友人は悪魔と契約しているのかもしれない

「おす、蓮」


「おお。おはよ。丈瑠。」


「なぁ、蓮本当に行くのかよ?あれ、絶対悪魔に取り憑かれてるだろ?」


「そんなわけないだろ。それに約束したしな。」


「また、悪魔の話、してるの?」


「うおおう、じゅ、純哉。」


「おはよ、純哉。」


「おはよう。蓮君。丈瑠くん。」


「なぁ、昨日聞いたんだけど、安めぐみと別れたって話、本当か?」


「…あぁ。本当だよ。」


「そっか。なんで?」


「ちょっと、いろいろあってね。」


「そっか。純哉からふったの?」


「いや、向こうから。」


「そっか。大丈夫か?」


「うん、大丈夫。」


「今日、さ。めぐみさんに誘われて、ボーリング行くんだ。純哉もどう?」


「いや。部活があるし。やめとくよ。」


「そっか。なぁ、もしかして純哉さ。よくあるパターンかな、部活と私どっちがだいじ?ってやつ。」


「いや、そうじゃない。そんな選択、俺がどうするか知ってるし。」


「まぁ、部活動だよね。全国一位だもんな。」


「元だけどね。」


「去年は、どうだったんだっけ?」


「県大会止まりさ。情けない。」


「いや、まぁそれはしょうがないんじゃないか?だって3年生相手だろ?」


「年齢の差なんて大して変わらないよ。1年や2年生まれるのが早いくらいで、実力の差の言い訳にはならない。」


「トップレベルだとそうなるのか?おれはスポーツとかよくわからんからなぁ。」


「いや、ならんよ。一応トップレベルなつもりだったけど、普通に2年の時は経験ってつもりで出てたし。一年から部をしめようなんて、思いもしないし。」


丈瑠が言う。

忘れがちだがこいつはこの学校にスポーツ推薦で入ってきたやつだ。

一応トップレベルには違いないだろう。


「買い被りすぎだし、卑下しすぎだよ。浜田くんだってちゃんとやってたら今頃陸上部のエースだったんでしょ?」


「いや、流石にそれはねえな。やる気がないし。あったとしても、普通はそんなんだよ。お前レベルが異常なだけ。」


まぁ、全国一位ともなればそうなのかもしれない。


「純哉はさ、安めぐみが他の男と遊びに行ってもいいの?」


「昨日、後輩に怒られてね。ストーカーだからやめろってね。もう、フラれたんだし、気にしないよ。関係ないから。」


「うーん、おれは純哉の気を引くためにやってるんだと思うけどな。」


「そうかもしれないね。」


「純哉、昨日言ったろ?最終的には自分、だと思うよ。自分を信じるしかない。他人にとやかく言われて揺れてちゃダメだよ。」


「ふふ、君は心の中を読んでるみたいに話をするね。うん、大丈夫。僕は信じてるから。まだ、自分自身はあんまり信じれてないけど。……恵のことは信じてるから。」


「そっか。安心した。それが伝わるといいな。」


「そう、だね。」


「ちょっと話を半分以上わかんないんだけど?安めぐみは純哉の気が引きたくて誘ってきたわけ?それに巻き込まれるおれ?」


「別におまえ、来なくていいだろ。」


「え?まじで言ってる?安めぐみと2人きりで遊ぶわけ?襲われちゃうよ?」


「うーん、まぁ、多分大丈夫だけど、シズとお前も来るわけ?」


「え?葉月は来ないの?逆に。」


「今日水曜日だからな。葉月はこれないよ。」


「ねぇ、蓮君、入鹿さんとずいぶん仲良いよね。別れたのに、なんで?」


「……。」


「おー!そーだそーだ!別れたのに、なんで仲良い……って、え?別れた?」


「あー、まぁ、その、なんだ。他に好きな人が出来たんだよな。有り体にいえば。でも別に葉月は葉月な訳だし、そんな急に仲悪くなるものでもないし……。」


「ちょっと!まて!」


全力で無視する。

「安めぐみとどう関係を作るか考えてる?」


「うん。アドバイス欲しいな。ストーカーにならないためにどうすればいいか。」


「おい!流すな!お前、いま、付き合ってたって言わなかった?誰と?だれが?」


「え?付き合ってたよね?確か、蓮君から告白して。」


「……は?」


「う……。」

しまった。純哉は結構、力があるんだ……。


「おいおい!どういうことだ!親友の俺すら知らない事実!」


「いや、純哉の勘違いだよ。そもそも付き合ってないし。うん。」


「え?そんなはず……、君、嬉しそうに自慢してたじゃないか。」


「いやいやいや、なんか夢でもみたんじゃないかな?うん。きっとそうだよ。」


「なぁあんだぁああとおおおお!おい!蓮!貴様!何を隠してやがる!」


「いや、別に隠してないよ。おれは。」


「……葉月が隠してるってことか?」


なんか妙に鋭いんだよなぁこいつ。

扱いにくい。本当に。


「まぁ、その話はおいおい。今は安めぐみの話だろ。」


「いや、正直どーーーーでもいい。安めぐみ。ノーチャンスなの知ってるし。むしろこれでお前が安めぐみに靡いたらマジで斬り殺す。」


「こわっ。」


「うん、実は僕も、そこはあんまり心配してない。でも、もしかしたら、……。」


「はは。純哉。心配するなよ。俺に悪魔の攻撃が効かないのは昨日説明しただろ?大丈夫。」


「……うん、ありがとう。」


「あーまた俺のわからない話をしてる。とりあえず俺も一緒に行ってどれだけデレデレしてたか葉月に言いつけてやるからな!」


「……地味にそれは嫌だなぁ」


結局ついてくる気満々な丈瑠を尻目に、今日の作戦を考えていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「蓮君、お待たせ、あら丈瑠君も来たのね。」


