12話②

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「おはよ、葉月。」


「おはよ、蓮君。なんだか、つかれていない?」


「ああ、実は昨日、眠れなくて。」


「眠れない?なんで。」


「いや。それより葉月。最近変わったこととか、困っていることって、ある?」


「え、変わったこと?とくに、ないけど・・・。」


「ほんと?特に幽霊的なことで、何かかわったこととか、」

「幽霊的なこと?蓮君また、なにかあったの?」

「いや、おれじゃなくて葉月にさ。昨日董哉とあってさ。最近どうってはなしをしたんだ。そしたら葉月はどうだって心配されていたから」

「ああ、そうなんだ。心配してくれているんだ。大丈夫だよ。特に変わりはない。って次あったら伝えといて。私は多分なかなか会わないと思うから。」

「うん、そうだね。そうする。」

・・・思考する。いつもの葉月だ。

特に変わりはない。

困っていることもない。これから、なにか葉月におこるのだろうか。わからない。

「もう、蓮君、難しい顔して、どうしたのさ。」

「いや、葉月が、ふつうだなって。」

「あはは、なにそれ。ところで昨日の五十嵐先生とどこいったの?」

「病院だよ。あ、そうだ、葉月はさ、さすがに『荻野光一』って人、知らないよね?」


「・・・・・え?」

葉月の顔つきが変わった。

「・・・え?」

知っているのか。

「そのひと、なにかあったの?」

「いや、五十嵐先生のお兄さんと同じ事故現場で事故を起こしていた人で・・・」


「そ、・・・そう、なんだ。」

「知り合い?」


「う、うーん。まあ、その、知り合い、かな。」


「どんな?」


「私は当時五歳だったからあんまり覚えていないの。なんだか原因不明の死に方をしたとしか聞いてない。蓮君がしきりに気になってたでしょ。」


「ん?」


「おじさん。」


「へ?」


「わたしのおじさんだよ。その人。」


「・・・・え?」


そこか。そこがつながるのか。


10年前の

8月8日に、あの部屋であったボヤ騒ぎ。その前日、急に子供が飛び出してきたせいで起こった交通事故。

その現場と同じ場所で起こった、五十嵐先生のお兄さんの交通事故。

それから、その日に原因不明でなくなられた葉月のおじさん。萩野光一さん。

少しずつ、ピースがそろい始めている。そう、思った。


「おじさんがどうかしたの?」


「いや、そのことを調べてる。五十嵐先生のお兄さんが死んだ場所と同じ場所で事故を起こしていて、五十嵐先生のお兄さんの死には、関係ないってそんなこと、考えにくい。」

でも、睦月は関係ないっていったけど。


「・・・そう、かな。わかんないけど。」


「ねえ、葉月。言いにくいことかもしれないけど、聞いてもいい?」


「うん?なにを?」


「あのさ。おれ、あの部屋にいたものが何か、ちゃんと突き止めたいんだ。突き止めて、もし幽霊とか悪霊の類いなら、ちゃんと成仏させてあげたい。だから,力をかしてほしいんだ。」

「う、うん。わたしも協力したいよ。」


「じゃあ、聞くね。なんで葉月はやけどしたの?」


「それは、小さいときに鍋を落として、」

「うそだ。」

「・・・え?」

「董哉ほどじゃないけど、嘘か本当かは俺にはだいたいわかるよ。どうして胸の真ん中にやけどをしたの?」

「え、うそじゃないよ。」

「・・・・・そっか。」

葉月は、本当にそう思っているのか、それとも、俺をだまそうとしているかは、判断がつかない。

董哉のように嘘か本当かなんてわからないのだ。だけど,ああ言えば、そうかも、と思わせることはでき、嘘をつく気を少なくさせることができるのだが。

見破ったか、それとも本当にそう、思っているのか。


「はぁ、信じてくれてないね。蓮くん。」


「そんなことない。信じるよ。葉月。」

……違和感。微かな違和感だった。

それが何かわからない。


「さらに難しい顔になったよ、蓮君。大丈夫?」

また、違和感。

「…………うーん、葉月、さっきの言葉、もう一回言って?」


「え?さっきって?」


「さらに難しい……」


「?『さらに難しい顔になったよ』?」

違和感は特にない。ちがう。そこじゃない。

「その後は?」


「あと?え?何?『蓮君』としか言ってないけど……。」

……蓮、君?

