1話

夏の日


炎天下


太陽が最も力を振るう日。


燃え盛る炎。


命の火


電信柱に突っ込んだ高級車。


車道に飛びでた子供。


赤い風船を抱えるその子は、


燃え盛る車をみず


はるか彼方の虚空を見つめる。



指を刺す。


そしていう。


『次は…』






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


電撃が走った。


こんなに、わかりやすいものなんだ。


ビシッと来た。

恋、これが恋か。


あ、鼻血

すげえギャグ漫画みたいに時間がゆったり流れてる。


ティッシュ箱の角が鼻に当たった。


勢いよく鼻血が吹き荒れる。



時は少し遡る。




んんんん!


目覚めの朝!


久しぶりに素晴らしい睡眠ができた!


今日から俺は高校一年生になる!


俺、阿澄蓮(あすみれん)は勢いよくベットから飛び出した。

昨日からこの学校、星稜高等学校の寮に住み始めた。

この学校は開校150周年を迎えるかなりの伝統校。

敬遠なキリシタン学校で、ここを卒業した有名人も数多い。

つい三年前まで女子校だったのが共学化されたのだ。

しかし全校生徒1000人近い中で共学化されて3年経った今も男子生徒は100人に満たない。クラスに男子は4〜6人のハーレム校だ。


おれは家庭の事情でここに入るしかなかった。

それに、ここは地元からだいぶ遠い。電車等でこようと思ったら1時間はかかる。


そんな事情もあり、俺のことを知ってる奴はここの学校には一人もいない。

中学時代特殊な事情で基本ぼっちだった俺は

高校デビューのチャンスと思ってここにきた。


そしたら、まず、男性寮というのが存在しない、というのだ。寮にいるのは女子ばかり。

だから、十年前老朽化が原因で使われなくなった旧女子寮の一室を使わせてもらうことになった。


このでかい寮にいるのは俺一人。


まぁ最も水道もガスもすでに止められているから、寝るだけしかできない。

普段の食事は今使われている女子寮の食堂で食べることになっているし、お風呂は宿直で泊まる男の先生のお風呂を使う。


「いろいろと大変だろうが、お父さんには、色々と、お世話になってます。来年にはもっと男子の寮の受け入れが広げれると思う。少しずつになると思うがしばらくは一人だし我慢してもらうことがたくさんある。」


と校長先生直々に俺と俺の親に挨拶に来た。


まぁ、おれは俺だけのためにそんな昔使ってた校舎の一室を使わせてくれるなんて破格な条件をもらったのだ。その程度我慢できる。



というか、家から出られるのなら、何でもいい。

たとえ、旧校舎が幽霊屋敷であろうとも、それでいい。

「おはようございます!今日からお世話になる阿澄蓮です。よろしくお願いします!」


食堂に入るなり元気よく言った。

食堂のおばちゃんは、無視。

その他のチラホラいる女生徒も、ほぼ無視。

軽く会釈してくれたのが数人。


う、うん。まぁ、いいよ。女子って低血圧で朝弱い人も多いもんな。妹もそうだし。テンション上がっていきなりこんな感じで行ったのは失敗だった。


そそくさと移動し、朝ごはんをいただいて食堂から出て行った。


爽やかな朝だ。

久しぶりにスヤスヤ寝れたから気持ちが昂ってる。冷静になれ。高校デビューで失敗の原因は初日のテンション。

これを外すともう2度と浮上できない。ってネットで読んだ。


冷静に、周りをよく見て、出るべきところで出る。


よし、俺ならいけるはず。


部屋に戻る途中、何度も最初の自己紹介の練習を心の中でしている。


すると、ふわっと風が噴いた気がした。


いい、匂いがした。


「ん?」


俺の部屋の扉が開いている。

え、おれテンション上がりすぎて、ドア開けっぱで来たの?


