友人はナニカに取り憑かれていると思う。

「おはよ。」

ずいぶんと顔色が悪い友人。


「おはよ。元気ないな。」


「なぁ、聞いてくれよ。きのうからなんか変でさぁ。」


「また?」


「なぁ、あのさ。幽霊とか悪霊ってほんとに、ほんとにいないよな?」


「おれは見たことない。見たことないものを信じない主義でね。」


「…そうだよな。悪い、変なこと聞いて。」


友人はやつれた顔で

「はぁ。きのうからどうにもおかしい」

とため息をついて話し出した。


彼が言うにはまた、シズと週末にデートに行ったのだと言う。

隣町に古くからある商店街。古着屋さんや雑貨屋さんなどが立ち並ぶわりと学生にとっては良いデートスポットとなっている。シズの提案にしては珍しい普通のデートスポットだなと思った。

しかし最近は近くに大型ショッピングモールができたこともあり、以前ほどにぎわってはいないようだ。

そこは古くからあることもあり、七不思議があるのだとかで、ショッピングを楽しみながら、七不思議を見つけようとしていたのだという。


やっぱり、いつもに比べたらかなりライトな内容に聞こえる。

七不思議の内容も、可愛らしいものが多いように聞こえる。例えばどこの国の人かわからない真っ黒いおじさんがいる日本工芸品店、だとか。

人形売りの売り子に話しかけられたと思ったら、人間大の人形だった、とか。冷静に考えれば多少怖い内容も入っているが、いつものシズの話と比べたらなんというか、生命の危機を伴っていない分、かわいいかな、と思えてしまう。


タケルも事前にその話を聞いていて、それなら、と納得していったのだそうだ。

そこが一番驚いた。この男が、学習している。

それで、探してた七不思議は、小さいお地蔵さんだそうだ。

商店街に点在する可愛らしいお地蔵さんが、全部で7体いるそうだ。それぞれとてもわかりにくいところにいて、7体全てを見つけると、良いことが起きると言われている。

本当にシズはどうしてしまったのだろう。そんなカップルにはもってこいの商店街の策略みたいな話をするなんて。もしかしてシズのほうに何か取り憑いているのかもしれないと心配になる程だ。

ただそのお地蔵さん実は商店街ができた年に8人もの人が不慮の事故や自殺などで死んでしまったそうで、その人たちを鎮めるために作られたお地蔵さんなのだという。

8人も死んでるなんて急に穏やかじゃないし、

8人なのに、なぜ7こ?なんだか急にきな臭くなってきた。

そう言ったらタケルは

「それな。俺も思ったんだよ。で聞いたら、7個見つけた人だけ、たまに8個目を見つけれる人もいるんだって。でも、誰も8個目の位置を知らないんだ。なんでも、8個目を見つけた人は、その年中に何か悪いことが起こって、死んじゃったり行方不明になっちゃったりするんだって。そこでついたあだ名が『死神の8個目』」


「ああ、はい。話の流れはわかった。タケルは見つけちゃったんだろ。8個目。」


「・・・はい。そうなんです。」


「じゃあお前との友情も今年までなんだな。先に言っとくよ御愁傷様。」


「おおい、なんでそうなるのさあ。いつもみたく否定してよ」


「それは、まあ別に良いけど。どこにあったの?」


「聞いてくれるか?それが、微妙なんだよ。」


「微妙ってなんだよ。」


「いや、もしかしたら、ただの見間違いかもなって。」


「じゃあ、見間違い。以上終了。」


「おおい、もうちょっと興味持って。7個見つけたんだよ。これがシズが調べた7個の位置な。全部見つけるのに1時間くらいで回れたし、満遍なく商店街回れたからなんかの策略かって思うくらいだったんだけどさ。」


「うん、それで?八個目はどこにあったの?」


「ここ。」


「ん?すでに印あるぞ。」


「うん。俺、そこで二個あるの見たんだ。だから途中でなんかシズのカウントと合わねえなと思ってさ。」


「へえ。それは、また、面倒な。」


「それ見つけた時、3個目だったんだ。ほらこの道をこう行ってここで曲がると、ここから見える屋根の上にあるんだよ。で、一応証拠写真をシズが撮ってくれたんだけどさ。ほらこれ。みて。一個、だろ?」


