友人はナニカに取り憑かれやすいと思う
「おっはよー!!!」
「ひっ」
悲鳴をあげてしまった葉月。
元気が良いその声は親友のシズ。
肩にかかるくらいのミディアムヘアーで、前髪をピンで止めている。ピンはこだわりが強く同じモノを付けているのを見たことがない。ちょっと垂れ目なところ、唇が厚めなところ、セクシーな感じもありつつ、胸は絶壁な分、セクシーさはどこかへ消えている。
「今日は、、多いな……」
聞こえないくらいの小さい声で言ったつもりだったが、聞かれてしまった。
「む、いるるん元気ないと思ったらその日か。うん、辛いよねぇわかる。ちょっと声、抑えめにするね!」
……ちがうし、あんまり抑えれてないし。
まぁ、根は優しいし、いい子なのだ。
そのシズの肩から、腰から、頭の上から、そして足にも1人ずつ
しがみついてるナニカ。
「……昨日は、どこに行ったの?また、丈瑠くんと?」
「そーなの!聞いてよ!たけるんってばかわいくてさ!!……」
惚気がはじまる。
シズは毎回オカルト研究部の活動と称してオカルト研究部の部員である丈瑠君をデートに誘っている。丈瑠君もほとんど毎回ついていってあげてるのがすごい。
そしてほとんど毎回、ガチな所を引き当てるのがシズだ。本当に惹かれやすい。そのくせ本人は全く見えない。触れない。感じない。
今だって、シズの目の前で下半身丸出しにしてる露出狂の霊が気持ち悪い笑顔でこっちを見てくる。
こう言う霊は力こそないため怖くはない。悪さをしようとしてもできないのが直感的にわかる。もっと悪さをするやつはもっと嫌な感じがするから。
だから無視するのが1番だ。反応してしまうとこっちにつきかねない。
「はぁ。」
「ねえってば聞いてる?いかにたけるんが可愛かったか熱弁してるのに!」
「ごめんごめん、聞いてなかった。それで、丈瑠君はいつもみたいに酷い目にあってない?」
「あってないよ!もう、何聞いてたんだか。あ、そんなこと言って、結局あすみんに会いに行きたい口実を作ろうとしてるでしょ!」
「え、いや、そう言うことじゃなくて!本当に心配してるんだけど!」
顔が急に真っ赤になる。シズが蓮君の名前を出すから。そんなんじゃないのに。
ちょうどその時、下半身丸出しの霊が、
私の顔の前に下半身を出した瞬間だった。
ぐっ、屈辱……
案の定、霊は自分のモノに反応したかも、と都合の良い解釈をしだし、
ニコニコしながら私の前で下半身を見せつけてくる。
目に毒だ。
気持ち悪い。
だけど嫌な顔したら見えてるのがバレちゃうから
徹底的に無視。
むしむし無視。
うん。、無視。
「あ、噂をすれば。」
シズが急に廊下に向かって手を振り出す。
「え……?」
思わず振り返ってしまった。
いや、この汚いモノから都合よく目を背けたかっただけだ。
にやにやしてるシズ。もーあっちもこっちも。
「おーっす。」
「おろ?たけるんは?あすみんが1人でこっちくるとか珍しいね。」
「あー、まぁね。昨日心霊写真撮ったんだって?見せてくれない?」
「耳がが早いね、ちょっと気持ち悪い本物が撮れちゃったわけよ。ほら、みて、5人もいる。」
……うん、ここにも下半身丸出しの含めれば5人、いるなぁ。そのまま連れてきちゃってるんだろうね。
っていうかさ、足とか触ったり胸とか掴んでたり、下半身丸出しだったり、変態しかいないのかな。たしかにシズは足はすっごく綺麗だけど。
「うわ、気持ち悪っ」
「でしょでしょ!」
「うわぁ、なんでシズは嬉しそうなわけ?考えてみてよ。ここにこう手があるってことはさ、この辺に顔、あるぞ?」
そういうとシズの足に手を置きつかむ真似をする蓮君。
顔がスカートの目の前にある。
「………………え、えっと?蓮君?」
「いや、悪い。変なことはしないよ。でもだってそうだろ?ほら、こいつは手がここにあるんだよ?シズの胸、に向かってこう。触らないけど角度真似してみるよ。」
「え?きゃっ」
「変な霊ばっかじゃない?こいつなんか足がここにあるってことはさ……顔のあたりに……」
うん、まさにこいつだ。
うなづきながら恍惚な表情を浮かべてるそいつのせいで、蓮君が何かやってるのがあまり見えないけど、流石にシズの前に下半身を突き出すのは無理なのか手でジェスチャーしている。
「うげ、キモいわ」
