多分だけど友人はナニカに取り憑かれていると思う。
@7TO
友人は何かに取り憑かれていると思う。
「おはよ。」
首を押さえながら控えめに言う友人。
「おはよ。元気ないな。」
「なぁ、聞いてくれよ。きのうからなんか変でさぁ。」
「へん?」
「なぁ、あのさ。おまえ、幽霊とか悪霊ってほんとにいると思う?」
「いや。」
「…そうだよな。悪い、変なこと聞いて。」
友人はやつれた顔で
「はぁ。きのうからどうにもおかしい」
とため息をついた。
彼の名前は丈瑠。お調子者だがいいやつだ。去年クラスも違うのに話しかけてきて、一緒にバンドやろうぜって誘いまくってくる。今年は同じクラスになってしまった。
はっきり言って俺は歌いたくないので断り続けているがこいつも諦めが悪い。
俺と同じ部活に入ってまでずっと誘ってくる。
それ以外はとてもいいやつだ。気さくで明るくて、ポジティブで。
彼は元々軽音楽部がつくりたかったのだ。しかし俺たちが通うこの私立星稜高等学校は、3年前に共学化した元女子校、しかもかなりのお嬢様学校。徐々に男子も増えてきているとはいえクラスに数人程度。
その男子も、ほとんどがスポーツ推薦。
全国クラスの実力誇る陸上部や、卓球部に入る目的の男が多い。
彼自身もスポーツ推薦で入学している。
しかしまぁ、スポーツ推薦とは別に入学して仕舞えばその後他の部活に入っても構わないのだ。特待生というわけでもない丈瑠はスポーツ推薦で入り、軽音をやりたかった。しかし、部活はない。なら作る。しかし、メンバーが揃わない。そして、星稜高校は部活動に参加義務がある。
そんなとき、部活動、だるいなって思ってる俺たちを集めて頭のぶっ飛んだシズという子がオカルト研究同好会を立ち上げていた。
そこで軽音楽同好会も兼ねるという名目で丈瑠もオカルト研究同好会に入ったのだ。
それで軽音楽かオカルト研究のどちらかで部の承認を目指していたのだが、
シズという子。もともと、中高一貫の星稜高校のエスカレーター組。中学はいまだ女子校でど真ん中お嬢様学校だ。
能力が高い高い。
彼女が書いた60枚のレポート
『オカルト研究部の有用性と発展性』が、
生徒会役員に響き、オカルト研究同好会は部として認められたのである。
つまり、俺も彼もオカルト研究部の一員である。
といっても、
その実態は、部室でだらける。に、つきる。
新設の部なのにそんなことが許されているのはシズが毎週怪しげな心霊スポットをみつけてきて、そこに写真を撮りに行ったり、原因を探りに行ったりし、それをまた、レポートにまとめているのだ。
丈瑠はいいやつだから、たまにシズについていく。
そして、だいたいついて行った日の次の日は、こんな感じなのだ。
だが、本人は信じたく、ないようで。
「実は昨日な、シズと公園に行ったわけよ。夜景が綺麗だねーつって、いいムードだったんだけどさ。なんか、こう、くびの後ろら辺がサワサワ触られてる感じがしてさ。みてみると、俺のじゃない濡れた黒髪が俺の首にまとわりついてたんだよね。」
「へえ、なんでだろうね?」
「まぁ、近くに池もあったし、知らないうちに誰かとぶつかった時とかについたのかなぁ?」
「まぁ、それくらいしか考えられないよな。」
「あとな、それから耳鳴りがめっちゃして、遠くの方で金切声みたいな声が聞こえるんだ。シズも一緒にいたんだけど、どうやら聞こえないみたいで。」
「あぁ、耳鳴りって疲労、らしいよ。疲れてるんだね。」
「そっかぁ、そうなのか、だからシズには聞こえなかったのか。『お前の首、きれいだね』って声にきこえたんだけど、気のせいか?」
「気のせい気のせい。耳鳴りみたいな、無意味な音をずっと注意して聞けば、人間の脳が錯覚を起こして、何か意味のある言葉に聞こえてくるように変換してしまうっていう実験をアメリカかどっかの大学がしてたよ。」
「そうなのかぁ、大学がなぁ。」
「うん。」
「それでさ、また後ろの方で何か動く気配がしたから、振り向いたのよ。」
