6話①

夜中に、目が覚めた。



はぁ、寝汗がすごい。

下を見ると、葉月が寝ている。

……


すごい夢だった。


五十嵐って、やっぱり五十嵐先生、かな。

たしかに態度は結構悪い。

会わないように基本逃げてるし。

それか妹がいる、とか。知らないだけで。

なんとなく、あの葉月は見ていられなかった。

心の闇というか、一番弱ってるとき、だろう。

誰にだってそういう時、たぶんある。

俺は怖がられてたからそういうことはされなかったけど、

一人で他の誰からも助けてもらえなくて

心細かった。そんな時、それこそ藁にもすがる思いで、心の平穏を保とうと頑張っていたのかもしれない。

はぁ、この眠る時に人の記憶見ちゃう感じ、やめてほしい。疲れるし。

寝た気がしない。

まぁ、これも全部俺の妄想ならいいんだけど。


「ん、、んー」

葉月が寝返りを打つ。

「うーん、あれ?起きてる?」

起こしてしまったようだ。

「あぁ、うん、ごめん起こしちゃった?」

「んーん、怖い夢、みてたから良かった。もしかして蓮も?」

「…うーん、まぁ、ね。」

「そっか。」

聞こうか、いや、聞けない。でも

「怖い夢ってどんな夢、だった?言った方がいいんだろ?」

「うん、でも、それが覚えてなくって。とにかく怖い夢だった。蓮は?」

「あー、うん、俺もあんまり覚えてない。」

「うそ。」

「え?」

「なんとなく蓮のことわかってきたよ。嘘いう時声がいつもとちょっと違うんだ。」

「え、そうなの?」

「うん、そう。それで?どんな夢だったの?」

「いや、うそだな、かまかけてるんだ。そうだろ?」

「あはは、そうだとしても夢は覚えてるって言ってるようなものだよ。」

「う、まぁそっか。うーん、ホラー系?だれかが藁人形を滅多刺ししてるのを見てる夢。」

「名前がじぶんだった?」

「いや、自分じゃなかった。」

「そっか。まぁ、みてて、気分は良くないよね。」

「うん、葉月は、そういうの、信じる?」

「そういうのって?」

「ほら、呪い、とか。信じる?」

「信じない。というか、仮にそんなものがあったとしても、人の不幸を願う人間ってちょっと信じられない。嫌いだ。」

「え、、葉月でもそんなにはっきり人を拒絶するんだね。」

「そりゃするよ。逆にしなさそう?幻滅しちゃったかな?」

「いや、まぁ人間だから当たり前、かなって思うけど。」


「あはは、そういう蓮君は誰かを呪ったり死んじゃえって思ったりしたこと、ある?」

「いや、……ないよ。」

「強そうだもんね。蓮君。」

「いや、全然だよ。俺なんか全然強く無い。」

「そうかな?」

「…うん。あのね、葉月。おれ、中学までこんなふうに誰かと忌憚なく話せることなかったんだ。ずっと1人だった。」

「なんで?」

「その、怖がられて、たから。」

「怖がられてた?」

「うん。俺の父親がちょっと、特殊、で。俺には別に何にも特別なことなかったのに、父親がそうってだけで、俺が喋りかけるだけでビクビクされたり、悲鳴を上げられたり。」

「それは…嫌だね。」

「それで俺も怖がられるの嫌で、みんなを避けてた。ずっとボッチで。人から拒絶されるとか怖がられるのが、すごく怖い、弱い奴さ。誰かを呪うとか、憎むとかすらできるほど他人と関われなかったんだ。」

「そうかな。」

「そうだよ。」

「でも今、わたしには話した。黙ってれば良いのに。」

それは、葉月も不安を抱えてるって知ったから。後出しだ。

でも、それは言えない。

「私には、お父さんが特殊だっていっても、関係ないって言うと思ったんだよね。それってすごいことじゃ無い?今まで15年間生きてきたことをひっくり返すようなこと。すごい勇気だね。」

「それは、その、後出しだから。仲良くなってから、だから大丈夫かなって。」

「うん。大丈夫だよ。」

「そっか。ありがと。そう言ってもらえると俺、なんだかすごく救われた気がする。」

「うん。」

「葉月もさ、なんかあったら教えてよ。俺は、俺も、大丈夫だから。」

「うん。ありがと。でも、言えない。」

葉月の言葉は

意外だった。

「え、…」

「わたしが抱えてること、蓮君には言えない。」

「そ、そっか。まぁ、無理に話すってことでも、無い、し、」

「うん。」

何か言い方失敗しただろうか。俺では、力になれないだろうか。

「気になる?」

「うん。」

「んふふ、気になれ気になれ。」


『気になって気になって、わたしのことしか考えられなくなればいい。』



……ん?なにか、聞こえた。普段の葉月のトーンではない、低い声。空耳かと思ったけど、確かに。


「ちょ、なにそれ」

「あはは、わたしのことばっか考えてる蓮君が面白い。」


「なんだよそれ、気になるなぁ。」


なんだよそれ。まるで、俺に気がある見たいな。


「あのさ。」


「うん。」


「本当は何にも無い?」


「……バレたか。」


「そっか…。」

なんか、あるんだな。と思った。本当に言えないんだ。

やっぱりあの夢は、本当なのだろうか。

いじめ、だろうか。

葉月の胸の火傷は関係あるのだろうか。

そのことをぐるぐる考えていたら、いつのまにか寝ていた。

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