7話②




「…よお、すげえ悲鳴あげるなよ。びっくりだろうが。」

そこにいたのは居るはずのない、人。

「せ、先生?」

「五十嵐先生、なんでここに?」

「あー。お前らこれ部活動の一環できたんだろ?一応顧問として監督責任がだな。そんでついたから声かけたら、悲鳴を上げられたわけよ。」

「だって、先生、なんで濡れてるの!?」

「あぁ、さっき、池の周りを調べてたらな、柵の下に若干の窪みがあって。そこに足滑らせて膝まで池ぽちゃしたんだよ。」

あぁ、それで濡れてるのか。これで急に触られたら、たしかに悲鳴あげる。しかもこっち側かなり薄暗い。

幽霊の仕業かと思うだろう。


「…………」

告白のチャンスをまたも逃してしまった……。

「じゃあ幽霊は結局見えなかった、でいい?」

葉月がシズに確認する。

「もう、夜も結構ふけてきたし、そろそろ……」

「あー、うん、先生がいるんじゃカップルっぽくって言うのも、なぁ?無理だろうし。」

「え、あ、そ、そう?まだ30分くらいしかいないけど、もう帰る、か。」

「なんだ蓮、お前ノリノリなのか。俺的にはさっさと帰ってくれた方がいいぞ。」

「いやまぁ、そうだけどさ。あまりに中途半端で……。」

「っていうか、先生が邪魔しなきゃいい感じだったかもしれないのに……」

シズがブー垂れてる。

丈瑠が苦笑いしてる。

何やってたんだか。

「とりあえずちょっと移動しないか。ここ、暗くてあんまり顔見えないしだな。」

「ん?先生ってどっちからきたの?俺らの前は通らなかっただろ?」

池を挟んで反対側にあるこのベンチは1番目撃情報が多いベンチだ。で、2番目は池の手前にあるベンチ。ここは池の周りしか道がなく、特にこちら側は池の反対側はちょっとした山があって、上には小さな古びれた神社があるくらいで、奥から池に出る道はない。だからこのベンチまでくるには蓮たちの前を通過しないと来れないはずだ。

「いや、あっちに道があって、そっからきたぞ。とりあえず危険な箇所がないかぐるっと見てまわってだな。待ってたわけだ。車できた方が早いからな。」

「え、なんでここって知ってたのさ?」

「猫宮に聞いた。」

「……にゃーこ先輩、か。」

「じゃあとりあえず駐車場はこっちからの方が近いから。おまえら車乗ってくだろ?こっちから行こう。」

そういうと、蓮たちがきた道の反対側を指差す先生。

めちゃくちゃくらい。よくこの道を通ろうと思ったな。

「え、先生、こっち道大丈夫?」丈瑠が言う。

「先生も池ポチャしたんでしょ?」

「あぁ、だけどまぁ普通に歩けば大丈夫だろ。」

こちらを見もせずにズンズン進んでいく先生。

いってしまった。


「……え?どうする?」

「どう、ってそりゃ、行くしかなくない?ついていかないと先生の車どこかわからないし。」

葉月が言う。

「えーもう終わりか。なんにもなかったじゃん。」

そう言いながら、池の真ん中の方を見つめるシズ。

「まぁ、そう言う時もあるよね、ほら置いてかれるから行こ。」丈瑠が手を引いてシズを歩かせる。それに続く俺と葉月。

むぅ、解散の流れだ。

余計中途半端な告白になってしまった……。

前を見る。

シズと丈瑠が手を繋いでる。俺はせめて頼り甲斐のある男を見せたくて、池ポチャしたっていうから道の池側をあるいている。少し離れて、葉月が山側を沿って歩いている。

手、繋いだ方がいいかな。

ほら、前の2人も繋いでるし。

多分、いやだとか、そう言う感じはない。さっきだって葉月から触ってきたわけだし。

葉月の右手を見つめる。

ドクン、ドクン。

緊張で鼓動が高鳴る。


「センセェ?どこまで行っちゃったの?置いてかないでよ!こんなくらいとスピード出して歩けないんだからさ!」

先生の声はしない。


よし、今だ。

右手を触ろうと手を伸ばす


さっ


思いっきり、避けられた。

「え、」

しかも声まで出してしまった。


むしろ怖いものを見るような目で俺を見る葉月。

心折れそう。でも、逆に一度出しかけた手を引っ込めるのは恥ずかしい。葉月も言っていたじゃないか。いざと言うときに行動力がある人にキュンとするって。たぶん。つまりこれは試練。私の手を握ってみろよと言う逆にハードルを上げてる葉月なんだ。あの部屋での葉月を思い出せ。

