十三話 セントラル大陸暦一五六二年 秋

 学舎二年目。魔法の授業が終わった後、私とマイア、そしてアニーに、おばあ様から特別に希少魔法の補講が行われた。場所は学舎じゃなく、侯爵邸なのは、他の生徒に配慮したから。

「三人とも基本魔法をマスターしたようなので『金の魔法』回復魔法を教えます。アニーちゃんは回復魔法を使えないけど知っておけば、『紫の魔法』復元魔法を使用する際に役に立つわ。私自身も回復魔法は使えるけど、復元魔法は使えないので概念だけの説明となるけど、我慢してね」

「分かりました」

「「お願いします」」

 私を含めて三人とも神妙な声で答えた。

「人間にはケガや病気をした際に、元々自然に治そうとする力が備わっているの。その治そうとする力を治癒力と言います。回復魔法はその人自身が持っている自然治癒力を高める効果があります。

 だけど万能じゃありません。例えば、欠損した部位を元に戻すことはできません。切断した部位も直後ならばうまくくっつき、見た目は治っているように見えても、その機能までは元通りに回復しているかと言われるとそうでない場合が多いようです。

 ケガや病気じゃない人で、生気のない人、落ち込んでいる人へも回復魔法は有効です。元気づける力もあります。その人の持っている気力を回復する力です。

 詠唱は、皆さん自分のイメージを膨らませて呪文だけで行った方がよいみたいですから、覚えなくてもいいので説明しませんが、どうしても必要になった場合はいつでも言ってください、その時は教えますね」

 私を含めて三人がうなずく。

「基本の呪文は『ヒール』です。元気づける呪文でもあります。骨折など損傷したことが分かる重大なケガや病気は『エクストラ・ヒール』です。闘いで、手首をなくした人に『エクストラ・ヒール』をかけたことがあります。切断面が皮膚で覆われただけで、切断された先の手指は失われたままでした。また指を切断した人で、指が残っていなければ、ないままですが、指が残っていたらそのままくっついた場合もありましたよ、先ほど話しましたが、切れた指が元通り使えた人と、くっついたけれど、機能は失われたままの人もいたようね。差異は経過した時間と術者の能力が大きいように思うわ」

「先生、タタカイって、いつのことですか」

「術者の能力の差はどうして生まれるのですか」

 マイアが、恐る恐るといった感じで訊くのと、私が差異を訊くのがほぼ重なった。

「二人の質問の先ずは、闘いのことから、二十年ほど前にこの大陸から恐竜を絶滅させたという話は聞いているかしら」

「知っています」

 私が代表して答えた。

「いなくなるもっと前、今からそうね、四十年ほど前のころかしら、王家からの大号令による恐竜撲滅の大きな闘いがあったの。それ以降は散発的でしかなくなっていったのよ。その最後の大規模作戦は国を挙げての闘いで、王家や諸侯の兵士と教会が協力して当たったわ。先ず教会が毒を撒いて恐竜を弱体化させてから進軍したはずだったのよ。しかし教会がそれをしたのは自分たちが担当する地域だけ。他の地域の恐竜はピンピンしていたわ」

「教会ってあてにならないですね」

 アニーが憤慨して言う。

「王都の教会は、ダメよ。全くよくないわ、サンダー領の教会は別よ。宗教自体が異なるから、教会同士のかかわりもないわ。あなたたちも将来王都に行っても向こうの教会にだけはかかわってはいけないわ」

 私たち三人は頭を縦にぶんぶん振った。

「私は金の魔法を使えるからと、サンダー領の兵士の回復役として後方支援員だったの。サンダー領の兵士は雷魔法を扱えるから強いのよ、最前線で闘っていたわ。一撃で倒せたのはおじいさんしかいなかったけど、うちの兵士たちは弓で恐竜の皮膚の薄いところに風魔法で威力の増した金属の矢を中て、その矢を目がけて銀の魔石の付いた雷魔剣からいっせいに雷魔法を放ち、倒していったのよ」

「兵士の皆さん、とても勇気があります」

「勇者のようです」

 アニーとマイアが感嘆している。

「他の領地や王家の兵士さんたちはどのように闘ったのですか」

 私は疑問をおばあ様に問うた。

「一般的には罠かおとりね。かかった獲物やうまく足止めした回りに土魔法で壁を作り、上から油を注ぎ、火魔法で焼き殺す、又は水魔法で溺れ死にさせる、または何人もが協力して風魔法で大岩を持ち上げ、恐竜を押しつぶすなどして闘ったわ。

 でもね、何人もの兵士が傷付き、亡くなったのよ」

 私はハッとした。他の二人も息をのんだのが分かる。

「私たちも努力したけど、ダメだった場合もある、つらいけど仕方がないとあきらめるしかなかった。あなたたちはこれから勉強しなさい。魔法の力は三人とも問題ないわ。質を高めなさい。質を高めるために人の体のことをよく知ること、それが大切よ。そうすれば多分あなたたちなら詠唱無しでも回復魔法が使えるはずです。それがナナの質問の答えでもある、術者の能力の差よ」

「胸に刻みます」

 私の返事に、マイアとアニーもうなずいた。

「最後に復元魔法の話をするわ。後方支援で私のお師匠さんも一緒にいたの。指を亡くした兵士へ魔法をかけて復元したのを見たわ。お師匠さんが言うには、時間が経っていなければ指までは復元可能、皮膚で覆われてしまっているものは不可能、手首から先全部や腕や脚が失われていても無理、残っていて、くっつけられれば回復魔法より速くきれいに治り機能も戻るそうよ」

 アニーの目が輝く。私もとてもうれしい、勉強を頑張ればすごいことができそうな気がした。

「呪文は『リストア』よ。三人とも体の勉強をして、実践は学舎内で誰かがケガしたら私が保健室に居るから連れてきなさい。その場でやってみればいいわ、何かあっても私が対応するから大丈夫よ。ただ外では禁止よ。動物実験もここでどんどんやりますよ。かわいそうなんて思わないでね、自分が治せると信念をもってやれば元に戻せるんだからね」


 こうして、私とマイアには金の魔法、回復魔法をおばあ様自らが手ほどきしてくれた。紫の魔法はおばあ様には使えないが、私とアニーを見守ってくれていた。

「金と紫の魔法は、上達してくると回復魔法は金、復元魔法は紫の光の粒子がとても綺麗に降ってくるわ、それが受けている方にも効果アップにつながるのだけれども、時には人に知られないように回復や復元の魔法をかけなくてはならない場合もでてくるわ。だから光の粒子を出さないで術をかけられるようにもしておきなさいよ。サンダー領以外では知られると厄介よ、特に王都では注意しなさいね」

 おばあ様の忠告に耳を傾けた。

 私たち三人は動物実験を侯爵邸で何回も、繰り返し行った。

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