8話②
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付き合って、一月くらい経った。5月。中旬。
もう、付き合い出して1ヶ月も一緒にいるんだから、もう少し先に進んでもいい、気がする。手を繋ぐ、から先に、、、。どうやって進めばいいかも皆目わからない。
それにこの部屋で葉月はかなり接触を嫌がってる、気がする。
いや、嫌がってる場面に出くわしたことは無いんだけど、学校とかでは2人っきりになる瞬間があれば葉月の方からむしろ手とか繋いでくれるのに。この部屋では絶対葉月から手とか繋いでくれない。っていうかこの部屋で手とか繋いだら自分を抑えれる自信がない。
だからなんとなく自分から触りにいくのは気が引けていたんだけど。
もう、1ヶ月、たった。
もう、いいんじゃないか。
自分から葉月の隣に座る。
よし。この後は、手を握って。それから、そっと腰に手を回して。それで抱きしめて、ぎゅっとする、それくらいはもう、してもいいだろう。
いい匂いがする。
ぎゅっとして、それから、勢い余って、キス、とか。
葉月が、ドアの外を見ている。
「ん?どうしたの?葉月?」
「別に。ねぇ、私のこと、好き?」
「わ、なんだよ急に。好きだよ。」
「でも学校とキャラが違うって言ってたじゃん。今はどっちの葉月が好き?」
「は?どっちも葉月だろ?どっちも好きだよ。」
「実は別人なの。どっちが好き?」
「は?」
「いいから教えて。」
「えっと。んー、どっちが好き、とかないけど。気が楽なのは今の方かな。」
「そっか。」
なにか悲しそうに言う葉月。
あれ?まずった?
「…、あのね。」
「うん?」
「もう、ここに来ない。」
「え?なんで?」
「これ以上ここにいたら、蓮君に甘えちゃう。」
「へ?」
「じゃあ、また学校でね。」
がちゃ、ぎーーーーー
ばたん。
「ちょっ!どう言うことだよ!」
急いでドアを開ける。
こう言うときに限ってたてつけがわるい。
ぎ、ぎ、ぎ、ぎーーーーー
扉の外には誰も居なかった。
「え、ちょっと葉月?」
廊下に出て探していたら、先生が走ってきた。
遠くから。
そんなに走らなくてもいいのに。
ぜいぜい言ってる。
「レンーーーーー!!れん!レン!」
「へ?なに?何?先生?」
ドドドドドドドド、
がしっ
走ってきたと思ったら肩を掴まれた。
「無事か!?」
「は?」
「ちょうしがわるいとかないか?」
「ないよ。なんで、」
先生が
指を刺す。
壁に小さな穴が空いている。
は?
「あれ!」
「うん?なに?」
「あれ、カメラだ!猫宮の!」
「はぁ!?」
「おまえ、いま、部屋で!誰かとしゃべってたな。携帯見せろ。」
「は?携帯?なんで?」
「使えない!やっぱり、俺のもここだと携帯使えないんだ!」
たしかに。いつのまにか電源が落ちてる。
「誰と!誰と喋ってた!?」
「誰って葉月だけど?」
「なんで葉月としゃべれるんだ!?」
「え?」
「葉月がここにいるわけないだろ!今何時だと思ってる?23時だ!」
わぁ、もうそんな時間か。
「今葉月は家で寝てるよ!」
「…は?」
いや、だって葉月さっきまでいたぞ。
喋ってたし。普通に。ずっと。
「親御さんに一応確認してある。葉月は、家で自分の家で、静かに寝てるってよ!」
「は?」
あたまがグワングワンする。
そんなはずない。
『実はべつじんなの。』
え?
先ほどの葉月の言葉が頭の中でぐるぐる巡る。
いつから…?
そんな、、、
最初、から?
