友人はナニカに取り憑かれていると思う

「おはっよー!」

ずいぶんと元気な友人。


「おはよ。」


「うおおい、そのテンションの低さ、びっくりするわ!」


「なんだよ、暑苦しいな。週明けだってのに。いつもみたいにげっそりしてないのか。」


「なぁ、なぁ、聞いてくれよ、俺、メッチャついてるんだよ!」


「あぁ、まぁそうだろうな。おまえは大抵ツイてるよな。」


「え、なんで?とかいつも見たくきいてよー興味持っておれに。」


「はいはい。なんで?」


「うわ、まじで興味なさそう!でもいいんだ。おれね、なんと、昨日、宝くじ当たった!」


「へぇ、すご。」


「おおい、リアクション!もっとちょうだいよ!」


「いくらあたったの?200円?」


「いや!いやいや、3億円!」


「はいはい。」


「って、流石にね!それはね!いいすぎた!」


「はぁ、うるせーな。で?いくらなわけ?」


「ふはは、聞いて驚くな……なんと、10まんえん!」


「え、リアルに凄いじゃん、やったね。」


「おお、蓮ですらちょっとテンション上がってるじゃん!」


「まぁ、普通に凄いじゃんか。それに嘘っぽくないし。」


「嘘じゃないよ!信じて!それでさ、日頃の感謝もこめて、俺、ぜひ蓮君にお礼の気持ちを伝えたいなと思ったわけ!」


「おお、いいのにそんなの。」


「で、いつ暇?焼肉食いに行こうゼェ!もちろん、おれのおごりだぁぁあ!」


「いや、いい。遠慮しとく。」



「えええええ!なぜ!ノリ悪いとかのレベルじゃねえよそれ!」


「いや、だってさ。なんかお前いつもいつも運凄いじゃん。なんかそんなお前のびっくりするほど残念な運の人生に神様がくれたささやかなプレゼントを俺なんかのために使うなんてもったいないよ。」


「のお!なぜそこで遠慮なぞする!神様がいつも蓮にいっぱい助けてもらってるからって、お礼を言いなさいってくれた宝くじだぜ?ここで蓮が貰ってくれなかったら、俺がバチ当たる!な!」


「えー、とか言って葉月とかシズとか来るんだろ?」


「え、俺衝撃なんだけど。なんでそんなに避けるわけ?同じ部活だよ?別に呼んでも良くね?」


「いや、その中に俺いたら、みんな楽しくないかなって思ってさ。みんなで食べてこいよ。」


「そんなわけないでしょ!え、ちょ、本気で心配するレベルなんだけど?蓮?大丈夫?なんかあったの?」


「いや、なんかあったわけじゃないけど。」


「この前だって葉月とデートしたんだろ?」


「いや、だからあれはデートじゃないし。」


「お前の中ではな。普通の人からしたら普通にデートだからね。ちなみに目撃情報多数。ついに葉月と唐変木蓮が付き合いだしたって、かなりの噂になってるからね?」


「おまえ、そんなの言ったら余計行きたくないだろ。」


「あのね、俺今外堀から埋める作戦な訳よ。お前と葉月がくっつくように。なんといっても決定な。いつがいいの?お前にみんなが合わせるから、絶対来なきゃダメ。いい?用事あるからパスはダメ。」


「ええええ、感謝云々の趣旨はどこいったのさ。そもそもお前、ほんとに当たってるの?違う宝くじの番号とか、一個前のやつ見たとか、あるあるない?」


「ない!既に換金済みじゃ!抜かりない!」


バンっと手提げバッグを叩くたける。

危ないなぁ、誰かに聞かれてて、バックを盗られたりでもしたらどうするんだ。


ドン!


後ろからバイクが突っ込んできて、





丈瑠を撥ねた。


そのままバックを奪って逃走。


幸いにも前につんのめってコケただけで、軽い擦り傷くらいしかついてない丈瑠。


……………………、お、おれが、悪い、かな?


