アレクトー工房の憂鬱

 続いて、


かま…………は、初日にいやというほど見たわよね」


「あはは」


 あらためて見ても巨大なシロモノ、まるで部屋の中にもうひとつ部屋があるようだ。この中で生活できそうだし、実際エコーとステラの部屋よりも大きいのではないか。


「山から採ってきた粘土をこねて、成型したら、窯で焼きます。

 その、窯で焼く作業のことを焼成しょうせいというの。

 ちなみに、パンを焼くことも焼成(bakeベイク)っていうのよ」


「へえぇー、パン……」


「一応いっておくけど粘土も食べられませんからね。


 ――――そうやってできた煉瓦れんがを、モルタルで隙間すきまを埋めながら積んで、人の形にするんだけど……」

 ここでなぜかエコーはいいよどんだ。


「……『うちのおもな業務はゴーレムの修理』っていったでしょう。


 アレクトー工房では、ゴーレムを造っていないの。正確にいうと、造っても売る先がないのよ」





 アレクトー工房がゴーレムを製造していない――――できない理由は、ふたつある。


 ひとつは市場の飽和。


 操術士の育成にコストがかかる軍用ゴーレムを、国王は保持していなかった。

 民間におけるゴーレムの利用は、主として農地の耕耘こううん、港湾での荷役にやく、大規模な土木工事などだが、小国のノンシャランではあまり需要がない。

 わずかな導入例も、すでに他国のゴーレムで占められていた。


 もうひとつは、工房としての地力じりき


 アレクトー工房の職人は若い女性ばかりだ。

 技術と経験の面では、未熟ながら可能ではある。だが、いちばんの難点は信頼にあった。


 信頼――――――つまり、実績がない。


 実績がないから売れない。売れないから造れない。造れないから実績を挙げることができない。

 工房は、この悪循環からなかなか抜け出せずにいるのだった。





「…………」

 理解したのかしていないのか、ポカンと口をあけているステラに、エコーはいった。


「でもね。いつか、遠くない将来に、造りたいと思ってるの。

 アレクトー工房のゴーレムは那国ナフリス製に負けないって、国中のお客さまから買ってもらえるようなゴーレムを」


『望んでいたのとは別のものを造る』と知らされたばかりのステラに、『それすらも造るあてがない』と告げたのは失策だっただろうか。

 けれど、黙っていてもいずれわかることだ。アレクトー工房は職人をだまして働かせるようなところではないのだ。


「そっかぁ……」

 気落ちするかと思ったが、ステラはこぶしを振り上げた。

「じゃあ、エーコさんのために、わたしがここで最初のゴーレムを造っちゃいます!」


「気持ちはうれしいけど」

 困り笑顔で告げるエコー。

「工房で使っているゴーレムのうち三体はここで造った試作品なの。

 ……だから一番乗りには間に合わなかったかな。残念だけど」


「えええぇぇ……(><)」


「でも、そのときはがんばってもらうわよ。期待してるわね」

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