反省しなければ…。

にしても、この匂い、なんだろう。

まるで、お風呂から上がりたてのようないい匂い。


女子の匂い?気がするだけか。女子が多い学校に入学するっていうからウキウキしてるんだ、きっと。


ギーーーーー、バタン。

ガチャ。

立て付けが悪い扉。動くたびにギィギィ言う。


扉をしっかり閉めて、鍵もかける。これでよし。

じゃあさっさと着替えて、入学式に行く準備…


ふと顔を上げると


目があった。

濡れた髪を下着姿でタオルで拭いている女の子。

「へ?」


「は?」


幻覚?いや、幻覚じゃない。


いい匂いがする。

肩にかかるくらいのミディアムの髪。正真正銘の女の子。

ピンクの可愛い下着をつけながらあぐらをかき、座る女の子。胸元はブラジャーこそつけているが、角度的に、大きいし、谷間が、なんというか際どくて。


「え、え、え、ちょ、わ、きゃああああああああ!」


髪を吹いていたバスタオルで体を隠しながら、近くにあったティッシュ箱を俺に投げる女の子。





ここで冒頭に戻る。


俺もパニクって鼻にクリーンヒットしたティッシュ箱のせいで、鼻血を出しながら倒れた。


鼻にクリーンヒットしたからだ。興奮しすぎてではない。


倒れた時に後頭部を打って、どれくらいかの間気を失っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ギャアアアア!