「なぁあああ!なぁぁああ!」


声にならない雄叫びを上げる丈瑠。


「……とりあえず、警察、行こうか。」


流石に不憫になる。


うん。

多分だけど、丈瑠はナニカに取り憑かれていると思う。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「はぁ。」


「あら、いるるん。またため息ついてるよ。幸せ逃げちゃうよ。」


「うーん、そう、だね。でも、なかなか。わかんなくて。」


「なにが?蓮君?この前のデートの話聞かせてよ。何にも教えてくれないんだもん。」


「え?だって何にもなかったんだもん。蓮君はデートのつもりないって言ってたし。」


「でた、ネガティブ葉月。たまになるよね。」


「うう、先週の水曜日、病院行けなかったんだもん……。」


「だって熱出したんでしょ?月曜日のデートで浮かれ過ぎて。お見舞い行ってうつしちゃったら大変だもんね。」


「そうなんだけどさぁ。あそこは私にとってのオアシスなわけ。それが1週間ないだけでこんなにもなんだか不安になるなんて、知らない間にめちゃくちゃ依存してるなぁって。」


「まぁ、ルーティーンってあるよね。崩れるとなんか気分がってのもわかるわ。そうそう、蓮君の朝のルーティンの話聞いた?」


「うん?なにそれ。」


「蓮君、1秒も遅刻しないでしょ?ほんとに1秒も、らしいの。つまり蓮君より後に門を潜るともれなく遅刻になるんだって。」


「うん?どう言うこと?」


「だから、寮から門までの道を完全に一定のペースで歩いてるの。ちょうど朝の登校時間になるまでギリギリのペースでギリギリの時間で。だから生徒会の人は蓮君が見えたら門を閉める準備をして、蓮君が入った瞬間門を閉めるようになったんだって。」


「すご、蓮君、几帳面そうだもんなぁ。」


「だから、あの最後の坂、蓮君を追い抜かそうと必死でダッシュする人とか、いっぱいいるんだよ。ついたあだ名が、『動くタイムリミット』『遅刻のボーダーライン』」


「あはは、有名人なんだ。」


「いるるんも相当有名だけどね?昨日も告白されてたじゃん。陸上部の伏見くん、だっけ?相当女子から人気高い男の子なのに、ふっちゃって。ファンの子が逆に泣いててびっくりしたわ。」


「え、だって、私人見知りだし。よく知らないのにいきなり告白されても。」


「ちなみに去年同じクラスなんだけどね〜。よく知らないって言うか、知る気がないんだけど。はーちゃんのハートは蓮君に仕留められてるからなぁ。」


「うー、だって他の人とか、興味無いんだもん。」


「フラれてるのに?そりゃふったくせに思わせぶりしやがる蓮君はどうかと思うけどさ。葉月はなんでフラれても蓮君がいいわけ?何きっかけで好きになったのさ。」


「……きっかけ、うーん、あんまり思い出せないけど、トロピカルブレンド作ってくれた時かな。完璧な比率で、何で知ってるんだろってなっちゃって。」


「でた、葉月の唯一のよくわからないヤツ。まぁ人間すべて完璧じゃちょっと面白くないよね。うん。」


「失礼な。欠点みたいに言わないでよ。ファミレスのドリンクバーでのこだわりなんて誰だってあるでしょ?カルピス2に対してカルピスソーダ1みたいな炭酸加減が好き!とかさ。」


「いや、まぁその程度のこだわりはわかるけど、そのトロピカルブレンド?だっけ?それはもう病的な域に達してる。ていうか、ほんとになんで蓮君はそれ、作れたんだよって感じ。」


「ね。心が読めるのかも、とか思っちゃった。私の好きなのなんだと思う?予想してみてって言ったら作ってきたもんね。」


「たしかにあの頃の蓮君はなんというか、独特な雰囲気でミステリアスな感じがあって、魅力的に映るのはわかる。でも最近はだいぶ丸くなったというか、まぁ私たちが慣れたのもあるだろうけど。尖ってないよね。昔はもうちょっと尖ってた感じあったけど。」


