2話

「おい!おい!」

ガンガン!

扉を叩く音がする。



男の人の声がした。五十嵐先生の声だ。



みると部屋中血塗れ。

ちょっと頭がガンガンする。


布団が、血塗れになっちゃった。


我ながらすごい量だ。

今度はティッシュ箱って言い訳言えないけど。

だって、その、ブラジャーもつけてなかったんだもの。


おへそとか、余裕で見えたし。胸、とか。ね。はだけてて。


健全な高校生男子には刺激が強い。



例によって、入鹿さんはまた部屋からいなくなってる。



もう、先生ガンガンうるさいな。



頭に響くよ。


ガチャ。


ギーーーーー


「先生?どうしました?」


「あ、良かった!阿澄!なんともないか?大丈夫か?」

いうや否や部屋に入ってくる先生。


何をそんなに焦って?


あ、あぁ。そりゃこの部屋の状況見たらそうなるわな。


殺人事件かってくらい血が撒き散らされてる。


「あ、先生大丈夫です。それ、ただの鼻血です。まだちゃんと止まってなかったみたいで。」


「と、とりあえず制服脱いで着替えろ!それから、これは、どうするか…」


血塗れの掛け布団をみて、困ってる先生。


「こ、これ全部お前の血か?とりあえず先生のところくるか?なんか食わないと血が足りないんじゃないか?」


「確かに、そうですね。とりあえずご飯食べてきます。あ、時間、過ぎてる…」


「よ、よし。食欲はあるんだな。わかった先生の部屋にこい。食いもんはなんとかするし、風呂。湯船はつからないほうがいいかもしれんが、体は洗ったほうがいい。」


確かに血がつきまくってる。


うーん、こんなに出血したのは久しぶりだ。

花粉症気味のせいか。去年の2月とかはかなりこんな感じに出血した。寝てる時が多かった。

花粉症だとたまにそうなる。気付かない間に痒くてかくらしい。粘膜が傷ついて出血をよくする。


「ありがとうございます。甘えます。」


「あぁ、いい。いいんだ。」


道中先生があんまりにも心配そうだから花粉症のことも話しておいた。


止血剤とか持ってるから心配しないで大丈夫ですって。




先生の部屋でカップラーメンを食べながら話をする。


あったかい。結構体が冷えてたみたいだ。芯からあったまる。そして先生の優しさで心があったまる。多分この人はいい人だ。いい先生だ。


「だいぶ顔色戻ったな。良かった。」



「ええ。ありがとうございます。心配かけてすいません。」


「いや。当然だ。その、大丈夫って言ってるが、何かあったのか?俺でよければ相談に乗る…ぞ?話せば楽になるってこともあるだろうし。力になれないかもしれないが。」



「なんていうか、友達付き合いがちゃんとできるか心配です。」


「まぁ…、あいつらは酷いよな。エスカレーター組だ。特に中学は女子校だからな。男の俺に対してはかなり態度が悪い。

今日は学級の時間しかないから終始酷く見えただろうが、男の先生じゃない時はみんな普通だよ。まぁ、そのうち慣れるさ。上の学年の奴らも一年の時はなんとなく中学のくせが抜けないんだが学年が上がるにつれて男子に対するあたりも柔らかくなる。」


だいぶ、具体例をあげて丁寧にアドバイスしてくれる。


「やっぱり先生はいい人ですね。先生がいればやっていけそうです。」


「お、おまえ、泣かせること言うな。お前もいいやつだ!差別はしないし贔屓もしないが俺は絶対お前の味方だからな!」


「あはは、ありがとうございます。」



その日は、お風呂まで入ったらそのままそこで寝てしまった。血が足りなかったのか気疲れもあってか。



やっぱりぐっすり眠れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日の朝。


食堂でご飯をそそくさと食べて。



血まみれになり洗濯した制服を部屋に乾かしに行く。そして、もう一着もってる制服に着替えて、学校に行く。


うん。


同じ轍は踏まない。


ドアを開ける前に確認する。


コンコン。


自分の部屋にノックって変な気持ちだ。


ガチャ。

ギーーーーー



……。うん、誰もいな…







いた。



ベットの1段目の上に正座で座ってる。



も、もしかして昨日見たの怒ってるのかな?


