九話 セントラル大陸暦一五六一年 秋 二/二
授業が始まった。
学舎の科目は「語学(読解・記述)」「算術(計算)」「暮らし(自然科学・社会)」「体育(武術・ダンス)」「魔法(理論・実践)」の五教科。
六十八人が二クラスに分かれた。私は一組、チャーリー、レオ、ジェイコブも同じ。紫の髪の女の子と金色の髪の女の子、それに銅の赤茶色の子たちがいた。最初のホームルームの自己紹介で紫の髪の女の子はアニー・ヒルと名乗った。なんと彼女は髪が五歳の魔力の発現のころより徐々に変わりだし元々の水色が最近になり、紫に変わったらしい。後でチャーリーがパール浜病院の院長の娘だよと教えてくれた。何となく見かけた記憶がある、その時は違う色の髪をしていたはず。
金色の髪の女の子と銅の魔法適性のある赤茶色の髪の男の子は魔石鉱山の郡都から来ていて、長官の娘と郡の軍団長の息子で二人は幼馴染だった。マイア・コックスとジェイミー・サリバンと名乗った。二人のいた町で、昨年鉱山事故が起きて犠牲者が出たと聞いた記憶がある。
赤茶色の髪をした生徒は他にもいるようだ。
銀色の髪は従弟のレオとジェイコブと染めている私だけで他にはいなかった。
「暮らし(自然科学・社会)」の授業。先生はネイサン・ケリーと名乗った三十過ぎの男性。
先生の話を、教科書を見ながら聞き、載っていない箇所は教科書の空白部分に記入する。この教科書は三年間使用し、卒業するときに新たに自分で書き写して、学舎に寄贈する習わしだ。卒業生にとっては復習となり、後輩はその教科書を使って学べる。それをずっと繰り返している。私の教科書はハリーお兄様が作ってくれたものだった。斟酌してくれたよう。
「この世界は、五大陸からなる。ここセントラル王国のあるセントラル大陸を中心に、北にノース大陸、南にサウス大陸、東にイースト大陸、西にウエスト大陸がある。それと驚くな、この地は平面ではなく、球体だぞ。何年か前にウエスト大陸の船が遭難してサンダー領に流れ着いた。彼らから献上されたもので地球儀と呼ぶことにした」
教師は、地球儀なるものをみんなに見せて説明した。みんなは玉のように丸いわけない、嘘だろうと言っているが、私は兄に教わっているから平然としている。
また別の日の「暮らし(自然科学・社会)」の授業。
「セントラル大陸にはセントラル王国のみがあり、他の国は存在しない。セントラル大陸と海を隔てた他の四大陸との間に交流がない。それには理由がある。分かるか?」
教師が生徒たちを見渡す。
「嵐があるから、船が遭難したり、沈没したりするから」
背の高い赤茶色の髪をした確かジュリアといった女の子が答えた。
「それもある。他にも訳がある」
教師は一旦そこで言葉を切った。
「海には恐竜がいるからだ。出てきたら怖いぞ、モササウルスって知っているか」
「知っているよ、最強王者と言われている」
ジェイコブが得意げに答えた。
「パール浜の子か、そう、あいつらは強い。海の王者だ。大きな船でもやられてしまう。各大陸間に交流がない大きな理由だ。大陸間の船の航路自体がない中、交易品を積んで嵐にも遭わず、異なる大陸に着いても無事に、やつらにやられずセントラルに戻れる保障がない」
生徒たちは恐竜という言葉に恐れをなしたのか静まったままだ。
「他の大陸はどうかというと、先般のウエスト大陸からの漂着者から聞くと恐竜はかの大陸にもいるらしい。潮の流れの関係だと思われるが、嵐等で流れ着く人が多いのはこの国からだ。セントラルから漂流する人はウエスト大陸にいないと聞くから、セントラル大陸からは多分東のイースト大陸に流れていくと思われる。逆にウエスト大陸にはイースト大陸からの漂着者がいるという。
他の大陸も国があって恐竜がいるようだが、漂着した人から聞いたり、漂流物から判断したりしているが、詳細は不明だ」
情報に誤りがあることもあり、古いものもあるらしい。
「恐竜はな、最近までセントラル大陸にもいたんだぞ。ご先祖様たちが苦労して闘って北に追いやってついに、二十年ほど前に最後の一頭を滅ぼしたんだ。