「え?せんせい?返事してよ?どこ?」

「おいおい、また池ポチャしたとか?おーい先生、大丈夫か?」

前2人は何か叫んでるけど、耳に入らない。俺の頭には葉月とどう手を握るか、しか考えれてない。

肩をつかむ。すっごく嫌そうだったけど、そんなんじゃ俺の心は折れないぜ。

演技だろ?それも。

「はは、ごめん。先生も池ポチャするくらいだから、危ないからさ。手、繋いどこうよ」

にこってわらう。

葉月も最初は恐ろしい顔をしてたけど、徐々に落ち着いて

「え、蓮君、う、、うん。わかった。」

むしろちょっと恥ずかしそうに俯いた。

ほら、やっぱり嫌な感じは演技だったろ。

やけにキョロキョロしているな。

まぁ、自分もそうか。手を繋ぐ、なんて、気恥ずかしい。でも前でたけるとシズは2人は付き合ってもないのに手を繋いでるわけだ。うん。雰囲気って大事。

1人舞い上がってると、

前の2人の慌てようが酷くなる。

「え?先生?本当にどこ行ったの?ちょ、なんかめっちゃ真っ暗で怖いんだけど?」

「返事くらいしてよ!五十嵐先生!大丈夫!?また池ポチャとか言わないでよ!?」

どうやら先生からの返事がないようだ。

大丈夫かな?と前の方を見てみると

あろうことか横から先生の声聞こえてきた。池の方から。バシャバシャという大きな音とともに。

「わ!お、おい!がは!がぼ!蓮!がぼ!ちょっと助けてくれ!ひきづりこまれる!」

前の2人はパニックになる。「え?先生?大丈夫!?」

「池にひきづりこまれるって?誰かいるの!?先生どこ?」

柵に身を乗り出す2人。

自分は葉月の手をしっかり握ったままさくの方に身を乗り出そうと


葉月がめちゃ引っ張る。

え、

ちょっと先生が心配なんだけど。

パッとよこみたら

木の根が露出しているところから、枝状のものが伸び、それに口を塞がれ、必死な顔してもがいてる葉月の姿があった。それは葉月を引っ張って、自分の根の下に引き摺り込もうとしている。

「え?」


その瞬間葉月は俺も一緒に巻き込まれてしまうと思ったのだろう。

わざと手を離した。

「わ、葉月!ばか!」


「わ!やばい!死ぬー!助けて!蓮!」

先生の声が池の方からする。


「わ、びっ、びっくりした。蓮君、私は大丈夫。なんかここ、空洞になってるけど、人1人くらい入れるスペースあってとりあえず無事だよ、だからまず先生を……」


2人の声は聞こえていなかった。

必死の形相の蓮。

木の根っこをかき分けて、窪みをみつけ葉月の体を見つける。

「え、蓮君、血、出てるよ!私はだいじょだから、先……」

叫んでる葉月を無視する。

「ちょ、蓮!やめて!蓮の体が!やめて!きゃあああああ!」

木の枝が蓮にたくさんの傷をつける。お構いなしに手を伸ばす。

木の枝に巻きつかれてる葉月の手をなんとか、つかんだ。そのまま、ひっぱる。

「いいの!俺の体なんか!葉月は!俺が、絶対!守るから!」

力一杯、引っ張る。

絶対、葉月を、助ける。

顔も、窪みの穴に突っ込んで、

手に絡まってる木の枝をぶちぶちちぎって

両手で葉月の手を持って、ひっぱる。

「うお、うおおおおおおおおお!」

大声にびっくりしてる2人。

でも、周りなんか気にしてられない。葉月の安全が第一だ。

「うおおおおおおおおらぁぁぁぁぁあ!」


ぐるん、ごろごろ

どしん!