耳元で断末魔の叫びが聞こえる。



……あぁ、またか。


学習能力が無いのか。


いや、消えるから学習できないか。


朝から最悪な目覚めだ。


というかほぼ夜中だが。


この目覚まし断末魔はオートで作動し、解除できない。

「あぁ、もう、おに、クソ兄貴!うるさい!!」

妹の詩音が部屋を仕切ってるカーテンをあけて入ってきた。

「…いや、俺がうるさいわけじゃ無いし、なんなら俺が1番うるさくて困ってる。」

基本、寝不足だ。夜中ごとに耳元で断末魔の叫びを聞かされれば、そうなる。

目元についた大きなクマがただでさえ不健康そうな顔をより一層際立たせる。


「はぁ、いい加減なんとかできないの?その超霊媒体質」


「お互い様だろう」


そう、俺は超がつくほど霊媒体質だ。

というのも、父親のせいだ。


父親はその道のプロ。由緒正しい古くからの霊媒師一族の直系。

その次男。

次男だろうが五男だろうが、直系の子どもはみんな有名な霊媒師と結婚し、血を薄くしないのが普通だ。両親ともに霊媒師、で自分も将来霊媒師。それがこの一族の掟だった。


で、うちの父親はアホ。


その掟を簡単に破った。

駆け落ちだ。


一般女性と恋をして


一般女性と結婚して子供を授かった。


それが俺たちだ。

父親はそもそも直系なので、超がつくほどの霊能力を持った霊媒師だ。


しかし俺にはその力は半分しか遺伝しなかった。

妹は視えるし祓える。不公平だよな。俺は視えない。

そして、霊にとって、おれは相当美味しそう、らしい。

妹は近くにいるのも辛いくらい不味そう、なんだって。

というか、

普通、霊能力がある人間は、まず視える。視えるだけなら一般人でも結構な数いる。

視えるやつというのはそれなりの霊的な素養がある。

そして警戒できる。

自衛もできる。

例えば無意味に思われがちな無能霊媒師がやりそうな塩を投げつけるという行為も、クリーンヒットすれば多少ダメージを与えることができる。

視えていれば。

まぁ、生きてる人間に向かってでも同じだ。傷口に塩を塗りつけたら痛い。

ただ塩を投げつけるのではなく、例えば交通事故で死んだ霊の損傷した箇所に塩を塗り込めば、結構なダメージだ。

ただそれは視えてないと効果がない。視えているというのは理解しているということだ。理解して行うから効果がある。たまたま当たったでは、効果はない、のだ。

だから、霊からしたら、視えてるやつはやはり多少警戒するのだ。


でも、同時に、霊からしたら、霊媒体質があるほうが、美味しそうらしい。というのも、力がない人間に取り憑いても燃費が悪い。腕を動かすことすらむずかしい。

霊能力がほとんどない人がたまにあう金縛りという奴だ。

その点、霊的な素地がある人は取りついた時に動かしやすい。燃費がいいのだ。


と、なると、霊的な素地があるのに、全く視えない俺は霊にとってご馳走だ。

霊からしても視えてるか視えてないかは見てたらわかるようで、それを利用し、視えないフリをしてわざと取り憑かせて祓うっていうタイプの霊媒師も結構な数いる。


で、もともと霊媒師一族の直系父親の力はすごく強くて、息子の俺にもそこはしっかり遺伝していて、

取り憑かれた瞬間無意識に祓ってるらしい。


だから、先程のような断末魔の叫びが、急に耳元で聞こえたりする。


「はぁ、また、あんたらか。あんたらいい加減にしないと、無害でも祓うし、何よりお兄ちゃんが触るよ。」

「……、だれか、いんの?」

「ええ。いつものアホよ。」

「いつもの、アホ?」

「ほら、この前YOOTUBEで放送事故、あったでしょ?アレ。死んだやつがここにいるのよ。死んでからもアホみたいな企画考えてて、なんでも『お兄ちゃんに触れずにどれだけ近くで過ごせるか、チキンチャレンジ』だって。」


「…な、ま、ま、さか、それ、『サムライパーソンズ』?」


5人組のサムライパーソンズ。くだらない、普通に考えたら危険なことに挑戦して動画をあげていた人気YOOTUBERだ。


地元がこの辺りらしいというのと、サムライ魂とか言って無茶するところが面白くて、チャンネル登録もし、結構応援していた。


撮影中の爆発事故で5人全員即死。


めちゃくちゃ話題になった。


ギャアアアア!!


耳元で声がした。


ま、まさか


「そうだ、知っててくれたのか少年よっつって一人触って消滅したね。」


「おおおおおい!さわるな!さわるなよ!ばか!」


まて、まて、ということは最初の声も…?


