3話

「で、風呂に全然入りに来ないなぁって思って食堂行ったら、男なんか来てないっておばちゃんがいうもんだから、心配になってきたんだよ。」


「…それはそのすいません。ちょっと携帯のゲームに夢中になってて。」

「時間は守れよ、昨日のことがあったからまた血吐いて倒れてるんじゃないかって超心配したぞ!」

「あ、あぁ、その節はすいません。」


ズルルルルル。

ぷはぁ。

上手いな。このラーメン。きのうの味噌味も良かったが豚骨味もなかなかいい。

「ていうか、このラーメンめちゃくちゃ美味しいっす。」

「まぁ、良いけどよ。好き嫌いせず食堂のご飯食えよ。」

「はい、朝は美味しくいただきました」

お風呂ももらう。

「おい、今日もここで寝て行っても良いぞ。その、あそこちょっと不気味、だろ?」

「へ?いや全然。だいたいおれ、幽霊とか見えないんで、大丈夫です。」

「そ、そっか。まぁ、本職のお前らにこんなこと言うの野暮か。」

「本職ってやめてください。俺はそんな職についてないしつきたくもない。」

「あ、あぁ。まぁ視えないんじゃ無理だよな。」

「ん?先生は視えるの?」

「ま、ば、ば、ま、まさか!視えない、視えないよ!」

…視える人の見えないフリする時の視えないの言い方だった。

その辺に今霊がいるのかもしれない。

適当に手をブンブン振ってあちこち動いてみた。

「お、おい

何をやって?」

「こうすればたまに除霊できるんです。俊敏で予測不能な行動をすればぶつかって除霊できる。先生が視えないふりしてる何かを祓えるかもって思って。」

「え、あ、いや、その本当に視えないんだ俺。」

「……そう、ですか。」

にしても、話がやけに通じるし、色々と知ってる感じがする。

「でも、俺には兄がいてな。ちょうどこの学校の先生だった。それで、兄はよく視えてたみたいだ。」

「ふうん。じゃあたまに金縛りにあったりする?」

「ここにきてからはないがここにくる前までは定期的にあったな。なんでもここの教会が聖なる気を放つとかで霊がほとんどいないんだってな。」

「そうだね。じゃあでもやっぱ先生も視えないだけで霊感はある人だね。」

「やめてくれよ、霊感なんかなくっていいんだから。あれ視えちゃうと色々大変なんだろ?」

「ええ。まぁ俺は視えないんで知らないですけど。」

「ほんとに、泊まってかないか?大丈夫か?」

「ええ、全然大丈夫です。」

ほんとに、心配性だ。

何事もなく部屋まで戻って、

その日はやっぱり朝までぐっすり眠れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夢を見た。


夢を見るなんていつぶりだろう。

ずーっとずーっと昔の夢。

あぁ、初めて、人の死に出会った時だ。


交差点。

俺はまだ5歳にもなってないか。

風船を持ってたたずんでいる。

俺を避けてガードレールにぶつかり、火柱をあげ燃える車。

ずいぶん懐かしい記憶だ。

そうか、おれ、事故を起こしたことがあるんだ。

なんで、こんなところにいたんだっけ。

覚えてない。

でも、涙が一粒だけ、溢れている小さい頃の俺。



ちゅんちゅん、

ガバッ


「ーーーー!はぁ、はぁ、なんだあの夢。」

記憶?いや、そんな記憶全然ない。

ないが、いかにも自分ごとのように思えた。

いや、自分のことかもしれない。

だとしたら、相当な事故を引き起こしている。

おれは人を殺しているのか?

