友人は悪魔と契約しているのかもしれない

「おお、聞いてくれ、友よ。」


「なんか変なテンションだな。」


友人は変なテンションで語りだす。



「なぁ、あのさ。蓮は、エクソシストってほんとにいると思う?」



「そもそも悪魔を信じてない。」


エクソシスト。悪魔祓い。キリスト教の学校であるここではなんとなく聞いたことのある単語だ。というか、


「昨日の映画、か。」


「む、なんでわかった、エスパーだな。蓮。」


「丈瑠は影響受けやすすぎるだろ。」


昨日、エクソシストが悪魔を倒してく映画がテレビでやっていた。


楽しそうにみてたんだそれ。


「ふははは、ピュアな心を持ってるって言ってほしいね。」


「それで?今日は別になんの相談でもないわけ?」



「いや、まぁ、相談っちゃ相談なんだけどさ。俺ってエクソシストの力あるんじゃない?」



「…は?」


「いや、ほら、考えても見ろよ。この前だって、明らかに変なのに取り憑かれてたのに、こうして命あるわけだし、この前だってストーカーから呪われてるのに、死にそうになっただけで生きてるし。」



「あー確かに。運の悪さは悪魔レベルだよな。」



「む、そっちか。運は悪くない方だと思うんだが。容姿端麗、スポーツ万能、頭脳明晰、そして、友人にも恵まれている。」


「頭脳明晰、以外はすんなり受け入れられたが、そこだけは聞き逃せんかった。」


「ち、間に入れて誤魔化したのにダメだったか。」


「最後がほんとにそう。丈瑠が今生きてるのは恵まれた交友関係のおかげだよ。マジで。」


「あぁ、感謝してる。マジで。なぁ話飛ぶけどエクソシストって独身じゃなきゃいけないんだって。」


「へえ。」


「やっぱり童貞のまま30歳超えると、魔法を使えるようになるからかな。」


「あー、それな。本気でやりたかったら、一度も自家発電しない、だぜ。」


「え?マジ?」


「まじまじ。とりあえず俺は無理だな。」


「え、そう言う感じ?セックスだけじゃなくて?」


「大きい声で言うなよ恥ずかしいな。ちなみに夢精もアウトだ。」

 


