ステラの思い出

 ――――――――いくつのときだったか、覚えていない。

 お腹ぺこぺこで、足が痛くて、ひとりぼっち。

 そんなステラの前でり広げられた、忘れざる光景。


 あざやかな衣装をまとい、

 仲よく手をつないで軽やかに踊る、

 いくつもの小さな、動物の人形たち。


 幼いステラは、すっかり目を奪われてしまった。


 それはキラキラと輝いて、

 さびしい気持ちやかなしい気持ちを、跡形もなく吹き飛ばしてくれたのだ。





「――――まるで魔法みたいでしたぁ……」


 うん。魔法です。

 とツッコミを入れるでもなく、むしろ心なしか沈んだ表情でエコーはつぶやいた。


「ステラ、あなた……孤児だったのね」


 考えてみれば、修道院が孤児院を兼ねることはめずらしくない。直接連絡を取り合っていたガイアは知っていたのだろう。


(せめて教えてくれればいいのに……)

 とエコーは思うが、工房長は職人たちハンズの来歴を決して語らない。


「修道院の先生は、『せんさいこじ』っていってました」


 屈託くったくのない笑顔で答えるステラに、エコーも告げた。


「わたしも、そうよ」

 だからわかる。だから、とりとめのない思い出話からでもわかったのだ。


「エーコさんも?」

 身を乗り出したステラにうなずくと、考え込むエコー。

「でも、小さなゴーレムなんて聞いたことがないわね。

 旅芸人の演目かしら? それとも貴族の子供向けのおもちゃ……? 那国ナフリスにはふつうにあるのかな」


「それ、先生も調べてくれて、でも結局わかんなかったんです」

 そういう割にけろっとしているのは、ステラ自身とっくに踏ん切りをつけているのだろう。


 エコーは顔を上げ、そんなステラをしばらく見つめていたが、

「どうせわからないなら」

 と、にっこりほほえんだ。


「せっかくだし、自分で造ってみない?」





「ほんとですか!?」

 喜びと期待で、ステラはコロッと表情を変えた。


「もちろん」

 自分でいったことながら、エコーは少々不安になった。予想はしていたものの、それにしてもチョロすぎる。


「ほんとにほんとですか?」

「ええ、ほんとにほんとよ」

「動物のお人形でも?」

「いいわよ、動物でも天使でも妖精でもね」

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