勇者は逃げるしか能がない

この世界には不思議な武器が存在する。その武器はこの世界にどこにでも存在するがそれを手に入れることができる者は一握りしかいない。その武器を手に入れた者は絶大な恩恵を得ることができる。その武器を手に入れた者をこの世界の住人は畏怖と尊敬の念を込めてこう呼んだ・・・






勇者  と






これはそんな武器を手に入れた一人の人物の御話。






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僕は日課である訓練をしていた。いつものようにランニング、筋トレを行いあとはひたすらに棒を振っていた。始めたころは拙い動きであまりにも酷い有様だったが今ではある師匠の教えもありましになっている。




そんな僕には誰にも言えない秘密がある。それは、この武器だ。




見た目はショートソードと特に変わらないが普通のショートソードとは違う。刀身には不思議な文様が描かれている。持ち手は持ちやすいように凹凸があり僕の手にぴったりと合うようになっている。そしてこの武器は僕の中にしまわれている。




具体的には僕が念じると手元に現れるのだ。自分がこのショートソードを持っていることを念じると姿を現す。僕が手を放すと霧散するように消えるのだ。




僕は初めからこの武器を持っていたわけではない。子供の頃、村の近くを遊んでいると地面に埋まっている剣の柄を見つけたのだ。なんでこんなところに埋まっているんだろ?と思いながらも興味本位で抜いたのだ。するとその剣は霧に溶け込むかのように霧散してしまったかと思うと腹に熱を感じた。見ると深々と刺さっていた。理解してすぐ剣で刺されただけとは思えない激痛を感じその場で意識を失ってしまった。次に目を覚ました時には家のベットで寝かされていた。僕が起きたのを知り母さんが大泣きしていたのを覚えている。




母さんのことはいいとして僕はその時にこの剣を手に入れたのだ。剣を出せるのはなぜだか理解していた。ほんとに不思議な剣だ。この剣が何なのかはすぐにわかった。物語に出てくるような勇者の剣だと子供ながらに理解することができた。親などに話そうと思ったのだが話そうとすると口が動かなくなる。なら、手元に出せばいいと思って出そうとするが激痛が走り出す。結局誰にも話せず僕だけの秘密となった。自慢できないのは悲しかったけど物語と同じ勇者の剣を持っていることがうれしくてあまり苦にはならなかった。




その後は自然と剣の訓練をするようになり初めは見様見真似だったが村を訪れた師匠に弟子入りし転々と旅をしながら徐々に剣の扱いもうまくなっていった。




そんな子供時代を過ごし今では冒険者として活動している。師匠とは免許皆伝をもらい別行動をしている。冒険者になって大分経ち僕も最近では少し名が知れるようになった。相変わらず武器のことは誰にも話すことができないが様々な出会いや別れとともに辛くも楽しい日々を送っている。




そんな日々を送る中、僕はある不思議なパーティーを見つけた。




朝の訓練を終え依頼を受けようとギルドへと行くと冒険者になりたてなのかおろおろとしている青髪の少年ととても強気そうな赤髪ロングの女性のパーティーだ。何やら朝から酔っぱらっている冒険者に絡まれているようでどうしたらいいか戸惑っているらしい。




「あ、あのー何か用でしょうか?」




「あぁ? お前に用はねぇよ!」




「ひぃっ!」




「それよりねえちゃん 俺たちと遊bぐぇ!」




「目障りだ消えろ」




赤髪の女性の蹴りで男は区の字になりながら壁に激突した。




「その性格何とかならないのか? 仮にも私を倒したのだぞ?」




「む、無茶言うな!」




女性はため息をつきながら蹴り飛ばした男は無視しギルドへ入り依頼掲示板の方へと進んでいった。その後ろをおっかなびっくり少年がついていく。




僕はなぜかこの二人組に興味が沸いた。理由を聞かれても何となくとしか答えられないが視線を逸らすことができなかった。なぜ?と自分に疑問を思っていると俺は無意識に近寄っていたらしい。少年が気づいて振り返った。




「あ、あのー何か用ですか?」




「え? いや、用ということもないのだがそうだな・・・ 僕と良けれパーティーを組まないか?」




何言ってんの!僕!組んでみたいとは思ったけどさあ!