でも、ここで舐められたら最悪パシリとかにされそうな気がする。


いじめられたりして。



それは避けないといけない。


意を決して部屋に入った。



ガチャ。



「…入鹿さん…?なんでここに?」


「‥‥たい」



「へ?」





「変態。」



「えっえっ、?」



「わたしのはだけた裸体を見て鼻血を出して倒れるとか、変態以外何者でもない。」


「ぐっ、」


「これは、みんなに言いふらそう。布団を無理やり剥がされて恥ずかしい姿を無理やりあらわにされて視姦されたって言いふらそう。君の高校生活はジ・エンドだ。」


「な、……」

それはまずい。居場所が中学とは違う意味でなくなる。


「それが嫌なら、ここをわたしに明け渡せ。ここはわたしの屯するのに最適な部屋なのだ。ずっとわたしが使ってた。あんたが急にきた。断りもせず。」



「え、え、いや、ここ、昨日から俺の部屋、なんだけど。」



「聞いてない。ここはわたしのベストプレイスなんだ。わたしが使う。」



「いやいや、ここは、男子寮になるんだって聞いてるよ。まだ俺しかいないけど。」


「そんなのは勝手にそっちが決めたことだろ。ここはわたしの場所。」


「いや、そんなこと言ったって、おれここに住んでるんだから。」



「昨日からだろ。わたしはここにずーっといるぞ。わたしの方がここにふさわしい。ここは譲らない。」


「いや、だから。」


「だからなんだ。わたしの主張は終わった。とりあえず自己紹介しろよ自己紹介。考えてきたんだろ?」



「自己紹介!?」



「ほら、早く。言うこと聞かないの?」


「……阿澄、蓮です。



「阿澄…くん。」


なんか、変だ。



なんというか、名前呼ばれただけで、心臓がドクドク言ってる。緊張してるのか。

どくどくいい過ぎて

顔がアツい。赤くなってるかもしれない。恋してるみたいだ。いや、確かに恋したんだけどさ。


「なんだ、顔真っ赤、だぞ。照れ屋さんか。シャイボーイか。おまえ、人と話すのに緊張するタイプか。ぼっちだったんだな。よかったな、はじめての友達がこんなに美女で。」


「ぐっ…」



「まぁいいや。ねえ、100歩譲って、あなたがここの部屋にいることは、仕方ない。許容してあげる。でも、わたしがこの部屋を使うのは別にいいと思わない?ほら、あなたもこんなに可愛い女子が部屋にいるんだからウハウハでしょ?わたしは変わらずここで過ごせててウィンウィンの関係になれると思うのよね。ほら、わかった。わたし、あなたに恋した女の子の感じで演技するから、ちょっとドキドキワクワクな感じを演出してあげる。ね、だからいいでしょ?」




「あー、入鹿さん?」





「あ、あの、その呼び方あんまり好きじゃないの…。名前で呼んでくれない?」


急に声のトーンが変わった。



「え、えーっと葉月さん?」



「はづき、はーちゃん…。」消え入るような小さい声で何か呟く入鹿さん。


「へ?はーちゃん?」



「あ、なんでもない。

みんなの前では普通にみんなが呼んでる方で呼んでほしいな!その、恥ずかしい、から。」


しおらしく言う葉月。

これが、演技…?



