二十三話 セントラル大陸暦一五六四年 秋 三/四

 魔法の実技が始まった。教会のライラと北家のジェームスが当然のように私のそばに来る。

「教えてください」

「お願いします」

 担任のサットン先生を見ると、お前がやれと顔で指示された。

 仕方がない。あれだけ言った手前、二人に魔法の手ほどきをせざるを得ないようだ。

 二人に魔法を発動させてみる。

 ひ弱い。二人の魔法を見た最初の感想だ。へっぴり腰のジェームスと小手先だけのライラ。二人の姿勢を腰が決まるように矯正する。なかなか腰が据わらない。腹筋が弱すぎる。

「腹筋を鍛えなさい」

「「頑張ります」」

 次に呼吸法を教える。

「腹式呼吸をマスターしましょうね。覚えると腹筋を鍛えることにもつながりますから一石二鳥ですよ」

 二人の努力が実を結ぶのは先かもしれないが、頑張ってほしい。

「私たちにも教えてください」

 まじめに取り組む二人を見てか、魔法の実技のたび、私のもとにクラスメイトがとっかえひっかえ来るようになっていた。

「ナナリーナ様」

「ナナと呼んで」

「ではナナ様で」「ではナナ姉様で」

 何回この会話をしたことだろう。

「では私はナナ委員長と呼ばせていただきます」

 格式張ったのは西家の長女クロエと王家領の伯爵家の長女クララ・エルギン。クララの出自が分かったのは外交官大使の息子マイケルと幼年学校が同じだったから。

 西家のクロエの火傷痕治療の件は、サンダー領のハリス先生へ手紙で問い合わせをしている。温泉と治療の件は、お父様へは私から手紙を送り、中央病院の院長へは、娘のニーヴから手紙を送ってもらっている。

 部活動は医療クラブに仲良し五人組で入ることにした。医療クラブは王家領組には教会の手前のせいか人気がない。聖女のライラも入りたそうだったが、教会のお手伝いに忙しく課外活動ができないのと寂しそうな表情をしていた。

 顧問に医科、薬科、看護科のいずれもできる三人の先生がいた。最初に習うのが錬金釜の使用方法で、顧問の一人サンダー領のベケット女史が担当してくれる。彼女は今年研究科を卒業して先生となったばかりで、年が近くて話しやすそう。

 現時点で医療クラブに入ったのは他の領地含めて九人、まだクラブを決めていない人たちも大勢いる中、私たちは決めるのが早かったらしい。

 先生と仲良し五人が錬金釜の前にいる。他の領の子たちは看護に興味あり、かつ銅の魔法が使えないからと参加しなかった。使えなくても参考になるのに、と思ったが、強制はしない。

「私も貴女あなたたちと同じ寄宿舎に住んでいるのよ。今日は顧問の先生の立場だけれど、私にとって貴女たちは無詠唱の先生なのよ。気付いていた?」

 私は覚えていない。大勢の生徒の中に少しお年を召した方が数人いたような気がするが、目の前のベケット先生がいたかと言われると記憶にない。

「はい、私が担当しました」

「ジュリアさんね、覚えていてくれたのね」

 救われた。ジュリアが担当してくれたのか。ならベケット先生も無詠唱で魔法を使えるはず。ここでは詠唱しなくて済みそうだ。私の場合、呪文は偽装で必要ではあるが。

「錬金釜の前では、魔力を操作するため、魔石や魔道具類のこの部屋への持ち込みは厳禁です。学院でも禁止なので今は持っていないでしょうが、錬金釜を使う場所はどこでも許されませんから、注意してくださいね。それだけ繊細な魔力操作が必要とも言えます」

 私も腕輪とネックレスを学院に来るときは侍女のラナーナに預けている。厳密に言うと装飾品は許されているが、私のネックレスは真珠でも聖珠化された状態でも色付きなので魔道具の一種と言えるし、そんな貴重なモノを身に着けているのが学院に知れると大事おおごとになるのは目に見えているので、今は装飾用の白の真珠のネックレスをしている。

