12話①
「おはよう、葉月。」
「おはよう、蓮君。」
朝。一緒に登校する。
「おはよー!わお、朝からラブラブだねぇ!」
「おはよーっす。先行くぞ!」
シズと丈瑠、だ。
そういえば、あれからはれてオカルト研究同好会は研究部として認められた。
まぁ、シズのレポートがやばかったし、他のどの部活よりもちゃんとした活動してると言っても過言ではないから。
社会貢献してるしな。警察に表彰も受けた。
未発見の遺体を発見したってことで。
と言うことで部活になった俺たちには部室が与えられ、予算もでき、
シズは猫宮先輩と共同で、オカルト相談のHPを作りそこに寄せられる相談内容をいろいろな視点から研究するって言う活動内容になりつつある。
シズが、すごいのは無理やりこじつけでオカルトに持っていくのではなく、ちゃんと聞いて調査して、怪しいやつだけ部活で検討するってしているところだ。
「むー、あすみん、ほんとに今日も来ないの?」
「ん?なんで?今日はどこか行く予定か?」
「んーん、マジモンの映像が来たからあすみんにも見せたいなって思ってたの。」
「にゃーこ先輩が俺にも見せるべきって言うならみるけど。俺は霊感ないから見たところでわかんないけどね。」
「なんでそんなにゃーこ先輩の言うことは聞くのかな。」
「だってあの人、本物、なんだろ?オレが憑かれてたのも言い当てたわけだし?」
「そ、そうだね。蓮君、今日は、また、図書館?」
「んーん、いや、今日はちょっと先生とまた出かけてくるんだ。」
「うえ、五十嵐先生とデートか。たまには葉月も連れて行けばいいのに。」
「いや、危ないからダメ。」
「何を先生と危ないことしてるんだか。あの人ほんとちょっと考えた方がいいよね。生徒を危険なところに連れ回すって。」
「ん?あ?ああ、そうだな。いきなり話振るなよびっくりするだろ。」
丈瑠が慌ててる。明らかに聞いてなかったな。
「蓮君、ほんとに大丈夫なの?」
手をぎゅっと握ってくる葉月。
葉月最近、人前とか関係なく手を握ったりしてくる。
いや、まぁ、いいんだけどさ。
ズキッ
この時、俺は葉月のことをもっとよく見ておくべきだった。
俺の根本的な勘違いを、もっとちゃんと問い詰めるべきだったんだ。
この葉月は、いつから葉月なのか。
全然、気にもしなかった。
――――――――――――――――――――――――
「で?今日はどうするんだ、蓮。」
「病院についてきてください。董哉は流石に別件でこれないって。もし、オレが倒れたら董哉に連絡する役で。」
「病院?どこのだ?」
「先生のお兄さんが運び込まれた病院。」
「?うちの兄は即死、だったみたいだが。」
「じゃあ、運転席に乗っていた男の人は?事故で燃えた後に車から出てくる人を目撃したんだ。」
「……?それは、知らない。兄は1人で運転していたはず、だ。」
「……まぁ、とりあえず行ってみて考えよう。俺が見た見た夢がどこまで本当なのか。あの位置から考えられる救急車が入るくらい大きな病院は、ここ、かな。」地図を指さす。
「あぁ。それか、大学病院だろうな。」
地図の上でもう少し行ったところにある大学病院指を指さす先生。
「はぁ、おれ、病院苦手なんだよなぁ、」
「じゃあ先生俺の近くにいればいいよ。絶対安心だから。」
「……頼もしいな、でもお前見えないんだろ?」
「先生も、見えないんでしょ?」
にこってしてあげる。皮肉だ。
「……まぁ、そうだけどさ、」
先生は諦めたように車に乗り込んだ。俺も助手席に乗る。
「で?なんの手がかりがあると思うんだ?」
「それは行ってみないとわからないけど。」
「まぁ、無駄足になることを願うよ。とっても。」
無駄足には、ならなかった。
診療所は大忙しだったけど、診療されるふりをして中に入った。どうされましたとおじいちゃんな先生に聞かれたから
10年前8月8日っていったら目の色が変わった。
絶対何か知ってる人の目だ。
「この日に、近くで交通事故が起きました。救急車できたかはわかりませんが、その反応を見るからに何か知ってますね?何かありましたか?」
「関係ない人には教えるわけにはいきません。」
先生は震える声でこちらを見ようともせず言う。
「こちらは担任の先生の五十嵐先という方です。この先生のお兄さんがその交通事故で亡くなられているかもしれません。何か知っていたら教えてください。」
すると先生は目を見開いて驚いた顔をしていた。
「五十嵐先生の弟さん……?」
「?兄をご存知なのですか?」
「ええ、とてもお世話になりました。職業柄、何かに憑かれることもよくあるんです。特にここはそこそこ大きい病院です。彼の言うように緊急外来も受け入れるし、しかし設備はそこそこしかない。救えない命なんて、日常茶飯時です。」
「それで?」
「彼はよく、私たち医療従事者の除霊をおこなってくれていました。特に私は危うい者に憑かれていたらしく。祓ってもらいましたよ。」
「そのお兄さんは、なぜ事故を起こしてしまったんですか?何か知っていますか?」
「いいえ。しかし、彼は車を運転していて、あの遊園地の前の道で交通事故を起こした、のでしょう?」
「ええ。」
「あそこは、その前の日に同じ場所で事故が起こっています。だから、彼に限ってそんなこと、と思いましたが、連れて行かれてしまったのでは、と思っていました。」
「……え?」
振り返って五十嵐先生をみる。
「い、いや、知らなかったぞ。俺は。」