「その、私ずっと女子校で、男の人と喋るの緊張しちゃって、それでその、キャラが違うって…」


髪の毛をクルクルしながら恥ずかしそうに言う葉月。


「……」





「その阿澄君が良ければ、私と、この部屋でだけ、お友達になって、くれないかな…?その、学校では普通、普通にすごすんだけど、この部屋でだけ、その2人で、ちょっとお話とかするの…、どう、かな?」


枕を抱えながら真っ赤になってる顔を半分隠して上目遣いで俺を見る。



か、






かわいすぎる。



反則だろ。


たらぁと鼻血が。



はっ、いけないいけない。

ここでそんなことしたら変態だ。慌ててティッシュで抑える。


そのまま答える。


「も、もひろん!俺でよければ!」


「よし!契約成立。」




「へ?」



「そしたら早速ルール決めよ。わたしは1段目のベットでいいよ。勝手に布団を取らないでくれる?それからここジメジメするし換気はしときたいタイプなのよね。どうせ2階だし寮だし侵入者なんていないから開けっ放しでもいいから窓は開けといてくれない?鍵は閉めないで。それから……」




……なんて図々しいんだろう。これみよがしに好きなことをバンバン言ってくる。さっきまでのしおらしいかんじはどこへ…



「ん?だから演技してあげるって言ったでしょ?お好みじゃなかった?どんなのがお好み?オラオラ系のギャルっぽい口調から、大和撫子的な知的な口調まで色々できるよ?」


「えんぎ……」


落ち込んだ。


「うん?で?どれにする?」


「いや、普通でいい。普通でいいけど、ここで過ごすって、ここで?俺がいるのに?」


「うん。だめ?」


「いや、いいけど、むしろいいの?」


「なんだ。よかった。じゃあ普通に頼めばよかったね。まわりくどいことした。」


「そんなにここが気に入ってるの?」


「ええ。すごく思い出が詰まった場所。」


そういうと、耳にかかった髪をかき上げながら、なつかしそうに部屋を見回す葉月。


優しく微笑む口元。目を閉じて回想しているのか。

まつ毛が長いなぁ。本当にきれいな顔立ち。


不覚にも見惚れてしまった。


「そっか。なら、いいよ。普通にいても。でも、おれも普通に生活するよ?」



最近まで

妹と同じ部屋で生活していたのだ。そんな感じだと思えばいい。



「ほんと?ありがとう。」

すごく無邪気ないい笑顔だ。かわいい。くそぅ。




「とりあえず、俺着替えに来ただけだから、また、後で学校でね!」


「うん、また。でも、このこと、内緒にしてよ。」


「え?」


「同級生が同じ屋根の下どころか同じ部屋で生活してるなんてウワサ流れてほしい?」



「いや、そうだね。わかった。」


「学校であっても知らない人のふり。」


「うん、そうだね。でも隣の席なんだし、知らない人、ではないだろ?」


「…たとえだよ、たとえ。」


「うん、そうだね。わかったよ。」



「じゃあまたね。」




そういうと、クローゼットをあけて、制服を出した俺の後ろをそそくさと通り抜けて行く葉月さん。







サァッと風が吹いた。ベットの横の窓が空いている。



パッと着替えて、俺も出て行こうと思ったけど、


窓開いてるじゃん。



よっと、バタン。



さ、早くいかなきゃ。


ガチャ、ギーーーーーーーー


バタン。


ガチャ。





葉月。


ルームメイトに、なった。



そんなことってあるだろうか。


一目惚れした相手が、元々この部屋がすきだから俺がいても一緒にいていい?つってルームメイトに。


女の子とルームメイト。


なんて言う展開なんだ。


小躍りしたい気分だ。



性格はなんだか思ってたより凄そうだったけど。そんなのご愛嬌だ。


何より素直になった時の笑顔とか、部屋に思い出いっぱい詰まってるとか言う時の懐かしむ表情とか、

愛が詰まってて、


なんてゆうか。


胸がキュンとする。



あぁ。認めよう。



阿澄蓮は、入鹿葉月に、恋をした。




青春物語が始まってしまったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


授業は五十嵐先生の言う通り、結構普通だった。特に男性教員じゃない時はもう、優等生丸出し。ここまで徹底してると逆に笑えてくる。


妹と同じだ。反抗期なのだ。


そう考えると、可愛らしく思えた。