「あと、3人ね。さっさと消しちゃえば?」


「な、やはり最初の声も…?」


落ち込む俺。


妹の方は、視る力のほうもしっかり受け継いだ。

しかも器用なことに、霊が嫌がる匂い的なものを出せるらしい。まぁ、大体の霊能力者は出せるらしいが。


妹と同じベットで寝てれば夜も大丈夫なんだけど、お年頃なのだ。お互い。


俺が中1までは同じベッドで寝ていた。

だがひょんなことから同級生にからかわれて、


恥ずかしくなって別がいいって言った。


まだ小学5年生でお兄ちゃん大好きだった可愛い妹は泣いて悲しんだが

俺の申し出は受け取られて2段ベットに変形した。俺が上。


しかし夜、視える妹はやっぱり怖くなってたまにベッドに入り込んできていた。


いくら嫌な匂いを発していても

不安だし怖いのだろう。その点俺はどんな悪霊でもオートで払えるから近くにいれば安心。


しかし妹も中学生になって、

去年、ついに同じ部屋で寝るのが嫌だと言い出した。


妹は1つ下なので、来年というかこの4月から中3だ。

むしろ遅めの反抗期。

お父さんとは口も聞かない。

洗濯物が男物と同じだと怒る。


そんな状態の妹に寝不足だから一緒に寝よう、とはいえない。

そもそも俺から言い出したことだ。


それに中2中3ともなると性の知識だってそれなりにあるし、1人で発散したい時だってある。同じ部屋は嫌だ。

しかし家の間取りはそんなに簡単に変えれるものでない。

1年間お互い我慢し続けていた。

ベットを切り離し、部屋の対極に置き、その分狭くなったが部屋を真ん中で仕切って、カーテンつけて。

まぁ、そんな状態でも、これだけ離れていれば霊も寄ってくる。


で、取りつこうとした霊は無意識のうちに祓われ、さっきのように悲鳴を上げて消えていくのだ。


おかげさまで寝不足。


最近は毎日だ。


というかどんどん多くなってる気がする。


父曰く、力も比例して強くなってるらしい。

父をも軽く越すらしい。

しばらく前、父親に車に乗せられて、怪しげなトンネルの向こう側に置いてかれた時があった。

俺は何も視えないからわからないが、

歩くたびにピチャとかグチょとか音が鳴るし、

ギャアアアアとかぐおおおー!とか

うるさいうるさい。耳塞いでも内側から聞こえる。

トンネル抜けたときの父の青ざめたひきつり笑いはなかなか忘れられない。

すごい悪霊を祓っていたようだ。


あの時はなんか流石の父親も謝ってたし、それ以降仕事に俺を使うことは無くなっていた。


で、いい加減この環境に耐えきれなくなった俺と妹の直談判を受け、高校はここの寮で生活するということで家を出ることを許可してもらったのだ。


あのトンネルの件も父親からしたらかなりインパクトがあったようで、県内5本の指に入るほどの悪霊だったようだ。


俺は視えてないけど。


ワンチャンいけるかなって思って置いてった。って軽いノリでそんなところに連れてくかよ普通。


まぁいい。そのおかげで誰も俺のことを知らない、こんなに山奥にある女の子いっぱいの学校に入学でき、家も離れるんだ。


これで俺は普通の高校生活デビューを果たすんだ。


喋りかけただけでもしかして悪霊がついているんじゃないかとビクビクされないで済む。


もしかしたら彼女なんかできたりして。


かなり山奥なので、浮遊霊とかもそうそういないし、かなり大きな教会が学校内にあるので、それだけで邪気を祓う力があるそうだ。学校の中に悪霊なんか存在できない、らしい。


その言葉は話半分に聞いていたが、昨日、寝る際にいつもよりやけに静かなのが気になった。


そしてぐっすり寝れた。幽霊の断末魔で夜中に起こされなかった。


それでテンション上がっていたのである。



一通りの回想を終えて


徐々に意識が戻ってきた。床がひんやり冷たい。


まて、俺はなぜ倒れていたんだ。


ゆっくり目を開ける。あ、思い出した。確か俺、女子の下着姿を見て倒れたんだ。


すると、さっきの女子が、いない。


「………え?」

いない。出て行った?


それもそうか。何せここは正真正銘俺の部屋だ。あっちが不法侵入だ。


今まで、使われてなかったこの旧女子寮を、勝手に使ってたのはあっちで。


そっか。でも、


すごい、すごい綺麗な人だった。


うちの妹も兄の俺がいうのもなんだが、結構な美人だ。しかし、それが霞む程。一目惚れ、だもの。


サラサラの黒髪。整った大きめの瞳。パッチリ二重。もはや芸術だ。


投げられて鼻に当たった血塗れのティッシュ箱を拾う。


それにしても、すごい血の量だ。

血の気は多い方だと自負しているが、

女性の下着姿を見てこんなに出血するなんて、ちょっと恥ずかしい。

クラッとした。

貧血になるほどか。どれほど溜まっているのだろう…。

それにしても、いいものを見た。

思い返せば、一目惚れした人の下着姿を、いきなり見れたのだ。

たしかに大浴場からここは近い。食堂から大浴場へ向かう道が伸びてて、そこを通り抜けるとこっちの旧女子寮にたどり着く。

そして1番近い部屋がここだ。

新女子寮に行くよりだいぶ近い。

ここに人がいないことをいいことに、勝手に使う女子がいるのだろう。朝風呂して、朝早くからドライヤーの音なんか聞こえたらあんなに低血圧の人が多い中迷惑がかかるんだろうな。だからここを使っていた。うん。辻褄は合う。

白い肌。細い手足、そして胸元。

そういえば胸の真ん中に何か黒いアザみたいなのが視えた。

火傷、か何かだろうか。

もしかしたらあれが原因で風呂の時間をずらしたり、人のいないここを使っていたのかもしれない。

ゴーン、ゴーン。

朝8時を告げる鐘がなった。

「あ!いけない、入学式の時間!」

すぐに立ち上がり、制服にきがえる。

始業は8時20分。


5分で着替えて10分で校門をくぐる!

ダッシュで準備をして部屋を出る。

ガチャ。ギーーーーー


この扉、かなり立て付けが悪く音がすごくなる。

バタン。

ガチャ。

よし、こんどはしっかり鍵をかけた。

これなら勝手に入ってくる女子もいないだろう。


…?