「え?俺も誘われたよね?あの場にいたし?」


「そこは空気読んで欲しかったな!」


「空気読んだ結果来たんだけどね!」


「まぁいいや、じゃ、蓮君いこ!」


そういうと、蓮君に飛びついて強制的に腕を組んで歩く。


うん。こんなこと、前のわたしにはできない。


わたしはわたしの体に自信がないから。


簡単に言えば太ってるのだ。


だから人に触れられたくないし、こっちから触るなんてもってのほかだ。


でもわたしは今、やってる。

できるんだ。こんなこと。

悪魔の力を借りれば。


アレは言った。


変わりたくないかって。


わたしはずっと変わりたかった。


見ているだけで、応援するだけで、全然なんの力にもなれなかったあの人のために。


悪魔の力を使ってでも、

あの人が、

あの人の望みが叶うなら


なんだってしよう。そう思った。


でも、彼は、信じてくれなかった。


そんなもの、存在しないって。

否定して。

わたしを見てもくれなかった。


あのとき、わたしは悟った。


あの人に、わたしなんか必要なかったんだって。



ボーリング、なんてやったことなかった。そういうボーリングなんて遊び、陽キャと呼ばれる人たちがするものだとおもってたし、そういう人達は敬遠していた方だった。



でも、だからこそ。

全然倒せなくても、いちいち蓮君に抱きついて、アピールする。


この人を振り向かせる。なんならちょっとくらいキスしてもいい。いや。覚悟的には、この人と一夜過ごしたっていいってくらいでここにきている。


それこそ、わたしが絶対できないこと、だから。

絶対できないことを、わたしがやる。


それこそが悪魔の証明。

あの人が再び、トップに返り咲くために必要な布石。


他の何に変えても、それによって彼を失ったとしても、わたしは、彼のために……。


「ねぇ、めぐみさん。もう、やめようよ。」


「え?こんな中途半端で辞めるの?まだ6投目とかだよ?」


言ってる間に丈瑠はストライクを出す。これでターキーだ。すごい。


「じゃなくて。そうやって、ベタベタするの。」


「え、、な、なんで?……嫌だった?」


「うん、いや。」


「……す、すごいはっきり言うんだね。」


「まぁね。」


「わたし、やめないよ。蓮君のこと、すごく気になってるの。だから蓮君がその気になるまで精一杯アピールするの。」


手を持って胸に押し付ける。

無理矢理でも構うもんか。


丈瑠君がめっちゃ見てる。埋もれてる蓮君の腕を。

羨ましそうに。


「あのね、そんなこと、純哉は望んでないよ。」


びくっとしてしまう。でも、

「関係ないよ。純哉君はもう別れたし。」


「でも、純哉はまだ君のこと好きだよ。」


「知らないよそんなこと。」


「そっか。」


「だってわたしから降ったんだよ?なんで私が純哉のこときにするの?」


「んー、いいよ。じゃあ、仕方ないな。本格的なやつ、やってあげる。」


がしっ


頭を握られる。

アイアンクロー、みたいに、なってる。


「いたっ、え、なに?」


「あぁ、あのね、純哉にも言ったんだけど、おれ、本職悪魔祓いなんだ。」


「は?」


「え?」


「『汝の名を言え。』」

それは低い、地の底から響くような音の声だった。


怖い、と思った。

頭がガンガンする。


どんどん痛くなっていく



