友人はナニカに呪われていると思う

「おはよ。」



「おはよ。また、ずいぶん辛気臭い顔してるなぁ。」



「あぁ、蓮、また聞いてくれないか。」



「うん。どうした。」


「呪いってあると思うか?」


「いや。」




「…そうだよな。悪い、変なこと聞いて。」



丈瑠はやつれた顔で

「聞いてくれよ、日曜日からどうにもおかしい」

とため息をついた。


話を聞くと、日曜日、シズと駅で待ち合わせしていたそうだ。


タケルの中では、映画館にいく予定だったらしい。



すると、ばったり同じ中学だった元カノと出会ったそうだ。


しかもシズは朝8時集合を夜8時だと勘違いしていたらしい。学生が日曜日に夜8時から何して遊ぶんだと思うが、シズの思考はオカルトよりだ。

映画館と聞いて、どんなオカルトな噂のある古びた映画館を想像したのか。


それが発覚して途方に暮れてると、

なんとその元カノの連れもドタキャンをしたらしい。

もう、映画のチケットは2人分買ってあったから、どうしようという。


タケルはじゃあおれ、その映画見たかったし、そのチケットもらうよっていったのだ。


たらしだ。


だったら一緒に見ようよって元カノに言われたらしい。


うーん、その元カノ絶対まだ好きだろ。


聞くとやっぱり丈瑠からふってる。


なんでふったの?って聞いたら、学校違っちゃったしって。なんだその理由。


それで映画を2人で見たんだそうだ。


それって浮気?


いや、まぁ、シズと付き合ってないから浮気ではない、のだろうけど。



そしてご飯何食べようかってしてると、


シズが来たんだって。急いで。


そんな修羅場。


それでなんとか言い訳してシズはなんか怒ってたけど、とりあえず元カノとはバイバイして、シズが観たいって言ってた映画館に直行。


レトロな雰囲気なところでホラー映画を見たんだけど、その映画館、観ると呪われるらしい。


なんてったってシズが行きたい映画館だ。絶対なんかある。


しかもホラー映画って。チョイス。

丈瑠曰く、

映画自体は大して怖くもなくて大丈夫だったんだけど、


そのあと色んな不幸なことが起こったらしい。


とりあえず、シズが情緒不安定で、さっきの女は誰だって問い詰めてきたこと。


それで元カノって言ったら泣いて走って帰っちゃったこと。


追いかけようとしたら靴紐がちぎれて転んで車道に飛び出してしまったこと。


それに驚いたトラックが急ブレーキで髪の毛踏むレベルのギリギリだったこと。


お気に入りだった俺から貰ったミサンガが切れちゃったし、


トラックの運ちゃんに平謝りして、


帰る途中何度も視線を感じ、振り返っても誰もいない。 


非通知から電話がかかってきて、でても、無言で何も返してくれない。


家に着くと手紙が置いてあって、すごい汚い字で死ね死ね死ねってかかれてたり、



今日もずっと視線を感じるという。



「な、これ、おれ、絶対呪われてるよな。」



「あぁ、ある意味呪われてる、な。」



「え、まじ?ほんとに?うそだ、蓮は絶対否定してくれると思ったのに!」


「なぁ、一個聞いていいか。元カノって可愛いのか。」



「な、何でそんなこと聞くんだよ。いまは俺が呪われてるって話で」



「なんとなく、だけどさ。やけに目が痒くなったり、頭が痛くなったりしなかったか?」




「…え?エスパー?」



「まぁね。じゃあ、こういう時はにゃーこ先輩に頼もう。」




「は?なんで?」



「まぁまぁ、いいから。にゃーこ先輩はこういうの強いから。」



「こういうのって、呪い系?」


「あー、まぁ行けばわかるよ。」



それにしても、不運の連続。かわいそうだ。というか好かれるタイプがやばすぎる。


シズもそうだが。


俺も人のこと言えないか。


まぁ何にせよ。

今回珍しく、シズの行きたかった映画館は全然関係ないけど、こんなにも不運な連続。


 