先ほど話した海の王者モササウルス、そんなやつらが陸にもいたんだぞ、空からも襲ってきたぞ、ケツァルコアトルス、プテラノドンってやつらだ、ご先祖様は大変な思いをしたと思う。魔法使い、正式名で言うと魔術師なんだが、彼らでないと恐竜とは太刀打ちできない。だから、お前たちも、もしもの事を想定して、術を磨くんだぞ。そして魔術師の試験を受けて合格を目指せよ。サンダー領の魔術師試験は厳しいぞ、その代わりこの国一番の価値がある」
――いつも恐竜に怯えながら生活をし、恐竜と闘う怖さを思うと、脅威がなくなり、もしもの事態に備えるだけでよい今を生きている私たちはそれだけでも幸せ。
先生は王国と侯爵領の事も説明してくれた。
「セントラル王国は、王都『セントラルシティ』にいる王家、東西南北各一家ずつある四公爵家と十三の侯爵家がある。ここサンダー侯爵領は領都『シルバスタニア』と十の郡からなっている。侯爵領の全ての爵位の任命権は侯爵様にある、王家にはなく報告だけでいい。サンダー侯爵領では世襲は侯爵様だけで、それ以外は全て能力に応じてサンダー侯爵様が選ぶ。王家領の爵位は、今は世襲だ。もちろん、功績により新たに爵位を与えられる事もあるし、罪を犯せば、はく奪されることもある。滅多にないがね。他の領地では北家と東家が世襲で、その周辺の侯爵領も世襲が多い、西家とサンダー侯爵領の隣の南家とその周辺の侯爵家は世襲じゃない。実力主義だ、役に立つ人間が正当に評価される」
となると私も将来は、爵位のないただの平民となる可能性もあるし、逆に平民が爵位を持つこともあり得る、とふと思った。
授業が終わり、家に帰ってもそのことが気になって頭から離れない。
子供のころから侯爵の娘として、本をはじめ、教育を人並み以上に施された。私に何ができるのだろう。領民の為に役に立つ人間。確かに、私の聖珠は、みんなの役に立った。よくやった、ありがとう、と言われても自分のなしえた実感が伴っていなかったので恥ずかしかったが、でも嬉しかった。
私自身が嬉しかった時、ありがとうって言った時はどうだろうか?
アヴァちゃんがケガをして治してもらった時、嬉しかった。治してくれた先生に、心からありがとう、と今でも思う。あの先生も私にありがとうと言ってくれた。それは私が役に立ったと思ったから。
……そうだ、私は強く思う。
――人から「ありがとう」と言われるような人間になりたい。それも、「ありがとう」と言われて自分がちょっと恥ずかしくなるような思いをしなくてよい、私が行った実績、成果に対して「ありがとう」と言われたい。
そのための努力は惜しまない。
明日が見えてきたように思えた。
その晩私は、とてもよく眠れた。
翌日、私はお父様とお母様に決意表明した。
「領都の人たちのお役に立ちたい、ありがとうと言われる人になりたい。お手伝いできることがあったらしたい。そのために学ぶことがあったら、是非参加させてください」
お父様とお母様も顔をほころばせてくれた。
「体育(武術・ダンス)」の授業。
男女別に行う。男子は武術とダンスを習うが武術が中心で、女子はダンスとマナーが基本で護身術が加わる。
「皆さん、ダーシー・スコットです。今日はダンスとマナーの基礎中の基礎、歩き方を学んでもらいます。普通にできるわ、歩いているじゃない、と思っている皆さん、では、実際に歩いてもらいましょうか」
スコット先生が、出席順に並んでいる向かって左端、つまりこの中で一番早く生まれた生徒を指名した。彼女は温泉施設の開発に尽力し男爵位に最近叙爵したばかりのデイビス商会の代表の娘ジュリアという名前だったはず。彼女の髪は赤茶色、銅の魔法という希少魔法に適性があるようだ。
「はい」
まっすぐ歩くのだが、緊張しているのか、ぎこちない。
「ありがとう、もういいですよ。皆さん、どう思いましたか」
「ガチガチで変な歩き」
誰かが言う。
「ちょっと緊張しちゃったね」
先生がジュリアに笑いながらなだめた。
「先ずは見本をお見せしましょうね。ナナリーナさん歩いてくださらない」
私ですか、スコット先生。あまり目立ちたくはないのに、仕方ない。
「かしこまりました」
十メートルほど歩いて、ユーターンして元に戻る。小さいころから侍女のラナーナに鍛えられている。
「素敵」
おや、どなたかがお世辞を?