「うん、一個だね。」


「でも俺、そこで二個見たんだよなあ。しかもそいつだけ他と顔の表情が違ったから印象的でさ。」


「へえ、どんな表情なの?」


「いや、他のやつは、穏やかな笑顔なんだけどさ。それだけはびっくりするくらい怒った顔してて。」


「ふうん。もう一回観にいけば?」


「なんか怖くて。」


「で?今んとこ無事なんだな?」


「うーん、まあ金縛りは割とかかるほうなんだが、昨日のはちょっと辛かったなって感じで。後は誰かに見られてる感じがするとか、部屋に1人でいるのに後ろから何か言われた気がして振り返ると、窓に小さい手形がついてるとか。おれの部屋二階なのに。」


「うーん、小さいってどれくらい小さいのさ。」


「これくらい?だからちょうどあの地蔵さんくらいのサイズだよなあって思ったり。」


「ああ、まずな。地蔵さんって言うのは、そもそも仏教の偉い人で、俺たちを救ってくれる側の人なわけ。その地蔵さんがお前を殺しにくるわけないだろ?8個目云々なんてありもしない噂だよ。あんまりこの話が上手いこと商店街の繁栄に寄与しちゃったからそれをよく思わなかったどっかの誰かが、言い出した妬みの噂だよ。だから気にするな。」


「まあ、そうか、な。うん。金縛りもまあよくあることだし・・・。気にしたら負けだよな。うん。ありがと。やっぱりお前に話すと気分が楽になるよ。」


「まあ、話を聞くだけならお安い御用ですよ。」


というと、急に丈瑠の顔が固まった。

「…………な、なぁ。」


「うん?」


「窓の外、見てみてくれない?」


「あぁ。いい天気、だぞ?」


「石、落ちてる?ベランダに。」


「うん、落ちてるな。結構大きい石。」


「……それ、さっきまで、地蔵さんだった……。」


「……。」

一応、触ってみる。


が、何もない。

そりゃそうか。さっきまで(・・・・・)お地蔵さんだったんだから。

こうなると、厄介だな。他のものに乗り移ってくるパターンか。


「おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ。」


「いや、おれのほうみて、にやぁって笑ったと思ったら、石になったんだよそれ。」


「ふーん。」


「信じてないな。そうだよな、信じてくれないよな。おまえは。」


「いや、信じてないっていうか、興味がない。」


「ひど!おれ、結構こういう心霊経験してる方だと思うが今回はやばいと思ってるのに!」


「うーん、まぁ、面倒くさくはある。だがまぁ大丈夫だよ。おまえ、運だけは良いから。」


「なんの根拠で!?もうちょっと親身になって相談に乗ってくれよ〜頼むよ蓮〜おれ、流石に怖いんだよ……」


「珍しいな、おまえ。この前見たホラー映画、ありがちとか言って全然怖がってなかったのに。」


「いや、体験するのと見るのじゃ全然違うって。」


「ふーん。とりあえずまだ実害ないんだろ?そんなに。おまえよく死にかけるのに。なのにそんなに怖がって。心配ではあるな。」


「な、おれも、なんでかはわかんないけど、なんか怖いんだよ。ほら、お前からもらったミサンガも、もうこんなにぶちぶちに千切れて。こんなちぎれ方、するか?普通。」


「げぇ、それはお前。結構酷いぞ。」


「え、いや、俺が千切ったわけじゃないよ?気付いたらこうなってたんだよ、せっかくもらって悪いとは思ってるけどさ。おれ、このミサンガお守りみたいに思ってたから、すっげえ大事にしてたんだよ?ほんとに。信じて。」


