5話②
ガチャン
扉を閉めると猫宮先輩が椅子に座って何やらパソコンをカタカタしてる。
「……それで?何を話せばいいんですか?」
「阿澄蓮。」
「はい?」
「阿澄董哉の息子。明倫中学校出身。阿澄董哉。18年ほど前バラエティ番組を中心としたメディアに多数出演。イケメン除霊師として一躍時の人となった。」
「むかしのことなのによく知っていますね。」
「でも16年前からぱったりとメディアの露出はなくなった。理由は謎。あなたが生まれた年ね。」
「そう、ですね。」
「メディアに多数露出していたこともあり、多方面から阿澄董哉の力は本物だって言われてる。その息子のあなたにも、力はあるのかしら。」
「ありますよ。」
「視えるの?」
「視えません。」
「これは?」
そういうと、視聴覚室にあるテレビに動画が写る。あのシズがあげたカラオケの動画だ。
「え、これ、なんで?」
ただ、モザイクは全くない。
あれ?シズ、モザイクかけてたよね。
「モザイクに関しては簡単に消せるよ。君が考えてる通り、私はこっちが専門みたいなもんでね。」
そういいながらカタカタパソコンのキーボードを打つ猫宮先輩。
画面がいくつも分かれて、いま廊下にいるシズたち3人がいろんな角度から映された。
「防犯カメラを見れば何をしてるか判るし、しゃべってたことも、わかる。シズがいま私の悪口言ってることくらいはわかるし、五十嵐先生が職務中なのに携帯のゲームで遊んでることくらいもわかる。」
そういうと画面が切り替わって五十嵐先生がどこかよくわからなちところでこっそり携帯を触ってる映像が流された。
「……すごい。じゃあやっぱり、先輩は霊感があるって言うのは、嘘なんですか?」
「なくはない。君と比べたら無いに等しいけどね。だからこの動画でも、モザイクとか編集を取り除いたのを見れば、ここに数体霊がいるのはわかる。」
「……そうなんだ。」
「声も聞こえる。『助けて』『俺たちは何をしたっていうんだ。』」
「そうみたいだね。俺にはまったく聞こえないし見えないけど。」
「で、あなたが帰ってきたら、声がしなくなる。」
「そうらしいね。だから見る人が見たら俺がやったってバレちゃうね。」
「隠したいの?」
「そりゃあ、いばって言うことでもないし。」
「……そう、わかった。黙っておく。」
「ありがとう。先輩ならそうしてくれると思って。先輩、見えるなら、シズたちが変なとこ行って、もし困ったことになったら俺に教えてよ。大抵のやつは祓えると思うからさ。あ、もちろん先輩が払えるのなら任しちゃいたいけど。」
「……わかった。わたしには祓うなんてこと、できないわ。少し視えるだけ。だから、もしもの時は、あの子たちのこと、よろしくね。」
「ありがと。近くに視える人がいると、心強いよ。頼りにしてる。先輩。」
「……こっちこそよ。」
話は終わりなようなのでドアを開ける。
3人はちょっと不安そうな顔で待ってた。
「ちょい長めだったね?」
「ん?まぁでも大したこと話してないよ?」
それにしても、
万年学年1位の頭脳はとんでもない、な。
パソコンの技術と、霊感。特別な人間なんだろう。一部の霊能者(控えめに言って超一流の霊能者)は、人の考えてることや過去、未来を視ることも可能だが、蓮のことを視ることは不可能だ。日本一の、霊媒師阿澄董哉ですら、無理なのだ。普通のそこら辺にいる霊感がある程度の人間に、蓮の考えてることがわかるわけがない。
なのに先輩は、蓮の考えてることを当てた。
単純に思考能力が優れているのだろう。今までの蓮の情報から、何を今考えそうか推論して当てたのだ。
さらにあのパソコン技術。星稜高校は三年前まで一応女子校だった名残からセキュリティ面ではかなり高い。そこらじゅうに防犯カメラがついてる。そこから得た情報と、持ち前の思考力で大抵のことはできるだろう。他人の秘密を暴いたり、未来を言い当てることもできるかもしれない。彼女はその頭脳で今の地位を築いているのだ。霊能力の素地という入り口を開ける程度のレベルの力しかないのに、やってる行為は超一流と遜色ない。メディアに出ても通用する人材だろう。
「とりあえず、隠し事は出来なさそう、だなぁ。」
「そ、そうだよね。蓮君もそう思う、よね。」
「うーん、なんというか、いろんな意味で、すごい、先輩だったねぇ?」
「まぁ、これでとにかくとりあえず、5人揃ったわけだし、あとは顧問だけね!」
「そこが1番の問題じゃない?部活やってない先生なんている?」
「……そこは!今から考えれば良いのよ!ほら『犬も朝から低血圧』って言うしね!」
「『犬も歩けば棒にあたる』ね。」
「そうそれ!」
画面越しに帰っていく4人を見ながら考える。
あの施設のカラオケボックスは全部で8部屋あった。
あのカラオケボックスの過去の事件で命を落とした人数は12人。シズたちがカラオケボックスに入って、阿澄蓮がトイレに立ってから、帰ってくるまで10分弱。
果たしてそんな時間で、7部屋に散らばる霊を12体も除霊することはできるのだろうか。
しかも、視えないで、逃げ惑う霊を。
……バレたくない、と言っていた。余計な詮索はするな、ということだ。
「……阿澄、蓮、か。」
猫宮瑠璃子は、視聴覚室の中で椅子に深く座って、冷や汗をぬぐった。
カメラ越しに、目が、合う。
見られていることを、悟っている、のだろうか。
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夢の中。
いや、誰かの記憶の中かもしれない。
ガンガン、って
音がする。
何かを叩きつける音。
部屋の隅で、
小さく蹲った誰かが何かを打ち付けている。
ガン!ガン!
その音に合わせて
頭がどんどん痛くなる。
おおおおおおおお
おおおおおおおおおおお
なにかの慟哭が部屋中に響き渡る。
……泣いている?
部屋で蹲るその人は、真っ黒でよく視えない。
でもこの部屋は、俺の部屋だ。
つまり、この人は、きっと葉月だ。
真っ黒でよく視えない。
ガン、ガン!ガン!
真っ黒なソレは、釘をうちつけている。手の中には藁人形
……葉月?
葉月が呪ってる?
何を?誰を?葉月が?あの、葉月が、誰かを呪う?そんなことするのだろうか。
覗き込む。
名前が書いてある。
汚い字で藁人形になにかかいてある。
藁人形に書くのは呪う人の名前だろう。だけど字が汚くてほとんど読めない。
葉月、こんな字を書くのかな?
1文字ずつ、かろうじて読める。
「……これは、……が?、んー、し、」
2文字目と4文字目だけかろうじて読める。
………………○が○し?
いがらし?
……五十嵐先生?
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