で後ろの席の純哉君とご飯をひっそり食べている。


「昨日はどうなるかと思ったけど今日の感じならなんとかやっていけそうだね…。」

小さい声で言う、純哉。


「あぁ、それ、俺も思った。ちょっと昨日はびっくりしたよ。あ、でも先生が言ってたよ。最初だけだって。だんだんお互い距離感とかわかってくるから、だってさ。」


「う、うん。そうだよね。良かった、君みたいな話しやすい人が前の席で。」


「あぁ、俺も良かったよ。お互い様だね。」


すごい声は小さいがなんか褒められたのでよかった。

何より俺に怯えずに俺に頼ってくれてるところがいい。

まえの中学ではあり得なかったから。


「…ねぇ、」


パッと見ると女子が立ってた。

身長高めのスラッとした人だ。お淑やかな印象を受ける。


「うん?」



えーっと名前なんだっけ。


「私、安恵(やす、めぐみ)っていうの。隣のクラスなんだけど。なんだかうまく友達できなくて。」


隣のクラスなら見たことないな。まだ2日目だもの。



その安さんが何の用だろう。



「あの、純哉君と同じ中学なの。それでちょっと友達できるまで一緒にご飯食べてもいい?」


「え、いいよいいよ。ねえ?純哉?」


女子と喋れればそこからクラスの女子(主に高校からの人たち)とも仲良くなれるかも。そんなふうに思っていた。


「あっ…、えっと、うん……。」


俯く純哉。うーん、同中は嫌なのかな?




すると小声でヒソヒソ話しかけてるヤスさん。


もしかしたらいじめてたのかも。と思って怖いこと言ってないか心配で聞き耳を立ててた。そしたら



どうやら逆だったらしい。


「あーッと、えーっと、俺ごめん、ちょっと先生と話す用事があったの忘れてた!すまんな純哉!また5時間目な!」


そう言ってそそくさと席を立って食べかけの弁当持って職員室へ行った。



なんと、もう、純哉には彼女がいるのか。いいなぁ羨ましいなぁ。そんで2日目から一緒にお弁当って。どんだけ仲良しなんだ。


いいなぁ。おれもいつか。



なんて。



職員室に行く途中で、入鹿さんにあった。

階段の踊り場で手すりに腰掛けてる。


一人きりだった。


ちょっとびくってなっちゃった。



一人で窓の外を眺めている葉月さん。その表情も絵になる。綺麗だなぁって思う。


二人きりだし、話しかけてみようかな。


……なにを話そう

天気?



風がふわっと吹いて髪の毛が靡く。


ついでにスカートも。


角度的にはちょっとギリギリ見えなかったけど、


上からみたら見られたと思うだろう。


パッと手でスカートを押さえて顔を赤くしてる入鹿さん。


恥じらう顔が、可愛い。


あんまりに可愛かったからちょっとニヤッとしてしまったらしい。


上靴が飛んできた。


鼻にクリーンヒットする。


鼻はやばい。また鼻血が!


だがなんとか堪えることに成功したらしく、

鼻血が出る大惨事にはならなかった。


悪くないけど何度も、謝っといた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇねぇ、イルルン。今日は放課後遊べないのー?」


「うん。無理だよ。シズ。今日は水曜日でしょ。」


「えええ、いけず!カラオケ行こうよカラオケ!男子たちも誘うんだよ。3組にイケメンジャニーズ系男子がいたんだよぅ、イルルンがいないときてくれないじゃん?」


「なんで私がいないときてくれないの?面識ないのに。」


「そりゃあ、いるるんに一目惚れしちゃうからじゃない?イルルンはそのままでいてね。散った彼を慰めるところからあたしの恋がはじまるんだからぁ。」


「そんなことあるわけないよ。わたしいなくてもいいでしょ?」


「むう、ねえ、今日はダメでも明日ならいいよね?よね?」



「…明日は、特に予定はない…けど、…。」




「よし!じゃあ明日って言ってくる!もうすでに3組の男子は半分来るみたいだし、レイカとかフミとか行く気満々だから!絶対だよ!」


「あした、気分が良かったらね。」


「そういって絶対来てくれるんだよーイルルンはなんだかんだ言ってやさしいもんね!」


言い残して颯爽と去っていった。


はぁ。

相変わらず、だな。シズは。



もうすぐ昼放課も終わる。午後の授業も早く終わって欲しいなぁ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やぁ!君が阿澄くん?」