「『Tell me your name, demon.』」

声はどんどん低く、重くなっていく。

「『Sag mir deinen Namen.』」

「『Dimmi il tuo nome, demone.』」


痛い、痛い、痛い、怖い、怖い


「きゃあああああああああああ!」


「はい。悪魔はもういないよ。これで、大丈夫。」


「…………え、」


嘘だ、悪魔がいない。そんなの、そんなの嘘だ。


頭が痛いのはひいて、冷静になれる。

心で念じてみる。悪魔!返事をして!わたしと契約をした悪魔!



「う、……うそ」


「ほんと。これで君は解放された。」


「な、な、な、なぁぁあ!なんだとおおおおお!」

「丈瑠うるさい。ちょっと黙ってて。」


「う、うそ、なんで?なんで!?いや!そんなの、いや!」


「なんで?悪魔を祓ってあげたんだ。感謝して欲しいよ。」


「なんでそんな余計なことしたの!わたしは、わたしには、アレがいないと、アレがいないと何にもできない、のに……」


「そうかな?ほんとに、何もできないかな?」


「できないわよ!わたしは引っ込み思案で、自分に自信もなくって、ウジウジしてる弱い女なの!それを変えたくて、すがる思いで、、なのに!なのになんて余計なことしてくれるのよ!」


「だって、そんなのめぐみさんには必要、ないから。」


「わたしは!わたしは必死で考えて!」


「純哉のためになることをしようと思ったんだよね。」


「え、……?」


「純哉が県大会で敗退したから、責任を感じたんでしょ?中学の時は付き合ってなかった。だから全国一位だった。付き合い始めて、自分のために時間を割いてくれる純哉がいて、幸せだけど、自分のせいで、純哉が卓球に打ち込めなくなった。そう思った。違う?」


「な、なにを!知ったようなことを!」


「思い上がりも甚だしい。純哉が敗退したのは実力だ。あいつの卓球にかける思いは知ってるだろ。恵さんが入り込める余地はないよ。あいつは本気だ。いつだって。どんな状況でも。」


「あなたに、あなたに何がわかるのよ!純哉なんて関係ない!もう、わたしとは関係ないの!どうだっていいわよあんなやつ!」


「それ、もう一回、同じこと、言える?」


「何度だって言えるわ!」


ガタッ。


蓮君の後ろの椅子から立ち上がる男がいた。隣のレーンのお客さん、

……と思ったら


「え、、、純哉?うそ!なんで?部活は?」


「うお、純哉がいた!え、なんで?いつから?」


「恵が心配で、蓮君に頼んだんだ。悪魔祓いしてくれって。蓮君には全部話した。だから、恵、蓮君は全部知ってるんだよ。」


「え、ちょっと待て純哉。お前も蓮が本物の悪魔祓いって知ってたのかよ!?」


「ちょっと今黙っててたける。後で話すから。」

「…………ち。わかったよ……。」


「なんで、なんでよ、わたしは、何のためにこんなこと!」


「自分のため、だよ。恵さん。あなたは自分が変わりたくて、純也を言い訳にして行動していたんだ。」


「そんなわけない!わたしがこんなことやりたいなんて思うわけない!」


「思うわけないことを悪魔のせいにして、やってたのは恵さん自身。露出の多い服をきて、金髪にして、男を身体で惑わせて、スキンシップがしたいのは恵さん本人が心の奥で望んでいるから。それは、実は純哉も知ってなきゃいけないこと、だよ。」