「無理ゲー、すでに無理だわ。エクソシスト諦めよう!」


「おう。無理だ無理。」


「お、おはよう。蓮くん、丈瑠くん。」


「お、おはよー純哉。どうしたお前から話しかけてくるなんて珍しいな。」


丈瑠ってばなんとなくデリカシーのない言い方をする。どっちかと言えば俺は丈瑠より純哉の方が付き合いが長い。去年から同じクラスだしな。


「さ、さっきの話ちょっと聞こえちゃって。その、悪魔って。」


「お?なんだ純哉もエクソシストになりたくなったか?昨日の映画見た口だろ?いいよなー憧れるよなー。」


「そ、その、丈瑠くんは、やっぱり悪魔っていると思う?」



「うお?うーん、まぁ居てもおかしくないかなって思うよな。だってエクソシストがいるんだろ?なら、いるんだろ?」


なんか破綻してる理論を展開してる。

「エクソシストが本物っていう前提の上に成り立つ暴論だ。」


一応反論しておく。が、この男には刺さらないだろう。


「蓮くんは、居ないって思うんだ。」


「うん、居ないって言うか、信じてない。居ようが居まいが関係ない、ってこと。」


「な、なんで?」


「なんでって、俺一番好きな言葉はリアリストだから。」


「くぅーこの手の話蓮には無駄だよ。なんだか小難しい話で絶対いないって言い張るんだから。」


「そう言って欲しいくせに。」


「あはは、まぁな。この前呪われてるって言われた時はマジでちびりそうになったわ!」



「…僕は、居る、と思う。」


「ん?そうか。」


「え?否定しないの?」

丈瑠が驚く。

「いや、別にどう思おうが個人の自由だ。」


「えー?なんか俺の時と違うくない?」


「違うくない。おまえは必ず俺に意見を求めてきただろ。だから俺は俺の意見を答えてるだけだ。」


「むぅ、また小難しいこと言って誤魔化す。」


小難しいだろうか?まぁ、いい。


「蓮くんはなぜ居ないと思うんです?例えば科学で説明できない現象についてはどう考えますか?」


「科学で説明できない現象なんて起こり得ないよ。全ての怪奇現象は、現実世界でも起こり得るモノ、だ。」



「…例えば火の玉はプラズマ現象で‥‥とかですか?」


「まぁ、例えばって言われたらそっちが何か科学で説明できないことを言わないと。こっちはなんともできない否定ができないんだから」


「例えば、特定のスポーツの時だけ人が変わる、とか。」


「‥‥見たことある?悪魔。」


「いや、ありません、よ。でも、そう考えた方が楽じゃないですか。」


「うーん。精神的な疾患の可能性もある。そもそもエクソシストっていう職業はそっちがメインだ。日本的にいう霊媒師なんていうのもそう。ほとんどの霊媒師がカウンセラーの資格を持ってる。それを表向きの職業としてる人も多い。」


「だから、精神障害者として見られるより悪魔付きの方がいいじゃないですか。前者は自己責任。後者は悪魔の仕業、なんですから。」


「なかなかディープな話だね。俺からしたら悪魔の方が自己責任だけどな。精神疾患は環境的な側面と遺伝的な側面が両方関わり合って起こる場合がほとんどだ。つまり、自己責任、と捉えるのは貧しい捉え方。そいつがそうなってしまったのはそいつをそうさせた環境がある。その環境に置かれたらだれだってそう成る可能性がある。それが原因。そいつのせい、というわけがない。」


「なるほど、丈瑠くんの言いたいことも少しわかった。」

丈瑠の方を見ながら純也が言う。


「な、わけわかんないだろ?」

丈瑠が口を出す。


「まぁ、俺はエクソシストでもなければカウンセラーでも無いんでね。遠慮も容赦もなく聞かれたことを答えてるだけ。」


「問題のすり替えです。今は精神疾患の話をしていない。悪魔がいるか、という話です。」


なんか、アツいな。でも、丈瑠はこういう話すぐ諦めるから面白くないのだ。


「なるほど。悪魔がいるか、という話ね。」


「ええ。悪魔は居ます。なぜなら悪魔祓いがいるからです。」


「…驚いたな。」


「悪魔祓いが本物である前提に成り立つ暴論と言っていましたね。でも、その反論こそ暴論です。悪魔祓いに本物も偽物もありません。悪魔祓いがする行いこそが悪魔を祓っているのであり、その行動によって心が救われる人が存在している。これこそが悪魔の証明、です。」


「なるほどね。そこに悪魔がいようがいまいが関係ないってわけだ。」


悪魔の仕業だと思う人がいて、その人が悪魔祓いによって救われている。さっきの純哉と同じだ。悪魔を信じたい人がいる。その人のために悪魔祓いが悪魔を祓ってくれて、その人は悪魔の脅威は無くなったと思える。