「うん。」
「そしたら長い髪の人形がベンチにいてさ。全身ずぶ濡れで池に落ちたみたいな人形。あれ?さっきまでそのベンチ俺たちが座ってたよね?って思ったんだけど。」
「なんだよ、解決したじゃん。その濡れた人形の上になんかすわってるから、濡れた髪が首についたんだよ。ほら、静電気で人形の髪なんて簡単に逆立つだろ。それでお前の首元まで髪がついちゃったんだよ。」
「あ、なるほどぉ!だからか。そうかそうか。で、な。その人形、俺に踏まれたからかもしれないけど、なんか怒ってる顔してるんだよ。」
「へぇ、怒ってる人形の顔なんて珍しいね。」
「な。そう思うよな。俺も思った。でもさ、ちょっと怖くなったんだよね。この人形、意思があるんじゃないかなって。」
「人形に意思なんかあるわけないだろ。最初からそういう顔だよ。」
「そう、なんだけどな。それでおれシズにその人形見せたくなかったから手を引いて小走りでその場を離れてったんだよ。そしたらさ、何かにつまづいて。」
「うん、何につまづいたの?」
「人形の髪の毛だった。」
「ずいぶん長い人形の髪の毛だねぇ。」
「な。元々そんなに長くなかったと思うんだけどな。」
「まぁ、髪の毛なんて細いもの、見えなかったのかもしれないね。夜だったら暗いだろうし。」
「え?おれ、夜って言ったか?」
「いや、夜景って。違うの?」
「いや、あたりは真っ暗だった。」
「やっぱりね。そんなに長い髪の毛なら首についててもおかしくない、よね。」
「なるほど、見えなかっただけかぁ。そうかぁ。」
「それで?」
「つまづいて転んだら足が何かにもたれてる気がしたんだよね。ぎゅって。誰かに手で足を掴まれた感覚があったんだよ。でも、そこには何もいなくてさ。」
「髪に引っかかったんでしょ?ギュッと圧迫されると見えない場合人間は自分に可能なもので想像するらしいよ。つまり手。」
「ふぅん、そうかあれは俺の想像か。」
「そうかもね。それで?」
「怖くなってさ。起きあがろうとしたら上から花瓶も降ってくるし。」
「…上からって空から?」
「いや、近くのマンションの3階くらいから。」
「それはそこの住人の不注意だね。損害賠償請求したら勝てるよ。」
「そんがいばいしょうね、成る程成る程。で、な。なんとか帰ったんだけど、お風呂に入ると、さっき首についてた髪の毛がいっぱい湯船に浮いてくるんだよ。」
「そりゃあ、長いし細いし、濡れてて見えにくいしで、しかもかなり離れたところでこけるほどの長さだったわけだろ?こけたときに絡み付いたんだろうね。」
「やっぱり?そうなるよな。それで、湯船の中で髪の毛が、『お前の首、ちょうだい』ってなったのは…?」
「すごい偶然だね。あ、でも、俺この前妹が入った後にお風呂入ったら、妹の長い髪の毛が『カレーライス食べたい』って文字になってたことあるよ。まぁ、そう思えばそう思うっていう程度だけどね。カレー食べたかったんだなあのとき。」
「そうかぁ、そうなのか。それでさ、寝てるときに首をまたギュッとされてる気がしてさ、朝起きてみたら、ほら、これ。」
そういうと丈瑠は
誰かの小さい手に首を絞められたかのようなアザができていた。
「ついでにこれも。」
そういうと、昨日掴まれた感じがしたと言っていたところも、同じ大きさの手の握った跡があった。
ミミズ腫れのようにあかくはれている。
「うわぁ、おまえ、これ、腫れてるよ?こけたときに変な打ち方したんじゃないの?」
「な、でもやっぱり、誰かに掴まれてることないか?人形の手の大きさと似てるし。」
「うーん?ての形?腫れてはいるけど、そんなふうには思えないけどな?」
「え?だってほれここが、指、、、あれ?」
手かがみを見ながら首を傾げる丈瑠。
さっきまであった、指の間のような腫れ方がなくなっている。
むしろ、あんまり腫れてない。
若干赤いが、ほとんど正常になっている。
「……?あれ?」