タケルはナニカに呪われていると思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おはよ…」


「え、わぁ、髪の毛ボサボサだよ!どうしたの?シズ。」




「いや、なんにもないよ…。」


「うそ!絶対なんかあるよそれ。どうしたの?私に話してみてよ。」



「うう、日曜日さ、」



「うん。」


「たけるんと映画に行く約束してて。」


「ええ、よかったじゃん。」


「でも私時間勘違いしてて。行けなくて。」


「ありゃ、それは大変」


「急いで準備していったらやっぱりいなくて。そしたらお昼にカフェでさぁ」



「う、うん。」


「なんか女の子とご飯食べてるたけるんがいたんだよぉ!!!」



「え…?」


「私とりあえずたけるんのところへ行ってさ、そしたらご飯食べ終わったところみたいでバイバイってなって、」


「う、うん。」


「そのあと例の呪われる映画館に行って今話題のホラー映画を見たんだけど」


「え、あのめちゃクチャ怖いって評判の?」


「でもそんなの全然頭に入ってこなくて〜」


「そ、そうだよね。」


「終わってから問い詰めちゃって。そしたら、そしたら、元カノだって」


「ええええ!元カノとデートしてたの?丈瑠くん」


「そぅ!もう私わけわかんなくなっちゃってそのままたけるんと別れて帰っちゃったの」


「そ、そっかぁ。」


「でも、それだけじゃなくて。それからも散々。」



「え?」


「携帯無くすし、家に帰ったら空き巣に入られてて、服とかぐちゃぐちゃにされてるし。私の部屋だけよ?」


「う、うわぁ。」


「しかも不幸の手紙?っていうの?机の上に貼られてて。」


『たけるに手を出すやつは死刑』と新聞の文字を切り抜かれて作られている手紙。


「……わぁ。」


「もう最悪よ。ほんとにあの映画館に呪われたのかも。」


「うーん、多分だけど違うと思う。警察には被害届出したの?」


「もちろん。出したよ。でも別に何か取られたわけじゃないみたい。服はビリビリになってたけどね。」


「うーん。多分髪の毛は取られてる、かも。」


「へ?」


「ここまでくるのに胸の痛みとか、なかった?」



「なかったよ。ていうか体調は万全。いつでも元気」


「うん。そうだね。」


でも、少しだけ影が視える。恨みというか憎しみが。多分だけど嫉妬だ。

このままだと、夜中の2時に決行されるかな。

藁人形ってやつだ。話の流れからして、予想でしかないが、



シズはナニカに呪われていると思う。





救いとしては警察に絶対捕まること。さらに素人丸出しだということ。

まぁ、だから大したことは起きない、と思うが。


「シズ。一応、猫宮先輩のところへ相談に行こ?」


「え?何で?あたし猫宮先輩苦手なんだけど。」


「まぁまぁ。気持ち悪いでしょ?解決できるよ多分。」


そういうと、シズの手を引いて授業なんて置いておいて、猫宮先輩のいる図書館へ向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ、」