「なるほど。納得した。確かにその論法なら、悪魔は居る。」


「うえ!?蓮が、蓮が負けた?」


びっくりしてる丈瑠。


「うん?別に負けてないぞ。つーか勝負してない。」


「‥え?負け惜しみ?」


「だから、さっきも言ったろ?悪魔を信じてないって。」


「そうですか。これでも信じてくれないんですか?」


「いや、純哉のいうことはもっともだよ。悪魔は居るんだろうね。でも、それは居るって思いたい人がそう思えばいい話で、信じてない俺がそう思う必要は特にない。」


「居るのは認めるのに‥‥信じない?」


「うん。信じる必要性を感じない。」


「‥そう、ですか。」


「純哉。面白い話をしてくれたお礼にもう一つ、話そうか。悪魔を祓う方法だ。」


「悪魔を祓う方法、ですか?」


「想像つく?」


「いいえ。」


「本格的な方は、名前を言わせる。」


「名前を?」


「そう。得体の知れないモノから名前のあるモノに格下げするんだ。要するに、ナニカ、よりも誰か、の方が人のせいにしやすい。」


「それだけで、いいの?」


「いや、そんなこと普通の人間にはできないよ。本物の場合はね。まぁでも俺たちがそんな本物に出会う確率はよっぽどないさ。偽物ならその辺に山ほどある。」


「え?山ほどあるの?」


「うん。あるよ。でね、俺たちにも簡単にできる祓い方があるんだ。」



「え、それはどうやって?」


「簡単に言えば信じない。」



「‥‥いま、君がやってるみたいな?」


「まぁね。」


「それがなんで悪魔を祓うことになるのさ。」


「言ったろ?奴らは得体の知れないモノでいたいんだ。そのほうが力が強く成るからね。恐れとか不安とか、そういう負の感情を苗床にして育ってく。」


「…それで?」


「信じなければそんな不安生まれない。負の感情なんか、生まれない。だからだよ。」


「そんな無茶苦茶な。」


「だからやつらは信じざるを得ない状況を作ってくる。そういう時にどうすればいいか、アドバイス。」


純哉に顔を近づけていう。


「自分を、信じろ。」


「え?」


「自分の力を信じろ。悪魔なんて力を借りなくても、自分でなんとかできるって。」


「自分でできないから、悪魔なんてものに頼むんだろ?」


「そうだね。でも、それは違うんだ。悪魔なんてもんは何でもないことを凄いことのように思わせる天才だ。悪魔に縋らないとできないと思わされていることは、実は自分自身で出来ることなんだ。」


「そんなこと、信じられない。」


「んーん、違うんだ。純哉。君が信じるしか、救う方法はない。そうであるかどうかなんて、関係ないんだ。そう信じることで、それが真実になる。悪魔の居る証明も、祓い方も、同じ、だね。それを人に頼るか自分でやるかの違いさ。」