あの車を運転していた人は無事だろうか。

不安になってきた。

父親に確かめるか。

いや、確かめてどうする。

あの炎だ。助かるはずがない。

下からひょこっと顔が出てくる。

「…おはよ、すごいうなされてたけど、大丈夫?」

「へ?え、は、葉月!?どっから入ったの?」

窓はだって閉まってる。寝る前にちょっと肌寒かったから閉めたのだ。

「え、えーっと、普通にドアから。鍵開いてたし。」

鍵?あ、昨日、鍵かうの忘れてた、かも。

「そんなことより、大丈夫?すごい汗だよ。」

「う、うーん。嫌な夢見たんだ。」

「そうだろうね。凄くうなされてた。心配になっちゃった。」

「起こしてくれれば良かったのに。」

「いや、寝言に対して返事したらその分脳細胞死ぬんだよ。知らないの?」

「へ、何それ。面白いね。」

「ね、なんかテレビで言ってた。で、どんな夢だったの?怖い夢は人に話した方が運気上がるんだよ。」

「なにそれ?夢占い?」

「うん。ほら、どんな夢だったの?」

「うーん、交通事故?を引き起こす、夢。」

「そっかぁ、怖いよね。交通事故。」

「…もしかして、あったことある?」

「え?交通事故に?」

「うん、」

「ないよ?なんで?」

「いや、なんとなく、そうかもとか思ったりしただけ…。」

そう、胸元の火傷…、あの火傷もしかしたら

そう思ったのだ。

だが、あの車の中にもしいたら、あんな火傷で済むわけがない。

それに生きてるわけがない。

だからあの車の中に葉月がいたかもなんて妄想、あるわけがないんだ。

「まぁ、でも久しぶりに夢見たんだ。ちょっと新鮮。」

「悪夢が新鮮?変わってるね蓮は。」

「いままでは不眠症っていうか、夜中に起きちゃってたんだよね。だから朝までぐっすりなんて…」

え?違和感。

気付いて見ると、顔が赤くなってる。葉月が照れてる。

照れてて、俺を呼び捨てで呼んだ。

「あ、え、と、その、ダメ、だったかな?き、君も!葉月って呼んでるし。わたしも呼び捨てにしてみよっかなって…」

か、


かわいい!

可愛すぎる!

照れ葉月。

あたふた葉月。

「も、もちろんいいよ!ちょっとびっくりしただけで、」

「この部屋にいる時、だけだけどね!」

「あ、あぁ。間違えないようにするよ。」

お互いあたふたしながら照れている。

おっと、いけない。にのてつはふまない。

時間をしっかり確認して、

「あ、おれ、朝ごはん行くけど、葉月もいく?」

「あー。いや2人でいる時を見られたくないから、やめとく。後から時間ずらしていくよ。」

「そっか、わかった。じゃあ先行ってるね。」

そうして朝ごはんを食べに行った。時間ずらすってどれくらいずらすのかな。もはやカギ、わたしとこうか。ドアが空いてたらドアから来るのなら、危険な窓から入ろうとしなくて済むし。

鍵屋さんに行って合鍵を作ってもらおう。

ん?おれ、鍵閉めてったっけ?

ていうか、鍵開けっぱなしじゃないと出れなくないか?

朝ごはんを食べて部屋に戻ってきた時に思った。

カチャ、ギーーーーーー

…開けっぱなしだった。

バタン。

そして葉月はいなかった。

うーん、これは鍵を渡す口実になる、か。開けっぱなしで行かないでよって言って。

ぴろん!

3組のたけるからのメールだった。「今日、カラオケ、16時半校門集合な!」

という内容。

そういえば今日だった。

昨日教えてもらった歌を口ずさみながら、

「んー♪んーんーんー♪」

陽気に登校して行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


授業は順調に進んでいった。

ていうかここ、教員も女性が多い。

男性は五十嵐先生にしか今のところ出会ってない。

五十嵐先生はなんの教科の先生なのか。

まだ、授業で出会ってない。

担任なのでHRとLTの時間だけ教室に来てる。

「はぁ!ようやく終わった!」

来栖静香、話したこともないのに歌が上手いとかいう噂を流したやつ。

要注意だ。そして葉月の友達。好意は一方通行な気がするが。

「イルルンやっぱり来てくれるんだね!嬉しい!」

「…え、ちょっと待って、なんで阿澄がいるの?」

こっちを見て睨んでくる彼女。

……逆にわざとらしくない?普通にしてた方がいいのに。

「あ、丈瑠に誘われて。」

っていうか静香さんが勝手にメンバーに入れてたんじゃなかったっけ?

