第35話 《彼の地エルメヌーム 佐渡ヶ島南部》

 佐渡ヶ島全域を支配している、総質量数十億トンの巨大土人形ラージアースたち。

 第5ミサイル科連隊が投入しうる最大戦力をもって、その巨大土人形ラージアースを島から駆逐する本作戦の目的は、採掘が容易な銀山を確保すること、だ。

 異世界エルメヌームに孤立する第5ミサイル科連隊は、エルメヌームの種々の不明体アンノウンとのこれまでの交戦により、無人兵器の損耗ロストを強いられてきた。無人兵装体系が維持できないほどの損耗率に達すれば、連隊は不明体アンノウンへの防衛力を失い、壊滅する。

 無人兵器の制御のコアであるパワー半導体の配線は、電気抵抗が極小の銀でなければならない。佐渡ヶ島の銀山を確保できれば、パワー半導体の生産が再開でき、無人兵器の補充、ひいては、無人兵装体系の維持が可能となる(ミカ校専科の電磁加速砲レールガンのメンテナンスにも、同様にパワー半導体が必要)。

 

 ナノマシンのオーバーテクノロジーの助けを借りた不可視機雷をドローン等に搭載可能となった現時点で、無人兵器が充分に補充できるようになれば、不明体アンノウンの積極的な排除も可能となる。

 

 ☆


 火力の使用を最小にしなければならない制約下、第5ミサイル科連隊と巨大土人形ラージアースとの島中央部での攻防は、長らく一進一退を繰り返していた。

 しかし、巨大土人形ラージアースを駆動する素子エレムの特性が判明した今、不可視機雷により、巨大土人形ラージアースを一体ずつ麻痺させていくことができていた。


 作戦の成功まで、あと一歩。 

 巨大土人形ラージアースを麻痺状態に留めおけば、素子エレムの再結集は妨げられていき、巨大土人形ラージアースの発生は止まる。

 

 不可視機雷の不可欠なパーツとなったナノマシンは、わたしの身体から提供されている。兵站が心許ない中、巨大土人形ラージアースの短期間での駆逐を可能とするために、わたしは全身のナノマシンの過半を不可視機雷のために割り当てることにした。

 

 救護テント内で、異世科医の香織かおりさんと共に戦況報告に耳を傾けていたわたしは、巨大土人形ラージアースの新生が止まったとの報に、やったねと小さくガッツポーズをした。

 ここまでくれば、遠からず、和希かずき先輩の土帝ツチミカドの爆平が可能となる。再結集できない状態となった巨大土人形ラージアース素子エレムを、土帝ツチミカドの爆平により無害化できれば、この地の安全はひとまず確保できる。


(結局、想像したような戦場にはならなかったわよね)

 香織かおりさんとわたしの申し入れにより、ナノマシン・インサイドなわたしの本作戦での役割、戦場看護師ウォーナース。大きな傷を負ってしまった隊員さんの輸血と止血を行う役どころである。

 体内に分散しているオーバーテクノロジーなナノマシンの反則技で、わたしの身体はたとえ腕がちぎれようとまたつなげられるようになっている(腕を取り外すことも可能)。わたしの腕をちぎってつなげてのデモンストレーションは、師団長様と香織かおりさんの立ち会いのもと実施済だ。

 ただ、痛みに呻く隊員さんが次々と……という事態は起らなかった。無人兵器を活用したヒット・アンド・アウェイを基本とした本作戦では、展開中の隊員さんたちの役割は隠密行動での索敵支援。残念ながら、巨大土人形ラージアースの巨石礫が直撃し、お亡くなりになってしまったかもしれない隊員さんたちの数も10名を越えているとのことだが。生か死かの2択なのが本戦場。

 

 いつも通りのセーラー服姿の香織かおりさんの隣で、手持ち無沙汰なわたしは、どことなくチア服っぽくもあるナース服のミニスカートを手でひらひらさせた。そもそもがスカートを穿くことも滅多にないわたしは、この謎ナース服のミニスカートはやはり落ち着かない。この謎服は、ミカ校の先輩方が3次元プリンターでわざわざ作ってくださった、罰ゲーム宴会芸用のナース服だ。

 戦場看護師ウォーナースなる役目に、そもそも制服などはない。動きやすいエムデシリのジャージでいいやと考えていたら、結愛ゆあ鬼姉様に「いざという時、遠目でもわかりやすくならなければいけない」と真顔でダメ出しされ、この謎ナース服を着ることになった、というわけ。確かに遠目には白のナース服だろうし、ミニスカートな女子が一人だけなら人目をひく。たぶん、結愛ゆあ鬼姉様は半分以上楽しんでいるんだけれど。


 そう、既に島には和希かずき先輩も上陸している。土帝ツチミカドの爆平を放つ時まで、後方で隠密行動であるため、先輩の声はほとんど聞こえてこないけれども。

 作戦終了後に、ナノマシンの回収に向かうわたしは、確実に先輩と顔を合わせることになる。


 その時、わたしを現地まで送ってくれた結愛ゆあ鬼姉様と心春こはる鬼姉様が言いそうなことは想像がつく。

「感動の再開だな」

「あぁ、わざわざキラ☆ホノカンのナース服を来てきたかいもあるというものだ」

「ハダカスキー男爵も嬉しそうだ」

 なんてことを、強面を崩さないまま、言うんだ、きっと。


(しかも、なぜだか盛り乳仕様……)

 ここ服には、ナース服には不必要なお子様体型のわたしに精密にフィットしている胸パッドがあしらわれている。早春に、先輩にさんざん裸体を凝視されたわたしが、いまさら盛り乳ナース服なんて、いまさらの見栄っ張りなようで、かなり恥ずかしい。普段の巫女服ではお胸のサイズはわかりにくいだろうから、隊員さんたちはこのナース服の方がわたしのサイズと勘違いしてくれているのかもしれないけれども。

 

 まぁ、いいや、その後のキャンプでの打ち上げのことを考え始める。巨大土人形ラージアースとの長期戦の間、施設科の隊員さんたちは、兵糧となるウサギを確保してくれているとのこと。いまだにウサギがちょっと可愛そうな気がしちゃうけれととも、低温調理されたウサギ肉は、かなり美味しい。

 肉食には興味がない巨大土人形ラージアースが支配する佐渡ヶ島では、ウサギたちは食物連鎖の上の方でのんびり暮らしているらしい。少しくらいいただいてもいいわよね。

 

 根がお気楽にできているわたしは、そんなことを考えていた。

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