裏話(期間限定) 一話

【付録:裏話は年内中には削除します】

 王太后様はプライベートルームに大公とその家族を招き入れた。

「今日はどうしたのだい」

「母さん、人払いを」

 王太后様は、息子の大公が大事そうに持つカバンを、目を細めて見遣り、侍女たちをさがらせた。

「ジャスミンもしばらく待っていてね」

 大公夫人のビクトリアも娘のジャスミンを侍女と一緒に部屋を一旦退かせた。

 大公はカバンから箱を取り出し、開けた。

「透明なきれいな水晶ね」

 水晶を見つめた目が、大公へ移る。

 大公がカバンから今度は金色の髪を取り出した。

「初髪です」

 水晶に巻き付ける。

「なんと、人探しの聖珠ではないか」

 初髪を巻き付けた透明な水晶は中に光るラインを浮かび上がらせた。指し示す先は部屋の外にいるジャスミン、微妙にラインが揺れる。

 大公が人探しの聖珠を王太后様へ渡す。そしてカバンからもう一つの透明な水晶を取り出し、初髪を巻き付けた。

 同じように中にラインを浮かぶ。

「サンダー侯爵家の嫡男ハリーからジャスミンのいる我が大公家へ献上されました。二珠の人探しの聖珠です」

「どういうことだい」

 王太后様に聞かれた大公が妻のビクトリアに話すように促す。

「以前お義母様が、当家においでになった、ナナリーナさんがいた日のことです。ジャスミンがナナリーナさんの鍛錬法を学びたいというので、後日、守り人の二人をサンダー家の寄宿舎に十日あまり派遣したのです」

「あの日の昼食前にそんな話をしたようなことを聞いたね」

「はい、それでジャスミンの守り人のアルフィとヘイディを遣わせたのですが、二人が戻って来た日にハリー様も同行して来られて、この二珠を、ジャスミンを慕うアルフィとヘイディ達、小さき勇者たちへの褒美として当家に献上されたのです」

「見返りは?」

「いいえ、何も要求なさいませんでした」

「(くー)……。サンダー家の子供たちは優秀過ぎる」

「サンダー領は今、大変な賑わいを見せています。さらにハリーをはじめ次男のノア、長女のナナリーナが成人すれば、益々発展することは間違いないところです」

「あの兄弟妹とのつながりを強化したいわね」

「そうですね。ハリーとは現在、馬車専用道路を王都とサンダー領間に敷設しようと目論んでいるのです」

「何とも大計画を企んだわね。そう言えばサンダー領によい温泉が湧いているとも聞いたわ」

「ええ、私も家族で入りましたよ。専用道路ができれば人だけでなく物流も盛んになります」

「私も一度入りたいものだわ」

「かの温泉地ではミュージカルが行われていましたわ」

「ひょっとして」

「そうです、お義母様が以前仰っていた、出演者全員の一糸乱れぬ美脚が躍るロケットダンスが見られました」

「見てみたいわ」

 トントントン。

「あら、ジャスミンがもう我慢できなくなってしまったのでしょうか」

 大公が聖珠をカバンにしまう。王太后様がドアを開けてジャスミンを連れて来た。

「ジャスミン、そろそろ七月、誕生日だね。何が欲しい?」

 王太后様が訊いた。

「お姉様がほしいです」

 目を輝かせている。

「妹ではなく、お姉さんかい。それはちょっと難しいかな」

「おばあ様でも無理ですか」

「そうだねえ……。孫、孫として迎えることは可能だわ。ジャスミン、あなたは私の孫よ」

「はい、そうです」

「もう一人孫が増えて、そのがジャスミンのお姉さんになる事は可能よ。つまりジャスミンとは孫同士のが増えるのはどう」

「同じ孫でお姉様ですか?」

「そうよ、ジャスミンの大好きな、ナナ姉様を孫に迎えるのよ」

「ナナ姉様がなってくれるのですか。おばあ様、是非お願いします」

「任せなさい」

                        「裏話完」

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