「え?」




少年は見知らぬ俺に話しかけられたからなのか驚いていた。しばらくするとなぜか泣き出してしまった。




「大丈夫かい?何か不快なことをしたならすまない」




「い、いえ、大丈夫です こんな優しい人に話しかけられるなんて久しぶりで・・・」




「それぐらいでお前は一々泣くな!」




「っ~~~~~」




え、えーと?大丈夫かな?若い身でだいぶ苦労しているのかな?ていうか素手で殴ったようには思えないような音がしたけど大丈夫だよね?あっ、転がり出した。




「すまないな 変な態度取って」




「い、いえ」




「それでパーティーを組みたいってことだったな」




「はい 見たところ二人組みたいですしどうかなと思いまして」




「お前は一人か?」




「はい そうですが」




改めて二人の装備を確認する少年は短剣に軽装備と見た感じ新人のように見える。反対に女性は長剣に動きを阻害しない程度の金属鎧を装備しており雰囲気は前衛で戦うベテラン戦士のように思われる。




「まずは自己紹介ですね 僕の名前はラルディ 気軽にラルと呼んでください 得意武器はこのショートソードでしてあと、魔法を少々使えます」




僕は勇者の武器とは別にショートソードを装備している。いらないようにも思うかもしれないがそれには理由があるのだ。




「私はサティア 主な武器はこのロングソードだ 敬語はいらないから気軽に話してくれ ほれお前も」




「わっとと はっ! ぼ、僕の名前は二コラです 武器は短剣です よろしくお願いします!」




「よろしく でパーティーの件はどうかな?」




そう聞くとサティアは二コラの方を向いてしまう。どうやら主導権は二コラの方が持っているらしい。




「な、なんで僕の方を向くの!!」




あら? 違うのかな?




「リーダーはお前だろう? 私が決めることじゃない」




「え! いつの間に! え、あ、そのよろしくお願いします!!」




そういうと勢いよく頭を下げた。それはもう深々と頭を下げる。




「そんなに畏まらなくてもいいですよ もっと普通に・・・」




あら~ また泣いてしまった。よほどひどい環境で育ってきたのだろうか?




このときの僕にはこんな気弱そうな子のことを甘く見ていたのだ。






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彼らは本当に新人冒険者だったらしく登録してまだ数日しかたっていないらしい。これから行くクエストはそんな新人冒険者が行くような定番クエストだ。低級魔物の討伐クエスト。その中でも段違いに弱いゴブリンの討伐だ。




「もっとまともな敵はいないのか? 例えば、竜であるとかせめて上位の魔物はいないのか?」




「そ、そんな奴いるわけないだろ! 仮にいたとしてもそんなクエスト低ランク冒険者が受けられるわけがないからな! なんで死にそうなクエスト受けなきゃいけないんだ!」




さっきからこの調子だ。サティアは腕に覚えがあるらしく今も後ろから襲ってきたゴブリンを見向きもせずに叩ききっている。その剣筋は何の迷いもなく上級者のものであろう。それに対して二コラはよく見る新人冒険者と同様に慎重に間合いを考えて目の前の敵を倒すことに集中している。その所為か死角から襲い掛かろうとしているゴブリンに気づいているそぶりもない。僕は、そのゴブリンに瞬時に近づき首を刎ねた。




「今は戦闘に集中しようよ 二コラは周りをよく見てな」




概ね特に問題なく戦闘が進んでいく。大きなけがもなく目標の討伐数まであと10匹程度だ。




「そろそろ昼頃だし昼食にしないか?」




「そうですね 途中の川辺あたりで昼食にしましょう サティアもそれでいいか?」




「問題ない」




二コラも半日も一緒にいれば少しは慣れたのか初めの緊張はだいぶ薄れたようだ。僕たちは昼食をとるために途中で見つけた川辺の方へと戻った。見晴らしのよさそうな河原に腰を落とし今朝購入したパンを食べ始めた。




