俺はナニカに取り憑かれていたのかもしれない

近づいてくる。

葉月はたまらず悲鳴をあげだした。

「いやぁぁぁあ!いやぁ!蓮君!嫌だ!助けて!助けて!」



「騙されないで!そいつが偽物よ!」



「……大丈夫だよ。睦月。」

じっと見つめる。

それを。

葉月の体に繋がってる、葉月の体から出ている思念体のようなモノ。


一年、かかった。


ようやく、ようやく視えるようになった。


「おいで。」


「え、え、いやぁ、蓮くん!何を言って、」

葉月がパニックを起こしてる。


「うーん、葉月、大丈夫。彼女は悪いモノじゃない。怖いよね。それはわかるよ。でもね、睦月は葉月にとってかけがえのない存在だ。」


「何を言って!やだ!怖い!」


「落ち着いて。よく、思い出して。11年前。5歳の誕生日の時、何があったか。」




――――――――――――――――――――――――


11年前。


5歳の誕生日。


葉月の、5歳の誕生日の時。

事件は起こった。

お姉ちゃんの学校でのボヤ騒ぎが起こった。

お姉ちゃんと私は根っこの部分でつながってる。それを知っていた。

お姉ちゃんが火傷を負った。胸の真ん中に。私は、お姉ちゃんの傷をちょっとでも軽くしようと、同じところに火にかかった熱い鍋をぶちまけた。


それが、私の火傷の原因。だけど、それだけじゃ、足りなかった。

お姉ちゃんはそれだけじゃ、助けられなかった。


仕方がないから、私以外のみんな。睦月以外のみんなを生贄にするしかなかった。睦月は生贄にはできない。だって本当は、この体は睦月のものだもの。


睦月に断りもなくやった。

彼女はきっと責任を感じるから。

私のせいでみんなって思うと思うから。

だから私は、私がみんなを




「葉月。」


蓮君の声で現実に戻される。

なに、今の。今の記憶は、ナニ?


「今のは君の本当の記憶、だね。」


「……え?」


「君は、本当は、睦月、なんだ。」


「……え?」


「解離性独立症。平たく言えば、多重人格。元々君は霊的な素質がある。そこに多チャンネル儲けることで心の平静を保つ能力者は意外と多くいるよ。葉月は視るに特化してるんだろうね。それから、睦月。彼女は祓う力もある。」


「ちょっと、蓮君、何、言って?」


「君は他の10人、如月から師走ちゃんまで10人を殺した。言い方が悪いけど。犠牲にした。その命を使ってまで、それでナニカを助けようとしたんだね。」


「何を、言って」

頭がガンガンする。


「だけど、睦月。それは君のためだよ。葉月が全部忘れてしまったのも、君が全部覚えているのも、心の平静を保つためだ。君が体を乗っ取られたと感じるかもしれない。でも、それは君を守るためなんだ睦月。」


思念体に向かっていう蓮。

「君には耐えられない。他の10人がいなくなってしまった喪失感に。元々君が君の心の平静を保つために作った人格だからだ。お父さん、言ってたね。君は変わってる。そして、こうも言ってた。睦月はまだ、生きている。」


