動いた!

「これでいいですか?」


 ステラが書き直した【神秘文字】を見て、エコーはダメを出した。


「ここと、ここ。もう一回見本を確認して。

 できたら埋め込んでいいわよ」


 そこへ、手を振りながら入ってきたのはサニーたち三人だ。


「あ、いたいた。サニクラルンルンチーム、ただいま帰還で~す」


 エコーは笑顔で出迎えて、

「お帰りなさい。どうだった?」


「ウチらにかかれば楽勝だよ~!」

 ウィンクしながらVサインのサニー、ステラに気づいて、

「おっ、うわさの新人ちゃんだね」

 さっそく握手を求める。


「ウチはサニー(サイドテール陽キャ)。こっちがクラウディア(ぼーっ)で、そっちがエルフのルーン(タテ線しょってる)だよ。よろしくね」(括弧内リマインド用)。


 負けじとステラも返礼だ。

「ステラです。こっちはエーコさん」

「知ってる」

なんだけど(汗)」





 といった按配あんばいで、ステラはサニ・クラとの挨拶を済ませた………

 のだが、ルーンにはひとことで斬り捨てられた。


「エルフは握手しない」


 高身長から見下ろされ、さすがのステラもたじたじだ。


「もー、そんなわけないでしょー。新人ちゃんを威圧しないの」

「う……」


 サニーのとりなしでルーンも(しおしおになり)ようやく手を差し出した。


「あれ? ルーンさんだけ手がやらかい」


 ステラの疑問にサニーが答える。

「ルーンは魔術担当だからねー」


「まじつ?」


「ゴーレムの材料や部品に魔法をかけて、強度や耐久性を高めるのよ。乾燥も早くなるんだ。

 ね、ルーン」


「…………うん」


「へえぇ~」

 感心するステラに、エコーが補足説明。


「魔術担当は専門職なの。だから手作業をすることはないわ。

 アレクトー工房には、もうひとり魔術担当がいます。帰ってきたら紹介するわね。

 この規模の工房で、魔術担当をふたりも抱えてるところは那国ナフリスでも滅多にないのよ」


 ちょっぴり自慢げだ。





 そうこうしていると、焼成しょうせい明けで休みのスノーホワイトとフローラも暇をもてあましたのか、のぞきにきた。

「にぎやかですわね」

「あ、サニー! お帰りなさーい」


「ただまー」

 サニーとフローラはきゃっきゃとハグを交わす。


「何をやってるんですの?」

「ステラにSHMシェム・ハ・メフォラシュを書かせてるのよ」


「あら。エコーお姉さまの前ですけど、ちょっと早いんじゃありませんこと?」

 スノーホワイトは異を唱えたが、

「うふふ。なりゆきでね」エコーは苦笑い。





 ――――――と、

「動いた!」

 ステラのウサギが、やっとのことで踊り始めたらしい。


 どれどれ、とサニー組もスノーホワイト組も集まって、ステラが初めて作ったゴーレムのぎこちない動きを眺めた。


「なんか面白そう。ウチもやろうかな……。

 あれ? クラっち」


 すでに、クラウディアは黙々と粘土をこね始めていた。


 フローラも作業台の前で、

「じゃあ、わたしはリス! ……ううん、ハリネズミかな? それともネコちゃん……」と首をひねっている。


 あっという間に、作業場は人形作り大会と化してしまった。





「あ、手がとれちゃった! エーコさん、これどうやって止めるの?」

「あらあら。それはね……」

「あはは、意外と楽しいかも! ルーンも見てないで混ざんなよ」

「……エルフは粘土遊びなんてしない……」

「ほらほら、そんなこといわないでやってみ? ところでこのぶちゃいくなやつ、誰の?」

「余計なお世話ですわ(><)」

「やっぱりクマさんにしようかな。ワンちゃんもいいなー。ポニーもかわいいし…………」





 粘土をこねながらふと顔を上げたサニーがステラを指さして、

「ちょっと、眉毛がなくなってるよ」

「え? あ!」


 いわれてステラはおでこを押さえた。汗を拭いたときに落ちたらしい。


「サニー、描いてあげてくれる? あなたのほうがお化粧得意だから」と、エコー。


「おっけー! じゃーステラ、部屋までいこ!」


 ステラの背中を押しながら作業場を出たところで、サニーは首をかしげた。


「あれ? なんか忘れてるような…………」





「――――――遅い。

 あいつらいったい、何やってるんだ?」


 工房長室では、ガイアの腹の虫が鳴りっぱなしだった。

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