「たけるって誰?」

怪訝そうな顔で静香さんに聞く葉月。

「3組の子だよぉ〜」

静香さんは言う。

「あぁ、例のジャニーズ系の?」

「そうそう〜」

確かに、イケメンだったなタケル。ジャニーズ系って言われるとそうかもしれない。

「お待たせ!やぁはじめまして。入鹿さん。浜田丈瑠って言います!今日はよろしく!」

明るい挨拶とともに待ち合わせ場所まで走ってきたタケル。

「あれ?たけるだけ?他の3組の人は?」

「あぁ、なんか用事が入ったとかで来れなくなったみたいだ。ごめんね。」

「そっか、友達増えるかなと思って期待してたのにな。残念。」

「?レイカとフミは?」

「原田さんたちなら、カズヤたちが来ないなら行かないってさ。」

「えええ、ちょっと何よみんな勝手だなぁ。」

とか言いながら目がキラキラしてる静香さん。

4人、か。

「…はなし、違うくない?シズ。」

「まぁまぁ、いいじゃない。あんまり大人数でも出番回ってこないし。それにイルルン、昨日から鼻歌ずっと歌ってて、乗りノリでしょ?たくさん歌えた方がいいかなって思って」

小声で何か言ってる静香さん。

静香さんの策略、なのかな…。

まぁ、友達獲得のチャンスは狭まったけど、仲良くなるチャンスは広がってる気がするし、いいか。

「…おれ、そんなにたくさん歌えない、よ?」

「まぁまぁ、聞く専門でもいいっしょ!楽しく行こうよせっかくだしさ!」

タケルが元気よく言う。

なんとなく、静香さんとタケルのノリが似てる気がした。

この学校は山を登っていくほうにある。街に出るまでシャトルバスがでてる。

俺は寮住まいだから、初めて乗るけど、他の3人はもちろん乗ったことあるみたいだ。

星稜高校の生徒しか乗らないバス。

女の子ばっかり。

男子の制服着てるのなんておれたちだけだから、すごいな。

「2人はどこに住んでるの?」

静香さんが聞く。

「俺は寮だよ。」

「へ?寮なんてあるの?男子に?」

「今年からできたんだ。」

やっぱり知らないのか。まぁ葉月だって知らなかったみたいだし、その程度の認知だろう。

「え、うそ?寮に男子がいるわけ?」

「んもう、いるるんが知らないわけないのに〜またまたぁ、」

冗談っぽく静香さんが言う。

うん、知らないわけない。

「俺は竜海中だよ。ここから、だいたい20分くらいかな。」

「えー、じゃあわたしと同じくらいだね!わたしも電車で20分くらい!」

「へぇ、どのあたりだろ?」

「中学校地区で言うと睦が丘中学かな?」

「うげえ、都会人だね、お嬢様だ、」

「まぁ、星稜中だしね?」

「あぁ、さすがお嬢様学校だよなぁ。俺たち一般とは格が違うってね。」

「あはは、でも私たちエスカレーター組は3種類いるんだよ!敬虔なキリシタン信者か、親の力でなんとか入学できたため、他の進学校なんていけなかったバカ組か。そのどっちでもないか。」