「確認ですが、皆さんのネックレスに色付き真珠が付いていることはないですよね。錬金釜の前ではもちろん禁止ですけど」

 私を含め五人とも爵位持ち、まさか、あり得ないとは思ったのだろうが、念の為に訊いてきた。

「もちろん普通のものです。サンダー領の名産の白のパールです」

 そう言って私はネックレスの真珠が見えるようにした。

「私もそうです」

 他の四人もネックレスを見せた。先生は微笑んで、ふっと肩の力を抜いた。

「では、始めましょう。銅の魔法に適性がないとできないので、ある人は?」

 私とジュリアの二人が手を上げる。

「二人以外は見学していてね。見ることも役に立つから」

 アニー、マイア、ニーヴの三人が頷いた。

「滋養強壮剤、通称回復薬を作りますね。十回分一リットル作るのに二リットルの水を錬金釜に注いで、沸騰させてから薬草のイカリソウを入れ、弱火から中火にして錬金棒で魔力を込めながら回します。水分が半分くらいになれば完成です。錬金釜と錬金棒だと仕上がりが通常の鍋・釜で煮出す時間と比べると十分の一程度の速さで出来上がります。普通の鍋・釜だと魔力に耐えかねるものが多いですから、使用しないでくだいね」

 ベケット先生は五分ほど煮出してから火を止めた。錬金釜から透明なコップにすくう。それを透かしてみて、「問題ないわ」と言い味見をした。

「飲んでみなさい」一番近い私にコップを渡した。透明感のある褐色がかった黄色、琥珀色と言えばいいのか、その液体を飲んでみる。味は若干苦い、気のせいかカッと熱くなる。隣のアニーへ回す。全員が透かして色を見て味を確認した。

「どうです」

「無色ではなく琥珀色で味は若干苦く、飲むとカっと少し熱くなりました」

「そうですね、それがこの飲み薬、滋養強壮剤で魔力も少し回復しますので回復薬とも、初級ポーションとも俗に言います、この一リットルで十回分のポーションとなります」

「先生、中級、上級とはどう違うのですか」

 ジュリアが問う。

「原料と込める魔力の質です。中級の原料は主にオタネニンジン等で、上級はマカ等です。それに魔力の質も違います、ってこんなことはクラブレベルでなくてっよ。でもまあいいか、知っておいて損な事は一つもないしね」

「「「「「ありがとうございます」」」」」

「先生、このポーションは金の魔法、回復魔法と同じ効果と考えていいのですか」

 見ていたアニーが訊いた。

「そうです、初級者の行う初級のヒールと同じと言っていいです」

「なら金の魔法を使う要領で回復を意識しながら、作ってみればいいのでは」

 傍から見ていて思った事をそのまま口にするアニー。それは私も分かっていて試そうとしているのに。

「皆さんは金の魔法を使えるのですか?」

 ――アニー、まだ先生にはこの中の三人が金の魔法を使えることを言っていないのよ。

 町のおじさんのように片手拝みで謝るアニー。仕方がない。

「すみません先生、ご内聞にお願いします。後で誰が使えるか話します」

 先生がにっこり笑って頷いてくれた。

「では銅の魔法が使えるナナリーナさんジュリアさん、やってみて。回復魔法については、もしできるようだったら試してみて構わないわ」

 私とジュリアが別の釜でそれぞれがやってみる。

 先生に聞いたやり方とは少し違うが、水は、水魔法で偽装用に小声で呪文を唱えて出す。火は不要、錬金棒で火をイメージしてかき混ぜて沸騰させる。イカリソウを入れて、錬金棒で魔力を込めながら回す。味はフルーティな柑橘系がいいかなと考えながら金の回復魔法を薄く意識しながら行う。水分が半分になったので魔力を止めて、瓶に移す。

「完成しました」

「できました」

 ジュリアも火は使わないで作ったようで私に少し遅れてできた。

「あら、二人とも水魔法も火魔法も使えるのね、五分も経っていないのに、できるのが早過ぎるわ」

 先生はまず私の出来をコップに入れて確認する。

「透明感のある薄い黄色、問題なし。味は、うん、これは飲みやすいモノを作ったわね」

「柑橘系をイメージしました」

「悪くないわ。でも効果がちょっと高すぎるわ。回復魔法をこめたせいかしら、これは中級よ。魔力の込めすぎだけど、具合はどう? 何回も作らなきゃいけない場合、つらくなるけど大丈夫?」

