね。槍と剣の刃先、弓矢の矢の先端に魔石が塗ってありビブスに塗ってある魔石と反応するのさ」
二年生の方が去年の経験があるのだろう、それぞれ説明してくれた。
「当日使用するビブスを余分に用意していただけませんか。明日の模擬戦の後で構いませんから。全員でどのくらいのレベルの攻撃魔法で変色するのかを確かめましょう」
「分かりましたわ」
ジュリアの要求に
「女王様のナナを死守する近衛と防衛要員に分けるということでよろしいですか」
クララが続けて発言した。
「一年生の中から五十名を近衛要員として、それ以外は防衛要員としましょう」
私が答えた。続けて話す。
「壁は土魔法の壁とします。希少魔法の銅の魔法は禁止ですので土魔法ができる生徒全員で作りましょう。土壁の魔法を使える生徒は手を上げてください」
二百名のうち、七十余名が手を上げた。サンダー領の一年だとほぼ全員なのに、三分の一程度か仕方がない。
「高さ六メートル、長さ五メートル、幅は二メートルとし迎撃要員が乗るスペースとしましょう。強度は魔力切れにならない最大限を発揮してください。最後に足りない部分を私たちが補います」
私の説明にジュリアが補足する。
「壁の上からも敵方を迎撃するなら、上り下りする階段も内側に一カ所作る必要がありますね。最悪敵が外側から上ってきて内側に下りようとすれば、その一カ所の階段に集中するはずです。高さ六メートルでは飛び降りられませんからね。そこを狙い撃ちましょう」
「となると、壁の上と下に防衛要員を分ける必要がありますね」
アニーが提案した。
「二年は半数で分けます。初回奇数組が壁の上、偶数組が下。二回目はその逆」
二年生の最初に発言した方が公平に割り振った。
「一年は、女王を守る近衛が必要です。壁の下の防衛要員と半数ずつでよいですか」
「いや一年でも土魔法が使える人間は壁の上がいいですね。敵が壁に階段を作ってきたら上から土魔法で破壊してもらえますから」
アニーの問いにジュリアが応えた。
「そうだ、その方がいいね。二年もそうしよう、残りを半数ずつ壁の上下に分けるよ」
先ほどの方が賛同した。
「土魔法の破壊が使える人、手を上げてください」
六十数名の手が上がる。壁を作れる人より幾分少ないようだ。
「今手を上げた人たちは一年二年問わず毎回土壁を作ったら階段を上って壁の上で戦ってください。残りの生徒は、奇数組と偶数組で一年は近衛と壁の下の防衛要員を交代で行います。初回奇数組が近衛、二回目が防衛と二年生と同じ要領で行いましょう。近衛の数が三十数名となるけどナナなら大丈夫でしょう。模擬戦を通して自分の役割が、何がよいのかを見極めて本番に臨むようにしましょう」
ジュリアがまとめてくれた後、私を見た。
「ナナは女王様らしく初日の模擬戦は、防御はいいけれど攻撃しないでね。みんなの今の実力を見たいから」
私は頷く。現状把握と課題を見つけなくてはならない。
何人もの人が発言して、私たちの王家領守備側の作戦会議は終わった。
「明日は十時模擬戦開始です」
ジュリアが私を窺う。それを受けて私は気を引き締めてみんなを見渡す。
「頑張りましょう」
「おう!」
一、二年生全員がやる気になった。
練習二日目、第一回目の模擬戦。午前十時開始直前。
広さは対抗戦と同じ百メートル×七十メートル。南北が長い百メートルで、攻撃が北から、守備の南に攻める。
生徒全員が防具とヘルメットをかぶっている。
「ルールは対抗戦と同じです。制限時間は四十分、開始の合図で一人四個の魔石を充填すれば戦闘参加可能です。審判の判定で合格すればビブスをしてフィールドへ入ってください。今回攻撃側が黄色、守備が白、女王がピンクのビブスです」
対抗戦のリーダー役、
「ナナリーナさん、女王は開始から十分以内にフィールドへ入らなければ失格ですので注意してくださいね」
「分かりました」
「開始の合図と審判は研究生の方に頼みました」
「よろしく」
審判役の二十人が生徒たちへ挨拶する。私たちもお辞儀する。
「攻撃側三百名対守備側二百名なので守備側にハンディ六十六名を加算して判定してください」
守備側では昨日より二名欠席者が出た。
「承知した。反則行為があったらホイッスルを鳴らす。その場合は全員魔法を止めること」
「「分かりました」」
代表してアンナと私が答えた。
「用意、スタート」
風魔法で号砲を鳴らした。
守備側の二百名が南側、攻撃側の三百名が北側に向けて駆けだす。