「いや、まぁ、信じてるしそうしてたの知ってるからいいけどさ。うーん、新しいのあげたいところだけど、ストックあるかな?」


ふと、横をみると、先ほど開けた窓のところに、先ほど蓮が持っていた石とは違う大きさは同じくらいの石が、乗っていた。


丈瑠が息ができない金魚みたいに、口をパクパクさせて、震えている。


その石は、たしかに顔があり、怒りの表情を浮かべていた。

その顔は丈瑠を見つめて、ニヤァと、口角が反対に上がり、目は吊り上がり憎しみの表情を浮かべたまま

気持ち悪く笑っている。



指を刺しながら口をパクパクさせる丈瑠。


「ぎ、



ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「おはよー!」



「きゃ、え、し、シズ?」




「なによ、変な反応ね。」



「い、いや、その、昨日、また、なんかあった?」



「ん?んん?わかっちゃう?いやっぱりわかっちゃうかぁ!」


「て、テンション高いね。引くほど…」


「だってね、昨日、たけるんと2人で例の商店街に行ったのよ。」


「例のって、あのお地蔵さんの?」


「うん。あの8個目の。わたしは見つけれなかったんだけど、丈瑠くんがなんか変なこと言ってたの思い出してさ。」


「うん?変なこと?」


「うん。3個目か4個目を見つけてから、なんか妙にカウントが合わないなって思ってたのよ。4個目なのにあと2つだ!とか言ったりしててさ。ん?ってなったんだけど、写真で確認してね。」


「うん。」


「もしかして、どっかで二個見たんじゃないかなって昨日帰ってから気付いたのよ。」


「え?シズは一個しか見なかったのにってこと?」


「そうそう。今思えばかなり丈瑠くん後半挙動不審だったし。なんか怖がってるっていうか。」


「な、なるほど、見える人には見える2個目ってことか。」


しかも1人で探してたら7個あった時点で散策をやめる。2人以上じゃないと8個目はみつけれない、と言うことだろう。董哉さんがみつけれなかったこともうなづける。

それに、多分董哉さんレベルの霊能者には、見えないのかもしれない。自分の身を守るための隠れ蓑が7つもあるのだ。


「……それって、やばくない?丈瑠くん。」


なんでいつも丈瑠くんはそう言う役なんだろう。不憫にすら思えてくる。


「まぁ本人今日普通に学校来てるし大丈夫でしょ。」


「……なんてゆうか、好きな人のピンチかもしれないのに、呑気だね。」


「だってまだ何もおこってないし、アレは一年以内って話だから昨日の今日ってことでもないでしょ。」


「うん?どう言うこと?」


「あぁ、まだそれ言ってなかったね。実は追加で調べてみたのよ。色々と。」


シズ曰く8個目を見つけた人は一年以内に病気や災害などで行方不明になってしまうなど、悪いことが起こる、らしい。


「しかも、あの商店街ができた年の話、いったっけ?最初の年で8人死んでるって話。8人のうち2人は病死とか、ご高齢の方だったんだけど、5人は事故だったり自殺だったりするのよ。それで、最初の最初は建設業者の不注意で、上から建築中の石材が降ってきて潰されちゃった小さな男の子。当時8歳だったそうよ。その事故が原因で当時の現場監督さんはかなりの飲んだくれになって半年後に急性アルコール中毒で死亡。その時クレーンを操作してた作業員は、時々男の子の霊を見るって言って憔悴していき、そのうちに自殺。どちらも商店街の中で住んでて、死亡が確認されたみたい。後の3人は地元の高校生で、事故現場に置かれてた男の子を偲ぶ慰霊碑、よくあるやつだけど、それを仲間同士でふざけて蹴飛ばしたんだって。その1ヶ月後に彼が吸っていたタバコから出火して大規模な火災が起こったのよ。

商店街の北西の全部で30棟くらいが焼失しちゃった大災害になっちゃったみたいで。それで死んだのが、そのときそこにいた高校生たち3人。当時は結構、祟りだって言って噂になったらしいよ。」


「……えっと?」


「つまり、7人中少なくとも5人は男の子の死と関係があるってことよ。もしかしたら知らないだけで後の2人も関係あるのかもしれない。つまり、最初の男の子の霊が、なんらかの影響を与えて他の7人を殺したのかもしれないってこと。」


「なんでそれで嬉しそうなの?」


「いや、だってこんなこと誰も知らないでしょ?あの7つの地蔵のこんな裏話。オカルト研究部冥利に尽きるって感じよ。」


「え、じゃあ8個目は、その男の子の慰霊碑ってこと?それを見つけたらひきづりこまれちゃうってことじゃない?」


「そうかもね。だから8個目を見つけちゃった人だけ、何か悪いことが怒るって言われてるのか。」


「な、なんでそんなに呑気なの?丈瑠くんは8個目を見つけちゃったんじゃないの?」


「いや、本人はそんなこと言ってなかったよ?数え間違いかもって言ってただけで。それに、一年も時間あるんだから、もしやばそうならその、だれだっけ?いるるんの知り合いのさ、董哉さんだっけ?に頼めば良くない?」