 今の一回でだいたい十本分くらいある、百本ならあと十回。このくらいの魔力ならあと何十回でも平気なような気がする。

「全く問題ありません。あと十回でも二十回でも大丈夫です」

 先生は頷くと、

「ジュリアさんのものを確認しましょうね」

 と言って、ジュリアの作ったものを飲んだ。

「ジュリアさんのものは品質のよい初級よ。あなたも魔力は大丈夫?」

「平気です」

「さすがね、今年のサンダー領の子たちは優秀と思っていたけど、一回見せただけでマスターするとは、驚いたわ」

 できた薬品を初級と中級の透明のポーション瓶に詰め替えた。

「先生、試したいことがあるのですがよろしいですか?」

「なんですかナナリーナさん」

 私は錬金釜で実際にやってみてふと思った。私の銅の魔力を他の人に渡して、今行ったことをなぞれば、銅の適性のない人でも回復薬の生成ができるのではと。

「先生、普通は銅の魔法の適性がないと錬金釜で薬を作れないのですよね」

「そうです。適性のない人がいくら錬金棒で魔力を込めて回しても薬にはなりません。単なる煮出したもの、煮出し汁ができるだけです」

「もし、銅の魔法が使える私が、適性のない例えばアニーへ魔力を供給し彼女がその魔力で錬金棒を回せばできるってことはないですか?」

「それは、試したことはないですね。でも魔力の受け渡しってできるの?」

「はい、サンダー領の学舎で魔力を上手く使えない生徒に魔力の供給と吸引のお手伝をいたしました」

「でも魔力じゃなく、適性魔法よ、それも希少な銅の魔法でそんなことが出来るのかなあ」

「やってみたいです、先生」

 アニーの言葉に驚きながらもベケット先生は、

「なら、やってみましょうか」

 と許可してくれた。

 これが成功すれば、サンダー領の中央病院で、錬金釜のそばに私の銅の聖珠をおけば、魔力持ちなら誰もが薬を作れることになる。これができればとても役に立つ。

 アニーと一緒に錬金釜の前に立つ。

「アニー、錬金釜に水を出して」

「分かった。ウォーター」

 水が溜まった。

「魔力棒を回しながら火をイメージして沸騰させて」

「ヒート」

「次は薬草を入れて、私の銅の魔力を渡すから、それを手から出すイメージでかき混ぜて」

「分かった」

 私はアニーから出された右手を見て一瞬ハッとする。アニーは左利き、思わず左手を握り魔力を送ろうとしていた。四人に両手使いを教えたが、物にしたのはジュリアだけだった。できなかった他の三人は魔法自体の行使に最初のころ難があったせいなのかもしれない。

 アニーの右手を握り、薄く銅の魔力を意識して流す。

 アニーが魔力を込めて錬金棒を回す。五分程が経って回すのを止めた。

「できました。先生見てください」

 ベケット先生が少しすくってコップに入れる。

「琥珀色、問題ない。味は」

 コップに口を着けて飲む。

「全く問題のない良質な初級ポーションよ」

「やった」

 アニーが喜ぶ。続けてマイアを試そうとしていると、

「私たちでも同じ事ができるかなあ」

 と銅の魔法ができるジュリアがニーヴに話している。

「やってみよう」

 と別の釜で二組同時にやってみた。私とマイア組はできると思っていたが、ジュリアとニーヴ組も同じようにできていた。これには驚いた。てっきり魔力のやり取りは私にしかできないものと思っていた。ところが、ジュリアの魔力をニーヴが受取り自分の持っていない適性の銅の魔法を使ったのだ。ベケット先生も言葉が出ないようだ。