フィールドのエンドラインのそばに机があり、その上に八百の魔石が並べてある。
自分で充填可能だと言った百名が魔石を取る。一人で五、六個程度持っていき、魔力を込めて四つ充填したら、残りを戻して、込めた四つを審判に判定してもらっている。
「まずいわね、何色か分からないので、適当に取っているわ」
「ルールが必要ね」
合格した者はビブスを渡され被って己の得意な武器を手に守備側のエンドラインからフィールドへ入る。ほとんどが盾を手にしている。
自分で可能だと言った百人が終わるまで約五分かかった。
「これは遅すぎるわ」
「それは後で考えよう、ここに残った四百個の魔石どうする」
アニーとマイアの言葉に私が反応する。
「水の魔法を五人で先ず込めよう、次にニーヴを除いた四人で火、風、土の魔法を込めましょう」
「分かったわ」
「先ずは水」
五人で四百個の魔石に水の魔力を込める。あっという間に百個ほどが反応し水色に染まる。
「次は火」赤に染まる。「風」緑へ。「土」全部が染まった。
「各自四つ持って審判に確認してもらってください」
「全部染まっている」
残っていた生徒が驚きながらも各自が魔石を四つ持ち審判のところへ行く。
「問題ないようね、全員ビブスを着用しフィールドへ入っていくわ」
今日の反省会では上級生を含めみんなで話し合って魔石を充填する方式を検討しよう。
私たちと残っている生徒全員がビブスを着用し模擬戦場へ足を踏み入れた。既に戦いが始まっている。白が負けている。さすがに上級生相手では一、二年生は歯が立たないようだ。
「壁担当の土魔法組全員私の後ろに集まって、魔力壁を作って押し出します。私の魔力に自分の魔力を乗せてください。三十メートル先で、土魔法で壁を作ります」
私が魔力壁を作ると、その魔力に土魔法組が乗っかってくれた。これだけの魔力壁を基本魔法で突き破れる力のある生徒は学院にはいない。ハリーお兄様でもノアお兄様でも無理だ。銀の魔法を使われたら分からないが、今回希少魔法は金の回復魔法以外は禁止だ。三十メートルほど歩いて止まる。
「土魔法組は土壁を昨日決めた高さ六メートル、長さ五メートル、幅二メートルで作って」
詠唱と呪文が聞こえだすと土壁が作られ始めた。前面に土壁ができると魔力壁を消した。
だめだ、壁が東端から西端までできていない。途切れている。位置を決めていなかったせいだ。
いつもの四人が側にいる。
「まず隙間の開いている土壁の補強をお願い。私とジュリアは東側に壁を作る。アニー、マイア西側へ、ニーヴはサポート」
私たちが東側、西側へと走る。私は東側の一番の端へ急ぐ。攻撃陣が東端から入ってくる。サポートのニーヴが水魔法で蹴散らす。隙間を埋めていく。東端までは何とか土壁が作成できた。そして壁に手をあて、補強を始めた。
西端へ目を転ずると攻撃側の黄色のビブス着た生徒が溢れてきていた。ダメだ、間に合わない。中央に戻り、さらに少しでも安全な西側の位置へ、土壁を直線で敵が侵入していない西端まで伸ばせる場所に移動した。ここから南西に向けて端まで壁を作る。戦闘中で作る壁に入れない何人かは見殺しにせざるを得ない。
地面に手をあて土魔法を展開し、壁を西端まで作った。
中央に戻り、内側から階段を作り駆け上がる。私は急いだ。
壁を敵方から上って来る生徒がいる。アニーとマイアだ。外側から階段が作ってある。何人もの白いビブスの生徒が続いて来る。下を見るとビブスが変色していない最後の生徒が上って来た。ほかはビブスの色が黒く変わっている。外側の階段を私は破壊した。上ろうとしていた攻撃側の生徒が途中ではしごを外された格好になる。落ちる。ごめんなさい。
「女王だぞ」
「狙え」
まずい、私が標的になった。急いで土魔法を展開し壁の北側にあたる外側に高さ二メートルの壁を上につなげた。幅は五十センチ、長さは五メートル、強化を怠らない。
マイアが声を張る。
「私とアニーで、ここで上って来た生徒を攻撃する。ナナは下へ行って攻撃と防御の指示を」
ドーン、ドーン。壁に攻撃が当たっている。
「分かった、後は頼むわ」
アニーとマイアの表情が怖い。アニーの嬉しそうな笑顔、マイアは柔らかくほほ笑んでいる。二人は野犬狩りでいったい何に目覚めたの、戦いを楽しんでいる。
私たちが下へ降りると、昨日の予定通り、壁の上の担当が階段を上っていった。
ドーン、ガーン、ドーン、ガーン。