「今の時点ですごくやばそうではあるし、シズ、そういうのは何か起きてからだと遅いの。先に動かないと。条件にハマっちゃったら、大変なことになる。」


「ふーん、そうなんだ。あ、ちなみにこれ、偶然なんだけどね。ヤンチャな高校生が火事で死んだ日、今日なのよ。」


「……え?」


「だから、今日、高校生が死んだ日だったの。でも別にだから何って感じだけどね。」


「……ちなみに、その高校生、何番目のお地蔵さんなわけ?」


「3番目だよ。」


「3番目の時くらいから数え間違えてたんだっけ?」


「あー、うん、そうかもね。4つ目で後2個って言ってたし。」


「……どう考えても今日中にやばくない?」


「え?なんで?その高校生と丈瑠くんは無関係だよ?」


「……そうだけど。ねえ、シズ、ずっと気になってたんだけど、ポッケに何か入れてる?」


「うん?あ、そうそう、これね!タケルんがプレゼントしてくれたの!雑貨屋さんでよくある、恋愛成就の石!みたいなやつのストラップ。あれ?昨日は真っ白だった気がするけど、こんな色だったっけ?恋愛成就をプレゼントされたら微妙な気持ちになるけど、これは幸運を引き寄せる石って書いてあったから、まぁいいかって。タケルんがお揃いで買おうって言い出したんだよ!」


「…………その時の丈瑠くん、変だった?」


「うーん、変?まぁたしかになんか虚で明後日の方向むいて言ってるなぁって思ったけど。タケルん恥ずかしがりなところあるし。」


「ね、ねえ。わたし、やっぱりちょっと心配。」

ニヤニヤしながらシズが言う。


「いいよいいよ。みてきなよ。心配ならしょうがないよお。」

もう、そんな呑気なこと。違うのに。


多分、


多分だけど、丈瑠くんはナニカに取り憑かれてると思う。




「わ、わたし、ちょっとみてくるね」

みたところでなんともできないが。それでも。


小走りで隣のクラスに顔を出す。


隣のクラス……

蓮君がいる。


シズはわたしが蓮くんに会いに行く口実にたけるくんを使ってるって思ってる。

でもいまはそんなこと言ってられない。


「あ、」


先に蓮君を見つけてしまった。悲しいかな、頭ではみないようにしようって思ってても、目が追ってしまうのだ。


「おう、おはよ、葉月。」

「お、おはよう……。丈瑠くんは?」


また、丈瑠くんのことを聞いてしまった。もしかしたら丈瑠くんを好きなんだと思われてしまわないか少し心配になった。でも今はそんなこと言ってられない。


「あぁ、そこで伸びてる。」

「伸び……?え?大丈夫?」

「まぁ、大丈夫。たまたま。本当に運がいいよこいつは。」


「え?何かあったの?」


「うーん、この石あるだろ?これが窓から飛んできた。」

「は?なんで?」


「上見たらカラスがいっぱいいたから、多分カラス。」


「カラスが落としてきたの?」


「まぁ、そうとしか考えられないね。で、それが当たりそうになったのを持ち前の超絶反射神経で避けたが、バランスを崩してこけて転倒し、悶えてるナウ。」


「え、え、それって大丈夫?保健室、いや救急車?」


「あはは、大丈夫だよ、葉月。これは男にしかわからない痛みなのだよ。椅子のところに大事なところがヒットしてな。悶えてるけど見た目ほど大した怪我じゃないよ。」


「ぐ、ぐおおお、おまえ、わらう、なよお、」


「まぁまぁ、でも石の方が当たらなくて良かったろ?」


「あぁ、まぁ、そうだけど……。」


「そっか、それは良かった、ね。」


それに、


なんでだろう。どう考えてもあの8体目の地蔵のせいなのに、


シズから感じられた黒い靄は丈瑠くんからはまったく感じられない。


「うん、本当に運がいい。」


「た、タケルくん、昨日の話シズから聞いたんだけど、その、なにか他に悪いこととか、なかった?3番目のお地蔵さん、今日が、命日だったみたいで今日1日は相当気をつけたほうが……。」


