10話②






起きたら昼だった。


部屋には居なかった。


着信が凄いことになってた。


「おはよう、董哉、どうした?無事?」


「あぁ、俺は無事だ。お前は無事か?」


「うーん。まだ寝不足だけど、とりあえず無事。」


「そうか心配した。心配性ですまんな。」


「いや、俺も。いつも、心配させてごめん。」


董哉に昨日のこと、言わない。そう決めていたから。

「うん?親は当たり前に心配するもんだ。ところで一応本家に連絡は入れておいた。が、まだ、判断はできないって言ってる。ぶっちゃけ、俺かお前が死なないと動かない、気がするが。どっちかが死ねば動いてくれると思うぞ。まぁ、ちょっと保険ができたと思って楽に行こう。」


「そう。死ぬ気はないけどね。」


「俺もだわ。まだまだお前たちと幸せに生きたい。」


「幸せ、か。」


「うん?俺はお前たちが生きてるだけでも幸せだからな?」


「なんだよ気持ち悪い。」


「うん、それでいい。じゃあ安心したから切るよ。また進捗があったら共有しよう。」


ガチャ。


本当にあの人は子煩悩だ。


日本一の霊媒師との評判もあり、その筋の依頼を一手に引き受けてる董哉だ。他にも抱えてる案件はたくさんある。にもかかわらず、自分のことを最優先に考え、心配し、相談に乗ってくれる。