目の前が真っ暗になった。
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俺が出会った葉月は、学校で出会った葉月と別人だった。
それどころか、部屋にいる葉月は………
部屋からでていったはずの葉月は、猫宮先輩の盗撮カメラに映っていなかった。らしい。
正確に言えば、
葉月が出て行った瞬間だけ、
画像がバグって見えなくなってた。
そして、今。携帯の電源は普通につくらしい。俺の部屋でも。
葉月を名乗るモノが、いる時だけ、だ。
妹から電話がかかってきた時からだ。
あの時、携帯がバグる音がした。
何より、あの時の葉月は、
携帯を触ろうとしなかった。
もっと正確に言えば、
あの葉月は
俺に触ろうとしなかった。
俺が悪夢でうなされてる時も
おれをゆすって起こすことはしなかった。
棒でつつくことが一度だけ、あった。
何度も何度も思い返してみる。でも、
俺はいちども、
葉月に、葉月と名乗るモノに、あの部屋で、触ってない。
だいたい、葉月、と言う名前も、
自分で言ってない。
俺に言わせた。
下の名前で呼んでよって。
葉月じゃない誰か。あれがいた時だけ夢を見た。悪夢を。
あの部屋に来て、俺に悪夢を見せていたのか。
「蓮、蓮!」
父親の声がした。
「董哉…?」
「良かった起きたな。」
「董哉、おかしい。おれ、おかしいよ。」
「あぁ、ここは病院だ。あの部屋じゃない。大丈夫だ。」
「あの部屋?あの部屋はなんか変なの?」
「大丈夫だ。今は何ともない。」
「いまは?」
「心配していたんだ。詩音に聞いた。あの部屋での電話のこと。とてつもないどす黒い何かが潜んでるって詩音が言っていたから気になってはいたんだ。」
「『とてつもないどす黒い何か』?」
信じられない。
あの、あの葉月が、そんなモノ、だなんて。
「なんで?何で俺に見えるんだ?」
「そこがとても、不思議だ。お前が葉月だと認識していたモノはな。私たちでも視えなかった。詩音の言うように、どす黒い何か、としか認識できなかった。」
私たち、
詩音も、か。
「記憶を視たの?」
「あぁ。」
「詩音も?」
「あぁ。それと、お前。気づいてないか?お前の症状だ。かなり悪い。右半身が麻痺してうごかない。」
「は?」
いまは、そんなこと、問題じゃないんだ。
問題は葉月。葉月は無事なのか。
「葉月さんは無事だ。あの子は今回の件、ほとんど関係ない。」
「ほとんどってどう言うこと?」
「お前に取り憑いた何かがお前が望む形になって出てきたんだろう。」
違和感。董哉の言うことを素直に受け取れない。
「取り憑いた?」
「あぁ。」
「じゃあやっぱり、あの葉月は」
「葉月じゃない。学校の隣の席の葉月さんが本物だ。」
「嘘だ。」
「蓮…。」
「嘘だ、嘘だ嘘だ。」
頭を抱える。
そんなはず、ない。あれが葉月じゃないだなんて。
そんなはず、だって、だって俺には視えない。俺は、視えないんだ。
そのはずなんだ。
あの時だって、カラオケの時だってみえなかった。
あの時だって、公園の時だって、みんなには視えても俺だけは視えなかった。
その俺が、葉月の形をした何か、なんて曖昧なモノ。視えるわけがない。
父にも妹にも視えないモノが、視えるわけがない。
思い返しても、葉月、だ。
どこからどう切り取っても、葉月、にしか視えない。
だいたい、だいたいだ、
俺は、
おれは葉月に
学校で隣の席になった葉月に出会う前に、
葉月にあってる。
俺の部屋で。
胸の間の火傷。あれを見てしまったのは初めてあった時だ。
あ、そうだ。あの火傷だ。あの火傷が葉月にあるか聞けば良いんだ。
「葉月に、葉月に会いたい。」
右手が効かない分、左手で顔や頭をガシガシやりまくってる。
自分でも、正気じゃないと思う。
でも、すぐ会いたい。あって確かめたい。
「董哉、頼むよ。葉月に会いたいんだ。」
「…俺が、いてもいいか?」
「何でも良い。早く、早く会わせて!」
「…わかった。実は、外で待ってもらってる。」
そういうと、董哉は廊下に出て行った。
程なくして葉月がきた。
すごく、心配そうな顔。
「蓮。大丈夫?」
恐る恐る話しかけてる葉月。