「‥‥君が言いたいことはわかったよ。なかなか面白い話だった。」


「あぁ、俺も。いつも丈瑠は全然聞いてくれないから。」


「ふふ、じゃあ、席に戻るよ。また。」


「おう、いつでも。」



後ろの方の自分の席に帰っていく純哉。


それにしても、悪魔、か。

純哉とは去年一緒に弁当を食べてた仲だ。家が結構な敬虔なキリシタンっていう話も聞いたことある。


普通よりは身近、ではあるとおもうが。



「…‥」

変な顔して俺の顔を睨む友人がいた。



「なんだよ。」


「べつに。話は全くわからなかったけれど、とりあえず俺の悪口言ったろ。」


「いや、別に悪口だなんて思ってないよ。それはそれで丈瑠のいいところだし。」


「いいところって言えば馬鹿って言ってもいいと思ってるな。」


「くくく、」


丈瑠は基本頭は良くない。が、こういう時は頭がよく回る。


なんていうか絶妙なやつなのだ。10を聞いたら1しか伝わらないのに、あえて7あたりの核心をついてくる。そんな奴。


「話、ほとんどわからなかったけど、要するにさ


多分だけど、純哉が悪魔と契約してるかもしれない


ってはなしだろ?」



‥‥ほんとに。もう。こういうとこあるから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おはよ。」


「おはよー。シズ、今日も元気だね!」


「…お、おはよ、」

目を白黒させるわたし。


今シズに挨拶した人は


「恵んもいつも以上に元気だね!どうした?何かいいことあった?」


安恵。(やすめぐみ)今年から同じクラスになった女の子だ。私たちとは違い一般高からの普通入試で入学してきた生徒。



「う、うん。なんかすごい印象変わったね。髪の毛色、つけたんだ。」

どうしたんだろう。

髪の毛は金髪になっている。

さらにかなりのミニスカート。パンツ見えそうというか見えた。パンツも黒のきわどいやつだった。

口紅とかもつけちゃって色気付いてる。


「そーなの!もう、ストレスで!やっちゃえって感じ。」


「そっか。別に校則違反じゃないのにあんまりみんなやらないよね。」

シズに話を振る。


「まぁ、私たちエスカレーター組は、中学で散々やりまくって、もう飽きたんだろうね。」

なんかあんまり興味なさそうだ。

シズってこういうところある。


「うん、シズなんか一時期虹色みたいな髪の毛してたよね。前が赤で後ろが青みたいな。」



「あはは、なにそれ面白ー!」


こんな感じに笑う子、だったのだろうか?


「めぐみん、なんか見た目だけじゃなくて変わったね?やっぱいいことあった?彼氏、かな?かな?」


あんまり興味ないときシズはこういう絡みをする。わたしからしたら露骨だなぁと思うけど、そう思うのは仲良い友達だけなのだろう。



「彼氏?あはは、関係ない!むしろ逆よ!逆。」


「逆?確かめぐみって、彼氏いたよね?純哉君、だっけ?」



「あぁ、あんなの、別れたよ。」


「え?」


「え?」


シズがようやく振り返った。

人の不幸に食いつくとか。性格悪いな。でも仕方ない。女子の中ではラブラブで噂されていたのだ。純哉君と恵。同じ中学から純哉君を追っかけて入学したのだから本物だ。


どちらも静かな性格のおっとりカップルだ。陽キャと呼ばれそうな女子たちからも標的にすらされない感じ。


「え?なんで?あんなに仲良しだったのに。振ったの?振られたの?」


シズがぐいぐい聞く。



「ふったの。」


「え?なんで?」


「わたしとは釣り合わない、から。」


「…そっかぁ。どうしてそう思ったの?」


「色々、よ。」


「そっかぁ。まぁ、男なんて星の数ほどいるんだし、いろんな男しっとかないと勿体無いよね。」


「とかいって自分は結構純情なくせに。」


「葉月にだけは言われたくないなぁ。」


「ねえ、それでさ、相談なんだけど、」


「え?私たちに?うん、何?」


「葉月さんと阿澄くんって付き合ってるの?」


「え?いや付き合ってない、よ?」


「その話知らないの?かなーり有名だと思うけど。」


「うん、知らない。何が有名なの?」


「葉月がフラれてるって話」


「ふーん、そう、じゃあ本当にフリーなんだ。」



「え?」



「だから、阿澄君のこと、わたしが狙っても良いよね?」


「ま、まさかの宣戦布告!?」

シズが声を張り上げる。


「え?なんで?蓮君のことを?」


焦ってしまうわたし。


その瞬間、



ぶあっと冷や汗が出た。



「だって、超絶美少女、男だったら誰でも振り返る葉月さんが告白しても振り向かないような男、でしょ。今までのわたしには無理。絶対に、ね。だからこそ、いいの。わたしが変わったって、証明になるんだから。」