「でしょ。はやく払って貰った方がいいよ。五十嵐先生に相談してみたら?」
「相談したところで、どうなるのさ」
「お寺とか紹介してくれるんじゃない?除霊とか先生は無理でも知り合いいそうじゃん。」
「そうなの?どう思う?葉月。」
「……え?ごめん、あんまり聞いていなかった。」
わたしはコイツの下半身に反応しないように必死なのだ。
「だから五十嵐先生に相談するって話。意味あるかな?」
「うーんわかんないけど、早急に誰かに相談した方がいいわね。」
このままだと、ストレスで頭おかしくなっちゃう。
「誰かって誰?」
「猫宮先輩とか?」
「ええ……。嫌だなぁ……」
「よし、決まり。ほら、行くよ。はやく」
「え、ちょ、いるるんどうしたの?」
「だって気持ち悪いじゃん。そんなのが近くにいるなんて。」
なんでコイツは悪口言ってるのに嬉しそうなんだろう。
「え?え?いまから?うそ、授業はじまるよ?」
「授業なんかよりシズの身の方が大事だよ!ほら!いくよ!」
「わお!いつになく強引!でもそんなリードできるところもポイント高いぜ!ね、蓮君、ぐいぐい引っ張ってくれる女子っていいよね?」
「へ?おれ?あー、うん、まぁそうだね」
何聞いてるんだか。何言わせてるんだか。私は一分一秒でもはやくコイツをどうにかしたいだけで。
「あはは、葉月、顔真っ赤〜ーーって早い、早い、ってばー」
高速で連れていかれるシズ。携帯、おいてってる。
「気をつけて〜」
さりげなく携帯の心霊写真を確認する。ほとんどの心霊が消えていた。
……1人だけ、まだ残ってる。右の腹あたりに左足の踵のやつ。
「……失敗、したか。」
自分の電話を取り出し、電話をかける。
『おう、また何かあったか?』
「毎週お手数ですが、あのトンネルにシズたちが言ったみたい。」
『……ついにあのトンネルまで行ったか……。』
「うん、大したやつはいないけど5体くらいついてきちゃったみたいで。4体はなんとか触れたみたいだけど1匹逃したらしい。たちわるいやつ。視えないって本当不便。中途半端で結局手を煩わせることになるな。ごめんよ董哉。」
『あぁ、構わんよ。それで済むのはお前だからだ。シズちゃんなんてとっくに連れてかれててもおかしくないぞ。お前のそばにいるからそれで済んでるんだ。本当に。持つべきものは友だね。』
「とりあえず今図書館にいるっぽい。どうすればいい?」
『いや、私は私で勝手に動くから大丈夫だ。それより蓮。葉月ちゃんとは最近どうだ?』
「どうって?別に何にも」
『最近疲れてるみたいだから、優しくしてやれよ。具体的にはデートに誘うとかだな。』
「はぁ?なんで?」
『可哀想すぎるから。お前がそんな感じでほっとくと暴走するぞ。』
「何?暴走って。」
『具体的には夜這いだな。』
「はぁ?なんだよそれ。」
『なんだ意味わからないのか。具体的に言えば下半身をお前の顔の前で露出する』
「何言ってんだおまえ、親のくせに。」
『いま、たまたま図書室にいるんだがね。葉月ちゃんの顔面の前で下半身露出して恍惚な表情を浮かべてる霊がいるんだよね。体乗っ取られたらやるだろうね』
「……なんではづきに?」
『うむ。端的に言うと蓮のせいだ。』
「なんで?」
『シズちゃんが葉月ちゃんに蓮の話を振った時に、顔が火照っちゃったんだってさ。それがちょうど葉月に向かってその霊がパフォーマンスをした瞬間だったみたいで、反応してくれたと勘違いした霊がシズから葉月に乗り換えたみたいだよ。』
「………………不憫すぎる。」
それは除霊できないわけだ。シズについてると思って触ろうとしたが、葉月に乗り換えたわけだから。
まぁ俺でも倒せないすごい強いやつじゃなくて良かった、か。
『お前でも倒せないやつじゃなくて良かったよ。これなら俺でも十分なんとかできる。視えないくせに最強の霊能力を持ってるお前に倒せないんじゃあ俺にはどうしようもできないからな。』
「すまん、頼む。でも、あんまり心の中、読むなよ。プライバシーがあるだろ。」
『本人に直接聞くよりいいだろう。それに視えちゃうものは仕方ないさ。じゃあ、除霊してくるよ。またね。』
「あぁ、お願い。ありがと。」
ふう、これで大丈夫、か。
葉月になにかお詫びをあげないと。