「あはは、なにそれ。来栖さんはどっちなの?」

「わたしはもちろん、3番!ちなみに葉月も3番だよね!」

「はいはい。まずその3種類が無理あるからね。ほとんどの子3番目なんじゃない?」

「ん?じゃあ、3番目ってたとえばどんな理由があるの何?」

「受験が面倒だった組。」

静香さんがなんてことないように答えた。

「……そうなんだ。」

「なんてねー。いるるんはここじゃなきゃダメだったんだよね。」

「なになに?どんな理由?」

タケルが興味津々に聞く。

「んー、家庭の、事情ってやつかな。」

なにか言いにくそうに言う葉月。

…そうか、葉月もそうなんだ。俺もそうだしな。

やっぱり共通点が多い。

なんとなくそう思ってニヤッとしてしまい、慌てて外を見て表情を隠した。

駅前の

カラオケ店に着いた。

「よーし、歌うぞ!」

気合十分なタケル。

「あ、そっちじゃないよ〜たけるんるん。」

「へ?」

「え?」

そういうと静香さんは一本外れた裏の路地に入っていった。

急に暗い。

なにここ。雰囲気ある。

二人とも少し顔が青ざめてる。

「ここ。このビルの2階。超割安カラオケ店なの。びっくりするよ。なんと、フリータイム300円!もちろんドリンクバー付き!」

「そ、それは安い!」

タケルがテンション上げながらも、その異様な雰囲気にあたふたしてる。


「……」

おれはまぁどこでもいいんだけどね。

ちょっと人の歌には集中できない、かもなぁ。

「じゃあ行こっか!」

「え、シズ。ここ変だよ。やめとこ。雰囲気悪いし。」


「え?何が?」

「タケル君も、わかる?」

「え?おれ?あー多分大丈夫、じゃないか?」

「え、でも冷や汗かいてない?」

「え、たけるんるん、もしかしてこういう薄気味悪いとこ苦手?肝試しとか?きゃー!なんか可愛い!」

薄きみ悪いとは思ってはいるんだ。

静香さんも。

「防音とか、大丈夫かな?」

うーん、心配どころはそこだろうか。

ていうか二人とも、見えるのかな。視える人の気持ちはあんまりわからないから共感しようがない。

「まぁ、なんとかなるっしょ。それよりも財布に優しい!」そう言って入って行くしずかさん。

後からついてくみんな。

うん。まぁ、俺がいるから大丈夫だと思うよ。みんなは。 


案の定、だった。

もう、わぁきゃあわぁきゃあ

うるさいのうるさいの。

どこの部屋も空いていたけど、勝手に音楽なりだしてたし、ドアがちょっと空いてて中の音が漏れたりしていたし。

流石のみんなもテンションが下がってしまったので、

とりあえずトイレって言って

全部屋を走って回る。いろんなところを手当たり次第触りまくる。小さいカラオケ店だったこともあり、ほんの数分で全部屋を制覇できた。

音や怪奇現象はなくなったが鼓膜が破れるかってくらい断末魔の叫びを耳元で聴きまくったせいで、かなりフラフラした。

帰っていったらこちらもまけじと、大音量でシズさんが熱唱していて、ガッツがあるなぁと思った。

俺が除霊して回ったせいで、部屋の空気が若干軽くなったのに気づいたのだろう。後半になると二人も回復して色々と歌い出した。

俺は、というと耳がなかなか回復しなかったので、ひたすらタンブリン叩いたり、なんとなくリズムに乗ってみたりしてたけど、微妙な空気になった。下手くそだと思われたかもしれない。

1時間くらい、間を空けずにドンドン曲を入れまくって歌いまくってた。俺がもたついていると、先に入れるねってなるので俺的にはありがたかった。

徐々に耳が回復してきたな。って時に、マイクを渡された。

歌えってことらしい。

むぅ、俺が歌えるのなんか一曲しかない。とりあえず入れよう。昨日の曲。

入れた瞬間、違う端末で操作していた葉月も同じ曲を入れた。

「ぁっ、」

「あ、」

「え、何?その曲、同じタイトル?すご!偶然?え、一緒の曲?えーいるるんとあすみんは同じアーティストがすきなの?」

あすみんってなんだ。

たけるんるんとか、すごいなこいつ。

「お。いいーじゃん!一緒に歌えよ一緒に!な!阿澄、あんまりカラオケとかきたことないみたいだし!」

「…まぁ、いいけど…。」

はは、昨日の練習通り、だな。

俺は昨日の練習通り、気持ちよく歌ってやった。

耳もだいぶ回復してきたし、何より昨日と一緒で

絶妙にハモってくる葉月。

ハモってもらうとすごく上手に思えて楽しい。

気持ちよく余韻に浸っていると、みんなが変な顔していた。

葉月もだ。

ん?葉月なんか昨日何回もやってたのに。

まぁ、そう言うリアクション取らないとバレるってことかな。

「う、うまぁ」

静香さんが言う。

「え、反則じゃね?なにそのハモリ!びびる!知ってる曲だったわぁ!ってなったけどそれ以上の衝撃がほとばしったよ!」

「すご、ハモれるひとなんて初めて。この曲結構音程難しいし高いのに。」

「え?」

ハモってた?いやおれが?ハモってたのは葉月じゃ…?