「二人はどのような関係なんですか? 見たところサティアさんは戦いに慣れ親しんでいる様子ですけど二コラ君は素人も同然ですよね?」




「え? あ、それは・・・」




「私は、彼奴に敗れた身でな その時に交わした約束に従って共にしている」




「サティアさんが負けたんですか?」




俄かには信じられなかった。言っては悪いが二コラは本当にど素人だ。戦闘中は周りのことが見えなくなるし体の動きも覚束ないものだ。そんな子が実力が数十段も上のサティアに勝てたとは思えなかった。




「ああ 確かに負けた」




「二コラくんは武の達人か何かなのかな?」




「そ、そんなわけないですよ! あの時勝てたのも偶然に偶然が重なって勝てたようなものですしサティアが律儀に約束を守っているだけです それに・・・」




ーーGGGGGYYYYUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO--




二コラは言葉を続けようとしたがそれを遮るように咆哮が轟いた。その咆哮が終わるとそれから逃げるかのように数えるのも馬鹿らしくなるほどの魔物が押し寄せて来る。




「っっ! あの数は無理だ早く逃げ・・・・」




「良いではないか良いではないか! あんなゴブリン相手ではつまらなく思っていたところだ いくぞ!二コラよ」




「へ?は? やめ! あんな大群にかなうわけないだろ!! 俺はにげr~~~~~~~」




サティアは何を思ったのか二コラの襟首を掴むと魔物の大群の前に投げ高速で飛ぶ二コラに続くように自らも走り出した。




俺はそのあまりの光景に呆然としてしまいその間に退路がなくなってしまった。




「あぁ~もう やけだ! 僕も突っ込むしかないじゃないか!!」




僕は少し遅れてサティアたちを追いかけた。これは最悪死ぬかもしれないなぁ~ まぁそれ以下はないんだけどもさぁ






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






僕はまだ辛うじて生きている。周りは相も変わらず魔物だらけではあるが戦闘に支障はないほどに傷は少ない。その理由は、サティアの御蔭だ。サティアは一人前から迫る魔物の軍勢に突っ込み簡単に言うと無双している。その一振りで刃が通り過ぎた中にいる魔物は例外なく切り裂かれ絶滅しその死骸が崩れるよりも前に返す刀が振るわれる。その剣筋は、僕の目には残像でしか把握できない。さらに返り血を浴びる前には次の獲物へと駆けている為その姿は初めと全く変わらない。唯一変わるのはその表情だ。目が細められ小売りのような気配を漂わせているがその口角は吊り上がり心底楽しんでいることが窺える。その相反する表情が何ともゾクゾク来るものでって僕はドMじゃない!!




案外俺も余裕があるようだ。初めは死を覚悟していたが何とか乗り切れそうか気がしてきたのだから不思議でしょうがない。そんなことの考えながらも二コラの姿が見当たらないことに気づいた。




「サティアさん!! 二コラはどこですか!!」




「ん? 二コラか? その辺に・・・あ~ お前じゃ見えないか」




「はぁ? どういうことですか?」




「まぁ 二コラは問題ない それよりも今は戦闘に集中しろ」




「は、はい!」




二コラのことは気になるがあの実力を持つサティアを信じようと思う。いや、そうじゃないな単純に他人を気遣う余裕など今の俺にはない。




僕は、右に握るショートソードでゴブリンの首を切り飛ばす。返す刀で後ろに迫ってきていたオークの武器を持つ腕を切り飛ばし左の何も握っていない手を振り切った。オークは糸の切れた人形のように崩れ落ちる。そんな不可解な現象には目も宛てず前から突進してきていたボアを横にステップで回避。すれ違い狭間に左を振り切った。ボアはオークと同じように崩れ落ち失速する。