「あぁ、ごめん、心配かけたね。」
にこやかに言う。
でも右側が笑えない。左側だけ表情が動く。それで、それだけで大丈夫なんて程遠いことが伝わってしまった。
悔しい。でも、今はそれどころじゃない。
「葉月、胸を見せてほしいんだ。」
「へ?」
「胸をみせて!」
「は?」董哉も驚いてる。
でも俺には余裕がない。
「お願い!どうしても必要なんだ!」
「え、ここで?」
「おいおい、俺もいるんだぞ?」
「いいから、早く!」
「……錯乱、してるな。すまない葉月さん、時期尚早だったみたいだ。もう少し時間をおいて冷静になったらまた面会を…」
枕を投げつけた。
「いいから!だまってろ!」
明らかに正気じゃない。
「お、おい、落ち着け蓮。」
「…董哉さん、その枕で顔、隠してください。」
葉月が言う。
「え、」
「明らかに普通じゃない。蓮君。だから、言うこと聞きます。恥ずかしいから董哉さんは見ないでほしい。」
「な、わ、わかった。」
そういうと、服を捲し上げた葉月。
その、下着の真ん中に
「あった、やっぱりあったよ。」
はぁぁぁあーとため息をつく俺。
良かった、やっぱり、葉月だった。
「ありがとう葉月。もう、いいよ。」
服を下ろした葉月。涙目になってる。
「火傷、のこと?」
「うん。」
「なんで、知ってるの?」
「見たんだ。初めて葉月が俺の部屋にいた時。」
「私、じゃないよ。」
「え?」
「私、蓮君の部屋行ったことないよ。」
「でも、じゃあ何で火傷があるの?」
「これは小さい頃に怪我したの。私が水曜日に病院に行く理由でもあるの。」
「…でも、おれ、今喋ってる葉月に会う前に、俺の部屋に出てきた葉月に出会ったんだよ?」
「どう言うこと?」
「だから、アレが葉月のふりをするっていうのは無理なんだ。さきにアレに出会ってるのに。」
涙目になってる俺。
「やっぱりまだ、錯乱してるな。すごい表情だぞお前。やっぱりしばらくはやめておこう。葉月さん。もうちょっと待ってもらって良いかな?とりあえず今日は帰ってもらっても。」
「…わかり、ました。お大事に、ね。」
「まだ、混乱してる、よな。今詩音が部屋を調査してる。
おれはお前の看病だ。逆がいいか?でも、お前に手に負えんモノを俺が調査したら俺の身が危ない。詩音の方が俺より上だ。詩音でも危険だが俺よりは大丈夫だろう。」
「…わけわかんない。わけわかんないよ。」
混乱してる、そりゃするよ。だって、
どこから、
どこまでが、
「まぁ、とりあえず寝ろ。多少はスッキリするかもしれん。」
そういうと手をかざして眠気を誘発する董哉。
無理やり、だが、寝かされた。
意識は深い闇へと落ちて行った。
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6月になって梅雨入りし、雨の日が続く。
毎週水曜日
私はお見舞いに行く。
董哉さん曰く、蓮君は、取り憑かれていたそうだ。
私のフリしたナニカと部屋で喋っていた、らしい。
1ヶ月もの間。
それで右半身が麻痺状態になってしまった。
もう少し気づくのが遅かったらもっとひどいことになっていたかも知れないという。
全然気づかなかった。
1ヶ月も、ずっと一緒にいたのに。んーん。その前からずっと。
「こんにちは、蓮君。具合はどう?」
「あぁ、葉月。順調だよ。もう、来週には行けるかな。」
「ほんと?大丈夫?」
「うん、お医者さんも、董哉もいいって。」
「そっかぁ、良かったぁ。」
そのあと、私たちは1週間であったことをお互い報告している。取り留めのないこと。
ラインとかはあまりしていない。自分がマメな性格じゃないってのもあるし、きた時に話すことなくなるし。
「あ、そういえばこの前にゃーこ先輩がきたよ。」
「え?そうなの?」
「俺がこうなったのにちょっと責任感じてるみたい。全然関係ないのにね。」
「…ほんとに、関係ないの?にゃーこ先輩のせいじゃない?」
「うん、たまたま、だよ。董哉が言ってた。これ以上発見が遅れてたらどうなってたかわからないって。むしろ、助けてくれた方だって言っておいた。」
「そっか。そんなに危ないモノに取り憑かれていたんだね。気づかなくってごめんね。」