一瞬、違和感を感じた。

立ち止まる。


でもそれがなんなのかわからなくて、とりあえず急がなきゃ入学初日に遅刻してしまうと思ってダッシュで行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「新入生代表、挨拶。」



入学式にはなんとか間に合った。


入学早々遅刻ギリギリの時間に来たのは俺だけだけど、教員は怒るっていうより、心配してくれた。


鼻血の拭き残しがあったみたいで、血が顔についてたから。


それに全力で走ったせいもあって結構青い顔していたらしい。


壇上に新入生の代表があがる。



「あっ、、、」


俺は息を呑んだ。


あの子だ。


あの、ピンクの下着の子。


「新入生代表、入鹿葉月。」


いるるか、珍しい苗字だな、と思った。人のこといえないが。阿澄は全国で40人くらいしかいないレア苗字だ。


一瞬、目があった。

が、すぐに逸らされた。

気づかれなかったのか、気づいた上で無視したのか。

まぁ、気まずいは気まずい。


俺が逆の立場だったら、そうする。


俺気絶してたし、何もなかった、でとうせば、なんとかなる。そこは俺も空気を読む。大丈夫。いけてる男だからな。


だが、俺はある可能性を考えていた。わくわくしてる。


入鹿、という名字だ。

そして、さっき組分けが昇降口に貼ってあったから男子の人数は確認していた。


俺のクラスには男子は6人いる。


で、考えてみた。名簿順番的に、俺はまぁ1番だった。

あ行だから大体1番だ。義務教育中もずっとそうだったから慣れてる。


で、1から6番までらが男子。7番からが女子だった。


7番の名前がどんなだったか覚えてないけど。


もしかしたら、入鹿さんじゃないか。



そしたら、教室、1列6人だったら。


もしかして、隣の席、じゃないか?


ミラクルだろ、それ。


初日にすごい出会い方をして、

恋をした相手が


新入生代表で、しかも隣の席。


これは、もはや運命。


ずーっと運がないと思っていた俺の人生、ようやくここでツキが回ってきたのか。


よし。間違えない。出会い方はある程度衝撃的だったが、


あれをなかったことにせず、しかし気まずくならないような距離感を保つ!


そして入鹿さんが1組、俺と同じクラスじゃなかった時の心の準備を怠らない。


精神的なダメージはでかいが、準備をして置いて損はない。



……妄想通り、隣の席、だった。

やばい、顔が赤いのが自分でもわかる。目が合わせられない。緊張する。

さっきの下着姿が目に焼き付いてて。

でも、相手の立場に立って、知らないフリだ。俺は何もみていない。気さくに、なるべく早くこちらからそのことを伝えなければ。

簡単だ。


はじめまして、


って言えばいいんだ。

なるべく早く。話しかけられる前に、が優しさだ。


生まれて初めて、自分から女子に声をかける。


妹ですら自分から話しかけたことないんじゃないか。母さんは、あるか。

女子、ではないか。


「あ、あの。はじめまして」



言えた!よし、おれ、よくやった。



すると、入鹿さんはすごい形相でこちらをみた。

バレたくないって思ってるんだろう。一言だと伝わらなかったみたいだ。


「はじめ、まして。入鹿さん。あ、自分は阿澄って言います。」



「……何の用?」



「え、えーっとその、新入生代表の挨拶すごいなぁって思って。堂々としてて。俺なんかすごく緊張しいだから自己紹介の練習とかしまくるくらいで。」


「おー!いきなりナンパされてるじゃんイルルン」


女子が入ってきた。

ナンパ、むぅ、ナンパか。まぁいい。そういうことにしておこう。とりあえず、はじめましてってことが伝えれたらそれでいいんだ。


なんかなんとなく暗い顔をしているけど。なんだか気がきく男アピールはあんまりできなかったみたいだ。


「さぁ、席につけよー。」

教員がクラスに入ってきた。


あ、朝門で出会って心配してくれた先生だ。良かった優しそうで。


「おし、半分くらいのやつがはじめましてだな。このクラスの担任になった五十嵐だ。じゃあ出席を取るか。まぁもちろん全員出席なんだけどさ。俺が名前と顔を覚えるために名前を呼ぶ。返事をして立って顔を見せてくれ。」