なんか、俺のせいらしいし。うーん。何がいいかなあ?女の子にプレゼントとか、あげたことない。多分でも、聞いたら喜んで教えてくれそうだしな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は、幽霊はいるかいないかと言われたら、いると思う。そうじゃないと説明できないようなことがたくさん起きているし、こんなにもいろんなところで目撃証言があったり、心霊体験の話があったりと、みんなが口裏合わせてそんなことしないだろう。
それに自分自身、そうとしか説明がつかないことによく会うからだ。
昨日だってそうだ。
シズと県内屈指の心霊スポットの、トンネルに行った。
はっきり言ってめちゃくちゃ怖かったが、シズを一人で行かせるわけにはいかないので、仕方ない。
それに俺は視えない。
視えない人に霊は寄ってこないって何かで聞いた。
いないって思い続けてると、霊は諦めて帰ってくって。
だから必死で言い聞かせてた。
霊なんかいない。いたとしても俺には視えない。視えないし触れない。だから
進むにつれてどんどん肩が重くなって言ったのも気のせい。
なんだか足元がぬるぬる来てたのも気のせい。
シズがノリノリで二人の写真撮ったら
シズの体に5体くらい体のパーツが写ってたけも、それも気のせい。
それに俺の顔、真っ黒になってたのも、単に写りが悪いから。
昨日帰ってからめちゃくちゃ金縛りにあったのも疲れてるから。
うん。そう、そのはず。
めちゃくちゃ体がだるくて重い。しんどい。普通に風邪ひいたのかもしれない。体温はふつうだけど。
机の上に突っ伏していると話しかけてくる人がいた。
「……うおう!丈瑠、蓮はどうした?」
「蓮?まだ会ってないよ……。五十嵐先生」
重たい体をなんとかあげると、
目の下にクマを作ってる、冴えない中年男性が立っていた。
五十嵐先生。
中等部と高等部の
先生だ。
教科は社会。
中等部上がりからのエスカレーター組にはめちゃくちゃ嫌われてるが、基本的に親身になって聞いてくれる優しい先生で人気もある。昔はイケメンだったらしい。今は無精髭はやして覇気がなくて、なんだかやつれてるが。
「お前また、変なとこ行ったんだろ?どこだ?」
俺をなんだか変な虫がついてるみたいな目で見て言う五十嵐先生。俺と話すのも嫌みたいな顔して、失礼だな。
「トンネルだよトンネル。なんか県内屈指の危ないトンネルだってシズが言ってた。仙ヶ滝トンネルって言ったっけ?」
「…………おいおい、それはシャレにならんだろ。」
「そうなの?先生もなんか知ってる?」
「あぁ。あそこはガチだって噂はよく聞くな。」
「ガチ?」
「あぁ。ほとんどの写真が心霊写真になるっていう噂じゃねえか。ウヨウヨいるんだろ?」
「みたいだね。ほら、みて。これ。シズに5人。…………あれ?一人になってる。」
「おお、ほんとだ。一人は確実にいるな。これ、足?か。」
「そんでこれみて。ほら、おれ。なんか全身ぐちゃぐちゃになってる。カメラぶれてもこんなの撮れないよね。」
「なんでお前だけいつもこんなガチなんだ。シズはおふざけで済んでるのにな。不思議でしょうがない。」
「ガチ?やっぱり?昨日から肩が重たいし、頭も痛いし、金縛りに遭いまくるし。絶対つれてきてるとおもうんだよね。」
「おいおい、まずいこと言うなよ。そう思っちゃったらそうなるって聞かなかったか?とりあえずお前を安心させる情報としてはだな。この学園は昔からある、霊能力者のパワースポットでな。でっかい教会があるだろ?それが放ってる霊能力パワーのお陰で、ここに浮遊霊はほとんど存在できないんだ。」
「……へえ、そうなんだ。」
「だからここで霊に取り憑かれてるなんて人はほとんどいない。霊がここの空気を嫌がるんだ。」
ガンガン頭がなってる。頭痛い。でも、熱はないんだよな。喉とかも痛くないし。あー何も考えられん。
「うう、頭痛い。」
「負けるな丈瑠。今、あの手この手でここに居座ろうとしてるんだ。だから存在を否定しまくれ。心の中で唱えろ。」
ガンガンガンガン
痛い痛い痛い痛い
あーもう、声が響くな
頭の中でどんどん叩かれてる感じ。
もう何にも考えられない。なんでもいい。なんでもいいから頭直して。
頭痛いのやだぁーーーーーー
「 」
「 」
誰かと誰かがしゃべってる。
次の瞬間
ぎゃああ、あ、ああああああぎょあ
ぎやぁ ぎゃあぎゃあぎやああああああああ!!!!