「ふー、ふー、」

息が荒い葉月。

しっかりと抱きしめて、ゆっくり言う。

「葉月。向き合おう。君が今まで頑張ったこと。それから、ちゃんと話そう。睦月と。君と睦月は共存していかないといけない。君は君だけじゃ、生きていけないんだ。」


思い、出した。

自分がやったこと。

目を背け続けてきた。この11年間、私は葉月として生きてきた。でも、それは違った。私の誕生日は8月8日じゃなかった。

1月1日だった。

なんでこんなこと、忘れてたんだろう。

わざと忘れてたんだ。私が本当は睦月が作り出した偽物だなんて、耐えられないから。お父さんもお母さんも私を葉月じゃなくて、睦月って名前をつけて愛していたなんて。

だから、睦月は居るって言い張っていたのだ。目の前にいる子が、私が、本当は睦月なんだから。


睦月をゆっくり見上げる。

「……ご、ごめんね、ごめんね、睦月。わたし、わたし勝手に」


睦月は泣いていた。私のために泣いていた。

あぁ、やっぱり優しい子だ。この子には耐えられないと思って私が勝手にやったんだ。 


抱きしめる。

「ごめん、ごめんね、睦月。ごめん。」

そういうと、睦月は泣きながら静かに微笑んだ。私の中に入っていく。


「……蓮。」


「なぁに、睦月。」


「私は、葉月だよ。」


「……それで、いいの?」


「ええ。私は5歳。葉月は16歳。この体で過ごした時間が長い方がこの体にふさわしい。私は今まで通り、この子が辛い時だけ、この子が解決できない時だけ出てくるね。」


「それが、スキンシップだったんだ?はは。結構頻繁に出てきてたよね。」


「ふふ。葉月はすっごい引っ込み思案だからね。勇気を持てないの。」


葉月が妙に体を寄せてくる時。それはいつも蓮って呼び捨てにしてる時だった。


「ありがと。助けてくれて。あのままだったら、私は葉月を憎んだままだし、葉月も私を怖がったままだった。あなたが言葉にしてくれたから、理解できたし、許せたし、葉月も私の存在を受け入れることができた。ありがとう。」


「んーん。ごめん。一年も、かかっちゃった。君が視えるようになるまで、さ。さて、これでようやくラスボスと戦えるってわけだ。董哉と詩音にも連絡して、あとは、五十嵐先生、か。」


勝って兜の尾を閉めろ、じゃないけど、ようやく会いに行ける。


うん。

どんな結末になろうとも、俺は。







――――――――――――――――――――


ガチャ、ギー、バタン。



「こんばんは。」


「…」


「待たせたね。一年も、待たせた。約束は守ったから、会いにきたよ。」



大学病院の一室。


葉月が毎週水曜日通っていた病室。女の人が静かに寝息を立てている。

蓮はその寝顔を見ながら、椅子に座る。


「萩野光一。」


それは君のお父さんの名前。


「答え合わせ。君の正体というか名前は今知ったけど、萩野優香。」

部屋の入り口に書いてあった。


「君は11年前の8月8日、焼身自殺をしようとした。

あの部屋で。」


「それは葉月が他の10人の力を使い切って食い止めた。」


「同時に君は呪った。呪ったのは2人。五十嵐先生のお兄さん。それから萩野光一。」


「萩野光一はわざと生かした。そこに調査に行くように五十嵐禊をしむけた。」


「あの、遊園地にはすごい奴がいたね。10年前のあの時、俺は視えていたよ。たまたま俺と董哉があそこに除霊しに行ってる時に、君の呪いを見つけた。」


「それでおれは10年後の俺に言ったんだ。『次は、お前の番だ。』つまり、あの時、俺は荻野光一の車を事故させた。あの、遊園地のモノはわざと除霊しなかったんだな。君を、救うために。今度は俺が君を救う番だってことだ。」


「葉月が10人を 犠牲にしても君は救えなかった。一年前の俺でも無理だった。俺は、5歳の俺は君を救うために自分に封をしてたんだな。董哉や詩音にも。記憶を奪って。」


「思い出したよ。睦月を視えるようにまでなった。2人を和解させた。もう心配いらない。あとは君。君だけだ。」


「あの学園には教会があった。でも、あの教会は封印のための教会だった。奥に居るすごいやつに封をするための。あの学園に霊がよりつかないのは、ソイツがいたからだ。」


「ソイツは君に取り憑いた。葉月の従姉妹ちゃん。君は霊的な素養がすごくある。突然変異ってレベルだ。君は詩音なんかよりももっとよく視える。思念や、感情、未来、過去。なんでも。その目で見てしまったんだろう?ソイツを。」