「あぁ、なるほど。だからなのか。通りで丈瑠がこんなに怯えてたわけね。」


小声で蓮が言うのを葉月は聞き取れなかった。


考え込む、蓮。なにか思いついたようにパッと顔を上げる。葉月は考え込んでる蓮にこっそり見惚れていたら、急に蓮が顔を上げるので目があってしまった。


赤面する葉月。動じない蓮。


タケルは悶えながらその様子を見ていて思う。


商店街の七不思議なんて目じゃない。蓮に恋する葉月も、葉月みたいな可愛い子とこんなに至近距離で目があってるのに、全く動じない蓮も。このふたりこそ、最大の星稜高校七不思議だよなぁ……。


多分だけどこいつらどっちか、もしくはどっちも、ナニカに取り憑かれていると思う。





「葉月、今日、放課後ひま?」


「え?今日?うん。特に何もないけど……。」


「ちょっとその商店街一緒に行かない?」


「あーうん、いいよ…………………………って。ええ!?」


「ええ!?」


「なんで、丈瑠もおどろいてんだ。」


「だって、お前が急に葉月ちゃんをデートに誘うもんだから!」


「で、でーと!?え!?」

さらに目を白黒させる葉月。

「いや、デートってわけじゃないっていうか。」


「幸せ探しの商店街巡りなんて、高校生のデートコース満足度No. 1だからな!おい!わかっていってるんだよな!」


「いや、そんなの知らないし。それにお前のためだろどう考えても。3番目の地蔵見て、ほんとにふたつないか確認して来てやるって言ってるの。葉月は怖かったら別にいいんだけど。俺1人で行くとなんか、寂しいじゃん?シズは昨日お前と行ったばっかなんだろ?なら、誘うの葉月しかいないし」


「そ、そうだよね、あはは、」


「おいい!そういうこと、本人の前で言うのもどうかとおもうけどねえ!いいじゃない葉月とデートしたいで!

ん、いや、まてまて、ひとりでいくなら寂しいっていったよ葉月!1人で寂しいから葉月をさそったんだよ!うがあ!なんで俺がお前のフォローをせなあかん!」


「はは、まぁそんだけ元気になったらまぁ大丈夫そうだね。一応用心して真っ直ぐ帰れよ。今日はさ。」


「お気遣いどうもお!」



こうして、わたしは放課後、蓮くんとデートすることになった。

いや、あくまでタケル君のための確認。勘違いするな、わたし。


どうしてもにやけちゃう顔を抑えながら教室に戻る。これ、シズに言うべきかな?パッとみると、シズにまとわりついてた黒いモヤモヤはいつの間にか無くなっていた。


なんで?とか考える余裕は、なかった。

放課後のデート、ううん、確認のことで、頭がいっぱいだったから。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆


「と、言うことで。葉月からも連絡が来てる?へえ、シズがそんなに調べたんだ。やっぱり凄いなアイツ。まぁ解決したかはわからないからとりあえず全部の地蔵に触ってきたから。3個目だけは無理だったよ。屋根の上だし。まぁ、今日目の前で倒したからなんとかなると思うんだけど、今日が命日だって話だし、力は残ってるかもね?とりあえず逃げ道無くしておいたから後よろしく。」


『ああ、わかった。しかしすまんな。仕事手伝ってもらっちゃって。』


「いや、お互い様だよ。こっちだって不安だし。そっちにはいつも助けてもらってるし。」


『流石に声に覇気がないな。50年ものの悪霊7体も相手にしたんだ。疲れたろ。』


「いや、それはその大したアレじゃないと思うよ。よっぽどトンネルの時とかと比べたら。それよりも、その葉月と、で、デート、しちゃったのがまずいなぁって……。」


『はぁ、父さんほんとにお前がなんで葉月ちゃんとくっつかないか不思議でしょうがない。まさかとは思うがお前の好きな人って詩音じゃないだろうね?流石のとおさんも、それはちょっと許せないって言うか、立場的にも、葉月にしとけよって思うけどな。詩音の美しさはまぁ、我が子ながら最強だとは思うし、あいつもお兄ちゃん好きすぎるわけだが。』