「ありがとう、美しい歩き方ですね。みなさん、ナナリーナさんの歩き方、どこが良かったと思いますか」
「歩幅が、良かったです、肩幅程度でしょうか」
「目線が足元ではなかったです」
「まっすぐ前、ちょっと上を向いていました」
「顎が引かれていました」
「微笑みを浮かべていました」
「堂々としていました」
みんながそれぞれ気付いた点を挙げた。しかし最後の堂々というのは如何なものかしら。
「まず姿勢です。皆さん姿勢を正して」
一斉に立ったまま三十四人が横一列となります。
先生が一人一人をチェックする。
「胸を張り過ぎ」
「お尻が出さないで」
「お腹をひっこめなさい」
「猫背です」
「腰が反っています」
注意されない方が少なかったようだ。私はもちろん問題なし、先生は笑顔で素通り。
「みなさん、無理に姿勢を良くしようと一所懸命背筋を伸ばし、お尻を突き出して腰が反っています。いわゆる『突き出し反り腰さん』姿勢になっている方が多いようです。自然にしなさい。天から糸につられている感じです。リラックスして、おへその下を意識してお尻を若干落とす感覚です」
先生が、再度チェックして出来ていない生徒を一歩後ろへ下げた。
「後ろに下がった生徒は、壁際に行って、そして壁に後頭部・肩甲骨・お尻・ふくらはぎ・かかとの五点をつけてみなさい」
ふらつく生徒。
「はいはい、しっかりと立って」
きれいな姿勢になった。
「そのままの姿勢をキープして半歩前に」
壁を背にした生徒が半歩前にでた。
「これがまっすぐな姿勢です。覚えて。分からなければもう一度、壁に後頭部・肩甲骨・お尻・ふくらはぎ・かかとの五点をつけて。はい、半歩前」
何人かが戻ってまた半歩出た。
「そうです、いい姿勢ですよ」
ダメだしされて残っていた生徒が合格点をもらった。
よい姿勢を保つためにはトレーニングも必要だと、私たちは先生に姿勢体操を習った。
「四つん這いになって、息を吐きながら背中を思いっ切り曲げて、続けて息を吸いながら、思いっ切り反って。立ったままの場合は、両手を後ろで組んで、息を吸って肩甲骨を近づけて、そのまま上げられる高さまで上げる。息を吐きながら手を前に押し出すようにして、背中を丸める。どちらでもいいので、これを十回、毎日三回行うように」
歩き方も同じように学んだ。
「胸から歩く、はい、そこ、腕を後ろに大きく振って、前じゃない、大きく振るのは後ろだけよ、そこは歩幅が小さい、肩幅くらいよ」
特訓は続く。
「魔法(理論・実践)」の授業。基本四魔法の水魔法、風魔法、火魔法、土魔法を習う。
私の身に着けているネックレスは魔法の授業中は、影響があるかもしれないからと副学舎長のおばあ様に預けてある。
講義が始まった。
「ここにいる全員が基本四魔法の適性がある。侯爵から聞いた通り、君たちは本当に幸運な年に生まれたんだぞ。今までじゃあり得ないことだ。四種類揃うのが稀で、一、二種類だけっていうのが普通だったからな。あとな、金、銀、銅、紫の希少魔法、これは良く分かっていない。その色の真珠を生まれてから五歳まで着けていても、胎内夢との関係とか色々いわれているが、滅多に適性が与えられない。その点今年は希少魔法も金、銀、銅、紫と全色揃っているとは本当に珍しい」
先生はみんなを見渡し、頷いた後、続ける。
「魔法は十一歳からと親から言われていると思うが、ここでは魔術師の資格を持った私たち教師がいるから、誕生日が未だで十歳でもきちんと教われば問題ない。十一歳とはあくまで目安だ。ただし、魔法を使い過ぎて魔力切れを起こすと、身体がまだできていない体力のない子だと死亡することもあるぞ。まあ十歳も過ぎれば魔力切れでも死ぬことはないが、それでも魔法は制御が難しいから君たちはまだ一人では絶対に使っちゃだめだぞ」