「ん?お、引いてきたね。腫れ。よかったね。首も大丈夫そうだぞ。つーか、お前自分でも押さえてきてたから、あとついたんじゃないの?そんなのすぐ消えるって。」
「ええ、そうか、そうかなぁ?…あっ、」
「ん?」
「かばん!みて。ほら、髪の毛まみれ!」
「うわ!ほんとだ、うわぁ、なにこれ。あっ、丈瑠!こんなの入れてるからだよ!」
そこには昨日の怒ってる人形が。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはよー!」
「きゃ、え、し、シズ?」
「なによ、変な反応ね。」
「い、いや、その、なんか今日はいつもと違うね
?昨日、なんかあった?」
「ん?んん?わかっちゃう?いやっぱりわかっちゃうかぁ!」
「て、テンション高いね。引くほど…」
「だってね、昨日、たけるんと2人で例の公園に行ったのよ。」
「ええ!?」
「そしたらたけるんってば、だいたんにも、私の手をつかんでね。」
「手を?そ、そっかぁ。」
「小走りで駆け出したかとおもうと、いきなり倒れ込んでね!わてしもつられて倒れちゃったの。」
「う、うん。それで?」
「たけるん、かわいかったよぉ、震えてたけどギュッと抱きしめてくれたの。勇気出したんだろうな。暗がりだったからこけちゃうあたりもタケルんらしくて可愛くない?」
「そ、そうだね?その…例の人形はいなかったの?」
「あはは、あの公園で首から上だけが見つからなかった女の子の死体が持っていた人形が現れて首を刈っていくっていう話ね。全然よ。人形のにの字も見てないわ。」
「そ、そっか。よかったね。」
「なによ、いるるんはそんな噂信じるの?作り話にも程があるじゃない。わたしたち、その女の子が座ってたベンチに座ってたのよ。なのに何にもならなかった。当たり前よね。そう簡単に本物に出会えるわけ、ないんだから。」
「つ、作り話とは、限らないよ。っていうか実際50年前にあった事件なんでしょ?シズが言ってたし新聞の切り抜きだって。」
「もちろん本物かもって思って行ったわよ。わざわざ命日にね。でも考えてみて?命日に現れて首を刈るなら50年で50人は死んでなきゃいけない。なのに、あるのは噂ばっかりで誰が死んだとかどうやって死んだとか事件にもなってない。ね。作り話でしょ。」
「うーん、その、そう言うので死んだ人って、あんまり事件や事故にならないんだよね。有耶無耶にされるんだ。だいたい。だから噂だけ残ってく。」
「だとしたら幽霊になったらやりたい放題ね。まぁ、今回に関しては何にもなかったわよ。私もたけるんも。たけるんはちょっと怖がってたけど。みてみて、夜中眠れなくてこんなメール送ってきたんだよ。」
『助けて、殺される、助けて、助けて、
助けて助けて、助けて、助けて、…』
こ、これって…
「シズ、これって助けに行ったの?」
「いくわけないじゃない。」
「ちょ、ちょっと心配だよ、見に行こう。丈瑠君2組だったよね。」
「ええ、いいよ面倒臭い。もうすぐ授業始まるし。ただかまって欲しいだけなんだよ。」
そんな、これ、
多分、
多分だけど、丈瑠くんはナニカに取り憑かれてると思う。
「わ、わたし、ちょっとみてくるね」
みたところでなんともできないが。それでも。
小走りで隣のクラスに顔を出す。
隣のクラス……
蓮君がいる。
少し気まずい。
で、でもいまはそんなこと言ってられない。
「あ、」
先に蓮君を見つけてしまった。悲しいかな、頭ではみないようにしようって思ってても、目が追ってしまうのだ。
丈瑠くんはいない。
もしかして学校休んだのかも。もしそうなら大変だ。家でどうなってるかもわからない。
クラスを見渡したが丈瑠の姿は見えない。
蓮君に、聞く、しかない。
ちょっと緊張する。でも、今は仕方ない。緊急なのだ。
「れ、蓮君!あの、」
「おはよう葉月。どうしたの慌てて。」
「あ。おはよう…。その、丈瑠くん学校来てる?」
「うん、きてるよ。ほらそこ。」
