シェム・ハ・メフォラシュ

 困っているエコーに助け舟を出したのは、バッカスだった。


「ステラ、これはどこの国のことばだと思うかの?」


「えっ、国? わかりません」


 即答すぎるステラにも動じず、バッカスは説明した。





「これは、どこの国のことばでもない。

 いまではもう、どこの国でも使われてないことばじゃよ。

 操術士オペラトール魔法塑像家スクルター・マジーク――――つまりわしら以外には、の」


「どこの国でもない……?」


「ほおよ」バッカスはうなずいた。


「これは【神秘文字】、あるいは【神秘言語】というてな。

 わしらと、ゴーレムをつかさどる神様だけが読み書きできるんよ。


 ゴーレムの神様は、ここに書かれた文章を読んで、書かれたとおりにゴーレムを動かしてくださる。

 ――――じゃが、書かれた文字や文章がめちゃくちゃだったら、どうなる?」


「読めない……です」


「じゃろう。

 SHMシェム・ハ・メフォラシュは、神様がちゃんと読めるように書かにゃいかんの。

 わかった?」


 目を丸くしてうなずくステラの横で、エコーも真剣な表情で聞き入っていた。





「ステラ、お前さん【神秘文字】が読めるか?」


 バッカスの問いかけに、ステラはぶんぶんと首を横にふった。


「【神秘文字】が読めない人間でも、簡単な呪文をいくつか覚えさえすれば、ゴーレムを動かすことができる。それは、SHMシェム・ハ・メフォラシュがあればこそなんじゃわ。

 SHMシェム・ハ・メフォラシュさえありゃあ、子供でもゴーレムを扱える。もちろん、子供に使わせたりはせんけどの。


 ステラ、お前さんは子供かね?」


「ち、ちがいます」


「ほんなら、エコーの説明をちゃんと聞きんさいや」


 ステラはまじめな顔でうなずいた。





「ありがとうございます。ちょっと見直しました」


 エコーが耳打ちすると、バッカスは鷹揚おうようにうなずいて、ニカッと笑った。


「ステラの作業着はまだのようじゃの。忙しいなら、わしが採寸しちゃろうか」


「ちょっと! マダムにいいつけますよ!」


 手を振り上げるエコーを後に、「ひょひょひょひょ」という笑い声を残し、ものすごいスピードで車椅子は走り去った。


「ヘンなおじいさんだなー」

 熱心に聞いていた割に、ステラの感想は遠慮がない。

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