「あぁ、それ私も思う。なんだか物腰柔らかになったというか。あんまり笑わないけど、嘘がないって言うか。力抜いてるっていうか。」


「たまに笑うと可愛いなって思っちゃうんだよね。」


「そーそー!特になんか、ちょっと達観してるのに、子供に戻る瞬間とかあって。なんかもう、ギャップ?ギャップの宝庫というか!あ、その……、えっと、ごめん……」

にやにやしてるシズに我に帰る葉月。


「何を謝るのさ。なるほどねぇ。そんなに好きなんだねぇ。」


「うう、シズの意地悪。」




「おす、なんの話?」


「うわぁぉぁあああ!びっくりした!」


「れ、蓮君!」


「え、そんなにびっくりする?普通に挨拶したつもりなんだけど……。」


「いや、なんというか間が悪い!」


「……それ、は割と反省してるんだけどな……。」

小声で言う蓮。

シズには聞こえないほどの声で。


「まぁ、いいや。ねえ、今度さ、みんなで焼肉行かない?丈瑠つれて。」


「え?私はいいよ?」



「う、うん、私もいいけど、なんで?」


「あー、それがね。…………」

 

 



「えええええ!」


「それで丈瑠君、無事なの?」


「見た感じ怪我は大丈夫そう。でも精神的にはかなりキツそうだったよ、流石に……。」


「一応救急車なのかな?撥ねられたんでしょ。」


「うん。軽い怪我で自分で歩けてたから心配ないと思うけどね。」


「それで、なんで焼肉?」


「あいつがその10万円で俺たちに焼肉奢るんだって息巻いててさ。流石に可哀想だからさ、ほら3人で割れば丈瑠分くらい出せるかなと思うし、駅前の食べ放題の店なら1人4000円くらいでなんとか。どうかな?」


「え、私たちはいいけど。いいよね?」


「うん。全然。いいよ。」


「よし、じゃあいつ暇?」


「うーん、今日は丈瑠君まだ病院でしょ?それに警察とか色々あるだろうし。丈瑠君が動けそうなのはいつかな?それを本人に聞いたらいいんじゃない?」


「おっけー。でも、とりあえず最近で予定が入ってる日はないってことでOK?」


「あ、私は水曜日は……」


「あぁ、そうか。葉月は水曜日お見舞いだもんね。おっけ。」


と、その時去年同じクラスだった女子が話しかけてきた。


「ね、阿澄君、なんか向こうで先生が呼んでるよ。警察が来たとかで。」


「おお、すまん。じゃ、また。」


嵐のように去っていった。


「…………。たけるく


「やったね葉月!ご飯誘われたのなんて初めてじゃない?蓮君からなんて!よっぽどたけるんが可哀想だったのね…。」


「そうだよ、丈瑠君大丈夫かなぁ?」


「うん。流石に私も心配よ。ねえ葉月。win-winになる作戦考えようよ。つまり、私がたけるんを慰めになんとか2人っきりになる状況を作り出すから、って口実でさ、蓮君と2人っきりになるっていうのはどうよ。」


「え、え、え!?」


「だから。私がたけるんを狙ってるのは蓮君も知ってるわけでしょ。だから、私がたけるんと2人きりになりたいなぁって雰囲気をだすから、いるるんがそれに気づいて、蓮君を呼び出して、2人きりになっちゃうのよ。そうすれば、丈瑠んも逆に2人に気を遣って私と2人きりになるし。」


「ううん、と、でも、なにするの?」


「それは、なんでもいいんじゃない?駅前って言ってたよね?2人でちょっとカフェでまったりするとか、ショッピング見て回りたいとか言って連れ回してもいいし。」


「うーん、シズはどうするの?」


「私は駅前で雑貨屋さんとかみて回って、そのままうちまで送ってもらうついでに家に連れ込んじゃおうかなとか!」


「ええ!うちに?」


「勢い余って告白しちゃったり!?」


「え?シズからってこと?そんなに意気込んでいるんだね」


「まぁでも、弱ってる時にそんなこと言って混乱させるのもどうかなともおもうし、丈瑠君しだいかな。」


「そっかぁ。うん、そうだよね。」


「葉月はもう一回告白したりしないの?」


「え?ええ?そ、そんなこと、無理だよお」


「でも好きなんでしょ?半年前より確実に距離は縮まってると思うけどな。だって、蓮君から、ご飯誘ってきたんだよ?あぁゆうタイプは責任感は強いからさ、もはやキスくらいまでしちゃえば、責任とって付き合わなきゃってなるかもよ?」