「え、」


ばったり会った4人。図書室の視聴覚室の前。



「あ、お、おはよ、蓮君、丈瑠くん。」


「お、おはよ!葉月、…シズ、」


ちょっと気まずい。シズ。すごい顔してる。


「おはよ。シズもなんかあったわけ?」



「え、うん空き巣に入られたり、携帯無くしたりしたんだって。」


え、なんだそれ、ピンチじゃないか。


「ふーん。」

なんてことないように返す蓮。


「っていうか、丈瑠くん大丈夫?なんか、なんかすごい顔してるけど、」


「丈瑠は呪われてるらしいよ。とりあえず、シズに言いたいことあるってさ。丈瑠、今言わずにいつ言うの。」


え、え急に話を振られてしまった。


「へ?え!なにを?あーっと、その、とりあえず!日曜日はごめん!」


「ご、ごめんって何がよ。別に私たち付き合ってないし、私が何かいう権利ないんだから」


「まぁ、そもそもシズが集合を12時間間違えたのが悪い」


「いや!俺がちゃんと午前って言わなかったのが悪いんだ!」


「へ?シズ12時間時間間違えてたの?」


「ね。笑っちゃうでしょ。まぁ確かに8時だったら朝から夜かギリギリ迷うレベルだな。でも夜8時に集まって映画とかみたら終電なくならないか?」


「うー、うるさいな。そう思ったんだから仕方ないでしょ。」


「まぁ、ね。とりあえずもう少しコミュニケーションを取ればよかったな。お互いね。」


「それで、猫宮先輩のところに?」


「うん、一応ね。とりあえず丈瑠は話を聞く限り不運の連続で死にかけてるから。先良いかな?」



「し、死にかけてる?」


「まぁ、トラックに轢かれそうにはなったな…。」


「じゃあ、先はいるよ。丈瑠。」


「お、おう。」

猫宮先輩のいる視聴覚室の中に入っていく。


ここはいつも薄暗い。薄暗いのにパソコンが何台も置いてあって常にフル稼働。パソコンの明かりで明るくなってる。

シズは少し苦手って言うけど俺は別に。


でも、呪いをなんとかしてくれるのか。猫宮先輩。


「あら、大所帯で珍しい。」


猫宮先輩。通称にゃーこ先輩。

可愛らしいあだ名と裏腹に世界を呪ってやるというような暗い顔をしている。一個上の先輩だ。かなり陰気が強い。色々な噂があるが1番の噂は、視える、らしい。


「 にゃーこ先輩、おはようございます。こいつ、みてほしくって。」


蓮が俺を指さす。


「うん、いつものことながら、何してるの?」


「多分ストーカー被害。」


「へ?」


「だから、元カノ。ストーカーだろどう考えても。」


「は?そ、そんなわけないだろ。」


「だって、偶然を装って、ばったり出くわしたフリして、さらに丈瑠が見たかった映画を事前にリサーチしてて」


「い、いや、そんなことないだろ。そんなことする子じゃないぞ。」


「まぁ、だからそう言うネジのぶっ飛んだ子だったって話だよな。ある意味女運のなさは呪われてるよ。」


「…え?シズのことも言ってる?」


「うん、シズなんてめちゃくちゃ変だぞ。命がいくつあっても足りなさそう。でも、好きなんだろ?」


「…シズのこと、悪く言うなよ。」


「悪く言ってるわけじゃないけど、大変そうだなって思うね。だって、映画、怖くなかったんだろ?」


「うん、まぁ、ありきたりな展開だなとは思ったけどさ。」


「よっぽど現実の方が怖いって?そう思えるのはシズのそばにいるからだよ。ほんと…。」


「…それで?わたしにどうしろと?」


「ほら、にゃー子先輩なら、そいつが今どこにいるかわかるんじゃない?」


「なんで?」


「学園内にいると思うから。」



「…」

そういうと、沢山あるパソコンを一斉に起動し始めた。

「とりあえずここ周辺から探すけど。怪しそうなのは、………これ?」


「あっ、……」


元カノがいた。

図書館の中のエレベーターが見えるところをうろうろキョロキョロしてる。


「オッケー。先生に連絡しよ。他校の不審者が入り込んでるって。そしたら多分色々出てくるよ。おれ、彼女がどっか行かないように見張ってくる。」


「…ストーカー?うそだろ…?」



惚けてる俺。心中を察するのか、神妙な顔つきで俺を視聴覚室の外に引っ張ろうとする蓮。


「ありがと、にゃーこ先輩。それじゃぁおれ、捕まえてくるよ。」

そう言って蓮は俺を外に引っ張ってった。

入れ替わりでシズたちが中に入っていく。


そのあと、

顔やら背中やらをぐしゃぐしゃと触りだす蓮。


「わ、なに、なにするんだよ!」


「いや。柄にもなく落ち込んでたから。」


「そりゃ。そうだろ。」


「まぁ、これで解決だよ。一件落着。よかったな。本当の呪いじゃなくて。」


「…どっちかっていうと本当の呪いの方が良かったかな。こんなんなら。」


「いや、本当の呪いならこんなんじゃ済まないぞ。じゃあ、おれ、元カノさんに話しかけてくるよ。とりあえずストーカーはやめろって言ってくる。」


「あ、ありがとう。」


俺をその場に置いて行ってしまった蓮。

なんてゆうか、たくましい。頼りになる。やっぱこういう時に頼りになるな、蓮は。本当にすごい奴だ。


葉月が惚れるのも、わかる。

多分だけど、葉月も蓮のこういう行動的なところがいいと思ってる。


そういえば、この前も葉月が蓮を待ち伏せして一緒に帰ろうとしてたことがあった。待ってる間に3人の男子に声をかけられ全てを断ってた葉月。

葉月、結構待ってたのに、本人は五十嵐先生と用事があるとかで先に帰っちゃったんだ。

うん、思い出したらムカついてきたな。断られてた3人の男子もその様子を見てて、憤慨してた。


はぁ、ため息が出る。

俺でこんな目にあうんなら、


多分だけど、あいつこそ誰かに呪われてると思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学校に不審者の侵入があった、とか通報を受けた。