指をさした先にはグデっとしてる丈瑠くんがいた。
でも、
「……え?」
目を凝らすが
なんともない。
何も、憑いていない(・・・・・・)
「丈瑠がどうかした?」
「いや、昨日、大変だったみたいで。心配になったんだけど…」
「あぁ、丈瑠の自作自演ね。わざわざ人形まで持ち込んでさ。でも大丈夫。俺が叱って捨てといたから。なんか本人も気持ちが楽になったって。」
「そ、そう?大丈夫なら良いんだけど…」
もう、視るからに、憑いてない。
「うん。憑いてない、な…。」
小声で言ってしまった。言ってからしまったと思った。
「うん。丈瑠、ツイてないって言ってたよ。昨日から運が悪いって。蟹座は星座占いドベだったんだよ昨日。ほら。それから今日は2位。だから今日はいいことあるんだねきっと。よかった。」
「あ、うん、え、丈瑠くんって蟹座なんだ。」
「あ、ちなみに葉月の獅子座は今日1位だ、おめでとう。良いことあるといいね。」
「え、あ、うん、ありがとう」
良いこと。こんなふうに蓮君と話せたから今日はいい日だ。丈瑠くんも大丈夫そうだし。
「チャイム、そろそろなるよ?」
「え。あ。ほんとだ!じゃぁ私いくね。ありがと!」
慌てる葉月。
「うん、また、部活でね。」
手を振る蓮くん。
ま、また、部活でって
言われてしまった。
顔が赤くないか心配だ。
また、喋りかけてもいいんだろうか。
いや、蓮くんは気を遣ってくれてるんだ。私と普通の友達でいられるように。
私は勘違いしちゃいけない。
私はフラれてるんだから。
自分を戒めようと心で唱えるも、蓮君と朝から話せたことが嬉しくて軽快なステップで教室まで戻る葉月。
教室に戻ると前の席でニヤニヤしたシズがいた。
「んふふ、あすみんと喋れた?」
驚く葉月。
「え?なんで?」
あんなに、あんなに黒くてドロドロした髪の毛がまとわりついていたのに。
シズに。
いまは、何も、憑いていない。
いつものシズだ。
あれからはかなりの執念が感じられた。なのに、
その執念ごと消え失せてしまった。
「え、だって、たけるんは口実であすみんと喋りに行ったんでしょ?恋する乙女だもんねいるるんは。」
「え、違う、違うよ。でも、良かった丈瑠くん大丈夫そう。」
「あーはいはい。そうだね。」
全然聞いてくれないけど、まぁ、いいや。とりあえずシズにも憑いてなくなった。
なんでかはわからないけど。
チャイムがなって学校が始まる。
……また部活の時に蓮君と喋れるかな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部室に行くと仏頂ずらした青年がすでに漫画を読んでる。まだ他に誰もきてない。
「おーす、あすみん、調子はどう?」
「おう、シズ。相変わらず元気だな。」
「当たり前よ、そういうあんたは?」
「別に。普通。」
「ふーん、ねえ、昨日この前言ってた公園にたけるんと行ったのよ。」
「ああ、きいたよ。」
「そこでね、聞いてよ、びっくりしちゃった。」
「ん?何に?」
「タケルんがギュッとしてくれたの!」
「……えーっと、2人って付き合ってるんだっけ?」
「え?付き合ってないわよ。」
「付き合えばいいのに。」
「おんなじこと、あんたたちに言ってあげるわ。」
シズは、はぁ、とため息を吐く。ほんとに人のことばっかり。この朴念仁は。
「おれは、ほら好きな人いるし。」
「はぁ。でた謎の好きな人。その人と付き合ってるの?」
「うん、まぁね。」
「付き合ってどれくらい?」
「うーん、どうだろ?半年くらいかな?」
「それで、どこまで行ったの?」
「どこまでって?」
「キスとか」
「いや、そんなこと、してないよ。俺たちはプラトニックな恋愛をしてるんだよ。」
「実在してるの?その人。」
「なんだよ。ひどいな。」
「ネット上、とか言わないでしょうね。」
「ぐ、」
その返答って答えになるんじゃないか。
まさか、本当に?ネット上の恋愛を現実に持ち込んでるの?この人。
