張り切りエコー

 そんなこんなで午前中の研修を終え、昼休み。


「う、腕が……上がりません」


 ステラは昼食の支度を済ませると、さっそく食卓に突っ伏した。早くもバテバテだ。

 決して力の必要な作業ではないが、ふだん使わない筋肉を使ったのだから当然ではある。


「あはは(汗)」

「もうちょっとだから(もうちょっとではない)、がんばって(手助けはしない)」

「まったく、だらしないですわね」


 一緒に食卓を囲む職人たちハンズから温かい励ましのことばが寄せられる中、救済策だろうか、エコーが提案した。

「午後からちょっと出かけましょう」


「どこいくんですか?」

「町へ買い出しにね」


 横で聞いていたサニーは、ピンときたようすでニンマリ。

「……今夜は、肉ですね」


「そういうこと」と、エコーもにっこり。





 ――――――南央州ユナシアののどかな田園を、荷馬車がゆく。


 馭者ぎょしゃ台に座っているのは、修道服姿のエコー。

 同じく修道服のステラは、となりで目を丸くしていた。


「ほんものみたい……」


「でしょう」とエコー。

「ふつうの馬みたいに手綱で操れるけど、声での命令も聞くのよ」


 荷車を引いているのは、馬型ゴーレムだった。


 アレクトー工房は六体のゴーレム馬を所有している。二体は速度重視の『マーキュリー』、残りは運搬力に秀でた『ハーキュリー』。


 どちらも静止しているときはただの彫像だが、いざ動き出せばその精巧さは生きている馬と区別がつかないほど。


「残念ながら、うちで造ったんじゃなくて、よそから買ったものだけどね」

 エコーの声には、わずかに悔しそうな響きがこもっていた。





 荷馬車は小一時間でエトルディの町へ到着した。


 エトルディは小さな町だ。

 町というよりはふたつの村が共同で利用する市場で、常設の店舗は多くない。商人は割り当てられた区画の中から早い者勝ちで場所を取り、露店を開いた。

 店の場所はその日その日でちがうから、探して回らなければ見つからない。


「おっ、いたいた」


 エコーの目当ては昼から開く露店だった。

 たいていの商人は、客をなるべく取り込むために早朝から営業を始め、商品を売り切ればさっさと店をたたむ。

 その空きスペースを狙って、わざわざ遅くから店を広げる商人もいるのだ。





 店から店へてきぱきと、おまけに値切って、エコーは食料品や日用品を買い込んだ。


「はいこれ」

「はいこれ」

「これもね」

「お、重いです……」


 臨死の腕に積み上がった品物を荷台に乗せ替え、


「さあ、帰るわよ!」


 エコーは颯爽さっそう荷馬ハーキュリーむちを当てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る