猫宮だ。

なんでも、他校の生徒が勝手に入り込んでうちの生徒をストーキングしているんだとか。


あいつはほんとに、授業もろくに出ないのに、こういう厄介ごとには大抵かかわっている。


しかも、ストーキングされてるのがうちのクラスの浜田丈瑠だっていうから、ほっとけない。



「はぁ。ん?、あれ、阿澄か?」


みると阿澄蓮が何か女の子と会話している。阿澄の顔はこちらから見えるが、女の子の顔は見えない。


珍しい。

あんなににこやかな顔の阿澄は初めて見た。




猟奇的にすらみえる。


普段仏頂面のやつが笑顔だと、怖いな。


なんだか、呪いでもしそうな笑顔だ。


珍しいし、この辺にいるっていうからとりあえず阿澄に声かけておこう。


そうすると、ちょうど阿澄のほうも話が終わったみたいで、仏頂面に戻ってる。


「おう、阿澄。」


「五十嵐先生。ちょうどいいところに。この子、この学校の生徒じゃないんだ。」


「え、ていうと、例の不審者がこの子?」


「そうそう。物騒なもの持ち歩いてると思うから取り上げてあげて。あとは先生に任すよ。」


「お。おう、」


そういうと戻っていく、阿澄。


阿澄がいなくなった途端、その場に崩れ落ちた女生徒。

「は?え?おい、大丈夫か?」


びっくりするくらい体が冷えてる。それに震えてる。


「はっ、はっ、はっ、」


過呼吸気味になってる女生徒。汗がすごい顔は真っ青だ。


「おいおい、とりあえず落ち着け。深呼吸しろ。それから、保健室行くか?とりあえず動くぞ。」


そういうと、座り込んだ女生徒を立たせて手を引いて歩いていく。


おいおい、この震えよう、怖がってる?何があったんだ。まるで、死の恐怖を間近に体験したかのような震えよう。阿澄がなにか、したのか?



「ふぐうううう、ふえええええ!」


人目も憚らず泣き出した。

「お、おいおい、大丈夫かよ、ほら、こんなとこで泣くなよ、俺がなんかしたみたいじゃないか。」


周りがすごい目で見てくる。ただでさえ女生徒ばかりでセクハラだなんだ言われやすいんだから、

ちょっと本気でやめてほしい。


それにしても、阿澄、この子に何言ったんだか。

それに……。



この子にまとわりつく、黒い靄。


おいおい、


多分だけど、この子、ナニカに呪われてると思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで?ストーカーの子なら先生がなんとかしてくれるからもう大丈夫だよ。」


「猫宮先輩、シズは大丈夫、ですか?」


「うん、見た感じ、大丈夫、だと思う。」


「何が、見えるわけ?」

ほんとにやだ。この人は、自称、視える人。


「黒い靄。でも、この程度なら大丈夫。呪われてるって言っても大したことない。素人だね。そうだな、こける、くらいの不運はあるかもね。気をつけてれば大丈夫。」


「そっか。よかったぁ。」

葉月が安堵のため息をつく。


「うん、今回は、珍しくあなたが被害者みたいだね。空き巣とか携帯とか多分ストーカーの仕業だわ。」


「え?」


「浜田くんの元彼女?なんでしょ。あの人。ほら、五十嵐先生が泣かせてる。」


パソコンの画面が切り替わり防犯カメラに映る五十嵐先生と女生徒を映す。


「え、このパソコン、防犯カメラの映像見えるの?盗撮?」


「い、いまそこに突っ込むかな?」

葉月がコケる。でも気になったんだから仕方ないじゃん。



「まぁ、私はそっちの方が得意なの。パソコンばっかいじってたから。学園内で私に隠し事はほぼ不可能ね。」


すごいこと言ってる気がする。それって普通に犯罪じゃないんだろうか。


でも、え?この人?



