第四章 初めての出張

初めての出張

 テンペストとルーンは不在だが、アレクトー工房は今日も平常運転――――かと思いきや。


 工房長室では、ガイアとエコーがなにやら深刻そうな表情。

 ついさっきまで来客がいたのだ。

 用件は、緊急の修理依頼だった。





「この件、たのむ」

 口を開いたのはガイア。


「わかりました。グラック夫人のお相手は、まだサニーには難しいでしょうし」

 と答え、エコーはほっそりしたあごに指先を当てた。


「……でも『いきなり倒れた』だけじゃ、原因がはっきりしませんね」


「前回の定期点検はいつだった」

「三ヶ月前です」


「なら、煉瓦れんがの脱落じゃないだろう。だが念のため材料は持っていっておけ」

「はい。そうします」


「それとな…………オリンピアとステラも連れていってくれ」


 工房長の追加注文に、エコーは怪訝けげんな顔。

「ピアはともかくステラをですか? あの子、まだ何もできませんよ?」


「かまわん。道具運びなり何なりやることはあるさ。

 相棒バディだろう? お前の仕事ぶりを見せてやるいい機会だ」


 エコーは苦笑いともにうなずくと、表情を引き締めた。





 そんなこととはつゆ知らず、ステラは土練りの特訓中――――のはずだが。


「…………アァァーッ」


 深呼吸に続いて、作業台の粘土に手をかざしたかと思うと、


「でいやあぁー!」

 気合とともに高速で手を動かした。


 もちろんみじんも練れてなど、いや触れてすらいない。エコーが見ていないとすぐこれだ。


「……エーコさん、遅いなー」


 頬杖ほおづえをついたところへ、エコーがオリンピアを連れて戻ってきた。





「急だけど、三人で出張よ。

 あす朝早く出るから、いまから準備を始めてちょうだい」


 エコーのことばにも、ステラはまるで他人事のようにポカンとした表情だ。もっとも、質問できるほどの経験も知識もないのだからしょうがないだろう。


 一方エコーも、プチサボりをスルーした点、ステラに構っている余裕はないようだ。

 具体的な指示はオリンピアに与えられた。


煉瓦れんがは普通サイズと半欠けを半ダースずつ、四分しぶん円のいちばん大きいやつを一ダース。

 あとはわかるわね」


「うん。あ、SHMシェム・ハ・メフォラシュは?」


「そっちはわたしが見るわ。じゃあお願いね」

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