「そ、そんなこと……絶対無理だよ!それに、なんかそんな感じで責任取られても、やだし。」


「まぁたしかにね。でも、ハグするくらいなら、どう?ドキドキするので恋って気付いて、進展するかもしれないし。ボディタッチとか、際どい服とか、さりげなくたくさんしてさ。」


「うー、私そういうの、得意じゃないし。」


「拙さが出た方がドキドキするわよ。逆に。頑張ってるんだなってなるじゃない。ね、じゃあ今日にはならないと思うから一緒に服買いに行こーよ!」


「えええ、うーん、わかった……」

顔を赤らめながらも少しは大胆に攻めてみようか、なんて考えている葉月だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『おう、元気か蓮。』


「元気だけど?何か用?」


警察の事情聴取を受け、病院から保健室に帰ってきた丈瑠に話をしにいこうと、向かってる途中、董哉から電話があった。

それにしても、わざわざ学校に戻らなくても、こんな日くらい家に帰ればいいのに。出席日数も足りてるだろうし。


『あぁ、たまたまだけど病院で丈瑠君にあってな。非常に珍しいのに、憑かれてたからお前にも言っておこうと思って。』


「へ?憑かれてたの?」


『あぁ、福の神ってやつだな。俗に言う。それよりももうちょい座敷童寄りのポピュラーというかランクが低いというか、一般人にもたまに憑くタイプのヤツだね。』


「え?話聞かなかった?宝くじ当たって、そのバック引ったくられたんだけど?福の神が憑いてるのに?」


『目の前でそれが起こってしまったお前はちょっと責任感じてるだろ?それで、焼肉奢ろうなんて話してるんじゃないの?10万円だっけ?おそらくすぐに戻ってくるよ。犯人逮捕されるとか、そんなんでさ。そうなれば10万もあるし、焼肉は奢るはずが奢ってもらえてるし。』


「はっ、ちょっとイラッとしたから奢るのやめようかな」


『それはおまえ、男として二言はないだろ。それにそれくらい奢ってやれよ。いつも彼ばっかり可哀想なんだから。』


「まぁ、確かに……。」


丈瑠はいつも、ほんとに可哀想なくらい憑かれて、疲れてるからなぁ……。


『それで、別件なんだが、今度なそっちの学園の近くで結構でかい仕事があってさ。』


「うん?なに?手伝えって?」


『いや、今回は祓う力より、視る方が必要なんだよね。それで、本人たっての希望でしばらくそちらの学園に詩音を派遣することになったから。』


「はぁ!?え、ちょっと待て、それは嫌だぞ!」


『お兄ちゃんラブパワーがもう抑えきれなくなってな。お前が定期的に帰らないからだと思うぞ。まさに自業自得ってやつだ。』


「え、ちょっと待ってよ、まさか寮に住むとか言うんじゃないよね?」


『答えはもう出てるだろ。まぁ、俺がなんとか、流石にお兄ちゃんと同じ部屋は良くないぞ、と説得することに成功はしたんだが。』


「おい、それはまずいぞ。せめて家から通って!マジで!」


『なんだよ。寮に詩音に見られちゃまずいものでも持ち込んでるのか?妹もののAVとか?』


「親の言うことじゃねぇし!それに詩音に見られたらまずいのは年上もの、巨乳のAVとかだろ。」


『うーん、確かにあんまり巨乳とは言えないなあの子は。中3ならもうちょいあってもいいけどなぁ……。まぁ、どうせ来年星稜に行くって聞かなかったんだ。多少早まるだけだし大差ないだろ。』


「まぁ、そうか、そうだな。来年は来る予定だったわけ、か。そうだな……。」


『おう、多分近々挨拶に行くと思うからよろしくな。それじゃあ、とりあえず丈瑠君を慰労してあげてな。じゃ』


「おう、連絡ありがと。」


ガチャ。


電話しながら保健室の前に着いた。


それにしても福の神、か。

悪いものじゃなければ無意識に除霊とか、しないのか?