「‥‥多分、あすみんはそういうのわかると思う、けどね。」


シズが言う。


「え、それって、蓮君のこと、好きじゃないのにってこと?」


わたしは声に怒気が混じってないか心配しながら言った。



「どういう風に捉えてもどうぞ。あら、もう始業の時間ね。じゃあね。」


自分の席に行ってしまう。恵



昨日まであんまり話したことのなかった、大人しめで静かな印象だった彼女。


大胆にも金髪に染め、ギャルっぽくイメチェンをした彼女は、


昨日とは、まるで人の違うよう。



そして、以前の自分には不可能なことをやろうとしている。あの、蓮君を狙うと言った時の圧力。めぐみから噴き出た大量の黒い靄。



これって、これってつまり。




多分だけど、恵は悪魔と契約したのかもしれない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


星稜高校卓球部






男子が所属する数少ない部活動だ。




「うわ、すっげえ。卓球部ってこんなに激しいんだ‥」




なんだか蓮にははぐらかされてしまったが、今朝の話の流れからして純哉は悪魔となんらかの契約をしているかもしれない。



そうなると、俺の出番だ。


無自覚にエクソシストとしての力を持って最近その才能が開花し始めた男、浜田丈瑠。


脅威的な馴れ馴れしさと、持ち前の気にしない性格で、人見知りとは正反対な男である。


その情報収集能力は地味にすごい。



純哉の同じ中学から星稜高校に来たのはこの学年では2人しかいない。


しかし一年生には純哉を追ってきた生徒も数名いる。


その生徒ともうコンタクトを取って情報を仕入れている。



その情報によれば、卓球をやってるときの純哉先輩は全く別人のようだということ。


そして、悪魔のように強い、ということ。


強すぎて、全日本中学卓球大会で、全国優勝したらしい。


それが中3の時。


人が変わる。超人的な能力を得る。



まさに昨日見ていた悪魔付きの特徴だ。



実際どのくらい人が変わっているか、確認する必要がある。そう思い、エクソシスト丈瑠は部活をサボって卓球部を視察に来たのだ。


軽音楽がやりたくて入った適当部活動だが、誰よりオカルト研究部としての活動をしている気がする。いや、シズには負けるが。



そのエクソシスト丈瑠の数少ない本当の特技、いい女レーダー。


シズや葉月には叶わないなりにも、いい女だと思う女子は卓球部にも数多く存在する。



そのうちのひとり、安恵。

普段は地味目な格好と三つ編みでいかにもおとなしいって感じの風体だが、あれは脱ぐとすごいタイプだ。


ちょいポチャと言われればそうとも言えるが、グラマラスな胸。男のロマン。



巨乳好きはひた隠しにしている丈瑠。でも、フェチズムには抗えない。多少ポチャッとしてても、そこが大きければ許容範囲内なのだ。



シズはスタイルはめちゃくちゃ良いが、そこも、スレンダー、だから、な。まぁ、女は胸じゃない。じゃないが。

内緒だ。



しかし、安恵は純哉と付き合っている。

あの巨乳を好き放題できるとか純哉卓球つよくて良かったなぁと思ってたけど、卓球部の中での純哉は見ていてすごい。


女子の目がほとんどハートになってる。



それに、見ていてカッコいい。練習にストイックに自分を追い込む純哉。


いつもの声が小さいおどおどしてる様子からは程遠い、アツくて、声張ってて、汗めっちゃかいてて、男らしい。


これは、惚れる。仕方ない。頷ける。スラダンでいう、流川君状態。


「余計、きな臭い、な。卓球の実力も、女の子にモテるのも、悪魔の力ってことか?」


結局、練習おわりまで見張っていた丈瑠。特に進歩はなく、練習が終わる。すると、練習が終わったにもかかわらず、純哉は部室に入っていった。


星稜高校は山の中にある。それで校舎とは少し離れたところに、部室棟というのがあり、そこにオカルト研究部の部室もある。卓球部はオカルト研究部の真後ろにある。


あたりは真っ暗だ。当たり前だもう8時を回ってる。

誰もいない部室に入り、反対側の卓球部の部室に耳を張り付け聞き耳を立てる。


もちろん電気はつけてない。万が一でもバレないようにするためだ。



隣の部屋で、誰かが、喋っている。



『純哉君。なんで?なんでわたしじゃダメなの?』女の子の声だ。多分泣いてる。


えっ、いままさに?フラれたの?

うそ?


『ぼくには、心に決めた人がいるんだ。』


うおおお、純哉すげぇ!モテる男!



『先輩!あなたはフラれたんです!だから、もう、恵先輩のことは忘れてください!』


『‥うん、わかってる。でも、ダメだ。』


え?純哉フラれたの?なんで?