どれほど自分がたいへんでも、だ。


ラインが鳴り響いた。部室、集合ってシズから。


まぁ、このまま部屋にいても、暇だし、動こうかな。あとしばらくいけなくなるって伝えないとだし。


そう思って着替えて部室に行った。




「テストも終わったし、パーっとパーティーしない?」


シズの提案だった。


「カラオケ行って、ボーリング行って、スポッチャで遊んで、ビリヤードとかダーツとか、一日中ハメ外して遊びたい!」


「賛成!!」

タケルが言う。


「にゃー子先輩も強制参加だから!」


「……」


「いるるんは行くよね?」


「う、うん。」


鬼気迫る感じのシズ。


「それと、あすみんの退院祝いもかねてるんだから!絶対参加!」


「お、おお。」


正直ちょい体力辛かったが。まぁ半日くらいなんとかなるし、なんにもしなかったら寝てリズムが狂うだけだ。こんな日も良いだろう。


なんだかんだにゃー子先輩がついてきたのは結構驚いた。


カラオケとかボーリングとか、スポッチャとか、実はあんまりきたことがない。カラオケはこのまえのあれが人生初の今日2回目だ。

その他は人生初。


というか全てをこの商業施設でできるなんて凄いところだな。


ボーリングもビリヤードも何もかも全てそつなくこなす超人タケル。

シズも全てやったことあるみたいだったが後3人は初心者丸出し。

安心した。

「ていうか、葉月もこういうの初めてなの意外だわ。」

ダーツをやりながら話す。

全然狙ったところに行かない。

「そう?」

休日だから、だろうか。胸元が結構大きく空いた服を着ていて、近くにいると角度的に目がいってしまう。

男の性だろう。


世間的にも彼氏なんだから問題ないっちゃぁ問題ないが。


「もう、次、蓮の番だよ!」


手を引かれる。

「お、おお。」


ちょっと照れながらも自分のー投に集中、する。


むに。


ぬ。


集中できない。


矢を持ってない方の腕が、


掴まれている。


そして、柔らかい何かが押しつぶされている、気がする。


平常心平常心。


大丈夫。鼻血だって出ていない。


投げた。


的に当たらなかった。


「あー!やった。わたしの勝ち!」


「おお、じゃあどべ決定戦はにゃー子先輩と蓮だな!」

「…お、おう。」


流石ににゃー子先輩には勝ててよかった。

にゃー子先輩に負けてたらどんな罰ゲーム、とかやらされてたか。

ちなみに一位はタケル。ドベのにゃー子先輩は、ジュースを奢る、とかやらされてた。

もし俺が負けてたらどうするつもりだった?って聞いたら、好きなやつに全力キスって言われた。

勝ててよかった。本当に。


カラオケ。また、葉月にあの曲歌おうよって言われたけど丁寧に断っておいた。


隣に葉月が常にくっついている。


今日はどうしたのだろう。人前でそう言うことするの苦手なタイプだと思ってたのに。


「葉月、今日はなんかいつもと違うね?」



「そう?いつもと同じだけど。でも、蓮と一緒にいれるのがうれしいから、気合は入ってる。」


「そ、そうか。でも、ほらみんな見てるし。」


圧倒される。


いつもよりだいぶ近いんだが。

基本どこか、触れてるし。くっついてる。柔らかいなぁ。女の子って。


いかん。平常心。とりあえず鼻血は大丈夫だ。


「じゃあ、カラオケもそろそろ疲れてきたし!最後はやっぱりこの2人っしょ!ラストを締めくくれぇ本日主賓のあすみん!」


「え?」


勝手にあの曲入れられてた。


「さっきからイチャイチャしすぎだぞお前ら!あすみんが断ってたけどそんなの断らせねえよ?ほら、息のピッタリあったハモリをおととげ!にゃー子先輩もびっくり間違いなし!ほら!歌え!」


