第32話 亀戸二階堂邸にて

 お江戸は、もとい、東京は亀戸の二階堂家分家邸。


 門の扉を仁田本にたもとさんに開けていただき、穂香ほのか(大)とわたしは、並んで門をくぐった。


 頑丈さが取り柄のひとつだろう扉を仁田本にたもとさんが閉じる中、わたしたちは、玄関へと向かう一本道を歩く。銀白色の邸は、大正ロマンな昼ドラ向けには無理がありそうな、ハイテクな外見だった。


(でも、敷地は、伯爵家といった風の広さよね)


 その時、邸の玄関扉が開いた。

 扉から現れなされたのは、お二方のメイドさん。

 仁田本にたもとさんの言では、おそらくは岡本おかもとさんと真鍋まなべさん。

 服装は黒を基調とした男女兼用ユニセックスのパンツスタイルだった。……まぁ、メイド服を見に来たわけじゃないからいいんだけどね。

 お二方から丁寧なお迎えの挨拶を受けて、邸の中に入る。お二方にわたしたち、後ろに付き従ってくださっている仁田本にたもとさんが集う形となった玄関スペースだったが、あと10名くらいのメイドさんがいらっしゃっても大丈夫に思われた。


 ……


 二階堂先輩の側付き(♀)というくだりから、わたしが勝手に妄想した昼ドラ的展開は訪れないままに、お若い方の真鍋まなべさんに案内されて、わたしと穂香ほのか(大)は、二階堂先輩が待つ会議室へと入った。

 

 二階堂先輩は、取り急ぎ、穂香ほのか(大)のメールにあったわたしの性能スペックの確認をしてくださった。

 

 といっても、シンプルな握力測定だ。

 

 わたしはブフンッっと右手に力を入れて、握力計を最大値まで振り切ってみせた。


 手渡した握力計の250㎏という表示値を見た二階堂先輩は、

「ふむ。ユカリの2倍近い握力ということか」

 と呟いた。


(おっ、それどちらのユカリさん? どちらのお嬢様?)

 エムデシリのレンジャー持ち女子でも握力120㎏超えは、数少ない。もしかすると、背後に佇む真鍋まなべさんが、二階堂家のボディガードを兼ねた戦闘メイドさんとか?

 ……と、自身の握力インフレにも納得できないまま妄想を拡げていると、


「ユカリは良いとして、オスのボノボたちの握力でも、この計測値は示せないはずだ」

 と先輩は続けられた。


 そうだ、今のわたしのライバルはどこぞの昼ドラなお嬢様やメイドさんではなく、霊長類なのだった。それもおそらくはボノボ娘や雄チンパンジーなどよりも大型の霊長類との。

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