段取り八分

「ステラ、こっち」


 手招きされるままについていくと、オリンピアは本館の裏口から出て、納屋に入った。

 壁際にはたるがいくつか並べられ、一輪車や円匙シャベルが立てかけられている。


「持ってて」

 ステラに渡されたのは、小麦を入れるような麻袋。


 ふたを開けた樽にシャベルを突っ込んで、オリンピア。

「口を広げてよ。……いや、自分の口じゃなくてっ(汗笑)」


「これ、なに?」

 年下だからか小柄だからか、ステラはオリンピアを同格扱いだ。もっとも、順番でいえばステラのひとつ前なだけではあるが。


 樽の中身を、こぼさないように袋へ流し込みながら、オリンピアは答えた。

「セメント。砂を混ぜてモルタルにするんだよ。エコーに教わらなかった?」

「ううん。……あれ? 聞いたっけ」


 研修二日目に聞いている。もっとも、現物を見るのは初めてだ。





 モルタル袋と、同じように移し替えた砂袋とを一輪車で運び、建物の外周をぐるりと回って荷車に積む。

 空になった一輪車を押して、今度は家庭菜園の前を通った。


「ここが煉瓦れんが置場だよ」


 ずらりと並ぶ大量の煉瓦れんがを見て、ステラは頓狂とんきょうな声を上げた。


「え!? これ全部ここで作ったの?」


 毎朝目にはしていたが、ずっと塀だと思っていたのだ。


 煉瓦れんがは形ごとに山が分けられていた。

 ふたりはその中から指示どおりの煉瓦れんがを選び、一輪車に乗せた。


 オリンピアの動作はきびきびしていて、とにかく速かった。

 段取りが頭に入っていないと、こうは動けない。





「ちょっと待って」

 ステラはぜえぜえいいながら最後の煉瓦れんがを積み終えた。

 これからまた一輪車を押して、荷車まで戻らなくてはいけない。


「うん、いいよ」

 待つ間、オリンピアは手すさびに家庭菜園のナッツを物色する。


「ピア、すごいね。いつから工房で働いてるの?」

 感心したようにステラが聞くと、オリンピアはむしったナッツをひと粒、口に放り込んで答えた。


「ちゃんと入ったのは最近だけど、仕事は前から手伝ってたよ。

 だってボク、ここの子だもん」


「ここの子……って?」


 ステラが首をかしげたので、オリンピアは八重歯でナッツを噛み砕きながらいい直した。


「マダムはボクのお母さん」


「へぇー。……え?

 えええええぇ~っ?!」





 ――――材料を荷車に積み替えているところへエコーがやってきた。

「もう終わった?」

「これで最後だよ」


 エコーは積荷をざっと点検して、ふたりにいった。


「明日は早いから、食事を済ませたら早めに寝なさい。

 くわしいことは道中説明するわ」

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