曲が始まってしまった。


ちょっと、疲れてる、けど、だから、まぁ多分この前みたいな影響は少ないだろう。


歌い切ったらやっぱり静寂が訪れた。


うーん、逆に良くなかった、か。

やっぱりこれから歌は控えよう。


カラオケを終えて、ファミレスで晩ごはんを食べた。その時にも、話題はその話で持ちきりだった。


「いやぁあ、やっぱり圧巻だったねえ、あすみんの無駄な歌唱力!」


「あぁ、マジでミリオンって感じの歌声だよな。本当にやろうぜ。狙えるぜ?なぁ頼むよ蓮〜。」


「もう二度と歌わないと決めたよ。」



「えええええもったいない!もったいないお化けが出るよ!」


「ほんとだよ!勿体なさすぎてお前の声帯奪いたいくらいだ!だって、あの、あの、にゃー子先輩が、涙したんだぜ!?」


「………」指をさされ、嫌な顔をするにゃー子先輩


「にゃー子先輩、蓮の歌、やっぱり力があるんですか?」


ふいっ

あからさまに顔を背けられてしまった葉月。


…その返答は良くない、非常に。


案の定、

「やっぱり……」って葉月が考え込んでる。


「ね、それで、今日は楽しかった、かな?あすみん」


「ん?うん、楽しかったよ。初めてやることばっかだったけど。」


「そっか。よかった。」

にっこり笑うシズ。

なんか、いつもと違うと言うか。こんな笑い方もできるんだな。


タケルがこづく。


「あぁみえて、結構気にしてたんだ。お前の入院。明らかに普通じゃないから、自分のせいで悪いモノがついたんじゃないかって。ほら、あの公園の件でさ。」


あの公園。シズは御神木に宿ったと思われ五十嵐先生の姿をしたナニかを見ている。タケルも。それは、たしかに恐ろしいかもしれない。


「それで自分じゃなくて人の心配ができるのか。凄いな。シズは。」


「ん、あぁ。大丈夫。ちゃんと自分の心配もだいぶしてるぜ。」


ん?って考えてるとタケルに

ウインクされた。


良く見ると袖を引っ張られてる。シズに。


「じゃあ、わたしたちこっちだから。」


引き取られて行くタケル。俺にしか見えない角度で、口パクで、『な?甘えん坊だろ?』って言った。


「あ、ちゃんと葉月を家まで送ってってあげてよ!彼氏なんだから!」


「ん、あぁ、わかったよ!」

そうかそうだな。夜も遅いし、送って行った方がいいな。


「!」

なぜか顔を赤くする葉月。

俺が彼氏と大声で言われるのは恥ずかしいのだろうか。


「…、じゃあ、いこっか。」


葉月が言う。


そういえば、葉月の家って初めて行くな。



「うん。ここからどれくらいかかるの?」



「うーん、電車で30分くらいかな。」


「そっか、了解。」


2人で電車に揺られながら、言うの忘れてたことを思い出した。


「あっ、」


「うん?何?」


電車で、結構空いてるのに、こんなに近くにいる葉月がびっくりしてる。


うん、今日は近いな。


いろいろ当たってる。


「いや、言うの忘れたと思って。」


「何を?」


「おれ、しばらく部活出れないと思うんだよね。」


「えっ…なんで?」


「ちょっと、いろいろ。」


「いろいろ?」


「うん。」


「教えてくれないの?理由。」


「ちょっとまだいえないかな。」



「なんで?まだってことはいつか聞けるの?」


「解決したら、というか、葉月の力が必要になったら聞く。と思う。いまはまだ、その時じゃない。かな。」


いいながら思う。


「あ、今日、葉月の家、ちょっとお邪魔しても良いかな?」


「え、あ、うん、いいよ。」

顔が真っ赤になる葉月。


なんでだろう。


電車から降りて歩いて10分くらいのところに葉月の家はあった。



「…超豪邸だね。」


「そうかな?まぁ、ちょっと大きいとは思うけど。」


蓮の家もなかなか豪勢だとは思うが、ここまでではない。


むしろ、本家に近い。霊能者の総本山的な本家だ。まぁ、日本唯一とは言わないが5本の指には入るだろう。


本家はこれくらいの大きさだ。最も本家は純和風。この家は純洋風ってかんじだけど。


メイドさんとかいそう。


「あ、あのね。今日、誰もうちにいないんだ。」



「そっか。」


「明日も、学校、休みでしょ?その、よかったら、泊まって行かない?」


顔真っ赤な葉月。


あぁ、だからか。


なんかもう普通に一緒の部屋で寝てたつもりだったし、いまさらドキドキしない、が。それは俺だけだろう。


今日の葉月はよっぽど積極的だな。


それにしても、今日、か。


16歳。俺。


卒業、するのか。


うまくできる、だろうか。

予習とかしておくべきだったな。


「いいの?」


「…うん。」

顔真っ赤で

俯いたまま頷く葉月。


こういう仕草、似てるな。

  