クスクス笑い声が聞こえる。なぜだ。普通のこと言ってるぞ。


「阿澄蓮」



「はい。」

言われたように立った。



クラスの半分くらいの女子が俺の顔をマジマジと見る。


一瞬後、さっきと同じクスクス笑いが聞こえてきた。

え、なんか恥ずかしい。なんで笑われてるの俺。


「せんせー。その人、自己紹介めちゃくちゃ練習してきたらしいよ。」

さっき入鹿さんに話しかけたらナンパって言ってきた人が言う。




え?


「自己紹介練習って何?デビューかよ」


「きも、これにかけてるって感じ?」


「キャハハ、なにそれウケる!いーよ、自己紹介、かけて失敗して隠キャな高校生活送れって。」


ヒソヒソ言ってる女子ども。



な、なにこのアウェー。


「ああ、お前らうるさいぞ!本当に。あー阿澄気にしなくていいぞこいつらは昔からこうだから。次、駒田純哉」



「…はい。」


俺より小さい声で返事をしてパッと一瞬立ってすぐ座った。


は、俺も座らなきゃ。


またケタケタ笑い声が聞こえた。



なんか、なんか思ってたのと違う。


入鹿さんをチラッと見る。


さっきから俯いてる。





「来栖静香」



…、無視?


「おい無視するなよ。シズ!」


「ちょー張り切ってるんですけど。ウケる。」


「ね、なにあれキモ。かっこつけてんの?」

「まじださい」


「あーうるさいぞうるさい、それにカッコつけてはないが張り切ってはいる。お前らみたいなずっとここにいる奴らと違って高校からここに来た奴らに示しがつかんだろ。」


「差別はいけないと思います〜」


「うるさいなシズ。静かにしろよ。」


「きゃー呼び捨てーセクハラー!」

…す、すごいな。


ここは私立で中学校からエスカレーターで上がってくる人が半数近くいる。こんな、かんじなのか?


デビュー、どうこうじゃなくて、俺、この学校でうまくやっていけるのかな?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◇◆◇


「はぁぁぁあ。疲れた。疲れた。こんなにも、こんなにも高校って大変なところなんだ…。」


気疲れだ。


1日が果てしなく長く感じた。


そして俺はここから寮に帰るのだ。下手すればまた、さっきのクラスの女子達に出会うことになる。


なるべく静かに目立たないように暮らす。それがいいように思えた。


まぁまだ、初日だ。郷に入っては郷に従えともいう。

自分の立ち位置を考えていかなければ。


ガチャ


ギーーーーーーーーーーーー


バタン。


本当に立て付けが悪い。煩いなぁ。まぁそのうち慣れるだろう。


ガチャ。


ベッドにボフッて寝転ぶ。



今日1日の出来事を振り返る。



「はぁ。」



ため息しか出ない。


疲れた。少し眠い。


夕飯まで時間がある。少し寝る、か。


携帯のアラームをかけてねた。


ジリジリジリ!


はっ、


夕飯だ。今日はちょっと気分じゃないからさっと食べて戻ってこよう。 


また、立ち上がるときにふらっとした。


立ちくらみ、多いな。精神的にかなり疲れてるとみた。


ご飯はたべなきゃ、な。


ふと、ベットが気になった。この部屋のベットは2段ベットだ。


おれは実家でいつも上で寝ていたので、なんとなく誰もいないけど上を使おうと思ったのだ。


で、何が気になったかって


1段目のベット。


なんでシーツとか布団とか引いてあるんだろ。って。

なんの気無しに、掛け布団をバサってあげてみたら、


「へ?」

入鹿さんが寝てた。



ガッツリ寝てた。


パジャマはいい感じにはだけて、かなりセクシーな感じ。


あ、やば、また、鼻血


ふらっとしてそのまま剥がした布団を血まみれにしながら倒れた。流石に1日に出血しすぎたんだろう。意識を失って倒れていた。

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