「あなた達は一体どうなっているの。それと、今のマイアさんとニーヴさんの作ったものは中級に匹敵するわ」

「「すみません、回復魔法を込めすぎました」」

「先生、公にするのは今しばらくお待ちいただけますか。私たち以外の人がこのやり方を、できてからにしてください、お願いします」

「分かったわ、私の方で色々試してみるわ。もちろん貴女たち以外で。それで何か法則があればその時に公にします」

「お願いします」

 できた薬品を中級の透明のポーション瓶に詰め替えた。

「でも利用価値からすると、錬金棒をずっと回し続けると疲れるから、代わりに他の人にやって貰うくらいしかないのかなあ」

 アニーが疑問を口にする。

「錬金釜のそばに銅の魔石か銅の真珠を置いて魔力を込めれば、銅の魔法に適性がなくても薬生成の魔法が扱えるようになるのでは?」

 ジュリアの発言は私と同じ発想のようだ。

「そうね、でも先に言っておくわ、魔石では試したことがあるの、だけどダメだったわ。それで思考が止まっちゃっていたわね。魔石だと威力が弱すぎたのかしら、銅の真珠ならひょっとしてできるかも、試してみる価値がありそうね。銅の真珠か……何とか調達してみるわ。でもありがとう、貴女たちといると色んな研究ができそうね。楽しみだわ」

「私たちもそう言っていただけると嬉しいです」

 私が代表して答えた。

 ガタン。ドアが開いて三人の女性が入って来た。

「ベケット先生、火傷です。手に熱湯がかかってしまいました。治療をお願いします。冷水はかけてあります」

 先頭にいたのは何らかの部の顧問の先生、後ろの二人は生徒、うち一人が左手の甲に火傷をしている。

「ここに座って」

 平机の前にケガした生徒を座らせる。

 薬品戸棚から茶色のポーション瓶を取り出して生徒の前に座る。

「机の上に火傷した手をのせて」

 左手の甲の親指側に丸く三センチほどがただれて真赤になっている。

「患部に麻酔薬をかけますね。最初だけピリッとしますが、後は痛くないですよ」

 先生が患部にポーションをかける。プツプツと泡が出てくる。

「少しの間、目を瞑っていてね」

 緊張しながらも頷く生徒。

 先生は根菜の皮をむくような器具を持っていた。ポーションを取り出す際に同時に隠して持ってきたようだ。患部に刃の部分を当ててすっと引いた、皮膚が剥ける。三度繰り返して、確認した後、表面のただれた箇所を少しずつ削ぎ、全てを削ぎ取った。次に私たちの誰かが作った金の魔法が込められた中級のポーションを患部にかけた。

「回復魔法をかけますよ。ヒール」

 患部が淡く金色に光っている。

「目を開けて患部を見ていいですよ」

「キレイ、光っているわ」

「回復魔法が効いています」

 光が消えると、今までただれていた皮膚が元に戻っていた。

「ありがとうございます」

「すぐ冷やして、すぐ処置できたからよかったのよ。もし時間が経ってケロイド状になっていたら無理だったわ。よかったわね」

 その後、三人は何度もベケット先生にお礼を言って帰って行った。

 三人は調理クラブの顧問と部員で、二人は王家領の五年生、ケガをした生徒と付き添いできた部長だった。先生同士顔見知りだったらしく、ケガをしたら頼むわね、とたまたま言っていたらしい。

「先生も金の回復魔法を使えるのですか」

 マイアが訊ねた。

「まさか、嘘でもヒールと唱えるとプラシーボ効果と言って患者さんの思い込みで怪我や病気がよくなる効き目があるのよ。貴女たちの作った中級ポーションに私の魔力を込めて高品質の中級としたのよ。さっきの火傷は浅くはなかったけれど、ただれた箇所をいで中級に普通の魔力を込めれば完治するわ」

「先生、プラシーボ効果は分かりました。ポーションと火傷との関係を詳しく教えてください」

 アニーが真剣な表情をする。

「分かったわ、これもクラブ活動レベルじゃないけれどね。最初に患部にかけたポーションは麻痺のポーションでマンドレイクから作ったものよ」

「麻酔の一種ですね」

 これはジュリアが応えた。

「そうよ、次に患部を削ったのはこれね。根菜のピーラーの人間版って言ったところね、薄く皮を剥ぐ道具。角質程度はもっと刃が浅いものが別にある。火傷やイボ、魚の目等を深めにぐためのものよ。教会も身体に傷を付ける行為でもこれくらいは美容の延長と、目くじら立てないわ。プラシーボ効果のヒールはいっとき問題になったらしいけど、実際に回復魔法を使っていないと分かると興味をなくしたそうよ」