昼放課も終わりかけ。

一人でこっそりご飯を食べた俺に話しかけてくる男の声がした。初めて聞く声だ。



まぁ、この学校は男が少ないから妙な連帯感というか仲間意識はなんとなく感じている。


「初めまして。阿澄です。何某さん?」


「僕は浜田丈瑠(はまだたける)3組だよ。」


「浜田君、頑張って覚えるよ。あんまり人の名前覚えるの得意じゃないけど。また聞いたらごめん。」


「いや、いいよいいよ。何度も聞いてくれ。タケルって呼び捨てで良いよ。ところで君、歌、得意かい?」


「歌?全然。なんで?」


「いや、なんでも、1組の女の子がカラオケ行こうよって誘ってきてね。」


「へぇ。」


「君の歌がすごく上手いから聞かなきゃ損だって言うんだよ。」


「はぁ!?」


「それで、僕、実は軽音楽をやっていてね是非君の歌声を…」


「いや、いや、いや!まてまてまて。誰から聞いた?」


「えーっと、名前は確か来栖静香(くるすしずか)さんだったけな?」


「…大嘘。」


「へ?」


「いや、その人と喋ったことすら無いよ。」


「なんだって?」


「ごめん、と言うことでおれ、全然歌とか歌えないから。」


「まぁ、でもそんなのは話しかけるきっかけなのさ。」


「え?」


「歌うのは、好きかい?」


「別に。普通。」


「じゃあ、これから好きになればいい。」


「……え?」


「音楽って、楽しいよ。」


「それは、まぁ。」


「お!同意してくれるんだね。嬉しいなぁ。とりあえず、せっかくだからカラオケ行ってみないかい?全然知らない歌でもなんとなくノルのが楽しいんじゃない。ね、良いよね?」


「え、、、まぁ、うん、暇だったらね。」


「今日の業後。」


「へ、急すぎない?」


「はは、まぁ善は急げだよ。」


「カラオケってメンバーは?」


「基本1組の女子と3組の女子が数人かな。あと、3組の男子も3人くるよ。ほらここ男子少なくて肩身狭いじゃん。仲良くなっておこうよ。」


「あー、それはまぁ、賛成。だけど、1組の男の子もう1人呼んでも良い?あ、もし来れたらだけど。」


「うん、もちろんさ。連絡先交換しておこう。」


「おっけ。じゃあそろそろ昼放課も終わるし教室戻るよ。また。」


「うん、またね!」


なんだか良い笑顔の明るいやつだなって思った。


あんなに気さくに話しかけられたこと、今までないかもしれない。


中学生活だと、かなり恐れられていたからな。ある意味。


ちょっと良いことあった気分になってルンルンで教室に戻っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なんか、カラオケは明日に延期になったそうだ。

