嵐の帰還

 リプルとの顔合わせもそこそこ、ステラとエコーは朝食の準備に大わらわ。腹を減らした職人ハンズぎょしがたくなるのだ。


 ふたりがかりで大鍋を運び込むと、食堂には人だかりができていた。

 中心にいるのは、ステラが見たことのない、背の高い人物だった。


「もぉー、なんで呼んでくれなかったの?」

 口をとがらせるフローラに、背の高い人物は笑いながら答えた。


「遅かったからな、起こしちゃ悪いだろ」





 年のころは、エコーと同じくらいだろうか。

 よく陽に焼けて、まるでタカか若獅子のような精悍せいかんさ。赤毛をベリーショートにして、左耳のうしろでふた房だけ細く編み込んでいる。

 化粧っ気もないのに、長いまつ毛が印象的だ。





「知らないっ」

 フローラがふくれてしまったので、


「テンペーお姉さまにしては、手こずったんじゃありませんこと?」

 とりなすようにスノーホワイトが割り込むと、


「あー、そうなんだよ。途中でモルタルが足りなくなっちゃってさ……」

 気取らないしぐさで赤毛の頭をガシガシかく。


 サニーでさえ、彼女の周りを回る衛星のようだった。





 ステラがあんぐり口を開けて見とれていると、赤毛の女性は気づいて、近づいてきた。


「よっ。ステラ……だっけ?」


「あっ、ハイ」


「オレはテンペスト。よろしくな」


【テンペスト】は手を差し出したが、ステラは大鍋の取っ手をつかんでいる。


「おっと、悪い悪い」


 大鍋が、流れるように自然にテンペストの手に渡り、食卓の上に置かれた。





「おはよう」

 遅ればせながら、ガイアが食堂に姿を見せた。


 見上げるような彼女と一緒に入ってきたのは、ポニーテールの小柄な少女。


「あーあ、みんなテンペー先輩ばっかり。ボクも帰ってきたんだけどな」

 不満そうな口調とは裏腹に、明るく八重歯を見せる。


「そんなことないわよ、ピア」

くな妬くな」

 エコーとテンペストが【オリンピア】に声をかけた。


 ――――これでアレクトー工房の職人ハンズが勢ぞろいしたわけだ。





 煮込みシチューの皿が目の前に置かれると、テンペストは子供のように舌なめずりした。


「おっ? 肉じゃん!」


「昨日の残り物だけどね」エコーが微笑むと、

「いやいや、エコーのメシ食ったら、帰ってきた! って感じするぜ」

 と、テンペストは調子がいい。


 サニーが横目でエコーを見るのは(昨日は買い出しだったんですね)という含みだが、当の本人は素知らぬ顔。

 公正な彼女は、皿に盛る分量に差をつけない。だがもしおかわりの希望があれば、それはもちろん別の話。





 ふたりが帰ってきた食卓は、いつもにもましてにぎやかだった。


「ピア、もっと食わないと大きくなれねーぞ」

「食べますよ。てかテンペー先輩がもっと小さくなってください」

「無茶いうなよ」

「だって相棒バディでしょ」


「ねぇ、出張先でもこの調子なの?」笑いながらサニーが聞くので、

「そーなんだよ。ちょっとマダム、なんとかいってやってくださいよ」

 テンペストはガイアに投げたが、

「知らん」とつれない返事。

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