耳元でいろんな音が聞こえた。
「ほら、丈瑠、さっさと起きろよ。」
「んあ、蓮?あ、おはよ……」
頭痛いのが、なくなってる気がする。
「……す、すげえ……。とてつもないな。」
「うん?何が?」
「い、いや。なんでもない。」
「蓮!なんか頭が痛くなくなった!」
「おお、よかったな。頭痛に効くツボを押したんだ。ほら、俺の母さん、整体師だからさ。そういうのは教えてくれるんだよね。」
「ツボ!なにそれ!めっちゃ効果的めん!いやまじで教えてほしい。頭痛に悩める人たちにその知識を分け与えたい!」
「いや、蓮だからできるんだよ。多分俺やお前が真似ても効果はないな。」
五十嵐先生が言う。うるさいな。ツボなんだからできるだろ。俺でも。
でも、蓮は教えてくれなさそうな感じだった。
だいたいわかる。本当はツボなんかじゃないんだろ。また、助けてくれたんだよね。
蓮。
でも、本人が、そう言うことにしてって言ってるわけで。そういうことにするよ。うん。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あー、しんど。」
「おい、それはこっちのセリフだ。」
「まぁ、でもこれは俺には無理だから。蓮に頼むしかないじゃん。、仕方ないじゃん。」
「また鼻血出してぶっ倒れたら介抱してくれよ……。」
仙ヶ滝トンネル。
車通りはほとんどない。大きな県道に新しい方の仙ヶ滝トンネルがあり、そこは交通量はそこそこある。そのトンネルに入る手前にある側道をすごい傾斜で、とてもスピードは出せない細い道なのだが、そこを降りていくと、古びた怪しいボロボロのトンネルが現れる。旧仙ヶ滝トンネル。戦時中陸軍の特殊部隊が怪しげな実験をこっそりやってたらしく、その最中に事故が起こり一個小隊が全滅したんだとか。それ以降死後も、変な実験を繰り返してる陸軍の幽霊が見えるとかで有名になったトンネル。
その、陸軍が失敗した実験っていうのが、霊能力で兵器をつくるっていう怪しげな実験。全国から悪霊なんて言われてるモノを集めて、怪物を作ろうとしたんだとか。それで作られた怪物があまりにどうしようもない怪物になってしまったので国はこのトンネルを立ち入り禁止重要区間に認定という噂。
「それにしても国が指定する立ち入り禁止重要区間って、日本にどれくらいあるのさ?」
「日本に?さぁ、詳しくはかず知らないけど、とりあえず俺が知ってるのは5個くらいか?」
「おいおい、そんなところ、まだ義務教育も終わってない15歳に夜一人で行かせたのか。父親だとは思えない。」
「一人で全部狩ってくるんだもんなぁ、その、15歳。びっくりだよ。本当に。」
董哉は悪べれもなくいう。
中学3年生の頃、一度だけ頼まれて董哉の仕事についついった時がある。
それがこのトンネル。
いっぱい陸軍の霊がいるらしいが、そんなの視えない俺には関係ない。
ゆっくり2時間かけてトンネルの中を練り歩いて除霊し周り、トンネルの向こう側にいる何かもなんとかした、らしい。
視えないから知らないが。
この前は、トンネルの向こうまで車で行って、向こう側に置いてかれて、
帰ってくるときに除霊して回ったわけで。
全部除霊したつもりだったけど、浮遊できるタイプの霊が結構いて、俺から逃げ回った残りがまだいるらしい。でも、悪さはできない程度のただの浮遊霊なので、放置で大丈夫とのことだったが、