でもせっかくなら、いい思いをさせてやりたいものである。

できるだけ丈瑠には触らないようにしようかな。


「丈瑠〜?いる?」


保健室を開けると


半裸の女性と、ベットに押し倒された丈瑠が。


「………………。」


目が合う。


固まる女の人。

俺の知らない人だった。


「……間が悪い。」


無言でうなづく女性。


そのまま扉を閉めようとしてみる。


「むむむむむ!むむむむむむむ!!!」


よくみると口に何か詰め込まれてる丈瑠は苦しそうに何か言った。


よくきこえないし、そう言うプレイも好きなんだタケルって。確かにシズに振り回されっぱなしだし、Mの気質はあるのだと思う。うん。性癖って人それぞれだしな。

一瞬止まったが

そのまま閉めようとする。


「ぶはっ」


自力で口の中から女性の下着のようなものを吐き出した丈瑠。

「ちょ!おい!待てよ!助けて!おれ!襲われてるんだけど!!」


はいはい。そういうプレイね。


そのまま閉めてやった。


「ええ!?嘘だろ!おおい!それは流石にシャレになってない!ってええ!なんでお前も、再開させようと!おい!ちょ!まじで!まじで助けて!」



仕方ないから助けてやった。


すげえな丈瑠。

ナニカに取り憑かれてるだけあって、この日3人の女子から告白されていた。

福の神っていうかサキュバスなんじゃねえの。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ははっ、


俺はツイてる!


宝くじが当たったとか大声でほざいている高校生のガキから、カバンをひったくった。


10万だ。

勢い余ってちょっとぶつかっちまったけど大怪我してるわけでも無さそうだし大丈夫だろ。


その金でパチンコやったら当たるわあたる。

ふえに増えて10万が45万まで増えやがった。

今日の俺はツイテる。これから競馬場にでも行って万馬券当ててやるか。


その前に小腹が空いたからと、なんとなくよった街の寂れた定食屋さん。

一家で経営しているようなこじんまりとした食堂という感じだ。

日替わり定食400円。この物価高騰のご時世になかなかがんばってるじゃねえか。本日はカツ丼定食だって、表の看板に書いてあるもんだから、げんかつぎにするのもいいか。


「邪魔するで〜」

ぎいいいいー、ばたん。


立て付けの悪い扉だなぁ。


いらっしゃい、もないのかよ。ぱっと見あげると、



そこには、


惨殺された店主の首が、テーブルの上に乗ってこちらを見ていた。


「は?」


いかにも定食屋の頑固親父、のような顔した、顔だけが、テーブルの上でこちらを睨んでる。


包丁をもったまま動かない顔のない体が、向こうのほうで立っている。


その体の手には、店長と同じくらいの年代の女の人の顔。


そしてその目線の先は入り口の自分だった。


「……は?」


ごとん。


扉の立て付けが悪いのかと思っていたら、扉の方に高校生の制服を着た女が寄りかかっていたようで、それが倒れた。


倒れた拍子に、頭が取れた。


転がって、


止まった、視線の先は。


入り口に立ってる自分だった。


「ぎ、きゃあああああああああああ!!!!!!」


男は逃げて近くの交番に助けを求め、


そのまま逮捕された。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『今日夕方。18時頃、横木町の定食屋『並木楼』で一家3人が殺害されている事件が発生しました。

第一発見者の男は同日午前7時半頃、星稜高校前でひったくりをし逃げていた猪狩真司(34・無職)で、何気なく入った定食屋さんで殺害されている一家を発見。その足で交番に駆け込み、窃盗の疑いで逮捕されました。』