「その前の日の交通事故というのはどういうものですか?」
「私が対応したからよく覚えています。閉園した遊園地に居るはずがない子供がいると言う噂が流れていました。彼はその、居るはずのない子供を避けた、と言っていました。そして、そのせいでバランスを崩し、車は電信柱に衝突。炎上してしまった。
幸い、炎上した際には車には誰も乗っていなかったから、死人はいなかったが、その次の日、お兄さんが呼ばれてしまったのですね。おそらくそれの除霊に向かったのでは?と私どもは考えておりましたが……。」
「……車に、誰も乗っていなかった?子供を轢き掛けて?」
「おい、蓮。だとしたらあの遊園地に何かあるのか。兄がその遊園地のナニカに、負けた、ということか。」
「……いや、わからないけど。……先生、そのひと、事故を起こした人。どんな子供をみたって言っていました?」
「そこまで詳しくは聞いてないが、走っていたら、急に本当にいきなり、風船を持った男の子が道の真ん中に出現したって言っていたような気がします。」
……風船を持った男の子。そんなバカな。
「その人は、黒いスーツでした?身長は165センチくらい小太り。髭が生えている。」
「あぁ、まさに。」
「名前は?」
「名前?名前はなんて言ったかな。萩野、だったかな?荻野、だったか。いや、たしか萩野光一、とかそんな名前だった気がするが。」
「…………萩野光一。」
誰だ。
全く無関係の人間か?
だとしたらなぜ?
なぜ、夢の中の俺は、萩野光一の前に『居るはずのない子供』として出演しているのだろう。
俺の前世がその居るはずのない子供?いや、時系列が合わない。当時俺はすでに5歳だ。5歳の時に乗り移られた?
いや、だが、俺に乗り移るとか、不可能なはずだ。さわっただけで大抵の霊は消滅する。
俺の力が及びもしない化け物クラスの幽霊だったら、わからないが。
「その、萩野さん、死人がいなかったってことは、生きているんですよね?」
「いや、死んでいます。」
「え?なんで?」
「一応私が、診察をした。レントゲン等もとり、手の骨折以外目立った外相はなかったし、脳のCTRでも、脳内出血などはなかった。しかし、家に帰ってから、原因不明の体調不良、その後、大学病院に搬送され、そのまま帰らぬ人になりました。」
「・・・・それは、次の日?」
「ええ。八月八日。です。間違いない。」
「・・・・・、萩野さんにご家族はいらしたんですか?」
「ええ。奥さんがいらっしゃいました。」
「・・・過去形、ですか。」
「いえ、離婚なさっていたようです。お葬式に参列した際にご挨拶しました。」
「ああ、よかった。どうにかしてその人と話せないかな・・・」
「わたしどもにはどうすることも、できないですね。名前やどこに住んでるかもわかりません。それにもう10年も前のことです。」
「・・・そうですよね。ありがとうございました。」
お礼を言って、先生と病院を出る。
「結局、その荻野って言う人は関係あるのか。蓮、どうする、あの遊園地、見に行くか?」
「いや、危険すぎる。二人で行くのはやめよう。行きと一緒で違う道通って帰ろう。」
車の中で董哉に連絡をする。
「董哉、例の件、話を聞いてきた。どうやら、荻野光一っていう人物が8月8日に大学病院で不審死している。おれより、董哉のほうが調べれると思うから頼んで言い?」
『ああ、わかった。今日はできないが時間がとれたらやっておく。』
「ありがとう。そっちは俺の助けはいらないの?大丈夫?」
『ああ。これは大丈夫なやつだ。詩音もいらない。むしろおじさんにしかできないことだから。』
「なにそれ。逆に気になるな。」
『イケメンおじさんがご年配のマダムの不安を取り除くお仕事だよ。おまえたちには無理だ。』
「さすが日本一多忙な霊媒師。おもてになるね。」
『まあ、大事なことだ。こういうの全部しっかりこなしてこそのおまえたちの力になれるわけだし。』
「わかってるよ董哉。いつもありがとう。」
そういって電話を切った。
ああいってるけど、多分董哉は無理してでも今日中に調べてくるんだろうな。
もう?早、すご。って言ってもらうために命削っているように思う。それは盛大に驚いてあげなければいけない。
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帰ったら、いた。
「ただいま、睦月。」
「お帰り、蓮。」
「なんか怒ってる?」
「うん、わりと。」
「え?なんで?」
「だって、私、ほったらかしだもん。」
「え?むしろ、君のことをさがして...」
「わ、た、し、を、ほったらかし、だもん」
強い口調で言い直す、睦月。
「え、えーっと・・・?」
「ほら、みてない。わたしを。ちゃんと見てよ。」
「え?」
「あなたの彼女は、わたし。」
「あ、ああ。うんそうだよ。むつき」
「じゃない。それは、死んだ姉。」
「え?」
「だから、わたしは、わたしなのに、葉月を見ようともしない。」
「・・・えーっと。うん、わかった。君は葉月。おれは葉月と付き合ってる。それで?」
「うん、私と付き合って、もう2ヶ月くらいたってるし、お泊まりまでしているし、なのに、蓮は私のことをちゃんと見ようともしてくれない。」
「・・・・えーと。」
混乱する。何が言いたいんだろう。俺は葉月じゃなくて睦月を好きになったって、この前本人に言ったのにな。
それなのに、自分は葉月だと言い張って、葉月をもっとよく見ろ?