「ソイツに気に入られた君は、さまざまな不幸が舞い降りただろうね。実の父親から虐待を受けたり、それを相談した教員、五十嵐先生にすら虐待を受けた。」


「2人ともそんな人じゃなかった。君は視えてしまった。その後ろに潜む奴を。それから解放するには死しかなかったんだろ?だから君は死を選んだ。その結果、自分が永久にあの部屋に閉じ込められることになっても。」



「君は俺を呼んだ。あの遊園地に。俺は最初夢だと思ったよ。遊園地でお姉ちゃんが遊んでくれる夢。俺の思念体を呼び寄せていたんだね。そして俺にアレをなんとかして欲しかった。」


「どう、かな。これが俺の推測。そして、今の俺なら、みんなで力を合わせれば、行ける。そう思わない?」


「ふふ。返事はない、か。わかんないよね。でも、約束するよ。明日、絶対迎えにくるよ。それじゃあね。」


―――――――――――――――――――――――

「董哉、そっちはどう?」


『あぁ。詩音がいるから大丈夫だと思うが。とりあえず起点を見つけた。観覧車だな。』


「睦月がいればよっぽど大事だと思うよ。葉月は視る力だけど、睦月は祓う力もあるから。詩音じゃ無理だったらたよってよ。」


『あぁ。こっちに戦力偏りすぎじゃないのか?そっちは一人で大丈夫か?』


「んー、正直、足手まとい。」


『……そうか、すまない。頼んだ。』


ガチャ、ギーーーーバタン。


教会の扉を開ける。


この2年、在学してたのに一度も来たことのない教会。


そこに、いた。


「こんばんは、優香。」


「こんばんは。蓮。」


「少し驚いたよ。君がここにいるなんて。」


「私はずーっといたよ?君が見ようとしなかっただけで。」


「優香って名前だったんだね。」


「うん。葉月でも、睦月でもないよ。私的にはナニカって呼ばれるのも意外と気に入ってたんだけどね。」


「それにしても葉月たちによく似てる。」


「まぁね。従姉妹だから。」


「じゃ、行ってく……」


「私はさ、今のままでも、満足なんだ。」


優香は俺の言葉を遮って言う。


「君と話せて、同じ部屋でだべってゴロゴロして。ずーっと一緒にいる。それはすごく幸せな時間だった。」


「……うん、そうだね。」


「だから、さ。だめかな?もう少し、同じように……」


「やだ。」


「……え?」


「俺が、やだ。満足できない。喋るだけじゃ。一緒にいるのに、触れ合えないなんて、もうやだ。」


「……え」


「キスしたい。抱きしめたい。セックスしたい。あのね。俺も男なの。好きな人と同じ部屋でずーっと一緒にいる『だけ』じゃあ、満足できない。」


「ぷ、あははははははは!」


「なんだよ。優香だってそうだろ。」


「あはは、まぁ、うん、そう、そうだね。でも、君、そんなオープンスケベだったっけ?驚いちゃった。」


「男なんてみんなそうだよ。」


「あはは。うん、じゃあいってらっしゃい。わたしは待ってる。」


「うん。じゃあね。」


そういうと、教会の祭壇の近くまで進んでいく。