それだ。

それ。

「葉月、なんで俺のこと、蓮君って呼ぶの?」


「え?」


「俺のこと、なんで蓮君、って呼ぶの?」


「……え?蓮君は蓮君でしょ?」


「そう、だけど。たまに蓮って呼ぶよね。」


「え?そうかな?意識してなかったけど。」


「本当に?意識してなかった?」


「うん。あ、まさか、嫌だった?」


「嫌ではないよ。でもなんでかな?って。」


「うーん、蓮君は何が言いたいのかな?蓮って読んだ方がよければ蓮って呼ぶよ。」


「んーん。蓮って呼ぶ時はね葉月。結構攻めてる時、だ。意識してないのであればそういうこと、だよ。」


「え?攻める?どういうこと?」


「だから、いつもよりミニスカートにしてみたり、腕を組んでみたり、体を密着させてみたり。」


「え、え、え、わ、わたし!そんなこと、しないよ!」


顔が真っ赤になってる葉月。

ほら、やっぱり。


「覚えて、ない?」


「覚えてない!ほんとに、私しないよ!」


「そっか。」


「え、その、蓮君はして欲しい?なら、頑張って、する、けど……。」


「いや、そういうことじゃなくて。ねえ、今日葉月の家行っていい?」


「え、う、うーん、今日?いいけど……」


「よし、決まり。」


約束したからな。助けないと。

うーんでも、これ、どうやって助ければいいんだろう。


――――――――――――――――――――――――


「と、いうことで丈瑠。どうすればいいと思う?」


「なんだ藪から棒に。どうするって何を?」


「葉月の話。お前、経験、ある、だろ?」


「うん?それはあるけど、なになに、ついにら大人の階段登っちゃう?」


「なぁ、それ、相手、初めてだった?」


「うん?なんで?えぐいこと聞くなぁ。」


「やっぱり初めてって特別かなって。」


「そりゃあそうだろ。特に女子の場合はさ。でも男子の初めてはダサくないか?どうせなら女子にいい思いさせてやりたいっていうかさ。」


「うーん、そっか。男子はむしろ初めてじゃない方がいい、のか?」


「え?いや、今更感あるけどな?他の女子でやってからとかはよくないと思うぞ。付き合ってる相手がいるんだから尊重しないと。」


「いや、まぁそうだよなぁ。で、どうやったら上手くできるんだ?」


「ふぁ?え、蓮、どうしちまったんだよ……。うーん、人によって違うとしか言いようがないからなぁ。まぁでも相手も初めてなんだから初めて同士、探しながらゆっくりやればいいんじゃない?自分本位はダメだけど、相手も初めてなら怖がってると思うから、リードするところはリードしなきゃ。だな。」


「……難しいなぁ。できる気がしない……。」

「最初はみんなそんなもんだって。気負うな少年。」


「ありがとう。」


「幸運を祈る!」

そう言って握手を求めるたける。

握手したら手に何か握らされた。


「わ、え、ち、違う!そういうことじゃなくて!」


訂正する前にどこかへ行ってしまった丈瑠。

キス、の話だったのになぁ……。


思い返してみるとそういう言い方になってたと思って後悔した。



――――――――――――――――――――――――

「今日はお父さん、いないよ。」

「そっか。」

葉月の部屋。ここにくるのは2回目。


隣に座る。

ここにきたのは色々と確かめるため。

俺が考えてる通りなら、葉月は。


「お父さん、今度はいつ帰ってくるの?」

「うーん、わかんない。」

「この前、お父さんと話した時さ、ちょっと気になること言ってたんだよね。」

「え?何?何言ったの?あの人」

「うーん、たいしたことじゃないけど、葉月は変わってるところがあるって。」

「なによ、それ。私からしたらあっちの方が変わってる。」

「そうだね。俺もあんまり初対面の人にそんなこというのは変わってるなぁって思ったけど。」


「そうなのよ。うちの家族は変なの。だって睦月の部屋だってそのままにしておくの、変じゃない?もう、いないんだよ?それなのに、居るって言い張って……。お、ごめん、こんな話気持ち悪いよね。」

「ううん、睦月の部屋、ね。ちょっとその話詳しく知りたいな。」

「……わかった。うちの家族はちょっと変なの。睦月が私が5歳の時に死んじゃった。でも、それを絶対に認めたくないのよ。蓮君、こんな話するの変な子って思うかもしれないけど、信じて欲しいんだけどね。私、幽霊とか見えるようになったの。ほら、これ董哉さんからもらったお守りなんだけど、これを持ってれば大丈夫なんだけど、あの公園の事件以来、視えるようになっちゃって……。」

「そうなんだ。すごいね、葉月。」

「うん、で、わたしにはだからわかるの。あの部屋には、何にも、いない。睦月の霊もあの部屋にはいない。それなのに頑なに睦月は『居る』って。」



「……残念だけど。睦月は、『居る』よ。あの部屋には居ないけどね。」

「……え?」

「ねぇ、葉月。聞きたいことがあるんだ。」

「……なに?」

「なんで、睦月は死んだの?」

「……覚えてないの。」

「え?」

「5歳のことだったし、なんでかはわからない。」

「嘘だね。」

「……え?」

「葉月、それは嘘だ。」

「……なんで?」




「だって、葉月が殺したって睦月が言ってる。」

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