「んーん。俺だって気づかなかった…。あのさ、葉月はさ…アレに出会ってない、よね。」
「うん。」
「そんなに悪いモノ、なのかな?」
「私はわかんないよ。でも、現に蓮君は入院までしてるんだし、悪いモノだったんじゃないかな?」
「おれは、あんまりそうは思わないんだ。」
「え、なんで?」
「だって、葉月のフリ、してたんだよ。それでね、葉月に告白しろっていうんだ。」
「へ?」
「俺が、葉月に告白したのは、あの部屋で葉月に告白しろって、言われてたんだ。学校で、気持ち伝えろって。」
「ええ?そうだったの?」
「うん。葉月と俺がくっつくように色々考えて、色々アドバイスくれてたんじゃないかなって。」
「なんで、そんなこと?」
「わかんない。」
思いついたことがある。
「キスとか、したかったのかな。なにか、生気を吸い取るてきな。」
言った後で恥ずかしくなって顔が真っ赤になった。まるで私がキスとかしたいみたい。
蓮は目を丸くして驚いてる。
「あはは、でも多分それはないよ。」
「え、なんで?」
「キスどころか、俺に一度も触れようとしなかった。俺に触るのを避けてたよ。」
「…付き合った後も?」
「うん。」
「それは、変だと思わなかったの?蓮君は。」
「まぁ、思ったけどさ。俺が一月も葉月に何もしない理由がわかった?」
「ええ、わかった。ちょっと不安だったんだけど?」
「はは。ごめんね。」
そういうと手を握られ、手にキスされた。
顔が一瞬で茹で上がる。
「な、、なんかさ、もっと、雰囲気ってあるじゃない?」
「ははは。その辺はタケルにきかないとな。」
「あの人はチャラいからやめて。」
「そうなると、何で、かな。なんとなく、単純に応援してた、んじゃないかな。」
「わかんないね。だとしたら私は感謝しなきゃいけないかな?」
「………。」
考え込む蓮君。
「…蓮君?」
「あぁ、ごめん。考えてた。」
「何を考えてたの?」
「大したことじゃないよ。あのさ。葉月は、なんであの時、足を怪我したの?」
「え?足?」
「ほら、おんぶしたの、覚えてない?」
「え、あー、覚えてるよ。え?見てたんじゃないの?自転車でこけたとこ。」
「なるほど、ね。あの時、俺の部屋にいた葉月が、窓の外から飛び降りたんだ。五十嵐先生に見つかりそうになって。」
「え?」
「それでおれは、葉月が足を怪我したんじゃないかって思ったんだ。」
「そっか。そうなんだ。」
「ねえ、葉月。もし、アレがなかったら、俺のこと好きになってた?」
「え?えええ?うーん。そんなの、わかんないよ。ていうか私それで好きになったって言ったっけ?」
「いや。別に、ちょっと気になっただけ。」
「…きっかけはどうでも、今、私あなたのことが好きだよ。」
「ありがとう。俺もだよ。」
「あ、もう、こんな時間。いかなきゃだね。」
「うん。いつもわざわざありがとう。また、来週ね。」
「うん。またね。」
立ち上がって部屋を出ようとした時、
「…葉月。」
蓮君が私を呼びとめた。
「うん?何?」
目が合う。何か言いたそうで迷ってる顔。
「誰か、知ってる…?」
「え?」
「その、葉月のフリをしてた人。」
「え、知らないよ。」
「そっか。」
「ごめん。」
「いや、俺の方こそ変なこと聞いてごめん。またね。」
「うん、またね。」
扉を閉める。
廊下には
董哉がいた。
会釈をして別れる。
董哉がついてきた。
「本当に、知らないのかい?」
私は目をまっすぐ見て、言ってやった。
「ええ。本当にそんな人知りません。」
「そうかい。いつも、ありがとうね。来週は退院すると思うんだ。よかったら立ち会ってくれないかな?」
「え、いいんですか?」
「あぁ。学校にはわたしから言っておくよ。また、連絡する。」
「わかりました。待ってます。」
そうして、董哉と別れた。
私は帰路についた。
ズキッ
頭の後ろが痛くなった気がした。
何か、大切なことを忘れているような。
でも、それは何かわからない。わからないけど、なんとなくホッとしている自分がいた。
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