祭壇の裏に扉がある。

特別な封で閉ざされている扉。


ふぅ。本物の、悪魔がいたっておかしくない、な。


力を込めて封をちぎる。


ぎ、ギーーーーーー、


扉が空いた。


奥に進んでいく。

バタン。

勝手に扉は閉まった。


真っ暗だが構わず進んでいく。しばらくいくと行き止まりで、小さな瓶が机の上に置いてある場所に出た。

瓶がカタカタ震えている。


脂汗が吹きあふれる。これはヤバいやつだ。もう帰りたい。帰って優香とだべるって言うのもいい選択肢に思えたし、きっと優香は喜んでくれる。でも。


意を決して瓶を開けた。



―――――――――――――――――――――――


真っ暗。いつもの部屋。


わたしに覆い被さるナニか。


13歳の時、私はこの学園に来た。


小学校では虐められていた。わたしは色々視えるから。

それを相談した先生からも虐められた。最初はなにをされているのかわからなかった。でも、大人の男のドロドロした欲望が醜く視えて怖かった。

わたしは周りの人を狂わすみたいだ。誰にも言えなかった。周りが怖かった。中学校から女の子しかいない学校に行った。これで私を虐める人はいなくなる。そう思った。

毎週末家に帰る時以外は。

父親も同じように私を欲望の捌け口にした。

ある時母に見つかり、母と、喧嘩になった。

私が悪いと言ったら、母は私を殴った。そして、離婚した。

でも、私が我慢してればいい話だった。わたしは周りと違う。だから、我慢することもたくさんある。それは仕方ないんだって。

そんな時、

わたしはここにいるモノに気がついた。そして、魅入られてしまった。

それがすぐにわかった。

途端にわたしの周りが拍車をかけておかしくなっていった。

それはわたしの周りをどんどん侵食していった。

わたしは体が壊れてしまう、と思った。

そして、五十嵐先生。

先生は霊的な素養がそこそこあった。ボランティアで除霊なんかもできる程度に。

10年前の一世を風靡していた阿澄董哉と同じくらいの霊能力があると思う。わたしは先生に相談した。先生なら、らなんとかしてくれるんじゃないか。淡い期待を抱いて。


しばらく経っても何も変わらなかった。わたしは家にいても、学校にいても、それから寮にいても、いつも誰かの欲望の捌け口にされていた。

体も、心もボロボロになっていった。

そんな時、ふと、気がついた。自分が寝ている時、幽体離脱できることに。


それに気づいた時は最初は怖かった。でも、慣れていくと楽しくなった。わたしは初めて気がついた。無意識でわたしのように離脱している子は何人もいるんだ。わたしよりも小さい子。空を飛んだり、浮遊したり。その子たちは全然意識もない。欲望もない。だから飛べるんだ。そう思った。欲望のない子供達と過ごす時間は楽しかった。遊園地に行って遊んでいた。遊園地なんか行ったことない、のに。その遊園地はマスコットがさびれてて気持ち悪いけど、観覧車やゴーカートがあって、私たちはずっと遊んだ。みんな笑顔だった。


