シェム・ハ・メフォラシュ
困っているエコーに助け舟を出したのは、バッカスだった。
「ステラ、これはどこの国のことばだと思うかの?」
「えっ、国? わかりません」
即答すぎるステラにも動じず、バッカスは説明した。
「これは、どこの国のことばでもない。
いまではもう、どこの国でも使われてないことばじゃよ。
「どこの国でもない……?」
「ほおよ」バッカスはうなずいた。
「これは【神秘文字】、あるいは【神秘言語】というてな。
わしらと、ゴーレムをつかさどる神様だけが読み書きできるんよ。
ゴーレムの神様は、ここに書かれた文章を読んで、書かれたとおりにゴーレムを動かしてくださる。
――――じゃが、書かれた文字や文章がめちゃくちゃだったら、どうなる?」
「読めない……です」
「じゃろう。
わかった?」
目を丸くしてうなずくステラの横で、エコーも真剣な表情で聞き入っていた。
「ステラ、お前さん【神秘文字】が読めるか?」
バッカスの問いかけに、ステラはぶんぶんと首を横にふった。
「【神秘文字】が読めない人間でも、簡単な呪文をいくつか覚えさえすれば、ゴーレムを動かすことができる。それは、
ステラ、お前さんは子供かね?」
「ち、ちがいます」
「ほんなら、エコーの説明をちゃんと聞きんさいや」
ステラはまじめな顔でうなずいた。
「ありがとうございます。ちょっと見直しました」
エコーが耳打ちすると、バッカスは
「ステラの作業着はまだのようじゃの。忙しいなら、わしが採寸しちゃろうか」
「ちょっと! マダムにいいつけますよ!」
手を振り上げるエコーを後に、「ひょひょひょひょ」という笑い声を残し、ものすごいスピードで車椅子は走り去った。
「ヘンなおじいさんだなー」
熱心に聞いていた割に、ステラの感想は遠慮がない。
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