壁を壊そうとしている。しばらくその音が断続的に続いた。私たち下の担当は、土壁を強化し続け、さらに幅を三メートルに広げた。
音がやんだ。朝の静けさ、風が吹いている。
ドカーン。
どうやら敵側はみんなで力を合わせて壁に一点集中で攻撃したようだ。でも壁は破壊されていない。どうやら強度はこれで十分なようだ。
「次は階段を作って上ってくるはず。迎撃の準備をして」
ジュリアが大声を出す。
ゴン、ゴボゴボ、ゴン、ゴボゴボ。
壁の向こう側で階段を作っているのだろう、盛大な音がする。音がやんだ。壁の上の迎撃隊から散発的に下に向けて魔法が放たれる。
私が作った中央の二メートル高くなった壁を避けて、両脇の壁の上に大勢の黄色のビブスが着た人が現れた。攻撃側の上級生だ。
上の迎撃隊及び下の防衛隊が魔法を放つ。効かない。魔力壁を作っている。左右から攻められて壁の上の迎撃要員たちが行き場を失い、階段を何人かが下りてくる。
「壁の上の東側の攻撃陣をつぶす。全員で東側中央に魔法を集中して」
大声で壁の下にいるジュリアが叫ぶ。
私は今回戦闘には参加しない。自分の防御のみで、戦いをあくまでも離見の
東側の壁の上に魔法が集中した。壁の上の中央にいる味方も東側に魔法を放っている。東側の魔力壁が破れた。少し遅れて西側の敵方が中央を突き破った。中央階段から敵方が下りてくる。白いビブスと黄色いビブスが入り乱れての戦になった。
私は一年奇数組の近衛部隊全員を含んで魔力壁を構築する。
「私の魔力壁にみんなの魔力を乗せて」
私を含めて三十余名の魔力壁ができ上った。
「前方に盾を並べて」
弓矢避けだ。
壁の東側の上にいた敵方はほぼ倒したようだが、西側から中央の階段を下りてきた敵方は強い。さすがは上級生だ。白のビブスがどんどん黒色に変わっていく。
魔力壁に魔法が当たるのが分かる。魔法を受け止め、防ぐ。
弓が準備された。水平方向は盾がある。敵の一人が斜め上に弓を向けた。弧を描いて上空から狙おうとしている。矢や槍や剣は魔力壁では防げない。実際に土魔法の壁などで具現化しないとならない。
私は風魔法を頭の上五メートルくらいを目安に展開し風を起こした。風を実体化すれば矢の飛ぶ向きを変えられる。
矢が放たれたが、上空で風の影響により逸れる。数で勝負とばかり十人の弓隊が前方に現れた。弓を引き、矢を放とうとする瞬間に味方から水魔法が放たれた。弓隊のビブスが一斉に変色した。魔力防御はできていなかった。
誰だ、こんな強力な魔法を放てるのは。
休む間もなく弓隊第二陣が現れ、構えを水平にして今魔法を放った方向へ向ける。その途端、違う角度から水魔法が弓隊を襲い、一瞬でビブスを黒色に変えた。
ニーヴとジュリアが立っていた。
二人とも涼しい顔をしている。貴女たちも私の知らない何かに目覚めてしまっているのね。
ファーン、ファーン、ファーン。
終了の号砲が鳴った。戦闘が終わる。私たちも魔力を収める。
「全員整列」
審判が大音声を発した。
中央南側に守備側、北側に攻撃側のビブスが有効な生徒が並ぶ。
「攻撃側が百七十六名生存、守備側が百十二名生存。ハンディは三対二の六十六名、よって守備側百七十八名で守備側の勝利」
審判の言葉に守備側から小さな喜びのポーズをする男子生徒たちが何人かいた。あくまで味方同士の模擬戦。私は勝ち負けにはこだわらない。
「ケガをした人はいますか。治療の必要な方はこちらへ来てください」
金色の髪の三年のエレノアが医療班を連れて来ていた。何人かがエレノアのもとへ向かう。
「私たちは手伝わなくていいよね」
「そうね、ケガもたいしたことはなさそうだから大丈夫よ」
アニーとマイアが会話している。
「今から三十分休憩します。十一時二十分からこの場で反省会を行います」
リーダーのアンナが宣言した。
アナベル王女様とアンナが審判に来てくれた研究科の人たちにお礼を言っている。彼らはそのまま帰るようだ。あれ……、一瞬その中の誰かの温かい視線を感じた。
「飲み物は、こちらに用意してあります」
探知しようとしたら、昨日の調理クラブの部長さんの声が涼やかに聞こえた。
のどを潤す。運動した感がとても強い、気持ちがいい。
「反省点が一杯あるね」
ジュリアが喉をならし終えると言った。
「そうね、あり過ぎる」
私も答えた。
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