「…頭おかしいんじゃない?」
思わずポロッと出てしまった。
「ひどいなその言い方。」
「だって!あの!超絶美人で有名ないるるんだよ?街の中歩いてれば普通にナンパやスカウトも日常茶飯事!スタイルも抜群、頭も良し顔も良し、性格よし!この男子の数少ない星稜高校で告られた数No.1の葉月があなたに告白してるのに、いるかいないか不確かで、中身はただのおじさんかもしれない奴に恋してるから断る?」
「いや、まぁ、逆に俺なんかよりもっといい奴いっぱいいるしだな。」
「はぁ、あたしもそう思うわ。あんた、なんか変なのに取り憑かれてるんじゃない?って、思いたくなるわ。あーあなんで葉月はこんなの好きになっちゃったんだろうな。」
「さっきから言われたい放題だね…。」
「あんたは葉月を選ばないってこと以外は普通にいい奴だからね。応援してるのよ。葉月を。」
「……。」
「おーす、お、シズ。蓮。早いな。」
「たけるん、おっつー。昨日はあれから大丈夫だった?」
「ん?んん、まぁ大丈夫だよ。」
「昨日変なメールしてきたじゃん。」
「変な?してないしてない。」
「え?ほらこれ」
シズがメールの画面を見せる。
『から、は「たかは、まあら、もわやがj’』
「…文字化けしてる。」
「あれ?ほんとだ。どうしてかな?」
「なんて書いてあったの?」
「助けてって。あと殺されるって」
「え、俺そんなの送ってないよ。」
「えー、じゃあなんだったんだろ。葉月にも見せたんだよ?後で聞こ。」
「まぁ、でも大丈夫だったんだろ。死んでないし。良かったな。」
「あぁ、蓮に話してだいぶスッキリしてね。ありがとな蓮。」
「ふーん。まぁ、いっか。」
「うん、それで2人でなんの話してたの?」
「ん?あぁ!そう、あすみんってなんで葉月と付き合わないのかって話!」
「あ、ねぇ、それ俺も思う。葉月よりいい女なんか見たことないぞ。」
「…おーい、シズが膨れてるぞ。」
小声で言う。
「え?あ、いやその客観的にみて、だな!俺が好きとかそう言うのじゃないけど!」
「まぁ、今はあすみんよ。ほんとにそう。仮にあすみんに他に好きな人がいたとしても、あたしだったら葉月に乗り換えるな。葉月から告白、されたんだよ!?だって。」
「正気の沙汰とは思えない。」
「ね。取り憑かれてるのよきっと。変なのに。」
「なるほど!それでか!じゃあ早速お祓いに行こう!」
「あー、そんな話してると、さっきから部屋の前で葉月が入りにくそうにしてるんだから」
「え?」
「うそ!?」
……いない。
「…嘘ついた。」
「いや、ほんとに来た時に、そんな話してたらまずいだろ?」
「うー、まぁいいわ。今日のところはこれで勘弁してあげる。」
プイッとそっぽを向く。
「それで?今日はどんな活動をするの?」
話を変えようとするあすみん。
「とりあえずいつもと同じね。各自好きなこと、でいいでしょ。あ、あすみん、後で葉月と猫宮先輩のところに行ってきてよ。」
ちょっと意地悪してやる。
「え?なんで?」
「今回のレポートを出してもらうのと、なんか面白いネタがないか。聞いてきて。」
「えええ、猫宮先輩、か。わかったよ。葉月がきたらでいいのね。」
「うん。」
にこやかに答える。
猫宮先輩は、オカルト研究部の一員だ。生徒会のメンバーとも関わりが深く、レポート等を提出するときは猫宮先輩に頼むのがスムーズなのだ。で、猫宮先輩はだいたい部室に来ずに図書館にいりびたっている。
ちょっとだけ苦手だ。あの人。
厄介払いと、葉月へのアシストができて満足だ。
うーん、でも、逆に、なぜ葉月ほどの女の子が、あすみんなんだろう。
あすみん自身も言ってたけど、他にもっといい男なんか、たくさんいる。特にこの学校はすごい人がいっぱいいるのに。それでもあすみんを選ぶ理由。もはやオカルトだ。
オカルト研究部としてはかなり興味深い。
