4話
風船をもった俺が遠くの方からこっちに向かってくる車を眺めている。小さいおれが俺を見上げる。
あの車。
見たことある。
この前の夢で燃えてた車だ。
すごい高級車。
董哉の車より高そうだ。
董哉はなにかやっている。
小さいおれに何かしゃべりかけている。
「ここでひき逃げがあったみたいだ。蓮、車が見えるか?」
は?
そんなことわかるわけないだろう。ただでさえ、おれは視えないのに。そんな死者の最後に見た光景をイメージするなんて、高等技術、できるわけがない。
小さい俺は何かをしゃべっている。
小さいおれは、おもむろに、俺を指さした。
「へ?」
瞬間、小さい俺が道路に飛び出した。
俺をよけて交差点の電柱にぶつかる車。
しばらくして、人が出てきた。
そして、大きい音がして車が爆発。燃えた。
「え・・・・」
董哉が何か叫んでる。
小さい俺は俺をみてにやっと笑った。
そしてまた指をさした。
声は聞こえないが口元がこううごいた気がした。
『つぎは、おまえだ。』
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がばっ!!
「ぜえ、ぜえ、ぜえ!!」
息が荒い。汗がすごい。
悪夢を見ていた。
見ると、足下に、目が二つ。
「・・・・・・・だいじょうぶ?」
「わあ!びっくりした!葉月?驚かさないでよもう!」
「だって、すごいうなされているんだから。心配になって。」
「ああ、なら、起こしてくれれば、良かったのに。」
「だから、脳細胞が死んじゃうんだって。」
「話しかけたら、だろ。ふつうに体揺さぶって起こしてよ。」
「・・・・わかった。次苦しそうだったら、そうするね。」
「なんかのど、乾いた。」
「はい。ペットボトルだけどあるよ。飲みかけだけど。」
「え、だれの?」
「わたしの。」
・・・・え、間接キスになっちゃう?
っていうか気にする方が変なのか?おれだけ?そんなこと考えるの。
「飲みかけがいやだった?でも、もう門限過ぎてるから部屋からでれないよ。」
「え、まだ夜中?」
「うん。」
窓の外を指さす。
満月だった。
「わあ、そっか。じゃあ、もらうよ。・・・って、いいの?ここにいて」
「うん。いいの。」
「え、だめだよ。部屋に戻らないと。寮長さんとか心配するだろうし、部屋の人だって・・・」
「寮長さんとか見回りの時間は過ぎてるし、部屋はどうせ一人だし。」
「え、葉月は一人部屋なの?」
「んーん。でも、いつも一人なの。」
「・・・・どういうこと?」
「いろいろあるみたい。水、のまないの?」
この話はもうしたくないのか、あんまり目を合わせないでそっけない対応だ。
「あ、飲むよ。ありがとう。」
喉がカラカラだったので、結構たくさんもらっちゃった。
「全部呑んでいいよ?」
「あ、そっか。そうだよね。」
返されても困るもんな。
間接、キス。か。
顔が赤くなってしまう。
月夜で明るいとはいえ、電気ついてなくて良かった。またからかわれるところだった。
「で、どんな悪夢だったの?このまえと同じ?」
「ん、ちょっと違ったよ。前の夢の前から始まった。交通事故だったんだけど、多分人は死んでないな。良かった。」
「そっか、それは良かったね。夢だけど。」
「んー、どうも夢というか。昔の記憶、みたいな感じがするんだよね。5歳かもっと下くらいの俺が風船持っててね。俺が急に車道に飛び出して、車が俺をよけて電信柱にぶつかるんだ。」
「え、でも、そんなの忘れる?記憶にないってこと?」
「うん、覚えてないんだけどさ。でも、なんとなくあれは俺って、思っちゃう。」
「そっかあ。そんなショッキングな映像、忘れたかったのかもね。」
「うーん。」
「なんで今頃になって夢にみるんだろうね。」