僕が左手を振った後に起こる現象は僕の武器の効果だ。この武器の効果は大きく分けて三つだ。一つ、身体能力の上昇。一つ、相手の死角でないと実体化しない。一つ、切り付けた相手は体の自由を失う。身体能力の上昇は意図的な五感の強化と俊敏さや腕力などの瞬間的強化の二つを使用できることを理解している。死角でないと実体化しないというのはこの武器は僕にしか見ることのできないことからきている。そのため、少し幅の広いマントを装備していたりする。そして、最後の切り付けた相手は体の自由を失うというのは僕が主導権を握るようなものだ。今は乱戦状態なので難しいが集中を深くすれば一体のみ操ることができる。




なかなか使い勝手の難しい武器だが死角からの攻撃を重点的に訓練することでそれなりに戦えるようにはなっているように思いたい。




僕はこの能力を使い徐々に魔物を減らしていった。




「い~~~~~~~~~や~~~~~~~~~~~だ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」




どこからか二コラの声が聞こえる。どうやらまだ生きているようだ。あれだけ大声を出す余裕があるのだから相当な武の達人なのだろうか?僕の目もまだまだだな。精進あるのみ!と心に誓う。




その後もサティアは派手に僕は地味に二コラはどこかで大声を出しながら魔物の数を減らしていった。




「も~~お~~ こんなのはごめんだ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」




戦闘が終わる最後の最後まで二コラの声は響き渡っていた。






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さっきまであんなにも大量にいた魔物たちは今ではそのすべてが動かなくなっている。これでどうにか一段落着くことができた。僕も継承では済まない。誰が見ても満身創痍だろう。服装は所々切り裂かれ血が滲んでいる。愛用のショートソードに関してももうボロボロだ。後半は相手の攻撃を受け流すことでしか使いようがなかった。集中も切れてしまったからこれ以上の戦闘はどう足掻いても無理だ。牛輔の進みで歩くのがやっとの状態であるのだから・・・ 少しずつ治癒魔法はかけているから時期に動けるようになるだろう。




「サティアさん・・・は問題なさそうですね」




僕の何倍もの魔物を相手にしていたのにサティアは何事もないかのようにピピンしてる。その剣には刃こぼれも見当たらない。サティアの技術がすごいのか、その剣が技ものなのか。いや、どちらもであるのだろう。その服装にはもちろん自身の血も返り血も存在しない。もはや悔しさの前にすごいといった感情のあきれしかない。




「おう! 問題ないぞ むしろまだ戦い足りないくらいだ この後ボスでも来ないかね~」




「勘弁してください その時は僕は物陰にでも隠れていますよ」




「まあ まだ逃げないだけ良しとするか」




どんだけ戦い好きなんだよ もう、戦闘狂でいいよね?




「あ、ははは そういえば二コラくんはどこですか?」




「ん? あいつならその辺に・・・」




「もぉ~ サティア! なんで敵のど真ん中に投げるんだよ! 危うく死ぬとこだったんだぞ!!」




「あー わるい でもお前ピンピンしてるし大丈夫だっただろう?」




「それとこれとはちがーーーう!!!」




どうやら二コラも無事だったらしい。というか無傷だ。二コラがどんな戦い方をしていたのかは知らないがすごいな、この二人はいったい何なのだろうか?