……なんかすごいニュースだな。

本好きのルームメイトは、最近頻繁にニュースを見るようになっている。


そして彼がニュースをつけるときは大抵、こういう変な事件が報道されていることが多い。


無言で見ているルームメイト。まぁ当たり前か。ニュースに向かってぶつぶつ何か言いながら見ていても、気持ち悪いし変だ。

いや、ルームメイトは十分変な人なんだけど。


それにしても今日は蓮先輩の部屋から何も聞こえない。

まだ帰ってきてないのかもしれない。

いつもは門限をすごく気にして1ミリも遅れたことがない蓮先輩なのに。なにかあったのだろうか。


もしかしたらひったくりにあった星稜高校生っていうのが蓮先輩で、事情聴取とか受けてて帰ってこれないのだろうか。

それだったら、そのはなしをきっと、見えないナニカにも報告するだろうから、

ちょっと話を聞いてみたい。


それにしても最近のこの辺りは物騒である。


一家斬殺事件なんて。この前は強盗事件もあったようだし、恐ろしい。

もしかしたら同一犯なのかもしれない。


ぴっ


ニュースが終わって興味がなくなったのか、また読書に戻るルームメイト。


毎回毎回、そんなに本を読んで飽きないのだろうか。


そう思うが、まぁお互いの趣味には口出ししないきまりになってる。


僕の趣味?


隣の蓮先輩達の声を聞くっていうことさ。盗聴と言われればそれまでだが、別に誰にも迷惑かけてはいない。自信がある。


だから、

ルームメイトが『除霊の仕方〜誰でも簡単73手法〜』なんて怪しげな本を読んでいても口出さない。気にはなるけど。


だから彼も僕に口出さない。


これが僕たちの密約。


ガチャ、ギーーーーー、バタン

「ただいま〜」


む、噂をすれば蓮先輩のおかえりだ。


「遅くなったね。実は丈瑠が大変で。」


「そー、今日だけで3人に告白されてた。1人はなんか襲われてたし。もはやあそこまで行くとツイてないよ。ぎゃくに。」


「うーん、そう、それで今度焼肉行くことになった。丈瑠いくらなんでも可哀想だからって。」


「うん、明日みんなで駅前の焼肉食べ放題行ってるから。なんだよ。もう、葉月も行くって。うん。」


お、と思う。

最近、葉月先輩と蓮先輩がデートしたとかで、ナニカは嫉妬したっぽい内容の会話をしていたのだ。

ーこれは、また修羅場あるか?


ちょっとワクワクしながら聞き耳を立てている。


「あーもう、わかったわかった。葉月がいかに素晴らしい人か熱弁しなくたって大丈夫。もう、なんでこう俺の周りは葉月と俺をくっつけようとしてくるのかね?」


「お似合いって、だから。俺には、葉月よりも……」


「なんだよ、言わせろよ。おれは……。」


「あー、はいはい。わかったよ。そういうことでいいよ。はぁ、なんで、そうなるかなぁ。」


しばしの沈黙。

ナニカが何かを言っているのかもしれないが、ナニカの喋る言葉は聞こえないから、こうなると話の内容を予想するのが難しい。

そもそも蓮先輩も、おしゃべりな方ではないのだ。

何度かすれ違ったことはあるが基本無視されている。


「へ?」

素っ頓狂な声を上げる蓮先輩。


「おい、まじで!?ていうか、それで無事だったの?」


「はぁぁあ、そっか、よかった。詩音にも視えなかったんだな。そうなると、より不思議だよな。詩音ほどの霊能者でも視えないなんて。董哉にも視えないに決まってる。なのに、なんで俺だけ見えるんだろうね?こんなにはっきりと。やっぱり運め……」


ガン

大きめな音がした。ちゃっかり視えるとか視えないとか言っちゃってるし。


これで確定だ。


蓮先輩は、視えないナニカに取り憑かれ、恋しているんだと思う。

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