あれから2年経って、徐々に力をつけたのだろう。変な方向に力を使い出す前に、今度は綺麗さっぱりしっかり除霊しようとなったのだ。それに
「向こう側に、まだ、ラスボス的な奴が生きて(?)たんだろ?それ、俺に倒せるわけ?」
「あぁ。搾りかすみたいなやつだが、まだ生きてたね。今度は完全に除霊しなきゃ。俺一人でもなんとかなるレベルだが、流石に一人じゃ不安でね。それに楽したいから。お前がいればだいぶ楽だし、お前の性格上断れない案件だから、力を借りることに躊躇いはないね。」
「……はぁ。乗り気では全然ないし、これっきりだからな。」
つまり、2年前、蓮が祓い逃したナニカが、2年でだいぶ力をつけて、また悪さをしそうだということなのだ。その悪さが丈瑠とシズにタチの悪いモノを取り付けていた。
普通取り憑くのは多くても2、3体。それも守護霊的ないい奴なら何体かついていてもおかしくないが、悪さをしようとするやつは、究極体を乗っ取りたいのだ。一人につき何体もつくことはほとんどない。
それが、シズには5体。ついてた。
丈瑠に関しては……。
「あぁ。丈瑠くんじゃなかったら本当に危なかったよ。こんなこと言ってはなんだが、丈瑠くんで良かった。」
「丈瑠、すごすぎだろ。あんなにたくさん悲鳴を聞いたの初めてだよ。何体くらいついてたのさ?」
「ざっと数えた感じ160体くらい取り憑いてたね。それを正味10秒で除霊したんだから大したもんだ。」
これ見よがしに俺を褒め、肩を叩く董哉。
俺のことは置いといて。それにしても。
「……本当に桁違いだ。丈瑠、何か特別な力あるのかな?」
「普段から憑かれ慣れてるんだろうね。流石にあれは普通身動きが取れないから。近くでお前がいつも守ってやってる影響もあるんだろうよ。」
「とりあえず、これ以上人に迷惑かけないようにしないと。ほら、さっさと終わらせるよ。」
「……俺一人だったらそんなに気楽にいけないぞ。これでも日本一場数を踏んでる自負はあるんだけどなぁ……。」
ズンズンすすんでいく俺に洞爺は悔しそうにいう。
自称日本一忙しい霊媒師は、いつも暇なの?ってくらい俺たちのことに関して動いてくれる。今日だってそうだ。葉月を除霊してくれたり、丈瑠を診てくれたり。俺たちみたいな一般高校生のためにもすぐ動いてくれる。だからこそ日本一多忙なんだろう。
董哉が何かブツブツ呪文を唱え始めた。
途端に悲鳴が多くなった。
引き寄せる呪文なのだろう。どんなものか俺にはわからないが、以前同じ呪文を唱えているところを見た詩音が、「綺麗……」って言ってたのを聞いたことがある。視えるひとにしか視えない景色。羨ましくはべつにない。
「蓮、ここが真ん中だ。とりあえず30秒ほどそこで待っててくれ。」
董哉に言われて立ち止まる。
振り返ると董哉はもういなかった。
どこに行ったのだろう。
ギャアアアア!!!!!
ビクッとなった。
トンネルの向こうで悲鳴が聞こえた。
「蓮、ちょっと待った。お前が行くまでもない。俺が行ってくる。」
後ろから聞こえた。
董哉の声だ。
董哉がそのまま俺に背を向けて悲鳴があったトンネルの向こう側まで走ろうとする。
「あぁ、」
俺はダッシュして董哉の手を掴もうとする。
董哉はギョッとして思いっきり逃げ出す。
俺の速さを、なめるな。万年帰宅部で鍛えたこの脚力!
俺はなんなく加速をして
董哉のフリしたナニカを掴んだ。
ギャアアアアギャアアアア!!!