「この人?元彼女さん…?」


なんだか、なんだか日曜日見た人とは違う人のような気がする。


「え?違うの?」


「いや、この人。この人だけど、ずいぶんヤツレたのね。日曜日はあんなに元気だったのに…。」


「ふーん、そう。まぁ、今回一番可哀想なのは浜田くんね。慰めてあげたら?」


「私が?」


「あなた以外誰が?葉月?」


「え?私?いいよ。シズの役目だよ。それは。」


「うえ、だってなんか気まずいし。」


「付き合っちゃえばいいのに。」



「む、いるるんもあすみんと同じこと言う〜」


「え、蓮くんも?」


顔を赤らめる葉月。あぁもう、葉月は相変わらずチョロいな。


「お互い好き同士なのに、ね。」


「むー、うるさいな。そういうのは自分たちのタイミングでなるからいいんです。」


「まぁ、意外と奥手、というか、勇気がない、のか。女々しいわね。」


「うーるーさーいーなー」


だから嫌いだこの人。猫宮先輩は痛いところをついてくる。


「ふふふ、可愛いじゃない。でも、ちょっとくらい勇気出してあげなよ。こんなピンチな時なんだからさ。」


「いいのー、わたしはわたしのペースがあるんだから。ねぇ、葉月。」



「う、うん、まぁでも、ちょっとくらいなぐさめてあげてもいいと思うよ。知り合いがストーカーになったなんて大事件、傷付いていると思うから。」


ん?ちょっと待て。どういうことだ?


「む、ちょっと整理させて。元カノがストーカーになってわたしの携帯奪ったり、空き巣してわたしの服ビリビリにしたりしたわけ?」


「うん、そう。ちなみに警察にも通報しておいたから、捕まるわ。すぐ。」


「…ムカついてきた。あいつのせいでもやもやしてたあたしはなんだったわけ!?」


「お、調子が戻ってきたね。だんだん、靄もなくなってるよ。その調子。」


「あーもう、うるさい!自称見えるアピールとかいいから!」


クスクス笑う猫宮先輩。あーもう、イライラするなぁ。


画面は先生に連行されていく女生徒になっていた。


よく見ると、違う画面が校門のあたりを映していて、パトカーが止まっている。


むぅ、猫宮先輩の仕業だろう。この人、ほんとに手際がいいというか抜かりがない。


警官が走ってきて先生と話をしている。


それにしても、やっぱりこの人は苦手だ。

猫宮先輩。

ほんとにこの人は、ミステリアスなんて、羨ましいポジションを確立してる。


はぁ、自分も面倒くさい性格だ。

この人に憧れてる自分がいる。



学園内でなんでも知ってて、霊的なものも見える力を持っていて、ミステリアスで、

そのくせにゃーこ先輩なんて、可愛いあだ名で後輩から呼ばせるお茶目な一面もある。完璧だ。

わたしの理想。

認めたく、ないけどね。

そんな感じで睨んでたら、猫宮先輩は視線に気づいて、

「ひとつだけアドバイスしてあげる。」

こんなこと言い出した。


「あなたの理想は必ずしも彼の理想ではないわ。むしろ、あなたが理想に向かって頑張ってる姿、うまく行かなくて悶えてる姿が可愛くて好きなのよ。だからたまには甘えてあげなよ。ギャップ萌え、だよ。」


ぐ、ぐうの音も出ない。心が読まれたのかってくらい


顔が真っ赤になってる自分もいや。


「あーもう!わけわかんない!葉月!いこ!」


「あ、まってよ。シズ。猫宮先輩、ありがとうございました!」



小走りでかけてく、わたしと葉月。途中たけるんがいたから手を引っ張ってついてこさせた。


あんまり急いだから足がもつれてこけそうになって。そのままたけるんがグイって引き寄せてくれて、キュンとしてしまった。


こけるって言ったのにって猫宮先輩の声が聞こえた気がして、防犯カメラを睨み返しておいた。


もう、ほんとに、いや。



猫宮先輩こそ、誰かに呪われてみればいいと思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なんで、なんでこうなった。




わたしは、わたしはただ、


振り向いてほしかった。



綺麗だねって言ってほしかった。



オカルトが好きな彼女の真似をしたりした。


完璧だったのに。



わたしは、完璧だったのに。


事実、本人も、私にむかって笑いかけてくれた。



楽しく映画を見てくれた。



見たかった映画。



アクションだけど、恋愛のシーンがあって。


ピンチを救ってくれる王子様みたいな映画。


丈瑠くん、みたいな映画。


あの人はいつも私のピンチを救ってくれた。


わたしはいじめられていたけど、

庇ってくれた。


敵を倒してもくれた。


いじめっ子にむかって、

ダサいやつらだっていってくれた。



わたしは恋をしていた。


あの人のためならなんだってできた。


事実、なんだってした。



でも、別れようって言った。



違う学校になるから、お互い他に好きな人見つけようって。



ううん、わたしにはわかるの。それは前振り。


あなたのことが絶対忘れられないって言って欲しいがための前振り。

そして運命的な出会いをし、また、同じ、2人に戻っていく。


そういう運命なの。



でも、なのに、


なのに、あいつは!