「二コラくんも元気そうだね 無事で何よりだよ」




「ラルさんもご無事で・・・って全身傷だらけじゃないですか!! 治癒魔法かけますね!」




「ありがとう二コラくん でも大丈夫だよ 今自分でかけているから少しすれば小走りくらいは出来るようになるよ」




「本当に大丈夫ですか 何でしたら僕が運びm・・・」




ーーGGGGGYYYYUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO--




初めに聞いた耳障りな咆哮だ。耳を塞ぎながら空を見上げると巨大な赤黒い影に視界がふさがれる。その体長は10メートルを軽く超え、その大きな巨体を浮かすためかさらに大きな翼が目立つ。その皮膚は鱗に覆われており赤く…いや、所々黒く変種くしている。片目は潰されてしまったのか瞳はなく、左寄りの胸のあたりには何かを抉り出したかのような暗い穴が存在する。




「赤竜か! いや、ただの赤竜じゃないな あの大きさだと古竜、鱗も変色からしてアンデット化してやがる」




「あ、あああ やばいよ ラルさんは重傷だしすぐに逃げないと!」




「いや、無理だろう 僕を抱えて逃げたんじゃ追いつかれる 僕を置いて早く逃げるべきだ」




ああ、やっぱり無理だったか 魔物の大群の中をどうにかこうにか生き残ることができたけど流石にこの状況で生き残ることは無理か あの古龍が噛みつき攻撃でもしてきたら一矢報いてやろうか もしかしたら操れるかもしれないしな




「だぁあぁ クソッ 私が戦いたいが流石に古龍じゃあぁなぁ~ ましてやアンデットなんて一人じゃ難しいか よし! ここは二コラに譲る! 私はラルを岩陰にでも運ぶとしよう」




「は? まって! ぼ、僕がアレと戦えって言うのか? それも一人で!?」




「ん? そうだが?」




「ムリムリムリムリ ムリ!! そんなの絶対死ぬって! ここはみんなで逃げるべきだよ うん、そうするべk・・・」




「つべこべ言わずに男なら逝け!!」




「行けって何?逝けって言わなかった!? ちょ、やめ、や~~~だ~~~~~~!!!!!!」




二コラはサティアに投げられた。赤竜に向かって・・・




「ほら、私たちは下がるよ」




「へ? いやいやダメでしょ! 二コラを助けなきゃ!!」




「あいつなら問題ないさ 何てったって勇者だからな」




「え?」




僕はサティアに肩を貸されながら空を見上げると二コラは赤竜に向けて飛んで行っている。赤竜はその奇行に反応が遅れていたがそれも一瞬のことで飛んで火にいる何とやらと大口を開けてそのアギトの餌食にしようとしている。




「危ない!!・・・え?」




アギトが二コラ目がけて閉じたときには二コラはそこにいなかった。視線を彷徨わせどこにいるか探すが見つからない。だが、何かの風音が響くとそのあとを追うように赤竜に細かい傷が走っていく。一つ一つの傷は小さいが何度も何度も同じ場所を削ることで傷口が深くなっていく。




「一体何がどうなって・・・」




「あれがあいつの実力だよ 普段はあんなおろおろしてやがるがやるときはやるやつだ」




「さっき二コラが勇者だって言ってましたよね?」




「ああ あいつは勇者の武器を持ってる 効果は詳しく聞いてないからわからんがあいつが言うにはただ逃げているだけなんだそうだ」




「逃げているだけ・・・」




「そう逃げているだけ あいつには攻撃があたらない どんな攻撃をしても何をしたのか消えるように避けられちまう 逃げるために戦うしかないなら異常な速度で翻弄に一撃離脱で確実な急所を突いてきやがる ほんと勇者武器ってのはいかれてるね~」




二コラは勇者武器保持者だったのか。僕のよりも段違いに高性能の勇者武器なのだろう。今も赤竜をその速度で翻弄し何度も何度も何度も何度も同じ場所を攻撃して片足を切り落として見せた。すごい。どんな戦い方をしたらあんなことができるのだろうか。ゴブリンとの戦闘のときは素人のように見えたが実際は違ったということなのだろう。何せ今目の前でたった一人で赤竜を抑え込んでいるのだから。