「詩音のことは妹として大切だよ。ほんとに。あいつはあいつでお兄ちゃんを男として見てないか不安でしょうがない。父親なんだろ、なんとかしてくれよ。」


『いや、あいつのお兄ちゃん好きにはちょっとどうしようもない部分がある。いや、そもそもお前が出て行く原因を作ったの、自分なのにな?全く年頃の女の子はよくわからんよ。まぁ離れて拗らせた愛情ってやつだ。来年は絶対星稜高校に行くんだそうだ。その、なんというか、がんばってくれ。』


「頼りにならないな……董哉……。まぁ、なんとかなったら教えてくれ。もし力が必要だったらいつでも言って。それじゃ、おやすみ。よろしく頼んだ。」


まったく。ワーカーホリックにも程があるが。日本一多忙な霊媒師。今日も溜まってる仕事のうちの一つをこれから消費するようだ。もう夜も更けているって言うのに。この案件は長かったんじゃないだろうか。調査依頼来たのは1年ほど前だと言う。ほんとに秘書にシズを雇えばもう少し仕事が円満になると思う。


ていうか、本職のしかも日本一腕がたしかな董哉が調べても一年も謎に包まれていたことを、ただの一般人の高校生が調べ上げちゃうんだから、シズは本当に化け物だと思う。

まぁ、董哉もこの案件はまだそんなに死人とかは出てないから本気で手をつけていたわけじゃないにしろ、だ。

その興味が違う方面に発揮すれば、引くて数多だろうになぁ。


シズは多分だけど、そのうちナニカに取り憑かれてしまうと思う。


そうなる前に、と言うかもはやそうなっているかもしれないが、そのうち保護することになるんだろうなぁ。きっと。


はぁ。


ため息がでる。

帰りが遅くなったし、

葉月とデートしたなんて言ったら、どんな反応するか……。考えただけで恐ろしい。


ふぅ、

ガチャ、ギーーーー、がちゃん。


「……ただいま。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



な、なんと、なんということだ……。


蓮先輩が部屋の前で電話していると思ったら、


は、葉月先輩と、


で、デート、だと?


これは大事件だ。あの葉月先輩といえば、ミス星稜と名高い美人。お淑やかな雰囲気の中に可愛らしさもあり、誰もが羨む高嶺の花。

その葉月先輩が、蓮先輩に告白したのにフラれたと言う話は有名すぎるが、


まだ、アタックしていたということだろうか。

そして、ついに半年越しに、デートが叶った。

だって、本人もデートって言っちゃってたしね。その気があるわけだよね。


これは大事件だ。


「……ただいま」


お、部屋に入ってきた。


また、存在しないナニカとの、会話が始まるのだろうか。

こちらには蓮先輩の声しか聞こえない。


見えないナニカの答えは想像するしかない。


「うん。また、丈瑠がやばくて。この前のミサンガ、ほら。」


「な。ほんとに命がいくつあっても足りないって。本当に運がいいね。彼は」


「あぁ。もう多分大丈夫。董哉も動いてるし。元々董哉の案件なんだアレ。まぁ解決できそうで良かったよ。」


「……なぁ、やっぱり怒ってる?」


お、お!

「だって、葉月とデート、したから……。」


「怒ってるじゃん。」


やっぱり、修羅場なのか!

柄にもなくワクワクしている。


「そりゃあ、葉月はさ、可愛いし、気立てもいいし、言うことないんだけど。」


え、そんなふうに、思っているんだ。葉月先輩のこと。


「でも、その、やっぱり、違うんだ。ビビッとくる感じが。」


な、なんだろう、このノロケは。


「やっぱり俺には、お前しかいないなって。」

途端に、

ガンとか、ドンとか、凄い音が鳴り始める。


「おいおい、言わせといて怒るなよ。危ないな」


「あはは、まぁね。ははは」


よく考えたら、笑ってる蓮先輩も中々レアいな。


ガチャ、ぴっ

『〜〜〇〇市で発生した銀行強盗、犯人は依然捕まらず、逃走を続けている模様です。……』


珍しい、本しか読まないほとんど無言なルームメイトがテレビをつけた。

流石にテレビの音で向こうの部屋の音は聞こえなくなったが、

ドタバタも治ったようだ。


しかし、蓮先輩の口ぶり。完全に、恋してるな。

見えない、ナニカに……。


うん、やっぱり蓮先輩はナニカに取り憑かれてると思う。

色んな意味で……。

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