研修、スタート

 外に出ると、朝日はもうすっかり昇りきっている。

 エコーは最初に、修道院の裏手へステラをつれていった。


「この山はいい山よ。

 粘土、砂、石灰石と、まきもそうね。材料のほとんどと、燃料まで採れるの。

 ほら、あそこ」と指さす。


「むき出しの土が見えるでしょう」

「はい」


「あれは粘土を採った跡。採るのはゴーレムにさせてるわ。

 もうだいぶ削ったけど、全体から見たらほんのちょっとね。まだまだたっぷり採れるわ」

「へぇー」

「採取した粘土はそのままでは使えないから、中庭で加工するの。いらっしゃい」

「はーい」





 棟に戻って、次は中庭。

 修道院によく見られる回廊のような、完全に閉ざされた場所ではなく、外と行き来ができるようになっている。

 その一角にはおけや、布を敷いたたらい、木製の架台などが置かれていた。


「♪ゴーレムっ、ゴーレムっ、ゴーレムを作ろっ」


 ごきげんなようすであとをついてくるステラをふり返って、エコーが説明した。


「採ってきた粘土には、石や木の根っこが混ざっているから、ふるいに通してここで取り除くの。

 それが終わったら、水にけてやわらかくします」


「ほえー」

 ステラはどこか上の空でなま返事。

 ピンときていないようだが、まだ初日だしこんなものだろう。どのみちくわしい内容は実習にとりかかってから、とエコーは案内を続ける。





 ふたりは屋内へ戻り、昨日『命名式』がおこなわれた場所に入った。


「ここは土りと成型の作業場よ」


 もとは聖堂だっただけあって広々としているが、作業台や棚、木材らしきもの、謎の道具などが所狭しとばかりに置かれている。


「水から出した粘土をちょうどいい堅さになるまで乾かしてから、ここで練って成型します」

 とエコーは作業台に手を乗せた。


「せいけい、って?」


 首をかしげるステラにエコーが見せたのは、箱状の木わく

「この型枠かたわくに粘土を詰めて、煉瓦れんがの形にするの」


煉瓦れんが?」





 最初期のゴーレムは、粘土で作った人形を天日てんぴで乾燥させていたという。しかしこのやり方で造ったゴーレムはもろく、壊れやすかった。

 人形をじかに作る方法から日乾煉瓦ひぼしれんがを組み上げる工法へ、日乾煉瓦ひぼしれんがから焼成した煉瓦れんがへと進歩することで、土製クレイゴーレムは強度と耐久性を獲得したのだ。


 余談だが、ノンシャラン王国にはほかにゴーレム工房が存在しないため、アレクトー工房は左官の組合ギルドに加入している。

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