生半可で使ってしまうと危険だから物の善悪が判断できる年齢、体力的にも精神的にも十一歳くらいから教えた方がいいということなのだろう、と私は理解した。実際私は幼い時点で偶然魔法を発動したようだが身体的に全く問題が出ていない。ただ幼いころの魔力切れは怖いものがある。私はそうならなくて本当に良かった。
最初は座学で私が読んだ『魔法の基本』と似通ったものだった。詠唱と呪文も私には関係がなかったが真面目な態度で教わる。
「基本は詠唱と呪文で魔法が発動する。詠唱とは各魔法の神様または女神様に対して、使用したい『これこれ』の魔法を使わせてください、お願いします、と了承を得るためのもので、内容は各地域で異なる場合があり、さらには各家庭でも違う方言というべきものもある。その内容が神様、女神様に認められれば呪文とセットで問題なく発動する。呪文はだいたい決まっている。古代から延々と続く魔法言語と呼ばれるもので、今では普通の言葉として使っているものもある。水なら代表的な魔法の単語はウォーターで、火ならファイアーが代表だ。魔法研究を突き詰めるとオリジナルな魔法の言葉を生み出し、新しい魔法を作ることも可能だ。まあ最近はあまり聞かないがな」
と解説してくれた。
実践となり、私は全て無詠唱で出来るが、偽装のため呪文を唱えた。みんなは先生が教えた長ったらしい詠唱をして最後に呪文を唱えて発動していた。私は利き手とは逆の右手の手のひらからほんの少ししか出さないようにして威力も抑えた。
私が愛読した『水の一生』『植物の一生』『山と森と里の一年』『お天気の話』をみんなも読んで、勉強し、モノの本質を理解すれば、詠唱が省略できるのではと思えた。
帰ってからお母様に話してみた。
「基本魔法の水、火、風、土は、その本質を理解すれば私のように魔法の詠唱が省略できるのではないでしょうか?」
「どういうこと?」
逆に訊かれた。
「子供のころからご本を読んで私は水の成り立ちを知っていました。魔法を発動する際のイメージがそのおかげで明確にもてました」
「だから無詠唱で魔法が使えた、ということね」
「はいそうです」
「分かったわ。そのやり方を、全員に教えてあげてね」
お母様のこの笑顔は、絶対にやりなさいね、という意味だ。
先ずはチャーリー、レオ、ジェイコブの我が家の居候に教えてみることにする。
三人に声をかけて、いつもの訓練場に一緒にやってきた。
「三人とも、魔法を発動する際に長ったらしい詠唱をしているけど、いざという時、間に合わなくていいの」
「だって、仕方がないだろう、魔法ってそんなもんだからさ」
「違う、違う。ジェイコブ、みんながそうだからって自分も同じでいいの。もっと意欲をもって」
「じゃ、何すりゃいいんだよ」
「短縮詠唱か」
レオはジェイコブと違って冷静だ。
「そうよ、短縮詠唱もしくは詠唱省略にはどうすればいいと思う」
「イメージが大切だって聞いているよ」
「チャーリー、イメージだけじゃダメなのよ。本質が分かっていないとダメなの。みんな、水ってどうやってできるか知っている?」
「海の水? 川から流れてくる水?」
「雨だ、雨」
「そう、水はね、雨が降って、川になり、海に流れていき、日光に温められて水蒸気になり、雲となって、陸地に風に乗ってやってきてまた雨を降らせるの。さらに海に流れていくだけではなく、地面にしみこみ、地下水となり、井戸から私たちの飲料水となるのよ」
「それが水の本質か」
「そう、それが水の一生よ、そのことが詳しくこの本に書いてある」
ジェイコブが私から取り上げ、広げて挿絵のページを熱心に見ると、レオにその本を渡す。
一心に念じている。
「ウォーター」
少し念ずる時間がかかったが水魔法が発動した。右手から溢れる水。しばらくして水が止まった。
「やったわね。後は練習あるのみよ。今のイメージよ」
「分かった」
今度は右手の手のひらを広げてグイっと出す。
「ウォーター」
あっという間に発動し手から水が溢れた。この子は天才?