「そ、そ、そんなわけ、そんなわけないじゃない!こんなこと、わたしが望んでいるわけ!」


「純哉となら、望んでるんだよ。」


 想像してしまった。純哉と今日蓮君にやったように胸を押し付けて、四六時中くっついて過ごす一日。遊びに連れ出して、好き放題、

そんな一日。


顔が赤くなる。こんなことを自分は心の奥で望んでいたなんて、そんなこと認められない。認めれるわけがない。だって。

こんなの、


こんなの純哉は好きじゃない。ベタベタするカップルとか、全然好きじゃないのだ。


「ねえ、純哉。純哉はなんで、ここにきたの?部活は?」

蓮が純哉に話しかける。

そうだ、部活はどうしたのか。まだ部活の時間だ。


「こんなこと、言ったら、恵に嫌われるかもしれないけど。」


「大丈夫。信じて。自分を。恵さんを。」


「ぼく、卓球よりも、恵が大事だって気がついたんだ。」


「……は?」


これは偽物だ。そんなわけない。純哉がそんなこと言うはずない。


「言葉が違うよ。純哉。純哉にとって卓球はかけがえないもの、だろ?」


「もちろんそうだ。夢でもある。トップを取りたい、その気持ちもある。でも、それは僕自身の、僕自身だけの願いではない。」


「続けて。」


「僕は今まで、卓球しか見てこなかった。どうすればより強くなれるのか。どうすれば相手に勝てるのか。幼少期から親に鍛えられ続けたこの卓球でトップに上り詰めてやる。そう思ってた。」


「………なら、なんで」


「周りから見ても相当嫌なやつだったと思う。それ以外のことに興味がない。弱い奴のことを見下したり蔑んだりもした。そうすることでギリギリ気持ちを繋ぎ止めている自分がいることにも気がついていた……。」


「…………。」


「どんどん孤立していったけど、そんなのは関係なかった。そうして、トップに上り詰めた。そしたら急にみんな態度を変えてきた。すごいとか、かっこいいとか、尊敬してます、とか。ストイックさが憧れます、とか。今まで散々影で悪口言ってた連中が、だ。」


たしかに、そんなこともあった。それにわたしも、その1人だ。人のこと言えない。


「そんな中でね。ひとりだけ、こうやって声をかけてくれた人がいるんだ。『頑張ったね。』」


それは、わたしだ。偉そうに、何も知らないのに純也のことなんか。

どの口が、今でも思う。


「そのとき、なんか、わかんないけど、ほっとしたんだ。あ、おれ。頑張ったんだなって。そうやって、今までの俺を認めてくれて褒めてくれた人は、君だけだった。」


「そんなの、たまたまだよ。」


「うん、そうかもね。でも、僕は間違いなくその言葉で救われた。どう言うつもりだったか、関係ないんだ。僕がどう捉えたか。僕にとってどんな意味を持ったか。なんだ。」


「……」


「僕は、恵が好きになってしまった。その後の僕は弱くなった。卓球よりも想いが強いもの、が初めてできた僕は戸惑った。でも、その戸惑いは嫌ではなかった。」


「でも、そのせいで純哉は・・・」


「うん、卓球では勝てなかったね。悔しかったし、自分は間違えたのかもとも思った。でも、そんな時あの時言ってくれた言葉を思い出したんだ。『頑張ったね』・・・僕は本当に頑張ったのかな、あの時のように一生懸命誰にも負けないくらい努力したのかな。って。」


「それは、だから、私のせいで!」


「ううん、それに気づかせてくれたのは恵だよ。自分の実力不足と向き合わせてくれた。もし、恵がいなかったら僕は、自分の弱さと向き合うことができなかったと思う。」

純哉は言葉を切って、間を置く。


真っ直ぐに、恵の目を見て。


「だから、信じて欲しい。ぼくを。ぼく自身を。僕は必ずまた、卓球でも1番を取る。恵が、1番である僕が好きだって言うなら、君に好かれるために僕は1番をとる。そうでなくても、あのとき、君に言ってもらった言葉に、応えられるように、努力して、精一杯、頑張って、また一位をとるよ。僕にとって、恵は、それくらい大きな存在だし、僕には恵みを幸せにできる力があるって、本気でそう信じてるから。」