葉月の家に入ると、いきなり2階の部屋まで通された。


「ちょっと待ってね、お茶持ってくる。」


「あ、お構いなく。」


葉月の部屋は結構ぬいぐるみとかたくさんおいてあって意外だった。

質素な感じのイメージだったから。 ベットにたくさんおいてあるぬいぐるみ。特に気になったのはひとつだけボロボロのうさぎのぬいぐるみ。


枕の中央に陣取っている。


お気に入り、なのかな。

名前も知らないキャラクターのぬいぐるみが多い。


「はい、お茶。どうぞ。」


「ありがとう。」


「いま、お風呂入れてるから…、」


「あ、でも服どうしようかな。まぁ。これ着ればいっか。」


「お父さんのパジャマでよければ貸すよ?」


「ううん、申し訳なくない?」


「ううん、全然家にいないし。パジャマもたまには使ってもらわないと可哀想だし。」


「そ、そっか。お父さん、何してる人?」


「とりあえず転勤ばっかで何やってるか良くわからないの。今はフランスにいるんだっけな?」


「すげぇ、海外か。お母さんは今日はいないの?」


「うん。お母さんは友達と旅行に行ってる。」


「そうなんだ。」


「蓮君のお父さんは?」


「うん?」


「なにやってるの?」


「うーん、ちょいと特殊な職業、かな。」


「ふーん。お母さんも?」


「いや、母は専業主婦だよ。ちょっと心病んでるけどね。」


「えっ」



「あ、いや、大したことじゃないんだけどね。」



「…そう、なんだ。」


気まずい沈黙が流れた。

えーっと、家族の話、そう。それを聞きにきたんだ。


「あ、ねぇ、葉月。葉月って一人っ子?」


「うん、一人っ子だよ。」


「え、」


「ん?」


「いや、年の離れたお姉さんとかいない?」


「いないよ。」


「じゃあ従姉妹とかは?」


「なんで?いないよ?」



「…そ、そっか。」


そんなはず、ない。と思ってしまう。

だってあの部屋のボヤ騒ぎがあった日。五十嵐先生のお兄さんが交通事故を起こした日が11年前の葉月の誕生日。そして、あの部屋にいるナニかは、葉月と良く似ている。瓜二つと言っていいほど。



 「ねぇ、じゃあ葉月さ五歳の誕生日って覚えてる?」



「え?んー?覚えてないよ。逆に蓮は覚えてるの?」


「いや、覚えてない、ね。はは。じゃあさ葉月の小さい時の写真とかないの?」



「え、ええ…なんか、恥ずかしいな。でも、ちょっと待ってて。多分探せばあると思うよ昔の写真。」


一階に降りて行く葉月。


ベットに腰掛けるのはなんとなく気が引けたので、床に座る。


ぬいぐるみ達と目が合う。


やっぱり真ん中のうさぎのぬいぐるみが気になる。

ちょっと触ってみてもいいだろうか。

もしかしたら断末魔の叫びが聞こえるかもしれない。


人形に憑くことはたまにある。


でも、触ってみたけど特にそういうものは感じなかった。気のせい、か。一応ペタペタ触っておいた。異常はない。


「ん?これ、なんか書いてある?」


うさぎのぬいぐるみについてる黒ずんだ首輪。そこに掠れ掠れになっていて読みにくいが何かかいてあった。


「……うーん、なんだろ。むー?」


「お待たせ、あったよ。あ、それ、へへ、ぬいぐるみ、好きなんだ。」

照れて笑う葉月。


「あ、ごめん勝手に触って。これだけちょっと古いなって思って、」


「えへへ、それは小さい頃からのお気に入りなの。ほら、みて。これわたし。それこそちょうど5歳くらいかな?誕生日プレゼントでもらったんだっけな?」


「あ、ほんとだ。小さい葉月、めっちゃかわいいね。」


「そ、そうかな…照れるな…。ねえ、床に座ってないでベットに座っていいよ?一緒にみよ。」



「あ、ありがとう。」

葉月の隣に座る。


アルバムをペラペラめくると小さいころの葉月がたくさんあった。

「仲良いんだね、葉月。写真たくさんあるね。」

赤ちゃんの頃の葉月。

幼稚園、小学校、中学校。



「あ、この中学の時の卒業式?すごい最近じゃん。やっぱり葉月が卒業生代表だったの?」


「うん、そーだよ。これ、卒業生代表の挨拶してる時。まぁわりといい子だったしね。」


「ふーん、そうっぽい。外面いいからね、葉月。」


「え、ちょっとそれどう言う意味?ひどい〜!」

ポカポカと俺を叩く葉月。


「ね、この人形、なんて書いてあるの?むー?」


「ん?あ、えーっと、うん。むーちゃん。」


「むーちゃん?」


「こ、この子の名前!恥ずかしいなぁ、もう。」


「そっか。むーちゃん。むーちゃん、ね。もしかして、睦月だからむーちゃん?」



「へ?え、あ、う、うん。良くわかったね。」


「葉月ははーちゃんって呼ばれてた?」


「え、ええ。お母さんとかは、そう呼ぶよ。恥ずかしいからやなんだけどさ。」


「そっか。」


やっぱり、知ってる。葉月は何かを知ってて隠してる。


なんとか手がかりを見つけないと。

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