「すっげえうまいてことだよ!すごいよ蓮!おまえ、天才か!」

「あ、あはは、昨日練習して、良かったなぁ?」

「すごい。本当に。」

葉月も、真顔で言ってる。

「でも俺これしか知らないから、あとは聞く専門になっちゃうけど…」

「え、えーこれの後に歌う勇気、ない、よ?」

なんと、静香さんがそう言ってる。

「…、お、おれもやめとこーかな…。」

たけるんるんも弱気だ。

あまりにも普段の二人とは、さっきまでの二人とは違う様子。

葉月が、魂を揺さぶるって言ってた。これはシャレにならないかもしれない。


しばらく歌うのは封印しておこう。

そのあとはファミレスでだべりながら、夕飯を食べた。

寮のおばさんには前もって言ってあれば外食もいいと言うことだったが、朝言いにいったら、むしろ誰だよ的な目で見られた。あんまり気にせず作ってるのかもしれない。

あのカラオケ屋からすぐ近くのファミレスだったため、

定期的に。30分に1度くらい断末魔の叫びが聞こえたが、

まぁ、それくらいいつものことだ。流石に街中だと結構寄ってくる。

3度目の悲鳴に飽き飽きしていた時。

シズがこんなことを言い出した。

「ねぇ、3人とも。幽霊って、信じる?」

「え?」

「なに急に。」

「…」

楽しく談笑していたのに、空気が変わった。

「うふふ、実はね、今の今、市内屈指の心霊スポットでカラオケしてきちゃいました!」

「はぁ!?」

「うふふふふ!ほら、いるるん、絶対一緒に行ってくれないから!イケメンと一緒なら来てくれるかもって!来てくれたし!カラオケもしたし!で、どうでしたか?感想は?」

どこから取り出したのかスマートフォンをもって撮影している。インタビューのようにマイクまで出して

「…シズ。あそこはどう言う場所なの?」

「はい!あそこは知る人ぞ知る有名な心霊スポット!その名も、悪夢のカラオケボックス!なんでも不良グループが占拠した後、女の子を連れ込んで監禁とか強姦とかしたり薬を使ったりしていて、ひょんなことで連れ去られた女の子の一人がナイフで男どもを滅多刺しにしたあと、燃やしたらしい!焼死体が15体も出てきたんだって!それぞれの部屋から!だからあそこでは変なクスリでキマッちゃってる男どもが悶えてる叫び声だとか、女の人の悲鳴みたいな歌声とかセックスの叫び声がバシバシ聞こえるって言う有名な心霊スポットだったのです!」


「えーっと?」

思わず葉月の方を見てしまう。シズさんのキャラが掴めなくて。


「シズはオカルト研究同好会の、唯一の部員なの…」


「ええ〜……。」

唯一のってところがポイントだ。


「そんな場所だったのか…」

たけるんるんがゲンナリしてる。


「で、シズさんは見えたり、聞こえたりしたの?」


「ほえ?みなさんは?」


「俺は全く聞こえない。視え無いし聞こえない。そもそも興味がない…」


「…わたしも何も視えなかったし、聞こえなかった、わ。」

「俺も、だ。気味悪いなぁとはおもったけど。途中から大丈夫そうになったしな。」

それは余計だ。

「ふううううん。まぁ、そう言うことにしときましょうか。で、最初の質問は?皆さんは幽霊を信じますか?」

「…おれは別にどっちでもいい。居てもいなくても。」

「俺は信じてるけど、会いたくはない、なぁ。正直苦手だ。」

「わたしは…いてほしい、な。」

「え?」

「そしたら、お爺ちゃんとか、おばあちゃんとかにも会えるかも、でしょ?だから、」

あぁ。大切な人にもう一度会いたいのか。

「でもそう都合よく会いたい人の霊だけに会えるってことあるのかな?」

俺に話を振るタケル。首を横に振る。

「わかんないけど。信じたいだけ。」

ちょっと口を尖らせて不貞腐れたようにゆう葉月。

「そっか。ところでさ、しずかさんは信じてるだ?」

「しずかさんなんて他人行儀やめてよ!私たちはオカルトハンターの同志になったんだよ?シズってよんでよ〜ほら見てYootube!すっごい再生回数。」

そこに見せられた画面は、

『心霊スポットカラオケボックスで2時間ぶっ通しでカラオケしてみた!』

…頭、痛くなりそう。

一応画面全体にモザイクかかってる。けど。え、こんなに簡単に投稿できるもんなの?