「……純哉、」


「うん?」


「わたしは、純哉の、重荷になって、ない?」


「ない。」


「私のせいで、純哉は、色々我慢してると思ってた。」


「いや、そんなこと一度もないよ。卓球以外のことで、こんなに一生懸命になれたのは恵のこと、だけだ。」


「わたし、私ね……。純哉が信じてくれるかと思って、悪魔と、契約を……。」


「うん、だからもう、それ祓ったから大丈夫。契約の利息がどうのって話だろ?大丈夫。そんなのないから。」

蓮が急に話に入った。


「……え?」


「寿命の半分とか言われた?それか残り1週間のいのち、とか?」


「う、うん。」


「全部なくなったよ。それ。」


「うそ……?」


「ほんと。俺が祓ったんだから当たり前だろ?そのかわり、純哉にそれなりのお代はもらうから。」


「え、」


「もちろん。なんだってするよ。蓮君。」


「よし。言ったな。じゃあ、恵さんの深層心理でやりたいことを全部やってあげなさい。その上で、

今言った卓球で再び一位になるって誓い。必ず果たしなさい。どっちも妥協は許しません。純哉なら必ず両立できるし、恵さんからしっかりパワーをもらって、卓球にエネルギーをより注げるようになる、よ。信じてるよ。純哉」


「……きみってやつは。いい奴、なんだな。」


「おう、そうだよ。じゃああとは2人で楽しんで。恵さん。ここだけの話な。実は悪魔は昨日出会った瞬間に消してあるんだ。つまり、今日頑張ってたのは全部恵さん自身の頑張りってこと。

それだけできるなら、怖がってないで、言い訳してないでほんとに自分のしたいこと、純哉とするといいよ。ね?自分に素直になった方がいい。」


「え、え、え、う、うそ?うそよね?」


「じゃーいくぞ、たける。」


強引に手を引っ張って丈瑠と出て行く蓮。



………………うそ。恥ずかしい。アレが全部私自身の行動なんて。そんな、うそ。


「……ね?腕、組まない?」

純哉が恥ずかしそうにしながら言う。


嘘嘘嘘、そんな、こんなのって。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どおおお言うことだよ!蓮!おまえ!エクソシストだったのか!」


「……な訳ないない。」


「はぁ!?めちゃくちゃそう言ってたよね?よね?わけわかんないんですけど!」


「とりあえず落ち着け。あー、お前にもわかりやすく言うとだな。恵さんはだいぶ病んでた。その相談を純哉から受けた。だから、恵さんを悪魔付きってことにして、俺が本物の悪魔祓いっぽくして、ちょっとでも恵さんの心が回復するように、一芝居打ったっけわけ。」


「え?え?うそ?えんぎ?嘘だ!だって、お前につかまれて、なんか言ってた時!めちゃくちゃ苦しんでたじゃん。」


「そこはおまえ、持ち前の握力のアイアンクローで、かなり絞めたしな。普通に痛かったんだと思うぞ。」


「は?お前、握力どんだけあるんだよ!あり得ねえだろあの苦しみかた!」


「ん?80キロくらいかな?」


「は?」


「だから、握力だろ?80キロ超えてるとは思うけどな。」


「はぁ!?お前なんでそんな握力お化けなわけ?りんごフンって潰せるレベルじゃん!80て!おまえ、そんな握力でアイアンクローとか安恵の頭が潰れたらどうするつもりだったんだよ!」


「いや、流石に頭蓋骨は無理だろ。アイアンクローでなんて。」


「そうだけど、そうじゃなくて!か弱い女子に普通に暴力ふるってんじゃん!」


「お、おお。だから、まぁお芝居としてちょっと信憑性をあげたかったからだな……。」

 