そんな時先生がアレに魅入られた。

いまわたしの上で猿のように欲望を吐き出してるソレは、普段の先生とは違う。

わたしは誘惑する。

先生の中のソレを。

先生の中から、出ていってほしい。

先生を返してほしい。


でも、無理だった。

それはわたしの体を蹂躙した。

ソレをわたしの体の中へ。

わたしは絶望した。

これで、もう、逃げられない。わたしの体の中に入り込んだソレは、

徐々に私を壊していく。


もう、手遅れだった。


だから、呪った。

お父さんを。そして、五十嵐先生を。

アレに魅入られたやつを全て呪った。

それにより、自分がどうなろうが関係なかった。

とにかく二人を救いたかった。


そのあと、彼に出会った。

わたしは最後にしようと思っていた遊園地で。

小さな男の子が来た。

その子は私を視た。

私の周りで遊んでる子たちを視た。


自分が信じられなかった。


見た瞬間、電撃が走ったのだ。


この子だ。

この子がわたしの運命の


でも、そんなこと、わたしに許されるはずがない。

従姉妹の妹のような年齢のその子に、16歳の私が一目惚れ、なんてそんな。

笑い話もいいところだ。


なのに、君は笑った。


なら、11年後、迎えにいくよ。


彼は私に向かってそう言った。


わたしは信じられなかった。なんでわたしが考えてることが分かったんだろう。口にも出してない。ソレに、わたしは今、死んでも生きてもない、のに。


彼はわたしを通してわたしを魅入るアレの存在を感知し、そして、今の自分ではそれまでたどり着けないと理解した。

だから忘れた。





そう、俺はあの時、あの時から優香に恋をしていた。

11年前の遊園地。子供の霊と一緒にいた女の人の生き霊。

彼女は危ないモノに魅入られていた。

この距離、彼女越しに伝わるその強大さ。

今の自分には彼女を助けることは不可能だと直感した。

だから、彼女の呪いを止めなかった。

その呪いによって、彼女があの部屋に縛り付けられ、

そして、10年後再会するところまで視えたから。

でも、今のままの自分ではいけない。10年後、彼女を救えるくらいに成長するために、

俺は自分に枷をかけた。

視えなくする。

それに祓う力も極力抑える。


彼女に出会い、彼女のことを全て思い出した時、その封印を全て解き、それまで貯めていた祓う力、視る力をもって、

彼女を魅入るアレを除霊し彼女を解放する。


そう決意したのだ。それくらいのモノだった。

瓶を開けた時に出てきたソレはどこまでも黒く、どこまでも深い。本体がどこにいるかもわからないほど。だけど、10年以上もためにためた力を持ってすれば。


全てを覆い尽くす悪意。

黒い欲望。

それにのまれそうになる。


鼻血がでた。

止まらない。

く、さすがに、すごい


今まで除霊してから出たことはあったが、最中にというのは初めてだ。

序盤も序盤。

ソレが貯め続けた悪意を全部一身にうける。


「う、うおおおおおおおおお!!!」


思わず叫ぶ。

身体中から出血がひどい。


鼻血、目からも、耳、口、

構うもんか。

これを倒すために俺は10年以上も。


全ては優香のために。


「おおおおおおおおおおお!!!」

雄叫びとともに教会のステンドグラスが割れる。

外から悲鳴が聞こえる。

照明が点滅し、祭壇がガタガタいっている。


「おおおおおおおおおおお!!!」


パリン。

瓶が割れる音がした。


全身から血を噴き出してる俺は、



そのまま倒れた。






――――――――――――――――――――――――


「おはよ。」

首を押さえながら控えめに言う友人。


「おはよ。元気ないな。」


「なぁ、聞いてくれよ。きのうからなんか変でさぁ。」


「へん?」


「あぁ。昨日な、変な女の人に声かけられてさ。」


「逆ナンか。すげえな丈瑠。」


「そんでな、わたし、綺麗?ってきいてくるの。」


「変な人だね。」


「そんで、まぁ綺麗なんじゃないですか?って答えといたわけよ。そりゃ綺麗じゃないなんて言えないしさ。」


「おう。」


「そしたら、マスクを取って、これでも?って聞いてきたのよ。そしたら口がほっぺのここまであってさ。」


「へぇ。」


「とりあえず、まぁ口にコンプレックスがあるみたいだけど、今どきそんなことでとやかく言う人は少ないぞということと、マスクしてればそんなのわかんないし、美人かどうかとか見た目よりも心の美しさだと思うぞって真面目にアドバイスしておいた。」


「……お、おう。」


「あ、そんな反応だったぞ、その人も。」


「そうだろうね……。」


「それでそのあと、ゴミ捨て場に奇妙な人形が捨てられててな。それを一回拾ってみたんだ。そしたら、それ以降電話がたくさんかかってきてな。メリーとか言う外国人からなんだけど。絶対間違い電話なのに何度もかけてきやがってさ。」


「……おう」


「おれ、家で壁にもたれかかってるのに今あなたの後ろにいるのって、言ってきてさ。壁にめり込んでるってことかよ?って感じで。」


「なんていうか、災難だったな。」


「な、変だよなぁ。」


「まぁ、なんともないなら大丈夫じゃないか?」


丈瑠のちょっかいかけられやすさは、相変わらず異常だな。


「おうおう!ここにいたかたけるん、あすみん!早く部室行くよ!今日はマジもん!呪いのビデオ!今時VHS探すの苦労したんだから。これをみると無言電話がかかってきて1週間後に死ぬってやつ!」