「はぁ?シズ、あんた何勝手に!」

「いいじゃん、モザイクかかってるから絶対誰だかわかんないし。それに、みてみる?この動画、すごいんだよ。」

そして流される動画。

最初の方だ。

俺がトイレに行ってる頃。

必死に歌う3人の合間に、

ギャアアアアとかヒィイいい!とか、

阿鼻叫喚がこだまする。

「…ね?」

「いや、うん、聞こえないふりしてたけど…。」

丈瑠は聞こえてたんかい。

「え、これ、やばくない?除霊師とかに頼んで除霊してもらった方が良くない?」

焦ってる葉月。

俺がもう全部除霊したけどね…。

「ねえ、シズ、それ、やっぱり消そうよ。」

不安そうに言う葉月。

「ネットでもその反応が一番多いみたい。みんな危ないって言ってるね」

タケルが自身のスマホで見ながら言う。

「むぅう、決定的な動画なのに。怖いとか不安とかでこの科学では説明できないロマンを無碍にしようとするなんて!」

そういうと、

俯いて泣き出すシズさん。

………

「え、シズ、その泣かないでよこんなとこで。」

「ちょっと、え、おれ?おれのせいかな?」

慌てる二人。

うーん…。

「でも、やっぱり、消した方がいいんじゃないかな?」

俺もなんか色々バレるかもしれないしやっぱり気分のいいものではない。

「それにこれ、盗撮って言ったら犯罪になるし。」

モザイクかかってるとはいえ、特定とかされたら怖い。

「うううう、痛いところを突きますね。」

涙目で睨まれた。

「わかりました。

消します。消しますよ、もぅ。ただ、条件があります!ここに、名前を、書いてください!」

バン!

と勢いよくカバンから出したのは、

入会届。

オカルト研究同好会の。

「…え?」

「だから、オカルト研究同好会のメンバーになってほしいのです!そして4人になったらあと1人で部として申請できる!」

「ええ……」

「あすみんは部活決まってないでしょ?なら、これで大丈夫。この学校は高校になったら部活に入らなきゃいけないって決まりがあるのよ。その点この同好会に入っていたら大丈夫。活動は今日みたいにだべったりカラオケしたり遊んだりするだけ。ほら、あすみんにもメリットがあるでしょ?」


「え、いや、別に俺部活やってもいいなと思うし。」

「あまいあまい!この学校はもと女子校。男子生徒の人数が少なすぎてそもそも男子ができる部活が少ないのよ!普通の球技はほとんど全滅ね。やれるとしたら、卓球、テニス、陸上。だけど残念。このあたりはどれも県内トップクラスの部活!かなり厳しい!テニス、卓球なんか全国クラス。他の男子はこれを目当てに入学してくるのよ。その中で初心者丸出しの男子、なんていたたまれなさすぎるわよ!」


「え、、、そうなの?」


「うーん、そうだね。」

「おれも、陸上の推薦できてるし、なぁ。」

なんと。丈瑠くんは運動できる人のようだ。

難しい顔をしている丈瑠くん。

「でも、おれ、軽音部作りたいしなぁ……。」

あぁそうか。彼はそのためにカラオケに誘ってきたんだった。

「軽音楽部?」


「そう!軽音。ギターとかドラムとかバンドのやつ!」


「え、楽器弾けるんだ丈瑠くん」


「まだ始めたばっかだけどさ!葉月さん、興味ある?」


「んー、私楽器はあんまり。ピアノとかなら人並みに弾けるけど。」


「人並みってどんだけレベル高いのよ。音大の先生からヘッドハンティングされてるくらいよ。」


「……それってすごくない?」


「すごいのよ。たまにびっくりするくらい逆に失礼な謙虚さを発揮するから。いるるん。気をつけて。」


「ええ?そんなことないけどなぁ。ハープ全国大会金賞のシズに言われたくないけどね」


「ハープ!?」


「全国とか……すご……」


「うーん、そういうわけで私たちだいぶお嬢様なのが基本なのよね。楽器って言うとバイオリンとか、そういうのだし、音楽で言うとクラシックが基本で、たまにジャズ、みたいな。だからだいぶエスカレーター組は厳しいし、新しくきた組は部活熱心な人多いから、難しいかもね。」


「そーだね!だからたけるん。もし本当に本気で軽音部作りたいなら、私と一緒で、何にもやることなくて暇してる人を集めることになるんだと思うんだけど、わたしは3年間リサーチしてて今とりあえずこの4人しかいないわけよ。だからまぁ、とりあえずオカルト研究同好会に入会して、同志を募ればいいんじゃない?なんなら部室とかで楽器の練習してても全然いいしね!」


「うーん、そっかぁ。まぁとりあえずそうするか……。」頭をぼりぼりかきながら渋々同好会入会届の紙をもらう丈瑠。

俺も葉月も渡された。

「……私入るって言ったっけ?」

「え?そこ?そこは考えてなかったよ。いるるんが私をほっとくわけないし。」

「……はぁ。わかったわよ。やればいいんでしょ?私はダラダラしてるだけよ?」


「もちろん!たまに遊びに行ってくれればそれで!」


むぅ、葉月も入るのか。なら、空気的にも、個人的にも葉月を万が一危険な目に合わせちゃったらいけないし、俺も、入っておくか。



こうして、オカルト研究同好会はスタートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る