二話 セントラル大陸暦一五五六年
「新年だ、おめでとう、今年も良い年にしよう、乾杯」
お父様が一段高い台から力強く宣言しました。家族みんなが並んでいます。ここサンダー侯爵領都『シルバスタニア』の領主館の大広間には大勢の人が晴れやかな表情で集っています。
「おめでとう」
あちこちから新年を祝う声がします。
「兄上、今年もよろしく」
ジャック叔父様です。
「「よろしくお願いします」」
アイラ叔母様と従弟のチャーリー。彼はわたしと同じ年の十二月生まれ。叔母様の腕には去年生まれた赤ちゃんの従妹のアヴァちゃんが抱かれています。
チャーリーがチラチラわたしたちの方を見るのは、早く一緒に遊びたいからだろうなあと分かります。でもみんなの挨拶を受けないといけないから、もうちょっと待ってね。
挨拶も途切れるようになったので、わたしたち兄弟は給仕たちが皿によそってくれた食事をとります。
チャーリーがとことこ寄ってきました。
「ナナ姉様、飽きたよ~。早く~」
わたしより五か月遅く生まれたせいか、チャーリーはわたしのことを姉様と呼びます。赤ちゃんのアヴァちゃんが大きくなったらそう呼ばれたいのに、どうしてチャーリー、あなたがそう呼ぶのかしら。
――解せません。そう心の中で思っても柔らかな口調と表情は淑女らしくします。
「チャーリー、何が早くなのかしら」
「早く一緒に遊ぼうよ、ってことじゃないかなあ」
ノアお兄様がリンゴジュースを手にし、にこやかな顔を傾けています。
「早く行こうよ、行こうよ」
「仕方がないなあ」
ハリーお兄様も笑いながら、お父様のところに向かいます。了解を得に行ったのでしょう。
わたしたち兄弟妹三人とチャーリー、それに他に挨拶に来た親戚の子供たちと合わせて八人はわたしたちがいつも遊ぶ子供部屋に移動しました。
――何故チャーリーはわたしと手をつないでいるのかしら。
「これならみんなで遊べるぞ」
ハリーお兄様が持ってきたのは福笑いという遊び道具。
福福しい中年女性の輪郭と頬紅だけが描かれている顔の絵に髪の毛、眉、目、鼻、口、耳のパーツを、目隠しをして正しく置いて楽しむ遊びです。
「一番優秀な顔を整えた人には褒美として、お年玉を上げるよ、審判は私が行う、文句を言うでないぞ」
結構お茶目な顔をしてハリーお兄様らしくなく、お話しています。どうしてでしょう? 一緒に来た子供たちは、お兄様と同じ今年十歳になる四人で、髪の毛と同色のグリーンとピンクのワンピースを着た二人女の子が混ざっています。「ソフィアです」と「エミリーよ」と名乗りました。男の子はジャスパーとアーロンというそうです。
「僕がやる」
真っ先に手を挙げたのは従弟のチャーリー。黒い布で目隠しされて顔のパーツを置いていきます。途中、思わず吹き出してしまうピンクのお姉様。チャーリーが完成させると「五十点」の採点でした。口をとがらせて情けない顔でわたしを見ないでチャーリー。
何人か行った中で、最高得点はグリーンのお姉様の八十点でした。ピンクのお姉様は二つの目と二つの耳が離れすぎて、かつ上下も狂っていてすべてがアンバランス、チャーリー以下に見えましたが、ハリーお兄様の採点は「五十点」お気遣いしているようにお見受けしました。
わたしとノアお兄様が最後となり、先にノアお兄様がチャレンジ、さすがのホーム、地元の利を生かして先ず先ずの出来です。得点は「八十点」グリーンのお姉様より良かったと思いますが……ハリーお兄様ったら、先ほどから女性の方に甘いのでは……。
最後にわたしの順番なのですが、兄妹続けて高得点になるのは、もてなす側としてはいかがなものかしら? わたしはもう一枚ある福笑いの男性が面白い顔のものを用意してもらいました。女性版の髪の毛のパーツは、男性版ではハチマキです、描かれているのも輪郭と髭。
「チャーリー二回戦よ」
わたしは、一回戦をパスさせていただきました。
二回戦でチャーリーは七十点。
「良くやりましたわ」
「でも……一位じゃない」
「七十点なら上出来です」
わたしはチャーリーの頭を撫でて差し上げました。チャーリーはわたしより小柄なようです。撫でるのに支障がありません。チャーリーは満足顔です。
お姉様方がユルーイ目でこちらを見ています。
――気にしません。
最後は、わたしにと、ノアお兄様が譲ってくれます。
黒い布で目隠しをされました。周りが見えません。目を開けても見えません。
最初のパーツ『ハチマキ』を渡されました。置かれている紙に手を触れます。
――えっ、どういう事でしょうか? 福笑いの輪郭と髭が見えています。
思わず紙から手を外すと、見えなくなります。その手を頭にやると目隠しの布は、ちゃんとあります。もう一度紙に手を置きます。すると輪郭と髭が見えます。目隠しの中の目は開いています。目を瞑ると見えなくなります。
目隠しされても見える状態の、目を開けたままでは卑怯だわ。ここは閉じてやるのが正しいのでしょう。
ハチマキのパーツを置きます。耳、眉を置き、目を置くと気配が変わります。思わず目隠しの下の目を開けてしまいます。眉と離れた位置に目のパーツを置いています。でもこのまま続けます。
わたしは再度目を閉じ最後まで目を開けないまま終わらせました。
得点は「七十点」でした。
――今まで家族で行った時も見えていたのでしょうか? 不思議です。今度お母様に聞いてみましょう。
その後で試して分かった事があります。
目を布で隠さずとも、目を開けた状態で、モノを透視できるようです。何枚もの紙に数字を書き、裏返した状態で、直接触れて、見たいと願えば、書かれた数字が見えるようです。これをどう生かせるのかは、まだわたしには分かりません。
「みんなに明かしてはダメよ、内緒にしなさいね」
お正月の行事が終わってから、お母様に訊くと、そう言われました。
秘密の多い女性って、素敵かしら。
冬から春へ、そしてその年の夏。
去年の五歳の誕生日の翌日に着けていただいた真珠のネックレスは、透明化がすすみ聖珠化しています。八月に新たな八連の色付き真珠のものにしていただきました。真珠の産地パール浜から献上されたもののようです。
お父様とお母様との三人で我が家の氏神様の祀ってある部屋で色の付いたまま透明となり聖珠化された八連のネックレスを奉納しました。
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