「……ほんと、シズは半端ないよな……」


シズが持ってるビデオ。禍々しいオーラが放たれている


3年生になった俺たちは変わらず日常を送っている。今年は受験とかあって、一応進学校の俺たちは受験勉強に明け暮れてる。


「わたしいるるん呼んでくる。」

「おう、部室で待ってるよ」


葉月だけは違うクラス。

俺と丈瑠とシズは同じクラスだ。


部室に行くと見知った顔がいた。

「丈瑠先輩!助けてください!変な外人から電話かかってくるんです!」

今年一年生の彼は身長は180センチとかなりでかいしガタイもいいのに、スーパー小心者。陸上部だが、たまに困った時にこっちの部活にも顔を出す。

清水健太くん。

それに、丈瑠ほど、とまではいかないが、ちょっかいかけられやすい。


「え?お前ももしかしてメリーさん?なんの悪戯かね?」


「え?先輩もですか?ゴミ捨て場で人形拾いました!?」


「うんうん、拾った。そしたらめちゃ電話なったからさ。」


「自分も拾ったんすよ!そしたらさっきついに今校門にいるのって電話かかってきて!」


「……不法侵入だね。やれやれ。」


「そーなんすよ!阿澄先輩!先生に言った方がいいっすかね!?っていうかこれ、絶対やばいやつですって!そのうち『いまあなたの後ろにいるの』ってかかってくるっす!」


「あ、それかかってきたよ。おれ」


「……え?」


「だから今あなたの後ろにってやつ。」


「え?でもなんで先輩生きてるんですか?」


「え?なんで死ぬの?」


「え?」


「え?」


「後ろにいるだけだろ?」


「…………はい。」


「別に、よくね?」


「……え?」


……丈瑠、なんかすごいな。


「健太、まぁとりあえずこっちにきて。電話かかってきたら、俺が取るから。」

そう言って部室の中に招く。


……うん、これも本物。多分だけど昨日丈瑠があった口裂け女も本物なんだろうな……。

「け、健太くん!せ、先輩たち……こ、こんにちは。け、健太くん、ど、どうしたの……?」

この子は臼井咲さん。この子も一年生の新入部員だ。中学校の時にコックリさんに友達を一人連れていかれてしまったらしい。みんなその友達のことを忘れてしまったのに彼女だけおぼえていたんだから、きっと霊的な素養もあるのだと思う。