「かぁー!信じらんねえ!そんな理由で女の子に手をあげる奴だったのかお前は!」


「お、おう、なんかそれは、その、すまん。やりすぎたかもしれん……。」


何てゆうか、その角度でタケルに言われるか、と。びっくりしてしまった。まぁいいや。丈瑠も何か俺が悪魔祓いどうのこうのの話はどうでも良くなったみたいだし。


「でも、何で安めぐみは、悪魔なんかと契約しよう、なんて思ったんだ?」


「……だから悪魔なんていなくって」


「いや、そうだとしても、安めぐみは実際いるって思ったんだろ?それで寿命がうんたらって言われても、それに乗っかるほどの理由があったんだろ?」


「うーん、まぁ、その辺りは本人に聞かないとわかんないけどさ。多分だけど、純哉がまた卓球で1番取れますように、くらいの願い事だとおもうよ。」


「へ?それが何で純哉と別れるとか、安めぐみがギャル化するとかいう話になるの?」


鋭い、な。

安めぐみに取り憑いた悪魔は実はわりと本物なのだ。もちろん本物ではないが、それに準ずるナニかであることは間違いない。

そして、安恵は、悪魔の力を使って、純哉が卓球でトップを取れるよう、願った。

つまり、人の力を操作しようと、した。

そんなこと、悪魔にはできない。


「要するにさ、安めぐみは純哉に悪魔の力を信じさせたかったんだよね。信じなければ、作用しないから。だから純哉に信じさせるために、普段の安めぐみなら絶対に出来なさそうなことをたくさんして、純哉に悪魔の存在を認めさせようとしたってわけ。」


「ふーん。でも純哉だって信じてだろ?悪魔はいるって。」


「だから俺が祓いかたを教えたじゃん。自分を信じろって。」


「なんで、そんなこと、お前が知ってるわけ?」


「…………。」


今日の丈瑠はやけに鋭い


「って、にゃーこ先輩が言ってたから。……」


誤魔化せるか。


「ほええ、にゃーこ先輩は何でも知ってるんだな。」


「うん、ほんとすごいよなあの人。」


「ふーん。……。」


……、苦しい、かな?

まぁでも嘘ではない。多分聞けばこの程度のことくらいにゃーこ先輩、猫宮先輩は知ってると思う。結構詳しいし、興味あるから。

っていうか多分葉月でもわかる。もともとキリシタンの猫宮先輩や葉月の方がこう言うのは詳しいだろう。



「まぁ、いいや。何でも。とりあえず、葉月には巨乳押し付けられてデレデレしてたって言っとく。」


「な、おま、それはちょっと、やめとけよ。」


「なんで?別にいいじゃん?2人は付き合ってないんだし?なんなら葉月が諦めれるかもしれないよ?葉月も別に小さくないけどさ。多分CかDカップくらいだぜ。蓮は安めぐみくらいのF以上じゃないと受け付けないって言ったら、諦めるんじゃね?」


「……妙に真実味があるからやめろよ……」


「お?ほんとなのか?」


「いや、そんなことは、だんじてない、ない。」


「じゃーどこなわけ?お前の好きな人と葉月の違いは?」


「…………うーん、」


「……」

丈瑠に

睨まれる。

うーん。

「……理屈じゃ、ないんだよなぁ。」


「…………。」


「なんだよ。」


「はぁ。ほんと、おまえ、なんかに取り憑かれてるんじゃないの?」


「……そんなわけ、ないじゃん。」


軽くこづかれた。


「おれは葉月の味方だからな。」


「……そ、そうか。」


うーん、こいつは本当は全部気づいているんじゃないだろうか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おかえり」


「うん、なんとかなったよ。」


「え?葉月が?」


「んー、そんなこと言われてもなぁ。」


「はあ、わかった、わかった。明日話しかけてみるよ。」


「ん?なに?聞き耳立ててる人がいる?」


ガチャ。

ギーーーーー



「あ、あの、こんばんは。蓮先輩。一年生で隣の部屋の、鈴村咲人といいます」


「こんばんは。なにか用?」


「突然ごめんなさい。じつは、相談があってきました。」


「……相談?」


「その、蓮先輩は、悪魔を祓えるって聞いて」


「は?誰から?」


「……幽霊です。」


「……はい?」


「変なこと言うけど、自分霊感があって幽霊が見えるんです。それで蓮先輩のことをよく知ってる幽霊に話を聞いて、蓮先輩が悪魔を祓ったって聞いたので……。」


「…………えーっと」



「蓮先輩。多分ですが、あなたは、ナニかに取り憑かれてるかもしれません。」

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