わたしは、わたしはならば、


考えた。


ない頭を使って一生懸命考えた。


妙案を思いついた。



それは成功した。


運命的な再会を果たし、


私たちは、今度こそ、結ばれる!



そんな時に、思いもよらない邪魔があわれた。




シズ、とかいう女。



なんなの、あいつはタケルのなんなの?



何か慌てて言い訳をしながらシズとどこかにいくタケル。



気付いたら跡をつけていた。



おかしい。


だってわたしは完璧だったはずなのに。


今日も跡をつけていた。



そしたら

怖いくらい張り付いた笑顔で

あの男は言った。


『おまえ、誰?』


わたしはわたしよ。なによ。タケルの、


『タケルの元カノ。ふーん。その前は?』


は?なによ。どういうことよ、

わけわからない



『もしかして、覚えてない?』


わけわからない。何を言ってるの。


『だから、か。素人丸出しなんだ。いいかひとつ教えておいてやる。呪いっていうのは、素人が簡単に手を出していいものじゃない。事実、タケルは死にかけたよ。』


は?何を?何を言っているの?わたしはタケルを呪ってなんかいない!

だって空き巣までして、毛まで取って。絶対にあいつの毛以外ありえないところから取った毛、なんだ。


『呪う時、1ミリでも他のことを考えてはいけない。それが簡単なようで一番難しいんだ。訓練しないとまず無理。1ミリでもタケルのことを思い浮かべたお前のせいで、ほとんどの呪いがタケルに行ったよ。』


そんなはず、そんなはずない!だって、悪いのはたけるじゃない!


『ちなみに君を待ってるのは更なる恐怖。もう一つ教えておいてあげるよ。人をのろわば穴二つってね。君が呪った分のタケルの不幸は、君にそのまま返ってくる。君は、2人分も呪っちゃったから、倍の不幸が降り注ぐね。タケルで死にかけてるんだから、まぁまず生き残るのは絶望的、だろうね。ご愁傷様。』


ちがう、わたしは呪ってなんかない



わたしは真似事をしただけだ。




顔を上げると、

わたしは、目を見張った。




誰だ、あれ。



張り付いた笑顔が気持ち悪い男。


その後ろに



行列がある。



見える。



黒い影が。



あれは、



アレは、


あぁ、そうか


あれはわたしだった人達だ。





「ふぐうううう、ふえええええ!」


知らないうちに、わたしだったものが泣き出した。


あぁ、もう、終わりか。


まぁ、いいか。

楽しかったな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日も、阿澄先輩は部屋の前で必ず深呼吸をする。


心の準備を整えているのだ。



ナニカ、に会うための。



自分ら隣の部屋の2人しかその事実は知らない。


でも、2人とも、これを誰かに言うのはやめたほうがいいといって、秘密にしている。

それくらいやばい。

自分たち2人は異様に無口だから隣の阿澄先輩は声が結構漏れるってことを知らない。

だから結構筒抜けだ。


「ただいま。」


誰もいないはずの部屋に向かって必ずいう、挨拶。


「あぁ、ほんとにありがとう。今回はマジでやばかった。丈瑠の命救ってくれてありがとう。」


なんと、物騒な。確か今日パトカーが校門の前に止まっていたらしい。その関連だろうか。


「あ、電話。董哉だ。ちょっとでるね。」


で、電話してるわけではない、のか。わずかな望みを電話にかけて、いたのに。


「もしもし?董哉?間に合った?ふぅーよかった。ありがとう。呪いは剥がれたかな?間一髪ってやつだね。うん。こっちは大丈夫。うん。ありがと。」


呪い?いま、呪いって言ったか?


「よかったよ。マジで。間に合ってくれて。え?真相を解説しろって?そんなのしなくてもわかるだろ?」


いや、聞き耳立ててる身としてはかなり気になる。知りたい。


「知りたい人がいる?わけわからんこと言うな…」


ば、ばれてる?