反対側の柵に体をぶつける。

その腕には多数の傷と、しっかりと葉月の体を抱えていた。

びしょ濡れになってる葉月の体。

「よし!」

「え!葉月?ちょ、大丈夫!?」

「葉月は大丈夫!2人とも、戻るよ!ここから離れる!」

そういうと、シズと丈瑠が繋いでる手を、つかんで

葉月を抱えたまま、元の道を戻る。


ベンチまでダッシュで戻る。

2人も顔が真っ青だが、それよりも葉月がびしょ濡れでやばい。

「え、ちょ、蓮!でも、先生が!」

「そ、そうよ、さっきから先生が池で助けてって!叫んでる!」

「うん!俺だけにね!なんでか知らんけど。別に丈瑠でもいいだろ!偽物!」

そう言い切るとベンチまで戻ってきた。

「え、え、さっきの先生は、偽物?」

「丈瑠!いいから自分で走ってくれる?ダッシュでこの公園から出よう。葉月をかかえるの手伝って。」

そう言って、もう半周して池の入り口まで戻ってきた。

「…………うそ、あれ、みて」

池の反対側で、溺れてる先生がいる。

さっきのベンチの近くだ。

「うお、先生?せんせー!大丈夫!?」


「やばい!がば!ごぼ!誰でもいいから、がば!助けてくれ!ぐば!げほ!このままじゃがば!ごば!おれ!ひきづりこまれる!!!」

「おい、蓮!やばいぞ!もう顔までついてる!」

「丈瑠!やばいよ!助けないと!」

シズも丈瑠もパニックだ。

「2人とも、俺には、聞こえないし、見えないよ。なにが見えるの?先生が溺れてる姿?だいたいさっき反対側なんて見えなかったろ?ここからシズの方のベンチが見えるわけがない。」

冷静に言う。

「え、……」

「う、うそ!あれはだって先生だよ!絶対!」

「じゃあその先生は俺らが池の反対側まで葉月を引き摺って走ってる間、ずっと溺れずに耐えてたの?なら自分で上がれるだろ。それに池の反対側まで届く声が溺れながら出せる?無理でしょ。ひきづりこむっていうのなら、さっきの葉月みたいに声出せないようにして引き摺り込むよ。」


「葉月も?うそ、大丈夫?いま意識ないの?息はしてる?」

「息はしてる。意識はないけど多分大丈夫。気絶してるだけ、かな。一応見てもらおう。あんなのはほっといて、葉月の方が大変だから。ね。たける。」


「お、おお。ほんとだな!あした、先生普通にいるよな?大丈夫だよな?」


「大丈夫じゃなくても俺がなんとかするから。信じて。」

そう言って、2人は柵から身を乗り出して先生をみている。2人をさくから引き剥がした時、


「……ちっ」

バシャバシャ溺れていた先生は急に動きを止めて、こっちを睨みながら舌打ちした。

「え、せ、先生?あれ、先生じゃない!」

「きゃあああああ!いやぁ!!!!」

「大丈夫。早く、いくよ!」


公園の駐車場まで脇目も降らずにげてきた。

しか……し、

そこにいたのは


「……おいおい、遅いじゃないか。」


車にもたれかかってタバコを吸ってる五十嵐先生だった。

「きゃああああ!」

「え、え、せ、先生!?うわぁぁああ!」


「なんだなんだ、どうした、おい。」

「先生、ちょっと叩くよ。」多分本物だけどさ。

バシン!

「はぁ!?いってええええ!おい、蓮!なんだよきゅうに!」

「よし、本物。」

「は?どういう」

「先生、乾いてるけど本物だよね?いつからいた?」

「いつって、6時ごろからだな。」

「ずっとここにいた?」

「あぁ。ずっとここにいたぞ。」

「池にはきてないし、溺れてないよね?」

「は?池?この公園は池があるのか?」

「よし、ね。大丈夫だったでしょ?先生、葉月が意識ないから車で送ってくれない?」

「あ、あぁ。なんかあったんだな。おいおい、よかったな迎えにきておいて。心配だから迎えに行ってくれって猫宮が頼んできたんだよ。」


車に意識のない葉月をのせ、みんなで乗り込む。蓮だけは乗らずに最後に車の扉を少し開けて

「先生、出来るだけ大きな道をゆっくりないつでも止まれるスピードで走って。」


「お、おお。わかった。」

言うと、扉を閉め電話をかける。

「もしもし、董哉?」

『うん?なんだ?蓮。』

「今、米ノ木西公園なんだけど」

『池じゃないだろうな。』

開口一番でそれか。なにかやばい奴がいるんだろう。

「……池、だね。」

『葉月さんだっけ?無事か?』

「いや、意識失ってる。これ、まずい?」

『割とまずい。』

「どうすればいい?」

『靴は履いてるか?』

「はいて、ない、ね。」

『おそらくそれだな。靴を探さないと。とりあえず俺も向かう。今どこにいる?』

「今、駐車場から先生の車で出るところ。」

『オッケー。じゃあとりあえずお前以外は車で愛生病院に来てくれ。俺今病院にいるから。そこから車で5分くらいだ。』

ガチャ。助手席の扉を開けて、

「先生、愛生病院ってわかる?」

「あぁ、わかるぞ。」

『くれぐれもスピードを出しすぎないようにいつでも止まれるスピードで』

「それ、もう言った。じゃ、先生、スピード気をつけて。行ってきて。おれ、ちょっと忘れ物」

「はぁ!?れん!?ちょ、危ないよ!」

「戻るの?え?なんで?」

「あー。わかった。俺たちはいってればいいのな?」

「うん、よろしく。」

そういうと、車から降りる蓮。

「で、董哉、俺はどこへ向かえばいい?」

『葉月ちゃんが意識を失ったのはどこだ?』

「木の根元。引き摺り込まれようとしてたところを無理矢理剥がしてきた。」

『じゃあ、そこまで戻ってその根本に靴があればそれで。なかったらしんどいな。池の中、かもしれん。』

「うへえ、潜るってこと?まじかよ。」



数十分後


ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!