そう、これを機会に純哉とも連絡先を交換できた。そして歌は苦手だから行かないって言う。まぁ、そうかそうだよな。純哉はそう言うキャラじゃ無い。


「お、寮に戻る前にちょっと良いか阿澄。」

五十嵐先生に呼び止められた。


「はい、なんでしょう。」


「あぁ、ちょっと職員室に来てくれ。」

言われるがままついていく。


校長室に通された。

え、なんだろ。

「あぁ、阿澄くん。どうだい高校生活は。」

「ええ、まぁ、それなりに楽しいです。」

「なに、大したようじゃないんだが、お父さんから電話があってな。ちょっと声を聞かせてあげて欲しいんだ。」

「…はぁ?」

声を聞かせる?何言ってるんだあのクソ親父は。

「まぁ、まぁ、そうじゃけんにせんと。心配なんだよ。親心さ。」

「はぁ。、まぁ。」

そういうと受話器を渡された。

「つながっておる。」

「へ?」

「…もしもし」

受話器の向こうから声が聞こえる。

「……董哉…なに?」


五十嵐先生が若干びっくりしてる。まぁ、父親のことを名前で呼ぶのは意外だと、結構言われてた。それだろう。

「いや、元気か?」

「あぁ。」

「変なことはないか?」

「ない。」

「そうか、良かった。」

「ようじは終わり?切るよ。」

「いや、あぁ、まぁ。いい。その、よく眠れたか。」

「うん。すごくよく眠れる。」

「それは良かったな。サムライなんとかってやつら、お前がいなくて寂しがってる。」

「間違ってもこっちにくるなって伝えておいて。」

「あぁ。除霊しちゃだめなんだろ?」

「うん。絶対ダメ。」

「わかった。」

「じゃあ切るね。」

「また、困ったことがあったらいつでも電話しろよ。」

「あ、切る前に変わってください。」

五十嵐先生がかわった。

なぜだろう。まぁ良いや。

校長先生がにこやかに退室を促す。

大人の、話ってやつね。はいはい。

これが用事なら帰って良いんだよな。

学校を出て、寮に戻った。

部屋の前。

ノックを一応する。

ガチャ、ギーーーー

バタン。

「お、おかえり。」

「ただいま。」


居た。

制服から着替えている部屋着のような格好だ。いつも思うんだがあまりに無防備な格好が多い。

眼福なんだが。

「やっぱり学校とは雰囲気違うね。」

「緊張しいなんだ。まだクラスの新しい子と馴染めてなくて。」

「そうは見えないけど、」

「まぁね。よく言われる。」


俺たちはそれから夕飯の時間までしゃべった。

楽しくしゃべった。

自分の中学時代の話や、妹の話。

葉月の中学時代の話。

俺たちは不思議な共通点がたくさんあった。

中学時代友達から、怖がられてたこととか。

妹が可愛いこととか。

妹の能力が高くて劣等感を感じてるところとか。

水色が好きなところとか。

占いとか信じちゃって毎朝チェックしているところとか。

なかでも、

「え……、サムライパーソンズ、知ってるの?」

「ええ。よく動画で見てた。わたしああゆうのくだらないって言いながらも最近よく見ちゃうんだ。」

「おれも、おれも!え、すごい、見てる人初めてあったかも。」

「そう?でも、一時期すごい話題になったよね?たしか2年前くらいじゃなかった?」

「そうそう、放送事故でさ。ネットも炎上してたよね。一時期論争なんか起こったりして。」

「それだけ影響力が強い人たちだったんだよね。」

「うん。そう、そうなんだ。」

力強く頷いてしまう。

「なんか、くだらないことなんだけどさ。それに文字通り命掛けてるっていうか。本気、なんだよね。自分たちの考えたことに本気出して挑んでる姿はカッコいいって思っちゃった。」

「そう、そうなんだよ!あいつらは本当に。本当にいい奴らだった!出身とか生まれとか、関係ないって気概で、色んなことに挑戦してさ。しってる?リーダーのりょーちん、親が政治家なんだよ。超高学歴で、それでなんだってできるのに、誰だってできるくっだらないことに人生使ってさ!」