『日本一じゃない純哉なんて嫌い、なんていう女、なんで好きなんですか?あの人は純哉先輩を見てたんじゃなくて、順位をみてたんですよ!?日本一、っていうレッテルで!わたしはちがいます。卓球やってない時の先輩も!やってる時の先輩も!どっちも!どっちもかっこいいって思ってます!』


『‥ありがとう。でも恵はそういうんじゃないんだ。別れたのも、俺のことを思って、で。』


『先輩!それは、ストーカーです!ストーカーの言い分です!いま、恵先輩がそういえば先輩は捕まり大会どころじゃないです!それにあの女はそれを平然としそうで怖い!』



『わざわざ、俺にそれを忠告してくれるために残ってくれたの?』


『ええ、そうです!わたしはどう思われてもいい。でも今先輩は、立ち直らなきゃいけない!だから!わたしの一生分の恋心!あなたのために、ここで捧げます!あなたに嫌われることになろうが、あなたに前を向いてもらえるならそれでいい!』


この後輩、すごいな。カッコ良すぎるだろ。


パチン!

こぎみいい音が鳴り響く。

『ふざけるな!』


え?


え?


ビンタの音?


これ純哉がやったの?


うそ、


すごい音なったよ?


バタン!


強く締められる扉。



咽び泣く女の子の声。



おいおい!うそだろ。


人がまるで違う。

攻撃的。威圧的。普段の純哉の真逆。

ちょっと冗談半分で考えてたけど、これは‥


多分だけど、純哉は悪魔と契約したのかもしれない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「っていうことがあったんだよ。な?絶対悪魔に憑かれてそーだろ?蓮。」


次の日、昼休み、部室での談笑。

たまに部室でご飯を食べる時がある。どうしても丈瑠が話したいことがある時など。大抵の場合くだらない話をされることが多いが‥。


「おまえ覗きが趣味だったのか。」


「いや、のぞいてはないよ?聞いてただけで。」


「お前が知らないだけで、

純哉は中学の時からそういうやつだったよ。」


「いや。でもさぁ、あれは普通じゃなかったね。」


「まぁ、なんとなく話を聞く限り普通じゃないな。むしろその後輩の女の子が。」


「そうそう。ってえ?そっち?後輩ちゃんが悪魔?」


「いや、誰も悪魔とは言ってない。後輩ちゃんが

あの純哉に打たれるようなことをしたんじゃないの?

たとえば色仕掛けとか。」


「はぁ!?え?そういうこと?それで怒ったの?純哉が?」


「ん?純哉が怒ったの?」


ノックもせずに見たこともない人が入ってきた。


「え?誰?」


「誰はひどくない?去年ちょっと話したじゃん。」


見たことない。髪を金髪で染めてて、制服のボタンを第2まで開けてるからその巨乳が強調されている。スカートはかなり短く、少しむっちりした足が強調される。

しかも胸の谷間にメガネを引っ掛けているからさらに谷間が強調されている。


‥本当に見覚えがない。


隣を見ると釘付けになってる男がいる。むう、シズに言いつけてやる。


「え、安めぐみさん?」


なんで知ってるんだろうこの男は。俺が知らないだけで有名人なのだろうか。それとも無駄にこの男が顔が広いのか。


ん?まて?


「安恵?」


「うん、そう。話したことあるでしょ?」


「ある、けど、本当に?別人みたいだぞ。」


「あぁ、本当に雰囲気変わったね。全然わからなかったよ。」


「ちょっと、イメチェンしたの!それよりさ、今日、暇?」

ズカズカと入ってきて、勝手に蓮の隣に座る。


「え?今日?暇じゃないよな?」

なんとなく丈瑠を見る。

「いや、なんにもないよ。部活あるくらい。」

ちっ。

「ほんと!?」

そういうと、なんと、おれの腕をとって、腕を組んできた。

そのまま頭を俺の肩に載せる。むにぃ。柔らかい感触が腕をうずくませる。弾力感がすごい。


だが、そんなことしたらさ。



ぎゃあああああああ!!!