あせる僕。


聞き耳を立てるのが日課になっていることを、ナニカにバレているのだろうか。

冷や汗が伝う。


「だから、丈瑠が呪われたんだよ。端的に言えば。でも、あのミサンガのおかげで助かった。もう一個渡しといたよ。」


ミサンガ?ていうか呪われたんだ本当に。さすがオカルト研究部。


「で、呪ったのは、丈瑠の元カノ…に扮した誰か。名前もわからない。」


「董哉に調べてもらったんだ。この短期間ですごいなって思うね。あの人は。相変わらず。あの元カノを名乗った不審者は、名瀬洋子という人らしい。一応。タケルと丈瑠の元カノが、イジメから救ったんだって。それで、名瀬洋子は2人に強い憧れを持つ。2人が別れたのも、運命的な出会いのための演出だって思った、らしい。で、名瀬洋子が他に彼氏を作った時に憤慨して、元カノを問い詰めた。信じられないんだと。丈瑠と元カノがくっつく未来以外は。信じられなさすぎて、元カノが丈瑠に向かないなら、自分が元カノになればいいって。その後、名瀬は借金だの、体を売りにだのだして作った金で整形に次ぐ整形。元カノみたいな顔に作り替えた。それで、元カノにとって代わって自分が丈瑠と結ばれようとした。」


す、すごい話だ。

そんなこと、一介の高校生ができるものだろうか。

「それで、元カノはオカルト思考が強かったみたいでね。パフォーマンスのつもりで、呪う真似をしてみたんだってさ。それでほんとに呪えちゃった。」


呪うってそんな簡単にできるものなのだろうか。


「普通は無理だよ。でも、無自覚ではあるが、すでに呪ってるんだ。彼女。元カノを。元カノは名瀬洋子に問い詰められた後、交通事故に遭った。それで意識不明の重体。無自覚とは言え、そんな重たい呪いのしっぺ返しが来た。

本人の意思だと思ってるけど、元カノの真似をしだしたのはその時に怪異に体を乗っ取られてる、ね。名瀬洋子は残念だけど、一年前にすでに亡くなってる。」



は?じゃあ、今日いたって言う名瀬洋子は、なんなのだろう。さっきまで話に出てた名瀬洋子は何者なんだろう。


「怪異の名前はわかんない。でも、顔を変えたり声を変えたりして他人に成り代わる類の怪異だと思う。名瀬洋子の前が誰だったのかもわからないくらい名瀬洋子になりきりすぎて、自分の呪いの強さも、その仕組みもわかんないレベルになってたね。そんなのでシズを適当に呪おうとして丈瑠に呪いが行って丈瑠が死にそうになるとか、ほんとに危ない。ていうか、マジで運が悪いのはタケル。それこそ、呪われてるんじゃないの?ってレベルで運が悪い。」


そ、そんなにすごそうなモノから呪われたのなら丈瑠先輩は大丈夫なのだろうか。


「ん?タケル?とりあえずミサンガが身代わりになってくれたのと、俺が身体中触って除霊しといたから大丈夫。え?名瀬洋子を除霊しなかった理由?除霊したって中身はもうないから、かな。俺が殺すことになる。人殺しにはなりたくないからね。まぁ、名瀬さんのお父さんお母さんには悪いかも、とは思うけど仕方ないよ。」



テレビをつけてみる。すると、ニュースが流れた。


近くの交番に乗用車が突っ込んだ。

奇跡的に警官は無傷だったが、高校生の名瀬洋子さんが死亡。頭が潰れて、即死だったそうだ。


「……ま、そうなるよね。」


隣から怖い声が聞こえてきた。

「それにしても、呪いってさ。恋愛に似てるよ、な。かけようと思うには、そいつのこと以外を全く考えてはいけない。そんなの普通無理だよ。そいつのことだけを四六時中考えて考えて考え抜いてそれが普通になった時初めてできる。もはや好きじゃん。その熱量を恋愛に生かせばいいのにって、だから恋愛拗れの呪いが多いんだよね。今回もそうだけど。」


そうなのか。

たしかにそれは、似てる。愛の反対は憎むではなく無関心。そう言うことなのだろう。


「あはは。確かに。『わたしのこと以外考えなくなればいい』あの言葉にはやられたなぁ。ほぼ呪い、だね。事実、今も、そうなってるし。」


‥‥ええ?なんだか、すっごい怖い。

談笑は続く。


多分だけど、阿澄先輩はナニカに呪われてると思う。

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