公園中にナニカの大きな大きな耳をつんざくような悲鳴が鳴り響いた。


程なく公園を出てきた血まみれになった男。木の枝が刺さり、身体中の色々なところから出血している。右手に靴を持っている。

鼻血がツウーっと、片方から垂れていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


くらい、暗い闇の中に引きづり込まれていく感覚。

息も、できない。

苦しい。最初はそう思った。

でも、闇に身を委ねてみると、案外気持ちがよく、

あぁこのまま私は戻っていけないのかなと思うとすごく怖くなった。

もがいてももがいても闇はまとわりついて

私を離そうとしない。

あぁ、こんな終わり方って。


そう思ったら光が急に見えてきた。眩しすぎる光。

まぶしくって手をかざすと、その手を光の向こうから出てきた手が掴んだ。その手はとってもあったかくって、力強くって。触った瞬間、私にまとわりついていた闇が解けていくようで。光の向こうから、顔が見えた。

ぃままでの不安が一瞬で吹き飛んだ。知っている顔だった。蓮。阿澄蓮。

ピチャ。

葉月の顔に何かがついた。

それは血。

葉月に向かって手を伸ばす蓮の腕はよく見たら血まみれだった。

「ちょ、蓮!やめて!蓮の体が!やめて!」

言うと同時に私から離れた闇が形を木の枝に変えて、蓮の腕や体にどんどん突き刺さる。

私は思わず悲鳴を上げた。

「きゃあああああ!」

「いいの!俺の体なんか!」

お構いなしにてをにぎったまま、もう一方の手を闇の中に突っ込み、払い除け、私を手繰り寄せようとする蓮君。

「葉月は!俺が、絶対!守るから!」

ートクン。

その言葉は、

心を揺さぶった。

血まみれになりながらも、私を守るために、一生懸命な蓮。

「うおおおおおおお!」

蓮が叫びながら闇を蹴散らし、私を光の方へ引っ張り上げる。

闇は私にまとわりついたままだけど、私は光の向こう側へ引っ張られた。


しばらくして車に乗せられ病院に連れていかれる。

私はわかってる。この闇をどうにかしない限り、私は起き上がれない。

この闇は私の足にしがみついて、私をあの池に呼んでる。正確には池の近くにあるあの、根っこが飛び出てる木の下に、呼んでる。


「董哉さん、お願いします。」

「あぁ、うん。やっぱりそうか。…………」

頭の上でだれかが喋ってる。

足に手を置かれた。

その感覚だけはわかる。

さっきの蓮君みたいに

あったかいのが流れてくる。

でも闇はなくならない。足の方まで下がってきた。


それからどれくらいかしたら、急に足が軽くなった。そう思ったら闇がいつのまにか無くなっていた。私を引っ張ってた闇が消え去った、そう感じた。


見上げると、知らない大人の人が顔を覗き込んでいた。

目があうと、にこって微笑んだ。どこかで見たことあるような人。誰だろう。


「こんばんは。葉月ちゃん。もう、大丈夫だよ。」

近くには心配そうな顔のシズと丈瑠がベットに寝ていた。

「シズ、たけるくん、大丈夫……?」

2人とも、顔が真っ青だった。

「あぁ、2人も一応祓っておいた。君よりは何百倍も大丈夫だよ。」

「祓って……?」

「あぁ、ごめん。君は、視えるね。さっきの黒いやつは悪霊でね。君を引き摺り込もうとしてたんだ。でももう大丈夫になったの、わかったろ?」

「悪霊っ……?視える……?え、じゃあ、あれは、本物?」

ガタガタと震える私。先生がその人の背後から声をかけた。

「董哉さん、ありがとうございます。ほんと、なんてお礼を言ったらいいか。」

「なに、大したことないさ。君と僕の仲だろ。あぁ、葉月ちゃんに自己紹介がまだだったね。僕の名前は董哉って言うんだ。まぁ、一昔前はちょっとテレビにも出て有名な霊媒師なんだけどね。君らの年代は知らないかな。五十嵐先生とはちょっとした仲で、事情を聞いてね。たまたまここにいたから寄ってもらったんだ。」