・・・そうだな。あの小さい頃の俺が、俺にむかって、『次はお前だ』って言った気がした。あいつは小さい頃の俺だけど。あの車、破壊するために急に車道にでたのか。
そして、俺を指さして次はお前だって。おれを殺すっていうのだろうか。
わからないことはたくさんある。でも、こんなこと、別に誰かに相談することでもない。たかが夢、といえば、たかが夢だ。
「はい、蓮。」
葉月にテッシュを渡された。
「ん?」
「鼻血、たれてるよ。」
つーー
「あ、ほんだ。ありがとう」
「また、鼻血?よくでるね?」
「うん、花粉症がひどいんだよね。薬ものんでないからなぁ。」
「もう4月なのに、まだ花粉?かわいそう。」
「ね,去年とかは大丈夫だったのに、ひどくなったのかな。」
「目とかはかゆいの?」
「いや、おれは基本鼻血しかでないから、他はあんまり症状無くて、だから油断するんだいつも。」
「そっか。大変だね。貧血にならないようにね。」
「ありがとう。ごめんねおこしちゃって。寝ないとだね。」
「ううー誰かのせいで、寝られないんだ。ねえ、寝転んだままでいいから、寝るまでお話しよ?」
「ああ、ごめん。もちろんいいよ。」
それから、ながいこと他愛のないことを話し合った。子供の頃の自分、っていうテーマが多かった。
俺がどんな子だったとか、葉月がどんな子だったとか。
聞いてて楽しかったし、いつのまにか寝てた。
盛大に、寝坊した。
びっくり。朝起きたら、10時過ぎていた。
え、だれも起こしてくれない、
下を見ると、当たり前だけど無人。
葉月、自分だけ。
起こしてってくれればいいのに。
いや、人のせいにしちゃだめだし、完全に寝坊した自分が悪い。
アラームは起動していたのに、俺がおきなかっただけ。
「くそう、人生初だぞ寝坊なんて!!」
そう、いつもなら自動アラート断末魔の叫びで起きるのだ。
霊は夕方や明け方に多い。実は真夜中よりも。日が昇ったり沈んだりするときあちらとこちらの境界が曖昧になる瞬間がありそこを狙ってあちらの世界から干渉しようとしてくるのだ。
だから常に明け方に耳元マイナス距離から断末魔の叫びで起こされていたので、寝坊なんてもちろん一度もしたことがない。っていうかそれに慣れすぎて、携帯のアラームが心許ない。
そしてこの寮に来て、自動アラート機能が作動しなくなっていた。単純に霊がいないのだ。
だから、いつか、やるかもしれない、とは思っていた。思っていたが、こんなに速く。いや、ものは考えよう。こんなに速くやったからこそ、次はなくせる。はず。
とにかくダッシュで着替えてダッシュで行く。遅刻とか人生初だ。どんな顔して教室に入ればいいんだ。
あまりに急ぎすぎて、花粉の薬を飲むのも、鍵を閉めたか確認するのも忘れた。
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「お、新入生最初の遅刻犯が重役出勤だ。」
たまたま五十嵐先生の授業の時だった。
五十嵐先生の授業は、社会だった。政治経済。気持ちはわかるが、半分くらい寝ている。女子が。
まあ、寝ているなら邪魔はされないのだろう、五十嵐先生もエスカレーターじゃない組の起きてる人たちに向かって基本話かけていた。
ばっちり、葉月も寝ていた。
くそう。なんか悔しい。
ちょうど終わりを告げる鐘が鳴った。
キーンコーンカーンコーン
「さ、これで授業は終わりな。おい重役、職員室にいくぞ」
「え、あの・・・すいません」
荷物だけ置いて先生について行く。
「あの、すいません。遅刻なんてしたことなくて。」
「ああ、まあそういうときもあるよ。あ、別に怒るとかじゃないから。」
「え、」
結構怒られると構えていたのでおどろいた。
「・・・失礼します。」
職員室に入る。校長室に入ったが職員室には初めてはいる。ちょっときんちょうした。
五十嵐先生は自分の机まで俺を呼ぶと、パソコンを見せてきた。