 みんな頷く。もちろん頭の中にはクラスメイトの火傷痕のあるクロエがいる。

「回復薬は火傷には万能じゃないの。私が実際に治療した最大サイズが高品質の中級、今日と同じポーションで五センチ。見たことがあるのが十センチの火傷箇所を削いで上級ポーションで治療していたわ。聞いただけなら最大で下腕の外側全体で、二人がかりで表皮を全部剥いで、上級ポーションをまんべんなくかけて、二人同時で魔力を込めて治したらしいわ。ポーションと回復魔法の両方をかけた場合の相乗効果は、ごめんなさい、教会が独占していて、よく分からないの。多分初級ヒールで通常の魔力のワンランク上、中級ヒールで二ランク、上級で三ランク上の治療ができると思う」

「皮膚を削がないと無理なのでしょうか」

 私が訊く。

「火傷の状態が浅く表皮だけなら削ぐ必要はないけど、後でケロイド状になるくらい深ければ削がないと回復魔法系では無理ね。今日の火傷にそのまま上級ポーションをかけたら、あっという間にケロイド状になっていたはずよ。多分、ポーションじゃなく金の回復魔法をかけても結果は同じだと思う」

「「「「「……」」」」」五人の口から言葉が出ない。

「紫の復元魔法だったらって……ないものねだりね。もしあれば削がなくてもいいような気がするけれど、広範囲の複数部位の場合は疑問符が付くわ。以前本で読んだのだけど蘇生術って聞いたことある?」

「死んだ人を生き返らせる方法ですよね」

 アニーが答える。

「復元魔法で死んだ人を生き返らせる実験をしたんだって。心臓だけを一瞬動かすことはできたけど、すぐに止まる。理由は心臓以外がダメになっているかららしい。悪い部位Aに魔法をかけてもBがダメならNG、Aを治したと思ってBに移ってもその瞬間に治したと思ったAがダメとなる。継続性が必要で、Aに魔法をかけたままBにも魔法をかけてもCがダメならNG、鼬ごっこが続くようで、それに治療順序みたいなものがあって部位毎に順番に治していかないとダメじゃないかって、その治療順も不明みたいよ」

 みんな、沈黙したまま。理解が追い付かない。

 ――でも諦めない。絶対に火傷痕を治す手立てがあるはず。そう信じる。

 重い空気を破るかのようにベケット先生が声を張る。

「今後ともよろしくね。同じところに住んでいるから何かあったらいつでも声をかけてちょうだい。あそこの調剤室にも錬金釜が置いてあるわ。クラブ活動の延長がいつでもできるわよ。だけど注意してね、貴女たちはひよっこだから錬金釜を使う時は必ず私に声をかける事、いいわね」

「「「「「分かりました」」」」」

 クラブ活動が楽しみになった。


 その日の夜、寄宿舎の私の部屋に先生を招いた。ハリーお兄様にコケ脅し侯爵の息子として私の後ろで椅子に座ってもらっている。

「私とマイアそしてニーヴが金の回復魔法を使えます」

 正直に先生に話した。

「ポーションから予想していましたわ。誰にも話しません」

 と約束してくれた。

 サンダー領のハリス先生のこともご存じで、人体模型、聖珠の手術室も知っており、私たちが回復の手術室を使用していると話すと、だからみんな回復魔法に慣れているのね。今日の結果も納得よと言われた。今年のサンダー領からの新入生がニーヴを除いて全員が、基本四魔法が使え、それも学舎の魔力検査で魔力量が全員最大の点数で実技検査も全員基本四魔法とも四十点の能力があったのに、学院の検査ではわざと抑えた、と説明すると「無詠唱と言い、今年の新入生は優秀の限界を超えています」と呆れられた。「王都や他の領では話せませんね」先生はよくご存じだ。

「さらに私たちの秘密を知りたいですか?」

 と訊ねたら、先生はさらにびっくりした顔をした。ハリーお兄様が咳払いを一つする。

「今日の事でお腹一杯よ。もうこれ以上は無理」

 とやんわり拒否された。

 私とアニーの紫の魔法とニーヴの黒の闇魔法、そして私の固有の技能、魔力の受け渡し以外の秘密は保たれた。

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