「え……!そ、そうなんですね。……ありがとうございます。」

葉月はお礼を言いながら何か違和感を感じた。さっきの夢?の感じだと、蓮くんが助けてくれたような気がしたけど……董哉さんが助けてくれたのだろうか。そこまで考えて違和感の正体に気づく。蓮君がいない。

「……え、あの、蓮君は?」

「心配ないよ。ここにいる。」

「葉月、良かった。目が、覚めたんだね。」

身体中にガーゼとか絆創膏とかを貼りまくってる蓮君がいた。

涙が溢れた。安心して。急に今までの体験が怖くなって。

「おお、よしよし、怖かったね。もう大丈夫だから。」


ギュッと抱きついて泣いた。泣き疲れて寝てしまうまで泣きじゃくった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


金曜日は勢いで色々やらかした気がする……。切り傷とか、鼻血とか大変だったし。結局告白出来ずじまいだったし。

でも手繋いだり、ハグしたりとかなり行動的ではあったと思う。

あのあと、董哉が先生の友達でって言うことでなんとか誤魔化せた。

まぁ、よっぽど董哉のことだから、祓った時に記憶も都合の悪い部分は消してくれてると思う。あの人は本当に子煩悩な父親だから。

ここでみんなと董哉の繋がりができたのはでかい。どうしようもなくなったら董哉に連絡して処理して貰えばいいのだから。

あのあと根っこまで潜っていって、下にいたナニカを祓ったことで、怪我はたくさんしたし、鼻血もでた。結構包帯とかガーゼとかしまくってるけど見た目ほど重症じゃない。

クラスのみんなからかなり白い目で見られた。

いきなりボロボロな格好で登校してきたのだから当然だ。1時間目の先生にどうしたと聞かれて階段から落ちたなんて誰も信じない嘘ついてすべったし。

葉月もなんとなくよそよそしくて隣の席だけどあんまり話しかけて来ない感じだった。

うーん、おれ、告白、仕掛けたのがまずかったのか。やっぱり。土日も一度も部屋に来なかったし……。


終業のチャイムがなる。

今日はオカルト研究同好会休むって伝えてある。

董哉が呼び出してきたから。


はぁ、なんとか今日、と思ったのに、一言も葉月と喋れなかった……。


帰ろうとした時異変に気づく。

葉月以外、誰もいない。


ん?いや、まぁ、たらたら帰りの支度やってたけど、そんなに遅かったかおれ?そして葉月は別にさっさとオカルト研究同好会に行けばいいのに、ずっと残ってる。

「蓮君、あの、さ。」

「……お、おう。どうした?」

「傷、大丈夫?」

「うん、全然大丈夫。見た目だけ凄そうだけどね。」

「あの、さ。その、お礼を、ちゃんと言ってなかったなって。本当に、助けてくれてありがとう。」

「ううん、助けてくれたのはあの董哉って人だから。俺は何にもしてないよ。」

「ううん、あの人が蓮君が助けてくれたって教えてくれたし、本当に、ありがとう。」

「まぁ、うーん、役に立ったのならよかったよ。あの時は無我夢中で。」

……いいながら、気づく。これ、今のタイミング、じゃないのか?葉月にその前に何言いかけたの?とか言わせないようにしなきゃダメだ。というか、2人きりになってもらってる時点で既に葉月からモーションかけられてる気がする。

「あ、あのさ!」

先手を取らなければ。

「う、うん?」

「あの、ベンチで座ってる時、言いかけた事なんだけど」

「……え、あ、う、うん。」

「おれさ、葉月のことが…」

「……え、」

「葉月のことが好きなんだ!初めて会った時から。だから、俺と、付き合ってください!!」




言った。

ついにいった。

脈絡もなく突拍子もなく、雰囲気も別にないけど。

俺としては勇気を出していった。よくやった、おれ。一回噛みかけて、心折れそうだったけどなんとか踏みとどまって言い切った。


黙ってる葉月。

不安になってきた。

また、やり直し、とか言われるかも。

そもそも、

『もう一度告白してきた感じで、考える』って言ってた。

む、それ、よく考えたら、『基本ダメだけどもう一度チャンスをやるよ』ってことじゃないか?

え、これダメだったらどうしよう。気まずくなって今後葉月が一度も部屋に来なくなったら、……


「……」

俯いてる葉月。


う、うそだろ。

「…………はい。」

消え入るような小さい声だったが、たしかに。

「え、うそ。ほんと?」


「……うん。よろしく……。」

葉月は顔真っ赤だ。でも、たしかに聞こえた。

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