「コツをつかんだ。挿し絵のイメージを頭に浮かべ呪文を唱えたら、うまくいった」
「ありがとう、ナナネエ」
ナナ姉様が、いつの間にかこの子は呼び方をナナネエに変更している。
「どういたしまして、ジェイコブ様、お役に立てて幸いです」
私はきっちりジェイコブの瞳に目を向けて小首を傾げて微笑む。
ジェイコブは視線をプイっと外した。
チャーリーとレオはその日、詠唱省略を行わなかった。
「先ずは本を読んで勉強してから」
ジェイコブと違い二人は理論派のようだ。
夕飯の際にジェイコブが自慢げに言った。
「僕だけ、詠唱なしの呪文だけで魔法を発動させたんだ」
「明日なれば僕だってできるさ、やらなかっただけ」
チャーリーは悔しさを堪えているようだが、レオは平静を保っていた。
しかし、一番反応したのはノアお兄様だった。鋭い眼を私に一瞬向けた。
翌日訓練場には、三人の従弟の他にノアお兄様もいた。
「三人のオブザーバーだよ」
二人とも無事詠唱なしの呪文だけで水魔法を発動させた。コツは二人とも挿画を頭に浮かべて「ウォーター」と唱えていたようだ。
「ナナ姉様、ありがとう」
「ありがとうございます。ナナリーナ姉様」
「お二方とも上手にできたようで、ナナはとてもうれしいです」
「サンニントモヨクデキタネ」
ノアお兄様の声が固い。
その晩、私の部屋にノアお兄様を招き入れたのは、当然の成り行き。詠唱省略のやり方を抜かりなくきちんと説明させられた。
風魔法、火魔法、土魔法も同じようにイメージしやすい挿絵を三人に選んでもらった。彼らはそれらの絵を目に焼き付けるように集中して見た後、詠唱なしの呪文だけでも発動が可能になった。ジェイコブはいずれも本を精読せず飛ばし読みして絵を重点的に見て行っていたが、チャーリーとレオは本をじっくりと読んでから挿画を見て、脳裏に思い浮かべて発動させていたようだ。
後日、ノアお兄様に訓練場に呼ばれた。
「確認してね」
基本四魔法、詠唱省略呪文だけの発動をしっかりとマスターしていた。従弟たちとは威力と発動速度が優っている。二歳の差は大きい。
「ナナ、早速ハリーお兄様にも連絡しておこうね」
ノアお兄様の言葉に、ハリーお兄様への伝授をくれぐれもお願いしたのは言うまでもない。
お母様に全員が習得したことを報告すると、魔法の教師を領主館に呼んだ。
私は彼らに三人の従弟たちが詠唱なしの呪文だけでできるようになるまでを説明した。
「これが実際に使用した本です」
『水の一生』などの本を提示した。
お母様は、
「これらを基に、生徒たちが詠唱省略できるよう水・風・火・土の仕組みが分かりやすく分かる挿し絵付き冊子を人数分用意するように」
と指示をだした。
先ずは自分たちからと四人の魔法教師は、お屋敷の訓練場で私がジェイコブに示した方法をその通りなぞると、すぐに最も適性のある魔法の詠唱省略の呪文だけでの発動を習得した。うちの教師たちはとても優秀だ。
先生方が教本用の冊子と挿し絵作りを始めたのはいいが、どうして私も手伝わされているのだろう。優秀な教師のはずなのに。
学校ではいまだに女の子の友達ができない。チャーリー、レオ、ジェイコブが始終周りにいるせいだろう。
早く女の子のお友達が欲しい。
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