厄介なクライアント

「土人形屋だね」


 グラック夫人はあごを引いてエコーをにらみつけた。


「修理にうかがいました」

 笑顔で応じるエコーに、


「当たり前だよ」

 のっけからご挨拶だ。


「お前たちのゴーレムのせいで納屋がひどいありさまだ。危なっかしくて道具を取りに入ることもできないじゃないか」


 ステラはハラハラしながらふたりを見ている。

 エコーが弁解もせずうなずいているので、夫人の顔色はいっそう険しくなった。


「何ヘラヘラしてるんだい」


 どうせ申し訳なさそうにしたところで「何ムスッとしてるんだい」といわれるだけだ。笑っているほうがまだマシだろう。


「とにかくとっとと動かしとくれ。

 まったく、高い金を払ったってのに、ろくでもない不良品を押しつけてくれたもんだ」




 そのことばを聞いた途端、オリンピアがいまにも噛みつきそうな勢いで割り込んだ。


「うちで造ったゴーレムじゃないよっ!」


「そーだそーだ。うちはゴーレム造ってません!」

 調子づいてステラも尻馬に乗った。抗議するにしても自慢できることではないのだが。


「ちょっと、やめなさい」

 エコーがあわてて止めに入る。せっかく事前に釘を刺したのが水の泡だ。


 しかし時すでに遅し、グラック夫人の怒るまいことか。

 まなじりを吊り上げ、三人に人さし指を突きつけた。


「あの土くれをどかしなさい! 今すぐに!

 納屋も元どおりに戻してもらうよ! さもないと承知しないからね!」


 そういうと夫人はドアを叩きつけるように閉ざしてしまった。





「ごめんなさい…………」


 さっきまでの勢いはどこへやら、ステラはうなだれて謝ったが、オリンピアはまだ口をとがらせていた。


「だって、うちで造ったものじゃないのに。そうでしょ?」


 それは、そうではある。


 しかしアレクトー工房も毎年の点検を請け負っているわけで、そのときに見落としがあったのかもしれない。

 なにより、今日は修理をしにきたのだ。


「やってしまったことはしかたないわね」


 エコーはため息をついて使用人がしらを見た。

 使用人がしらは酸っぱい顔で肩をすくめると、これから案内する現場を指さした。

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