11話①

「ん…?葉月、これ、葉月のお父さん?」

さっきのぬいぐるみの写真をみて、指差す。


「うん、そうだよ。」


「そっかぁ、若いね。」


「ん?それはだってわたし小さい時だったから。」


「今何歳?」


「今、38歳だよ。」


「ええ、若くない?うちとか45歳とかだよ?」


「そっか、若いかも。でもお父さんはお父さんだし。」


「まぁ、そっか。カッコいいお父さんだね。」


「んー、わかんない。当たり前だけど。」


「うちの父もかっこいいけどねー。」


「へえ、意外、だな。蓮君そう言うこと言うんだ。」


「うん、家族は好きだからね。葉月は家族、好き?」


「え、ええ、わかんない。普通だよ。好きとか嫌いとかじゃなくない?」


「あはは、まぁね。」


「ねぇ、じゃあ葉月、赤ちゃんの頃の写真でさ、これ、お母さんだよね?でこっちがお父さん。

じゃあ、写真って誰が撮ってるの?」


「……え、それはわかんないな。親戚のおばちゃんとかかな?」


「でも3人で映ってる写真、たくさんあるよね。ほら、これもこの5歳のやつも。しかもこれ、ほとんどこの家の中だろ?この部屋の写真もあるし。」


「あ、そ、そうだね。」


「誰が撮ったの?」


「ん、んーあんまり覚えてない、けど、セルフタイマーとか?」


「そっか。不思議だなって思って。」


「…も、もう、恥ずかしいからアルバム終わり!」

バタバタと慌ててアルバムを閉じ始め、片付けようと部屋を出ようとする葉月。


「もう1人、居るみたいだなって。」


一瞬、

立ち止まる


「もしかして、むーちゃんって子が居たんじゃないの?」


「…あはは!そーかも。うさぎのむーちゃんが撮ってくれたのかもね。」

笑ってそういうと、部屋を出てしまった葉月。


やっぱり、何か、知っている。

俺が考えていることを話して、協力してもらう、か。アレの正体が睦月、むーちゃんなのだとしたら、


…どうなるんだろう。


おれは、何がしたいんだろう。


部屋の窓から見える月を眺めてみた。


答えは、出なかった。



――――――――――――――――――――――


夢。

またいつもの夢だ。

わたしがわたしじゃなくなる夢。

わたしが乗っ取られる夢。

なんで、なんで助けてくれないの?

気づいてよ。それはわたしじゃない。


わたしは、このまま消えてく、のかな。


怯えた顔したわたしが水面にうつる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目が覚めた。

最初に見えたのは、顔。


「お、お、おはよ。」



「…おはよ。」



最悪に不機嫌な葉月の顔。


そりゃぁ、そうだ。


「ご、ご、ごめん、」



「………なに、が?」



「いや、その、あの、先に寝ちゃって…」


そう、昨日、葉月がアルバムを元に戻しに行ったとき、夜空を見上げてから、



記憶がない。


寝てしまっていたのだ。


先に。



夜中に起こされるまで。


ここは閑静と言っても市街地。


普通に霊はいる。


明け方になるとセルフ除霊でアラームがかかる。



4時には起きた。



起きてびっくりした。



俺がベッドの真ん中で寝てて、葉月が窮屈そうに、俺とベットとぬいぐるみの間に挟まれている。



柔らかいものを触ってると思ったら、



ほっぺだった。


結構

顔が潰れた状態で寝ている葉月。



か、かわいそう…


なんてゆうか、いろいろと頑張ってたのに…。


ただ、結構ギリギリだったのだ。わかって欲しい。昨日は相当ハードだった。


五十嵐先生兄の行方を追っていろいろやったり、葉月のフリした何かと朝まで喋ったり。



なんならまだ眠い。眠いが、こんな状態の葉月を見てしまうと、ベットでは寝られない。

1番いい大きさのむーちゃんを借りて枕にして、ベットの下で寝た。


で、

今起きた。


葉月がベットから俺を見下ろす。


すごい顔で。


「お、怒ってる?」


「いや、別に。」


「ご、ごめんって。」


「だから、怒ってないって。」


いや、顔が。マジで怖い。


「顔が、怖いって。」


「…、わたし、そんなに魅力ないかなぁ…。」

俯く葉月。

悲しんでる感じをだす。



「う、」


「せっかく勇気出してお泊りしてかない?なんてすっごく恥ずかしい思いして言ったのに…。」


「うぐ、」


「わたしは、蓮とならって、すっごく恥ずかしいけど、勇気出して、でも、蓮は…」


「いや、いやちがくて、そうじゃなくてめちゃくちゃ疲れてて!」


「疲れてるって普通に遊んだだけじゃん。なんでそんなに疲れてるの?」


「前の日!と言うか、昨日の話だけど、すげえ濃い心霊スポット?というか、そういう怪しいところ行って!死ぬ思いしたというか、色々大変で!さらにその後もずっと眠れなくて!朝まで全然寝てなくて3時間くらいしか寝てなかったからの打ち上げだったから!」



「それ、昨日言ってた部活いけなくなる理由?」


「う、うん…。」


「危ないところに言ってたの?退院したばっかりで?」


「その。入院しなきゃいけなかった原因、調べてて。」


「ふーん。それで朝まで、ふーん。」


「ほ、ほんとだよ?五十嵐先生に聞いてもいいよ?死ぬ思いしたのは先生だし…。」


「先生には言ってわたしには教えてくれないの?」


「ぐ、いや、先生は当事者なんだ。先生のお兄さんの事故現場に行ってた。」


「先生のお兄さん?それが蓮の入院の原因?」


「いや、まだ、わかんない。でも、相当危険だってことは昨日先生が死にかけてわかったんだ。だからみんなを巻き込みたくない。」


「ふーん、」


「ほんと、だって。」


「いや、信じてないわけじゃないよ。で、寝ちゃった、んだね。」



「うん、面目ない。」


「つまり、わたしが魅力的じゃなかった、わけではない?」


「うん!それはもう!間違いなく!」


「じゃあ、さ。」



「うん?」


「いま、もう寝て体力回復、してる、よね?」



「……へ?」


「今、襲わない、理由は?」

 

こ、これは…


逃げ道が、ない。



いや、そもそも逃げる必要はあるのだろうか。

なんだか良くわからない。


俺と葉月は付き合っている。


高校生ということを差し入ひいても、しっかりちゃんと気をつければ、


いけないこと、ではない、気が、する。


ただ、


昼間っからっていうのは


あれだが。


二度寝はめちゃくちゃ寝てて。もう11時を回ろうとしている。

お日様は結構な高い位置にいるが。


ええい、ままよ!


がし!



葉月の両肩をつかんだ。


涙目になってる葉月を一度ぎゅっと抱きしめる。


「きゃ」



ズクン



なんだか、胸の奥がいたんだ気がした。


そしたら


なんだかどんどん、いけないことをしている気分になってくる。不安になってくる。


なんだ、これ。

何が俺をそうさせる。


がばっ


葉月の顔を見る。




葉月は一度俺の方を見ると、


真っ赤な顔をそのまま


目だけ閉じた。


何かを待っているように。

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