「うふふ、蓮君、アツいね。」

はっ、思わずオタクを発揮しすぎてしまったか。

熱量が噛み合わないと引かれる原因になるってネットに書いてあったぞ。れいせいになれ、おれ。

「あ、ごめん、その…とにかくおれ、あの人たちすごい好きだったんだよね。」

「んふふ、伝わる。伝わる。好きなことに一生懸命になれる蓮君も素敵だよ。」

「えっ」

「あっ、…、えっと、その、変な意味じゃなくて、ね?」

顔を真っ赤にしながら枕で顔を隠してチラッと上目遣いで見る葉月。

かわいい。

うん。近くにいるだけで高鳴る胸。

何をしてても目線で追ってしまう。


これを恋と言わずになんと言うのだろうか。

「んー♪んんんー♪」

俺が悶えていると急に鼻歌を歌い出した葉月。


「それ、なんの歌?聞いたことある」

「へへ、わたしもよくわかんないんだけど、よく聞くの。」

「ふふーん♪ふふふんふふーん♪」

乗ってみた。

「わ、すごい驚いた。上手だね、鼻歌。」

「え?鼻歌に上手とかあるの?」

「あるある。試しに歌ってみてよ。」

「え、でも俺歌詞とか知らないし。」

「検索してみて。ほら携帯でさ…。」

「あ、あぁ。んーと、曲名わかんないのにどうやって?」

「ふふん、遅れてるなぁ蓮君。今時は音声で検索できるんだよ。ヘイ!sari!ふふーん♪の歌の名前は?」

『ポーン。ザムスの『Every Little 』です。』

「…、ね?」

首をかしげ俺を覗きこむ葉月、顔が近い!近い!顔真っ赤になる俺。

「す、すごいね!あ、歌詞出てきた。歌ってみるね…。」

細かい音の違いは葉月がすぐに指摘してくれた。

30分ほど練習したので、歌も覚えてしまった。

「わぁ、上手。才能だね。歌が上手い人って羨ましいなぁ。」

「え?でも、葉月だって上手いでしょ?俺の音程間違い直してくれるってことは正しいのがわかってるってことだし。」

しれっと呼び捨てにしてみた!一瞬お、って顔したけど、すぐにこやかな顔に戻った葉月が言う。

「ふふ、まぁ、音程は取れる取れないはただの訓練だよ。でもさ、歌の上手いとかって、音程が取れてるとか言う部分じゃないところあるんだよね。蓮君の歌は、なんだろう、魂が揺さぶられる、みたいな声でさ。ジーンとくるんだよ。」

「え、ほ、褒めすぎじゃないかなぁ?」

魂ってワードに過剰に反応してしまう俺。

もしそうならそれは上手いとか、じゃないな。って思ってしまう。

「ありがとう、正直俺明日カラオケ誘われてて、歌とか歌えなくて困ってたんだ。なんとかなる気がする。」

「え、じゃあ絶対みんなびっくりするね。でもわたしと練習したなんて絶対内緒だからね。」

「あはは、わかってるよ。言わない。」

「わたしにも、言っちゃダメ、だよ。」

ちょっとジト目で俺を見る葉月。

言いそう、と思われてるんだろうな。

みんなの前に葉月になんらかのアクションは取ってはいけないって意味、だろう。

「わかってるって。」

「2人っきりでも、誰がみてるかわかんないから。」

「あ、あぁ、わかったわかった。学校では話さないから。」

「ん、よろしい。」

満足げにうなづく。可愛いなぁ。もう。


ガン!ガン!ガン!

「ちっ」

へ?いま、葉月舌打ちした?

ドアを強めにノックする音が聞こえる。


「おおおい!生きてるか!?おい!蓮!」

「やば、この声五十嵐!蓮くん、また明日ね!」

そういうと、すごい速度で窓を開けてそのまま外にジャンプ。

…へ?うそ、え?落ちてった?

がんがんガン!「おい!蓮!開けろ!」

あーもう、それどころじゃない、と思いつつもドアを開けて五十嵐先生を中に招く。

「な、なんですかもう!大声出して。びっくりするなぁ。」

ぜぇぜぇ言ってる五十嵐先生。

「無事か!良かった、はぁ、なんともないか!?なさそう、だな……はぁぁ良かったぁあ。」

「なんなんですか。もう。大袈裟な。」

「お前、はら、減ってないのか。」

「へ?」

お腹?

ぐうううううう


鳴った。

「今、何時か知ってるか?」


「えーっと、、」時間を忘れて話してた。確かに。楽しくなっちゃって。

まだ6時半くらいかな、と思ってたら、

携帯の時計は23時を示していた。

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