積極的に関わる気はないけど、手助けできることはしてあげたいと思ってる。

「あ、実は彼、今、ナニカに取り憑かれたのかもしれなくて。」

「え?」

「や、やっぱりっすかぁ!?」


プルルルルルプルルルルルル


「わ、かかってきたっす!」

ガチャ

『もしもし、わたしメリーさん。今部室の前にいるの。』

スピーカーにしてみんなが聞こえるようにした健太。

「え、おいまじかよ。メリーさん、不法侵入だなおい。」

丈瑠が微妙なところで怒ってる。

「……め、めりーさんってあの?」

「いや、偽物。模倣犯だね。これは」


そういうと部室の扉の前に健太を連れて行く。

「これで、部室の前からメリーさん動けなくなったね。あとそうだな、3分くらいそこにいてくれる?健太。」


「え、そ、それで、大丈夫になるんすか!?」


「大丈夫にしてくれる人がくるから。丈瑠は自力でやったんだよな。すごいな、ほんと。」


バチ!ガン!ゴロン


「3分もかからなかったか。」


「蓮。この人形、祓っておいたよ。」

「おつかれ睦月。」

「別に疲れはしないけど。」

「葉月せんぱい!お、おはよーございます!」

「こ、こんにちは、だと、思うな。健太くん……。」

目が一瞬でハートになる健太。わかりやすすぎる。ソレをジト目で見つつも、顔を赤らめる咲。

後輩キラーだな。葉月も睦月も。 

「あ、この人形っす!俺が拾ったの!」

「……これが、メリーさん?ずいぶんボロボロね。木屑とかついてるし。」

「昨日壁にめり込んでるしなぁ……。自力で出たんだろ。」蓮は当事者の丈瑠の方を見ながら言う。本人は全然どこふくかぜ。

「おー、葉月。で?シズは?」

「もうすぐ来ると思うよ。五十嵐先生連れてくるって。なんか、話があるとかで。」


ガチャ、

「あら、みんな揃ってる。蓮ー!くっつくーーー!」

「な、おま、やめろ、人が見てるだろ!」

扉を開けるとノータイムで詩音が飛びついてきた。詩音もこの部活に正式に入った。

「お、今、人が見てなかったらしてもいいって許可いただきました!」

なんていうか、オープンになりすぎてて辛い。変わったことは、といえば、あの遊園地の件で詩音と葉月は意気投合したようで。お互い認め合っていると言うか、切磋琢磨していると言うか。詩音が人形を見つめて言う。

「メリーさんもどき、ね。わたしだったら蓮にアシストされなくても自力でなんとかできたけど?」

「負け惜しみ?別に蓮にアシスト頼んだわけじゃないし。」

「……なんか、バチバチいってる……」

咲ちゃんが怖がっている。

ちょっと過激だけど。

そんなこと言ってると、

五十嵐先生が入ってきた。

「おー、揃ってるな。実は侵入部員を紹介したくてな。」

顔中包帯まみれで左目だけ出てる男の人が入ってきた。

相当怖い見た目だ。下級生プラス丈瑠が悲鳴を上げた。

おお、あの子か。詩音も、見てるよな。

「名前は鈴木さく、君だ。」

耳と右目を隠してる彼は、以前蓮の隣の部屋で取り憑かれていた子だ。

1年間休学して名前を変えて戻ってきた。

これも董哉の仕業だろう。

記憶の混濁があるが、他の運動部に入るわけにもいかないから、ここに籍を置くことになった。剣道部とか行けば良さそうなのにな。


それからはいつも通り。

呪いのビデオが思ったより本物で。除霊には詩音と睦月がかかりっきりになって、

丈瑠がいつものように死にそうになって。

シズはいつものようにレポートにまとめて

後輩2人は葉月の後ろで怖がって。

詩音と睦月は俺を取り合って。

五十嵐先生と俺でそれを眺めてる。

鈴木くんは耳が聞こえないから、うるさくはないだろうけど。違う声はよく聞こえるらしいから感知特化型の霊能者、なんだろう。詩音と同じタイプ。



―――――――――――――――――――――――




「……とまぁ、こんな感じの一日だったよ。」


寮に帰る。

旧校舎の1番手前、食堂に最も近いあの部屋。

今でも俺の部屋。俺の部屋の、はずなのに。


「おかえり。蓮。」

笑ってる彼女。

変わらない。今までとまったく変わらない日常。違うのは一つだけ。

「ただいま。」

抱きしめる。

そのまま、勢い余ってキスをする。

「こら、葉月と睦月と詩音がいるのに。浮気者。」

「いや、葉月と睦月に関してはちゃんと断ったし、詩音に至っては兄妹だから。血繋がっちゃってるから。」

「いや、葉月はふったけど、睦月は降ってないよ。」

「その理屈で言えば葉月には告白したけど睦月には告白してないよ。」

「自分から告白しといてふるなんて酷いやつだ。」

「騙した優香が悪い。」

「騙された蓮が悪い。」

「俺のこと、嫌い?」

「大っ嫌いだ。永久に近寄らないでくれ」

笑顔で、涙目になりながら言う彼女。

抱きしめられた。

今までとおなじようにとりとめのない話をする。

今までとおなじように笑い合う。





いままでと違うのは、抱きしめたこの体から聞こえる鼓動と、温もりだけ。

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多分だけど友人はナニカに取り憑かれていると思う。 @7TO

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