断末魔の叫びが聞こえる。
それは無視してトンネルの向こう側へ猛ダッシュした。
そこには全身血まみれで肩で息をしてる董哉がいた。
「董哉。やられてないか。大丈夫だったか。」
「冷静だな我が子。お父さん殺されかけたんだぞ?」
「董哉は自分のことお父さんなんて言わないよ。」
ゴン。
殴っといた。
「いてええええ、あのな、もう少しやり方ってもんがあるだろう!」
うん。本物だ。
「……で?どこにどれだけいるの?」
「とりあえずヤバめな奴はそこで凍ってる。」
何にもないところに突如出現している氷の束。直径は2メートルほど。かなりの大きさだ。
蓮がその氷に触ると氷が弾けた。
そして一瞬で消滅した氷の礫。
「……あっけなさすぎるが、一件落着、だな。」
「……あの、俺、死にかけてるんだけど?あっけなさすぎるとか、やめてくれない?かなりギリギリの綱渡りだったんだけど?」
「結果終わったんだったらいいだろ?この前みたいに祓いのこしがないか見てよ。徹底的に掃除しないと。」
そこからは危なげなく仕事をした。董哉に言われるがままに色んなところを触りまくって泥だらけになって。
2時間ほどたったあたりでちょっとフラッとした。どうやら力を使いすぎたみたいだ。
「おいおい大丈夫か?お前は常に全力で除霊してるわけだから、消耗が激しいはずなんだ。疲れるに決まってるんだから。」
董哉に心配される。視える人はどれくらいの悪霊かもわかるから1の悪霊に対して2しか力を使わなくて済むが、蓮の場合100の相手にも2の相手にも、1万の力で除霊していて無駄が多すぎるのだ。疲れるに決まってる。
「まぁでも確かにこんなに長いこと除霊してたのは初めてかもしれん。でもまだ大丈夫。鼻血も出てないし。」
「なんだそれ。鼻血は限界の合図なのか。っていうか限界まで力を使ったことあるってことか?それ。どれだけ危ない奴と戦ったんだか。まじもんの吸血鬼とかじゃないだろうね。」
「……あー、まぁ、そうなのかもよ?」
「……お前がいうと冗談に聞こえないから困ったもんだ。頼むから父ちゃんを心配で殺さないでくれよ。心配しまくってるんだから。」
「うん。わかってる。これからも心配よろしく。」
それから適宜休みながら30分ほど除霊作業をした。
これでもう、仙ヶ滝トンネルには、心霊写真が映るなんて噂は流れなくなるだろう。除霊をした董哉の名はまた広まって、またさらに董哉は忙しくなるんだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま〜」
今日はだいぶ遅かった。珍しい。いつもは門限までには絶対に部屋にいるのに。
トラブルだろうか。
ずいぶん声に覇気がない。疲れているんだろう。
「フラフラ、とまではいかないけどね。まぁまぁ疲れたよ。」
いつものようにナニカに話しかけている蓮先輩。当然、先輩の声しか聞こえない。
「あぁ、もう大丈夫。あ、そういえば、董哉がね、葉月に何かプレゼントしろっていうんだよね。何がいいと思う?」
葉月さんに蓮先輩がプレゼント?葉月さんは蓮先輩に告白してフラれてるっていう噂がある。でも、まだ好きなんだとか。
そんなのに、蓮先輩がプレゼントあげるとか!葉月さんは嬉しいだろうけど、気がないのにそんなことするのはどうなんだろう。
「まぁ、今回の件で俺のせいで嫌な思いしたみたいだし、すっごく軽いものでいいんだけどさ。」
今回の件が気になりすぎる。今日遅くなったのと関係もあるんだろうけど。
「ミニップのアイスをローサンのクレープにドッキング?でたでた、謎のこだわりシリーズ。なんだっけ、トロピカルブレンドだっけ?ファミレスのドリンクバーのこだわりとかすごかったよね。そういうところあるよね葉月って。」
……ナニカは葉月さんに詳しいのだろうか?
なぜ、ナニカに葉月のプレゼントを聞いて、そんなに具体的なアドバイスが帰ってくるのだろう。
葉月さんをストーキングしている幽霊なのかもしれない。
それか生前に葉月さんとなんらかの関係があったのかもしれない。
謎は深まるばかり、だが、
なんとなく、深く考えてはいけないような気がする。
考えたら、取り憑かれて、しまう
気がした。
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