「おまえには、これについて聞きたいんだ。」
昨日の動画だ。
「え、昨日の?なんで?消したはずじゃ」
「ん、複数のサイトで取り上げられてる。まあネットだからな。拡散するだろ。にしても、やっぱ絡んでたか。」
「あ・・・。」
「まあ、お前が絡んでいたほうがこちらは安心なんだ。モザイクで隠しているが、この制服うちだろ。ただこれ、拡散してるが、大丈夫か?」
「そんなこといわれても俺はわかりませんよ。」
「このカラオケボックス、10年前に事件がおこった時からわりと有名なんだ。出るって。しかもたちが悪いことに、ここでカラオケしたやつはかなり興奮状態になるらしい。」
「興奮状態?」
「ああ。ドラッグとかいろいろやってたやつらの霊みたいでな。この動画の三人も、とりつかれたみたいに歌ってるしな。このままだったら放送できないことし出すとこだったな。」
・・・・たしかに。あの熱中具合はちょっと変だった。
まあ、怖いからそれを考えなくてすむように興奮していたと思っていたが。
「そうなんだ。でも大丈夫だよ。」
「ああ。わかるよ。『たすけて~』とか、『おれたちが何をしたっていうんだ~』とか、聞こえるし。」
「え、そんなこと聞こえる?」
「ネットでもほら、ルビとかつけてる。そんでここ。『完全に除霊完了』って。」
「・・・・・・ほんとだ。」
視えるひとからしたらそんな感じなのだろうか。っていうか先生やっぱりかなり霊感強い。
「お前が除霊してくれたんだろ?」
「まあ、ええ。そう。」
「これ、シズからもらったが、これか?」
そういい、先生はオカルト研究同好会の入会届をだした。
「・・・・そうです。」
「今後もこういう活動をしていくってことか?」
「いや、違います!それはその動画を消す代わりに名前だけ書いてっていわれたから。」
「そっか、まあ、学生がたどり着けるような場所はお前がいればよっぽど大丈夫だとお父さんからも連絡があったが・・・、教員としてはやはり心配でな。」
「げ、董哉が知ってるのか。」
「ああ、それでお前が来たら電話しろって話でな。今校長先生がかけてる。お、かかったみたいだ。校長室行くぞ。」
ええ・・・、こんな短期間で校長室に二回も呼び出されてしまった。
「・・・もしもし」
「おう、無事、だよな。」
「ああ。無事。ピンピンしてる。」
「そのわりには寝坊なんて珍しい。」
「むしろ健康だと思うけどね。ぐっすりねむれたんだから。」
「む、そうか?寝過ぎるのは別に健康じゃないぞ。昨日の除霊で体力を使った反動じゃないか?」
「そんな自覚はないけどね。」
「うん。きのうより大分声に力が無いな。」
「声に?」
「ああ、お前の声は魂を揺らす声だ。力が強すぎてな。無意識だろうが。」
「あーそれ、昨日カラオケでも言われた・・・。やっぱりおれ、うまいとかじゃなかったんだな。」
「な、おまえ、歌ったのか?それは聞きたいな。お前の歌声。お前の声を聞いたときから歌手をやらせたらぜったいミリオン稼げると思っていたんだ。」
「やらないよ、そんなインチキ。」
「いや何を言ってる。インチキなもんか。今世に出てるシンガーはだいたいお前のような力を使っているぞ。心に響く声、だ。もちろん、普通は訓練もするがな。お前はそれを無意識にやってるだけで。」
「いや、だからそれがインチキだって。」
「それは才能っていうんだよ。蓮。まあ、どれもお前次第だがね。」
「それで、なにかよう?元気か確認したかっただけなら大丈夫だよ。」
「いや、用はある。一つ聞きたいことがあるんだ。」
「うん、なに?」
「あのカラオケの動画に写っていた女の子が、今回のカラオケの企画者か?」
「んー、あそこにいこうって言ったのはそうだね。カラオケの企画者かどうかは知らないけど。」
「どっちだ?」
「え?モザイクでみえなかったろ?」
