第三章 ステラ、土を練る

作業着、お披露目

 にぎやかな人形作り大会も明けて、研修二日目の朝。


「ほー」

「似合ってる似合ってる」

「なんとかにも衣装、ですわね」


 朝食の席で注目を集めているのは、作業着姿のステラ。


「フローラさんに手伝ってもらったんです」

 少し照れながらくるりと回った。


 アレクトー工房の作業着は、七分袖しちぶそでのチューニックと足首までのレギンス。

 袖口はひもを引っぱって締める。巻き込み事故にはくれぐれもご注意いただきたい。


 足もとはブーツ。夏はサンダルでもいい。

 いずれも落下物に備えて、革を重ね貼りしてある。


 かまいているときは、スポーツブラにスパッツ(建物全体に熱がこもるのは、明らかに設計ミスだろう)。

 番に当たる者は、火の粉防止にフード付きのスモックを上から羽織る。革手袋も着用する。


 オプションでベルトを巻き、腰袋を下げる者もいる。

 こてを差したり小物を入れたり、何かと便利なのだ。





 朝食が済むと、職人たちハンズはガイアの前に整列した。

 出張明けのサニー、クラウディア、ルーンは休みだ。食事にはくるが、朝礼には出席しない。


「スノーホワイトとフローラ、土中窯どちゅうかま焼塊クリンカーを選別します」

「エコー、引き続きステラの研修です」


 ガイアはうなずいた。


「今日あすにはテンペストたちも帰ってくるだろう。

 焼成も終わって、しばらくは忙しくないが、事故には気をつけるように。

 以上」





「ぼさっとしてたら置いていきますわよ」「ユキちゃーん、待ってぇー」とほほえましいやり取りを背景雑音に、エコーもステラに号令をかける。

「わたしたちもいくわよ」


 さて、棟を出てふたりがやってきたのは、屋根だけの四阿あずまや。地面にはふたりの身長よりも大きな段差があり、その高いほうに建てられている。

 エコーが示したのは天井でも柱でもなく、床だった。


「これは、土中窯どちゅうかま


 ステラの目には地面に空いた大きな丸い穴にしか見えないが、重要なものらしい。

 中にはこぶし大の石がいっぱい詰まっていた。


「『山で石灰石が採れる』っていったの、覚えてる?」


「う……う? はい」

 なんだその間は。

 しかし覚えていないのも織り込み済みで、エコーは話を続ける。


「それを砕いて、ほかの材料と混ぜてこの中で焼くの。

 東方では塩を入れるそうよ」


「お塩? …………食べるの?」


「おなかこわすわよ。こっちでは火山灰を入れるし。


 ――――これはセメントといって、モルタルの材料になります。モルタルは、そうね……うちでは目地めじ材といえばいいかしら」


「めじざい?」


「簡単にいうと、隙間を埋める材料ね。使うときは砂と混ぜるの」





 そこへ、スノーホワイトとフローラが、ゴーレムを従えてやってきた。

 煉瓦れんがという素材、二メートルという巨体、一歩ごとに地響きを立てそうなイメージだが、足音は思いのほか小さい。

 これはボディバランスやアラインメントとSHMシェム・ハ・メフォラシュが精妙に合致すればこそだが、エコーもまだそこまでの説明はしない。


「あら、どうなさったんですの?」

 問われてエコーは苦笑交じりに答えた。

「まだここを見せてなかったのよ。昨日はほら……ね」


 スノーホワイトはステラに眉を上げ、

「あなた、エコーお姉さまはお忙しいのだから、足を引っぱらないでくださいませよ?」とチクリ。


「う……すいません」

「いいのよ、ユキ。

 ステラ、次へいきましょう」


「作業、見ていかないんですか?」

 とたずねるフローラにエコーは答える。

「邪魔しちゃ悪いからね。

 それに、くわしいことは実習でまた教えるわ」

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