多分だけど、葉月もナニカに取り憑かれてるんだと思う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
また、後輩たちが危ないことをしている。
今日という今日は叱らないと。
「葉月、あなた、これ、わかってるんでしょ?」
図書館の4階の一番北側の部屋。その隣にある視聴覚室。そこが猫宮華子の居城だ。今は入鹿葉月と2人っきり。
阿澄蓮には出て行ってもらった。
「……あーっと、その、はい。」
「マジよ。今回も。なんで無事だったのかわからない。」
「ええ、その、朝、シズは何かに取り憑かれていたんですが、すぐなくなっていました。今回は流石にやばいと思ったんですが…。」
「あの2人、異様に強いよね。いつも何かに取り憑かれてるのに、無事に帰ってくる。逆に何か特別な力があるのかもしれないわね。」
「特別な力?私たちみたいな?」
「逆よ。むしろ。私たちは視える。でも対抗する手段は持たないでしょ。でも、あの子達はみえない。でも、対抗する手段を持っているのかもしれない。」
「…そう、だといいんですけど。」
「今回は流石にダメかもって思ったけど。一応、董哉さんに連絡して聞いてみようか。」
「そうですね。そしたら安心です。」
董哉とは、日本一多忙な霊媒師と名高い人物である。
猫宮、葉月ともに幼い頃に巻き込まれた事件でお世話になり、連絡先を知っている。
とてもいい人柄で誰にでも優しく、猫宮のような学生の相談にも真摯にのってくれる。
だからこそ日本一多忙なのだが。
実力は折り紙付。なんでも、古来から日本の陰陽師として活躍していた霊媒師一族の末裔とかで。
霊媒師としての力量は間違いなくトップクラスだろう。
「とにかく、あなたがついてるんだから、もう少しあの子たちの暴走を止めて。取り返しのつかないことになったら遅いんだから。」
「はい。もうちょっと、頑張ります…。」
「うん、じゃあこれ、ちゃんと生徒会に渡しとく。それじゃあね。」
「失礼します。…あれ?蓮君?」
どうやら阿澄くんは先に帰ってしまったらしい。
自分のことを好いてくれる女の子を置いて帰るなんて、結構ひどいな。
それにしてもシズという子。本当に恐ろしい。
あぁゆう本当に危ない場所はおいそれといけないように色々とプロテクトがかけられているのが常なのだ。
それを50年前の新聞なんて、すごいところからこじ開けて、命日にベンチに座るなんて危険なこと、
普通は考えないし、考えたとしても怖くてやれない。
頭がおかしいとしか思えない。
多分だけど、シズはナニカに取り憑かれていると思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「もしもし」
阿澄蓮は図書館を出て、電話をかけている。
「あ、もしもし?なんだ?蓮から電話してくるなんて珍しい。」
「あー、また、ガチな奴引いてきたんだと思う。」
「ん?例のシズちゃんか?」
「そうそう。すごい才能だと思うんだけど。逆に。スカウトしたら?董哉が。」
電話の相手は董哉。自称日本一多忙な霊能者だ。
「いやいや、ただでさえ惹かれやすいんだ。こっちの世界に来たらすぐに持っていかれてしまうよ。」
「ふーん、そうなんだ。」
「あぁ、だからお前がもうちょっと頑張ってだな、シズちゃんにそういうことしないように言えよ。」
「言ってるよ。俺が言ってもダメなんだから本物のお前が言ったら?今日とか丈瑠、相当やばかったよ。髪の毛に巻き付かれてるわ鞄から人形出てくるわ」
「おいおい、それ、美濃公園の人形か?ガチすぎるだろ。よく無事だったな2人とも。」
「あぁ、ほんとそうだよ。とりあえず人形は触っといたし、丈瑠の患部にも触っといた。あと、鞄とかその辺も触っといたよ。でも、シズの方はわからないから一応診てあげてくれ。」
「おっけ。またさりげなく診ておくな。」
「うん、よろしく。すまんね。こんな金にもならんのにハードなこと頼んで。」
「息子の頼みならなんだって聞くのが親だよ。愛してるよ、蓮。」