「髪を二つ縛りにしていて、身長が160センチくらい。メガネをかけている。ちょっと爬虫類類顔してる女の子か、髪はストレートで身長は163センチ、まつげが長くてお前好みの顔してる女の子。」
「・・・・・え、いろいろ聞きたいけど、まず、なんで俺このみだと思った?」
「ちょっとお母さんに似てるから」
「・・・・。」
「そっちか?」
「いや、そっちじゃない。」
「そうかよかった。名前とか、教えてくれ。一応な。」
「名前?来栖。来栖静香だよ。」
「来栖・・・・・、なるほどな。もう一人は?」
「え、なんで。」
「だってお前の好みなんだろ?」
「いわない。」
「はは。それが応えになってるぞ。」
「もう、切るよ。」
「あぁ。お前のほうは何か聞きたいこととか、ないのか?」
……あの事故のこと、董哉は知ってるだろうか。
たかが夢。
でも。
『次はお前だ』
「……ない。」
「そうか、また何かあったら連絡する。お前も困ったら連絡してこい。先生にあまり心配かけるなよ。」
「あぁ。じゃあね。」
校長先生は常ににこやかだ。会釈をして校長室を出る。
教室に戻って授業をうけた。
昼放課、シズさんに招集された。
「よし、第一回オカ研会合を始めます!」
「一応、声かけてみたけど、ここ、キリシタンだろ?オカルトとか一番無縁じゃん。みんな無理って。」
「特に男子は期待できないわよ。だって部活やりにくる男子しかいないもん。」
「そっかぁ。」
気になったので聞いてみる。
「え、そういえば純哉は?なんか部活やってるわけ?」
彼はおとなしい系だ。部活熱血なんて縁遠い
「純哉って駒田君?逆に知らないのがびっくりなんだけど。」
「中学生の卓球日本一だろ。ちらっと部活の様子見たけど、ありゃ鬼だな。すでに部長より強いらしい。」
……人は見かけによらず。彼はそんなにすごい人なのか。
「話はそれましたが、あと1人で部としてしんせいできるんだから、なんとしてでも1人見つけましょ!狙うは女子。タケルんイケメンなんだから口説こう!」
「な、女子を口説くなら女子の方がいいだろ、ただでさえ壁を感じてるのに、オカルトになんかさそったらドン引きされる!」
「…むー、それは軽音でも同じでしょうよ。」
そう、ここは基本お嬢様学校だ。
管弦楽とか、オーケストラとかはあるけど軽音、なんて音楽じゃありませんって言われそう。
「で、ねえ、今日阿澄くん、遅刻してきたけど大丈夫だった?何かあった?」
葉月が話しかけてきた。
「……いや、寝坊しただけだよ、」
「そう、良かったぁ、昨日のせいで体壊したのかと」
起こしてってよって言いたくなったが、言わない。2人きりじゃないし。
「ね!わたしもそれ思ったぁ!でも良かった元気そうで!」
シズさんも慣れてくると意外と優しい、人だと思う。初対面で決めつけるのはよくないよな。うん。
動画のことは黙っておいた。
除霊したのがおれだなんていえないし、「除霊完了」の15秒後に俺が戻ってくるなんてバレバレだ。
だから内緒。
一応同好会は活動時間があるらしく、活動場所は決まってないが活動日の16時40分までは活動しないといけないそうだ。で水曜日以外が活動日。水曜日は葉月がなんか用事があるとかで。
あれ?一昨日葉月、俺の部屋にいた気がするけど。
その日は1年1組で集まってだべってた。
途中五十嵐先生が一回見にきたけど、
ちょうどシズさんが次回の心霊スポットを調べる作業を終えて、プレゼンをしているところだったので、まじめに活動しているように見えたが。
基本、お菓子とかたべてダラダラしてる時間だった。
悪くない、というかなんだこれ。至福か。
友達と、だべりながらグダグダする。中学時代から考えたらありえない。
しかもこんな可愛い人と。
っていうか結構仲良くなった、よな。もう部屋でも学校でも部活中なら普通に接していいんじゃない?