こちらに飛んできた赤竜のブレス攻撃はサティアが完全に防いでくれている。こちらに被害が来ることはない。この中で足を引っ張っているのは僕だけだ。僕も勇者武器を持っているのだ。今まで道理のままでは何も進むことはできないのだろう。勇者武器が悪いのではなく僕自身の実力の問題でありこの武器に対する理解不足の問題だ。これからも今回のように窮地を救ってくれるような存在がいるわけではない。自分の身は自分で守らなければ、もっと武器のことよく知りこの武器を扱えるようにならなければならない。




僕は二コラの、勇者武器を使った二コラの戦闘を身に焼き付けるように食い入った。未だ姿は捉えることができないが少しでも多く経験となるように記憶しようとする。




それから、数分後赤竜は地に落ちた。二コラは無傷であり地上に降りて早々サティアに対して文句を言い放っていた。僕も何とか回復し魔物や赤竜の素材を剥ぎ取り亜空間に収納した。帰りの道中も二コラは今までの鬱憤を晴らすようにサティアへと言いつのりサティアは軽くあしらっている。終始僕は苦笑いをしているだけだった。






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無事にギルドへと帰り今日の成果を換金してもらう。命の危機にはあったがそれ以上に得るものがあったように思う。換金してもらった金を受け取り二コラ、サティアとともにギルドに併設されている飲食店の方に席を取った。




「す、すごいです・・・ ぼ、冒険者ってこんなに儲かるものなんですか?」




「いや、これは異常だよ 普段から魔物の大群と戦うわけではないしそんな生活をしていたらいくつ命があっても足りないよ」




「で、ですよ、ね 僕もあんな目に合うのはもう懲り懲りです!」




二コラはテーブルに置かれている太りに太った金貨の袋を手に取って一言。僕も一度にこんなに儲けたのは初めてだ。竜を狩ったことがないわけではないが普通であれば何十人の冒険者が協力して討伐する魔物である。その分報酬は山分けされるわけで取り分は減るわけだ。だが今回は、少人数で刈り取ってしまった。受付の人に見せたときは驚きのあまりしばらく動かない様子だった。




何度も持ち上げたり下ろしたりおろおろしたりと忙しい二コラに僕はお願いをすることにした。




「二コラくん お願いがあるのだがいいでしょうか」




「わぁ~・・・ へ、へ? お願いですか?」




「ああ もしよければ・・・ これからも一緒に行動してもいいだろうか?」




「一緒にですか?」




二コラは不思議そうに首をかしげている。ん~ 伝わらなかったのだろうか?




「おまえは鈍いな~ パーティー組みたいってことだよ! 惚れたってことだよ!」




「いや、僕に男色の趣味はないのだが・・・」




サティアが理解しているのかしていないのか適当なことを言う。




「ん? そこは言葉の綾だって男が気にするな」




適当なことを言うなよ 周りが引いている雰囲気があるのは気のせいじゃないだろう はぁ、面倒だ・・・




「ラルさんが僕を・・・」




「いや、パーティーをだな・・・」




二コラにまで引かれてしまう。




「あ、パーティーですよねパーティー・・・え!? 僕なんかとパーティーが組みたいんですか!?」




「ああ、お願いしたい」




僕は机に頭を下げる。二コラが慌てている様子があるが頭を下げ続ける。




「あ、あわ わ、わかりましたから! 僕の方からも願ってもないことですから! 頭を上げてくださいよ~」




だんだんと泣きが入っている様子であったので許可を貰えたし頭を上げた。




「サティアさんもいいでしょうか?」




「二コラがいいんなら私に異論はないよ これからよろしく ラル」




「よろしくお願いします」




サティアと握手を交わす。そのあと二コラとも握手も交わし今日は豪華な夕飯を取ることになった。






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その後、僕は二コラ、サティアと共に行動することになる。様々な出会いや別れ、冒険があり、パーティーメンバーも徐々に増えていき世界に関わる大きなことに巻き込まれることになるのだが今はまだ知らないことだ。




これからどうなるのか僕は何も知らない。知っていることは楽しくなりそうだということだろう。




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