ほら、やっぱり。馬鹿だなあ。


「じゃーさ、カラオケ行かない?」

明らかに俺に話しかけてきてるが俺は丈瑠の方を見る。


「お、いいね!」

丈瑠はそうか、乗るか。


「行かない。」


「え、なんで?いいじゃん、暇なんでしょ?」


「暇じゃないし、カラオケは行かない。」


「えーいいじゃん、蓮。カラオケ行こーよ、おれ久々に蓮の歌声聴きたいよ〜」


忘れてたコイツおれを軽音に誘いたがるやつだった。非常に面倒くさい。


「カラオケ以外なら考える。あと、明日なら、いいよ。」


「おっけー。じゃあ、明日ね。カラオケがダメなら、、、じゃあボーリングとか?


「‥‥まぁ、いいよ。」


「やった!じゃあ、ボーリングね!」


まぁ、そうなるとは思ってた。けど…。


はぁ、面倒くさい。

多分だけど、この人悪魔と契約したのかもしれない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


正直に白状しよう。

自分の相棒、ルームメイトにはある能力がある。



霊感、だ。


幽霊が見える、のだ。



その相棒が言う。


隣の部屋に、幽霊は、いない。









今日も部屋の前で深呼吸している先輩。





「ただいま。」




「う、やっぱり怒ってる。」


存在しないナニカと会話しだす先輩。


「え?なんで急にそんな話になるの?」


どんな話だろうか。

隣の部屋は、蓮先輩しかいない。はずだ。

もちろん蓮先輩の声しかきこえない。会話を想像することは難しい。


「いや、まぁ。その体つきは、関係ないというか。どっちかって言われても、別にどっちでもいいし。」


「正直に言いなさいって、怖いなぁ。そんなことに力使うなよ。もう。わかったわかった。その2択なら巨乳を選ぶよ。」


力ってなんだろうか。やはり、霊力的なものだろうか。


「ロング。」


「まぁでも髪型はどういう風でも。似合ってればかわいい。」


「俺は個人的には黒髪の方が好きだなぁ。」


好きなタイプを聞かれている。

存在しないナニカに。答える蓮先輩。


「全部葉月の特徴だねって、葉月はそんなに巨乳ではないだろ。むしろさ……」


何分かドタバタする音が聞こえた。珍しい。


「言わせといて怒るなよ…。」

怒られていたのか。


「明日は水曜日だろ。じゃあおれ、ちょっと帰り遅くなってもいいよね。」


「ほっとくわけにも行かないだろ。いちおう、偽物だけど悪魔だよ。」


悪魔?昨日やってたエクソシストの映画だろうか。


たしかに昨日は蓮先輩の部屋からその映画の音が聞こえていた。


「ん?なに?なに?ここ?ココを殴るの?なんで?」



ドン!!!!!



耳をつけていた向こう側の壁を思いっきり殴られる。


こんなに響くのだ。耳をつけてた壁の向こう側なんか殴られたら、脳震盪が起きるんじゃないかってほどあたまがぐあんぐあんする。


「……………」


壁の向こうで蓮先輩がなんか言ってる。今ので鼓膜が一時的に役に立たない



自分は急いで壁から離れる。





逃げながら、なにが起こったか、頭の中で整理する。



盗み聞きしてるのが、バレた?


存在しないはずのモノ、に。




鼓動が速くなる。


動悸が止まらない。


ヤバい、ヤバい。怖い。


幽霊でも、人間でもない何か。


あぁ、やっぱり蓮先輩は


蓮先輩に憑いているものは。


『ほっとくわけには行かないだろ。偽物だけど、悪魔だよ。』






多分だけど、蓮先輩は悪魔と契約しているのかもしれない。

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