今日一応部屋で聞いてみよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ただいま〜」
なんとなく自然に言ってる自分に気がついた。
おかえりって返事が来るのを期待してる。
いやいや、いないって。
だってさっき教室でバイバイって別れたんだもん。
葉月は自転車で颯爽と帰って行ったし。乗っけてってって言いたかったが、まだ、やめといた。
いつか2ケツ。なんてね。
ベッドに寝転んだ。明日から土日だ。何して過ごそうか。
特に用事もないしなぁ。
寮の生徒は土日は家に帰るやつも多い。
葉月はどうだろう。
ぎーーーー
「ん?」
「不用心、ていうかわたしを待ってた、かな?」
にヘラって笑いながら言う葉月。
図星っていうか、……図星だ。
「えへへ、まぁ、こんなとこ誰も来ないし、泥棒とかの心配もないし。そもそも蓮君の私物も特にないしね。わたしとしてはありがたいし。でも、内緒だけど鍵持ってるから、鍵かけても大丈夫、だよ?」
「…そ、そうなんだ、なんで鍵持ってるの?」
何回か違和感を感じてたけどこれか。鍵が閉めたはずなのに、空いてる、とか。
「なーいーしょー」
クルクル回りながら上機嫌に言う葉月。
「そっか…。」
やっぱりこの部屋と学校ではキャラが違う。
「なぁ、葉月、学校とやっぱちょっと違うけどさ、そろそろ学校でも普通に接していい?」
「えっ?うーん、どうかな。そんなに違う?」
「うーん、学校ではクールキャラ?」
「あはは!そうなの?今は?」
「んー、天真爛漫系?」
「ふむ、なるほどなるほど。どっちが好き?」
「断然今。」
「…わぉ、好きだって言われちゃった。」
「え!いや、、そういうことじゃ、、あれ?」
「あはは!」
「あのさ、葉月は土日どうするの?」
「土日?ここにいようかな?」
「え?ここに?帰らないの?」
「うん、蓮は帰るの?」
「いや、帰らない。」
「じゃー一緒にいれるね。」
ドキッとする笑顔でいう。
「あ、おれ、夕飯食べてこようかな!葉月は?」
「わたしは後でいくっていうかお風呂入ってくるかな。」
「そっかまたね。」
「うん。」
ご飯を食べて、部屋に戻ったらまだ葉月はいなかった。そのままお風呂に行って部屋に帰ってきた。
なんだろう、葉月最初は敵意があったように感じたけど、今はもう、ない。というか、なんていうか勘違いしそうなくらい俺のことよく言ってくれるし絡んでくれる。
最初に言ってた、どういう性格が好み?って。そういう演技なのかな。
うん、きっとそうだ。もしくは仲良い人にはみんなそうなのかもしれない。
まぁ、仲良くはなった、と思う。いろんな話をしたし。
「五十嵐先生、お風呂ありがとうございます。」
「ああ。土日は帰らないんだろ?俺はいないからここのかぎ渡しとくな。まぁ、お前に限ってそんなことないだろうが勝手に人のもの触るなよ。」
「うん、しないしない。ありがとうございます。」
五十嵐先生ともだいぶ打ち解けて敬語が半分くらいきえかかっている。一応先生だ。ちゃんと敬語使わなきゃ。
部屋に帰ったら、葉月がいた。
風呂上がり。
いい匂い。
流石に下着姿ではなかったけど、明らかにパジャマ。
その、なんというか、エロい。
凝視できない。
俺は、ベットの横にある机の椅子に座る。葉月はベットに腰掛ける。
なんとなく背を向けたくて勉強でもするふりをしようか。だってあの姿正面から見たら暴走しちゃいそうで。
「お、ベンキョ?教えてあげようか?」
「え、葉月そうか新入生代表だもん頭いいよね。」
「なにその、えって。意外?」
「いやいや全然意外じゃないけど、忘れてた。」
「ちなみにあー見えて五十嵐先生はめちゃくちゃ頭いい。」
「へぇ。そうなんだ。その割には授業中葉月寝てたね。あそうだ朝起こしてってくれればよかったのに!自分だけ行って授業中居眠りしてるんだもんずるいよ。」
「あはは、まぁ良いじゃん。学校なんか無理して行くこともないしって思って起こさなかったよ」
「いや、学校は行かなきゃ。」
「んふふそうだね。」
そこから勉強を教えてもらったり、たわいのない話を続けた。話は尽きることなく続いた。
なんて話しやすい。
なんて楽しい時間なんだろ。
夜も更けてベットで寝ながら話もした。
気付いたら寝てた。
また、夢を見た。
今度は、何かわからない夢だ。
火事の夢。
