ステラ、土を練る

 最後に、昨日みんなで土人形を作った作業場へ戻ると、ふたりは作業台の前に立った。


「今日からしばらくは土練りよ」

 そういって、エコーは大きな粘土のかたまりを乗せ、実演してみせる。


 まずは、粘土を伸ばして折りたたむだけのあら練り。これは簡単なのでステラもすぐにできるようになった。


「次はちょっと難しいから、よく見ててね」


 続いてエコーが披露ひろうしたのは、何とも説明しづらい動き。

 塊を引っぱり起こしながら回し、作業台に押しつける……とでもいおうか。


「え? え? もう一回」


「うふふ。回す向きはこっちで、押し込む向きはこうよ。軸を意識してやってみて」


 いわれるまま見よう見まねでやってみたものの。

 エコーがやると安定しているのに、ステラの粘土はどうしてもいびつになって、どんどん手の中から逃げていく。


「あれ、あれ? あれぇ?」


 すかさずエコーがアドバイス。


「両手で押してるように見えるけど、こっち側の手は回すだけ。添える気持ちでね。

 手の大きさや癖は人によってちがうから、形だけをまねしてもダメ。

 主役はあくまで粘土なの」


 粘土には水分が含まれている。その水分にかたよりがあると、焼成したときにもろくなりやすい。また、粘土自体も何種類かの土を混ぜ合わせる場合がある。

 土練りの目的は、かたよった水分や土を均一にすることなのだ。





 ステラの進捗しんちょくを見がてら、エコーも手すさびに粘土をこねた。

 横で誰かが練っていると自分もやりたくなるのは、職人の習い性だろう。


 コツさえつかめば簡単な作業だ。しかし、一日で覚える者もいれば、何年かかってもできない者もいる。

 理屈を先に入れたほうがいい者もいるし、具体的な作業から教えたほうがいい者もいる。


(わたしの説明は、ステラに合っているのかしら)


 だが、迷っていてもしょうがない。

 くわしく伝えようとしてことばを重ねれば重ねるほど、相手にとっては理解しづらくなる。それに、もともとエコーは要点を簡潔にまとめたい性分だ。

 ステラは体で覚えたほうが早いタイプだろうと当たりをつけて、ひとことだけつけ加えた。


「うまくできたら、粘土の中の空気が抜けて、音がすることもあるわ。『ぷつ、ぷつ』って」


「ぷつ、ぷつ」


「……自分でいっても意味ないから」

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