第34話 コマンド入力と、3分40秒の舞踊身体。

「君の身体の法外なスペックを考えると、少し広めのところでキーとなる文字列を君に送付した方が良いかと思う」

 と、二階堂先輩。この場でコマンド入力実験を行うおつもりらしい。もちろん、サドガタンとは何なのか、わたしもずっと気になっているところなので、異論はないのだけれども。


 執事長の仁田本にたもとさんがボタンを押し、会議室後方の間仕切りが静やかな音で左右に開いていった。仁田本にたもとさんはプレゼンテーション用のブースだというけれども、学芸会くらいは開けそうな壇が現れた。二階堂グループの社員数は1万人を越えているから、この程度のスペースが必要になる時もあるのだろう。


 そのプレゼンテーションブースに、らしいセーラー服姿でひとり立つわたし。

 少し離れたところから、わたしを見る、二階堂先輩、穂香ほのか(大)、仁田本にたもとさんのお三方。


 二階堂先輩は、サドガタンの暗号鍵を入力済とのリモコンをわたしの方に向けた。目でわたしに合図をするとスイッチを押した……ものと思われる。

 


 二階堂先輩がわたしの身体の体細胞ゲノムの変異パターンから見いだした、ニノ姫の隠しコマンドで、わたしの身体に謎のダンスが起動した。

 戸惑うわたしの意識を置き去りにして、壇上の私の身体はきっちりと3分40秒のダンスを披露した。

 こちらの世界では舞踊身体ダンシングボディと呼ばれることとなる、ナノマシン制御下の身体状態の起動。


 もっとも、あの世界では、ミカ校の寮の先輩方の進歩的な実験という名のかくし芸のひとつに過ぎないのだけれども。


 ダンスを終えわたしの身体が静止すると、意識の奔流が流れ込んできた。

 その奔流に耐えきれず、わたしは意識を失いその場で倒れた。彼の地エルメヌームでの、あの時のように。

 

 彼の地からの意識の奔流が止まった。全てを理解したわたしに、意識が戻ってきた。

 ゆっくりと目を開ける。わたしに駆け寄ってきていたらしい、穂香ほのか(大)の心配そうな表情が目に入る。

 まだ身体は動かないけれども、わたしはもう大丈夫、と、視線を返す。



 そう、うかつだった。

 あの異界の彼の地での、わたしは。




 

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