「気持ち悪い」
「ひどっ」
「まぁね。詩音は元気?」
「あぁ、そろそろお兄ちゃんシックが出てる気がするが元気すぎて困るくらいだ。」
「おっけ、また夏休み帰るよ。」
「土日に帰ってきてくれていいんだよ?さみしいぞ。」
「はいはい。」
「それと、お前の体調は、大丈夫か?祓うのにはそれなりに体力を使うはずなんだ。特にお前は、視えないんだから。普通は、視えるから、どれくらいの相手かとか、どれくらいの力が必要か、とか考えて除霊するが、お前の場合、全く視えないから最初から最後まで全力で除霊してることになる。力が強すぎて並の霊ならお前に触れるだけで消滅するだろうけど、今回のもそうだが50年ものの悪霊ともなれば、だいぶ体力も消耗してるはずだ。」
「あぁ、まぁ、いつもよりはちょっと疲れてる、かな。」
「まったく、俺だったら2日は寝込むぞ。」
「力が強すぎる、らしいんで。大丈夫。鼻血すら出てない。」
「鼻血?」
「いや、こっちの話。」
「そうか。まぁ力が強いと言っても、無敵じゃないんだ。気をつけてくれよ。」
「もちろん。自惚れてはいないよ。」
「心配してるんだよ。」
「あぁ、ありがと。気をつけるよ。じゃあまた。」
電話を切って歩く。
寮の部屋の前に着いた。
ガチャ、ギーーーーー、バタン。
相変わらず建て付けが悪い。
ふぅ、さて。至福の時。
「ただいま。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
電話しながら、先輩が歩いていく。
男子寮唯一の2年生。阿澄蓮先輩。
彼は去年初めてこの旧女子寮を男子寮として使い出したパイオニアだ。
今年は一年生が十数人入って計7部屋ほど使用している。一つの部屋に2人ずつだ。まだ、このフロアしか使っていない。
自分たちの部屋は阿澄蓮の隣の部屋だ。今のように彼を見かけることはよくある。
彼はちょっとした有名人なのだ。
なんでも、2年のマドンナ、入鹿葉月さんが告白したのに、フッたとかいう伝説を持ってる。あんなに美しい人から告白されたら自分なら他に付き合っている人がいても別れて付き合うのに。
葉月さんは、彼を追いかけてオカルト研究部に入ったらしい。まだ葉月さんは、フラれてるのに、諦めてなく、追いかけてるらしい。
そんなこんなで阿澄蓮先輩は謎が多い。
色々な噂がある。
例えば超絶美人の彼女がいる、だとか。その彼女は次元が違う、だとか。つまりネット上の人物だとか。実はその中身はネカマでおっさんだ、とか。それで葉月の告白を断るんだから、とにかく頭がおかしな先輩だ。というのが風評だ。
色んな意味で一目置かれる存在である。その阿澄蓮の隣の部屋。壁は結構薄く、普通に喋ってても結構聞こえる。自分もルームメイトも無口な方なので、隣の部屋の話は結構聞こえる。ちなみにもう片方の隣の部屋は空き部屋なのだ。話し声が聞こえるとしたら蓮先輩の部屋しかない。
部屋の前で電話を終える先輩。
彼は部屋に入る時に必ずいう。
「ただいま。」
これを知ってるのは自分だけだ。いつも隣の部屋の会話に耳をそばだてているから。
そしてまた、はじまる。
「お、今日はポニーテール?似合うね。」
「あはは、まぁね。今日はちょっとつかれたよ。」
隣の部屋は、男子寮、だ。
「そうそう、人形が鞄から出てきて。」
「おいそんな変な顔するなよ。まぁ、なんとかなるって。」
2年生は蓮先輩しか、いない。蓮先輩は1人で部屋を使ってる。はずだ。
「あはは、その顔、可愛いなぁ、もう。」
ガタガタガタガタ。
蓮先輩の嬉しそうな声。聞いてるうちに震えが止まらない。
そう、
ネット上の人物なんかじゃない。
蓮先輩が好きなのは、
ネット上ですらない。
存在しない、人間。
多分だけど、蓮先輩は、ナニカに取り憑かれていると思う。
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