かなりひどい火事だ。
もえてる。
燃えてるのはこの部屋だ。
この寮だ。
だれかがもだえている。
『…⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎…』
悶えてる何かが俺に言った。
でも、多分俺にはどうしようもできない。
だって触ったら除霊してしまう。
そう、この人はもはや死んでる人だって直感した。
真っ黒焦げなだれか。
俺には見えないはずなのに。そしてこれはいつの話なんだろうか。
判断は難しい。
目が覚めたら朝だった。
夢見は良くはなかったが昨日や一昨日のような焦燥感とか、
うなされて起きるとかは、なかった。
起きたら下で葉月が寝ていた。
結構な寝相だ。
おへそがみえてる。
静かに寝息を立てている。
まつ毛、ながいなぁ。
息してる、口。
この前、関節キス、しちゃった…
目が離せない。
あ、こんなところにほくろがあるんだ。
可愛い。こんなにじっくり見れたのは初めてだ。
柔らかそうな唇。
ぷるぷるな唇
はっ、
吸い込まれるように、キスをしようとしている自分に気付いた。
口元からわずか5センチしか離れていない。
今、ここで目を開けられたら、なんて言い訳すれば良いんだ。
そう考えた瞬間、バッと顔を上げて周囲を見まわした。
当たり前だが誰もいない。
ふぅー
良かった。
汗を拭って、もう一度葉月の顔を見たら、
目があった。
にやにやしてる。
顔から火が出るくらい恥ずかしかった。
「いや、これは、その、違うんだ。」
「なにが?……おはよ。」
笑顔でいう葉月。
「…お、おはよ。」
笑顔が眩しい。
なんて可愛いんだ。
「…顔、洗ってくる」
真っ赤な顔を隠すように
洗面台へ行く。
冷たい水で顔を洗った。うん、冷静になった。
そこからは普通。動じない。平常心。
普通に会話して、何事もなく、すぎていく。
はずだった。
日曜
晩御飯を終え、
いつものように部屋にいる葉月と何気ない会話をしている。
国民的人気アニメ番組をみながら、〇〇症候群ってさ
っていうなかなか興味深い話をしているときだ。
携帯が鳴った。
プルルルル、プルルルルル
「…でないの?」
俺が固まってると葉月が聞いてきた。
「いや、出る。出るけど…。」
「誰から?」
「妹…」
「ああ、あの出来の良すぎる妹さんね。出てあげよっか?」
「な、いや、いいよ、俺が出るから!」
取られそうになった携帯を必死で取り通話する。
「もしもし?」
「あ、生きてた。じゃぁ。」
ぷち、
ツーツーツー
「……。」
「ぷっ……」
きゃははははははは!
爆笑する葉月。
なんとなく笑われるのが恥ずかしくて顔真っ赤になっちゃう。
「もう、なんなんだよ、あいつ!」
「あはは。蓮がそんな感じなの、初めて見たあはは。」
プルルルルル!プルルルルル!
思い出したように鳴り響く携帯。
また、妹からだ。
「はい!生きてますけど!?」
「うそ、ほんとに?」
「はぁ?」
「誰かといる?」
「え?うん。」
「友達?」
「…うん。」
「声、聞かせて。」
「え、なんで?」
「いいから。」
……、
「葉月、なんか妹が話したいって。」
「…?スピーカーにしたら?」
「あ、そうか。」
スピーカーにして葉月に携帯向ける。
「初めまして。妹さん。友達の葉月です。」
「…おんな?」
「そりゃあ、寮にいるのは蓮君以外女の子だよ。」
「そう。お兄ちゃん、今す「、「。「、「、「。」、「、j、ャ、ネ。」、b、i、ヲ、h。」」
がちゃ。ツーツーツー
…
「へ、?」
「ん?」
「スマホが壊れた。」
葉月が言う。
スマホを慌てて確認する。
「え、ほんとだ。電源が落ちてる。つかない。え、こんなこと初めて。」
「うーん、バッテリーが少なかったとか?」
「いや、充電はしっぱなしだった。」
「あぁ、じゃあ逆にそれかもね。過充電ってやつ。」
「…結局、あいつは何を言いたかったんだろう…」
「お兄ちゃんに悪い虫がくっついてないか確認したかったんじゃない?」
「悪い虫?」
葉月を指差して笑う。
「あはは、悪い虫。」
葉月も自分を指差して笑う。
にしても、携帯、なんで急に壊れたんだろう。
平日で修理、行けるかな?っていうか修理できるかな?
そして、妹の用事はなんだったんだろう。
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