9話①

「来週の退院な、葉月さんもきてくれるって。」


「ええ、いいのに。ただ退院するだけで大袈裟な。」


「これからだが、本当にあの寮に戻るのか?」


「お前がやらせたこと、だろう?俺にアレをなんとかできないかって、あの部屋にしたんだ。わざわざ。」


「う、、1日で終わると思ったんだよ。」


「やれやれ。全く持ってお前の勘は鈍ってないか?董哉。日本一の霊媒師が聞いて呆れるぞ。」


日本一の上が少なくとも2人いる。


「かえす言葉もない。」


「それで、詩音の調査でもあの部屋はもう、何もないんだろ?」


「あぁ。何もない。」


「董哉もそう思った?」


「あぁ。」


「なら俺はあの寮で過ごす権利がある。大丈夫なら、過ごしていいだろうし、2人が感知できないほどのナニかがあるなら俺がなんとかするしかない。違う?」


「なんでそこまでこだわる?」


「途中やり、が一番嫌なんだよね。」


「まぁ、お前らしいな。あの時も、わざわざトンネルの中をジグザグに歩いて触ってないところがないように全て除霊してきたもんな。スイッチが入ると怖いんだお前。容赦がない。視えない分余計な。あのあと数日鼻血止まらなくて怖かったんだぞこっちは。」


「…鼻血?そんなこと、あったっけ?」



そういえば葉月のフリしたモノと初めて出会った時も、鼻血が出てたな。



…トンネル級のモノってことか。



「無理だけはしないこと。約束できるか?」


「わかったよ。」



「じゃあ、私はそろそろ行くよ。そのうち詩音が来るかもしれんが。まぁ、だいぶ元気になってるし大丈夫だろ。」


「げえ、隠れよ。」


こんな時、詩音がきたら何されるかわかったもんじゃない。



高校は中間テスト週間だそうで、来週テストだ。退院後すぐ、か。

やばいなぁ、なんにもしてないからテスト点ピンチかもしれん。



葉月に教えてもらわないと。

シズとか学年トップ取りそうだけどな。


―――――――――――――――――――――――



「あなた、だれ?」


知らない。私はこんな人、知らない。


私の顔したナニかが、私の中に入ってこようとする。


胸の火傷から。



燃えてる。私が燃えてる。アツい。アツいよ。



「やだ!たすけて!蓮君!」


手が、私の中へ。



アツい、アツい!



すごくアツい。



火傷が、



痛くて痛くて


泣けてくる。



なんでこんなに苦しいのか。


なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。



なんで、おまえだけ



なんでおまえはこんなにもきれいで


なんで私は



いつまでももえている。


復讐だ、



呪い殺せ


恨め、   



怨め



焼き殺せ



私以外の全てのものが



私よりも不幸になればいい



私よりも苦しめばいい



私が感じてるこの苦痛が



苦悩が


痛みが



激痛が


全て可愛いもんだと鼻で笑えるくらい



苦しんで苦しんで苦しみ抜いて



「いやぁあああああああああああ!」




ガバッ




起きた。



冷や汗で全身がビチャビチャだ。



起きた、はず、なのに。




体が動かない。


背中合わせに何かいる。



顔も動かせない。視えないけど、わかる。



さっきのやつだ。


きっと、


さっきのがいま私の後ろにいるんだ。背中合わせで体操座りしている。



助けて、助けて。



「たすけて、蓮君。」



私が言いたかった言葉を、背中のソレが言った。

まさか、とおもった。そんな恐ろしいことが、いま起きたのか。




ニヤぁぁぁあ

っと口角を不自然なほどあげる、『わたし。』


私の口が勝手に。

そんな、そんなことって。



「嫌だ。」


背中合わせのソレが言う。


「私を取らないで。」


声が大きくなる。



「蓮君を、取らないで!私から!蓮君を!」


背中合わせソレが叫ぶ。


「「蓮はわたしのだ!」」


背中合わせのソレの口も、私の口も、同じことを叫んだ。




私は恐ろしいくらいニヤついた顔。ソレは恐ろしいくらい怯えた顔。





私は意識を失った。


―――――――――――――――――――――――

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