これじゃない?!

「どうして煉瓦れんがを作るの? ゴーレムを作るんじゃないの?」


「うちのおもな業務はゴーレムの修理なの。

 壊れたゴーレムは、重すぎて工房まで運び込むことができないでしょ。

 だから現場へ出向いて修理するんだけど、そのときに使う煉瓦れんがを予備の在庫として作ってるのよ」


 しかし、エコーのわかりやすい説明にもステラは納得できないようだ。


「でも、煉瓦れんがを作るんですよね? ゴーレムじゃなくて」





(もしかして、ステラのいたところでは石製ストーンゴーレムを使ってたのかしら?)


 それならわからなくもない。

 石製ストーンゴーレムは材料の輸送と加工に手間がかかるため、いまではほとんど造られていない。ただし川の上流など、材料が入手しやすい場所では造っている地域もある。

 ステラは土製クレイ(厳密には煉瓦ブリック)ゴーレムを見たことがないのかもしれない。


 ならば、

「まずは工房うちで使っているゴーレムを見てもらいましょうか」






 エコーがステラを連れていった屋外の置場には、四体の煉瓦れんが製ゴーレムが立っていた。その名の通り、煉瓦れんがを積み上げて人型をかたどったゴーレムだ。

 それぞれ全高はおおむね二メートル強で、作業用ゴーレムとしては平均サイズ。四体それぞれ微妙にまちまちだが、大きさやずんぐりした体型は似通っている。





「今日はだれも使っていないから、これが工房の持っている全部よ」

 とエコーの指し示したのを見上げたステラ。

 しばし目をぱちぱちさせていたかと思うと開口一番、


「これじゃない」


「えっ?」

 斜め上の返事にエコーの目まで丸くなったが、ステラは重ねて、

「これ、ゴーレムじゃないよ!」


「何をいってるの、ステラ?

 ……あなたもしかして、ゴーレムを見るのは初めて?」


 ゴーレムを見たことがないのにゴーレムを造りたいとはいったい。

 困惑しかないエコーに、ステラは気持ちをたたきつけるようにいった。


「ゴーレムを作れないんだったら、わたし辞めます!

 辞めて、ゴーレムを作らせてくれるところへいきます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る