「・・・なんで君は葉月の部屋に泊まったことを知っているの?君は葉月のなに?」
あの部屋にも、いるのだろうか。というか、葉月のことだけはなぜわかるのだろう。ここにいるのに。
「私は、葉月。そのもの。」
「それは違う。おれは見たらわかる。それに睦月の顔に嘘って書いてある。」
「だから?それでも、私は葉月だよ。」
「・・・本当に何が言いたいかわからない。」
ぷくうと頬をふくらかして怒る睦月。
「じゃあ、一つ質問することを許してあげる。その代わり、私が言うことを必ずして。」
「え?質問?」
「うん。正直に答える。その代わり、はい、かいいえ、でしか答えない。君は、はいかいいえで答えれる質問を一つだけしてもいい。」
「・・・わかった。先に君の言う必ずしなきゃいけないことを教えてくれない?」
「それはだめ。」
「・・・そう、か。じゃあ、質問。」
「うん。」
「君は、五十嵐先生のお兄さんの死に関わっている。」
「ない。」
即答だった。
「え・・?」
意外だった。絶対に関わりがあると思っていたし、その路線で調べれば、なにかわかると思っていたから。
「じゃあ、次は私の番だ。蓮。私を・・・ううん、あえてわかるように言う。いるるかはづきを絶対に助けて。」
「え?」
それもなぞだった。葉月を、何から?
「質問は一つといったよ。ばかだな、そんなどうでも良いことに質問して。次何するべきか、とか、どうすればいいのかとか、なんでも聞けたのに。」
「どうでも、いいこと?」
ぜったいなにか関わりがあると思ったのに。どうでもいいといわれてしまった。
「じゃあ、約束守るまで、私はあなたにあわないから。」
衝撃的な発言をして睦月は部屋から出て行った。
ぽつんと、ひとり取り残された俺。
相変わらず、窓からのぞく月はきれいだった。
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睦月の部屋。
ここは、睦月の部屋。
胸が熱い。
ムーちゃんを握りしめて、この部屋に立つ。
お父さんも、お母さんも、この部屋には入るなと言う。
睦月がいるから。
私は信じられなかった。
だって、睦月がいるはずないんだもん。
睦月は死んだんだもん。
わたしが五歳の時。
今でも覚えている。
睦月が、
いなくなった日のこと。
わたしは、あの公園の一件以来、視えるようになってしまった。
最初は黒いモヤモヤだったそれが、日を追うごとにくっきり、はっきりと見えるようになってきた。
それを董哉さんに相談したら、みえているほうが、霊にとっては用心する対象になる。視えるだけで、とりつかれにくくなる。
といわれた。しかし不安だと話したらお守りをくれた。
お守りは、肌身離さず持つようにしている。
霊がよってきたときは、それをもって、握りしめていると、霊が一目散に逃げていく。すごいと思った。
いま、私はそのお守りを握りしめている。
でも
この部屋には、なにも、いない。感じない。みえないし、感じない。霊がみえるようになった私が、いないっていうんだから
ぜったいにこの部屋に、睦月はいない。董哉さんに聞いてみてもいい。
なのに、両親はいるって言う。
絶対にいる。って。
だから、絶対に入っちゃいけないって。
あろうことか、蓮くんにもそのことを打ち明けていた。
娘が死んで悲しいのはわかる。
でも、そこまで徹底して、いるふり、なんてしなくても良いのに。この家族はおかしい。
絶対におかしい。
好きとか、嫌いとかじゃないって蓮君にはいったけど、この家族はおかしいのだ。
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